2012年6月30日土曜日

小中高の時間講師依存率

 一口に教員といっても,さまざまな職種があるのですが,その中に「講師」というものがあります。法律の言葉でいうと,「教諭又は助教諭に準ずる職務に従事する」者です(学校教育法第37条第16項)。

 この講師は,常勤講師と非常勤講師の2種類に分かれます。前者は,産休・育休代替教員として臨時的に任用される教員のことで,正規の教員と同じ勤務形態をとります。後者は,特定の授業のみを担当する,いわゆる時間講師です。

 最近の学校現場では,後者の時間講師の比重が増えていることと思います。「非常勤講師&募集」という言葉でググると,特定教科を担当する時間講師を募る私立学校のサイトがわんさと出てきます。

 公立学校にしても,各自治体の教育委員会は常時,ホームページ上で時間講師の登録を募っています。教員採用試験の浪人組が喜んで飛びつくことでしょう。

 人件費の抑制や病欠教員等の代替という事情もあるでしょうが,この手の時間講師が多くなることには,問題も伴います。6月14日の記事でも書きましたが,細切れの時間給で働く時間講師には,研修を強制できません。そのため,授業が自己流に陥りやすくなります。

 また,自他ともに認める「バイト先生」であり,勤務校への愛着も強くはならないことでしょう。雇う側も,彼らを仲間とはみなさないこともあります。私の学部時代の知り合いで,採用試験に受かるまで4年ほど公立中学校で時間講師をやったという人がいるのですが,ある学校の校長から「バイトさん」などと呼ばれ,相当凹んだとのこと。

 時間講師への依存度が高くなることは,現在の学校に求められる「チーム・プレー」が発動するのを妨げる条件にもなり得ます。私は,こうした関心から,現在の小・中・高の教員に占める時間講師の比率を計算してみました。

 2011年度版の文科省『学校基本調査』によると,同年5月1日時点の公立小学校の本務教員は413,024人,兼務教員は27,683人です。よって広義の教員数は,両者を足して440,707人となります。このうちの時間講師は,兼務教員の中の「講師」であると考えられます。本務教員中の講師は,フルタイムで働く産休・育休代替講師等であり,それとは区別されます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 さて,この年の公立小学校の時間講師は18,353人なり。よって,公立小学校の時間講師依存率は4.2%と算出されます。およそ24人に1人。

 では,他の学校種についても同じ値を出してみましょう。公立と私立に分けて,依存率を計算しました。2011年5月1日時点の統計です。


 小学校よりも中学校,中学校よりも高校というように,上級学校ほど,時間講師依存率が高くなっています。しかるに,こうした学校種間の差よりも,公私間の差が際立っています。私立学校の時間講師依存率は高く,私立高校では,学校に出入りする教員の3人に1人が時間講師です。

 生徒減少のため,人件費の抑制を迫られているためと思われます。なお,どの学校種の依存率も,10年前の2001年よりも高まっています。公立小学校でいうと,2.1%から4.2%と倍になっています。教員の「バイト化」の進行が知られます。

 ちなみに,時間講師依存率は地域によっても異なることでしょう。上記の文科省資料から,公立学校の時間講師依存率を県別に出すことができます。人数的に最も多い公立小学校の数値を県別に計算し,地図上で塗り分けてみました。


  最も高いのは,香川で10.3%です。この県では,公立小学校教員(広義)の10人に1人が時間講師です。人件費抑制ないしは大量の臨時任用の必要など,事情があるのでしょうが,この高さは際立っています。2位の東京(8.8%)を大きく突き放しています。

 一方,率が低いのは高知(0.8%)や鹿児島(0.9%)など,地方県が多いように思えます。しかし,埼玉,千葉,そして福岡なども白色であることから,地方で低く都市で高い,という単純な話でもなさそうです。やはり,各県の方針による部分が大きいようです。

 時間講師依存率の高低によって,各県の教員の総体としてのパフォーマンスがどう異なるかは,興味深い問題です。3月8日の記事では,連携・協力面の教員のパフォーマンス指数を県別に出したのですが,この指数と時間講師依存率の相関をとったところ,有意ではないですが負の相関でした(公立小学校)。

 もっと分析を詰めてみれば,バイト依存率が高まることの負の側面が,実証的に解明されるかもしれません。