2015年7月13日月曜日

高校の偏差値と体力の相関

 東京都は毎年,「児童・生徒体力・運動能力,生活・運動習慣等調査」を実施しています。調査対象は,都内の公立小・中・高校生です。驚くべきことに,高校調査の結果は,個々の学校別に公表されています。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/seisaku_sport-8.htm

 高校段階になると,いわゆるランク別の学校分化が明瞭になるのは,誰もが知っています。教育社会学をやっている人間ならば,こうしたランク別にみて,体力テストの結果がどう異なるか,という問題に関心を持つことでしょう。

 学力テストであれば,入試偏差値が高い高校ほど成績がよい,という傾向がクリアーに出るでしょうが,体力のほうは如何。私は,調査対象の都立高校を入試偏差値の群に仕分け,体力テストの結果の平均値を群ごとに比較してみました。

 入試偏差値は,下記サイトのものを使わせていただきました。
http://www.geocities.jp/toritsukoukou2/

 生徒の体力テストの結果は,最新の2014年度調査のデータを使いました。拾ったのは,2年生男子の体力合計点(①)と,A評価獲得率(②)です。都教委の体力テストは8種目からなり,各種目の記録を1~10点のスコアに換算し,それを合計する方法がとられています。①は,この合計点をさします。

 この合計点に依拠して,5段階の相対評価がつけられるのですが,②のA評価獲得率とは,最高のA評価をゲットした生徒の割合(%)です。高校2年生といったら多くが16歳ないしは17歳ですが,16歳のA評価の基準は合計点63点以上,17歳は65点以上となっています。

 2014年度の調査対象の都立高校は,島嶼部を除くと168校です。これらの高校について,入試偏差値と上記の①と②の平均値を整理すると,下表のようになります。繰り返しますが,体力テストの合計点とA評価率は,2年生男子のものです。

 表の高校Noは,原資料(冒頭サイトの第5章)の掲載順に対応しています。No1は日比谷高校,No2は三田高校,…です。


 加工を一切していない原データですが,どうでしょう。偏差値が70を超える4高校と,最も低い39ないしは40の5高校にマークをしましたが,前者の群のほうが,合計点・A評価率とも高くなっています。

 これは両端ですが,それでは,各高校を偏差値の群別に分け,合計点とA評価率の平均値を出してみましょう。分析対象は,上表の3つの数値が全部判明する156高校です。

 私は,偏差値45未満,45以上50未満,50以上55未満,55以上60未満,60以上65未満,65以上の6つの群に分けました。該当する高校数は順に27,49,27,20,13,20です。これらの群ごとに,合計点とA評価率の平均値を出しグラフにすると,下図のようになります。


 入試偏差値が高い群ほど,体力テストの成績の平均水準が高い傾向にあります。進学校には「文武両道」の学校が多いと聞きますが,さもありなんです。

 生徒の学力だけでなく体力も,在籍高校の地位文脈(ランク)と関連していることが知られます。「まじめな生徒は勉強も運動も熱心にやる」,「在籍生徒の家庭環境の違いだ」という説明が付されるでしょうが,各高校における組織的社会化の効果もあるでしょう。

 今回使ったのは2年生男子のデータですが,入学して間もない1年生のデータでは,上記のような関連はもっと薄いのではないでしょうか。しかし学年を上がるにつれ,徐々に在籍学校のカルチャーに染まっていき,その結果,学力のみならず体力の学校間格差(ランク差)も広がっていく。1年生のデータを比べれば分かることですが,こういう現象もあるかもしれません。

 都立高校では学区が撤廃されており,高校進学時における生徒分化がひときわ激しくなっていることと思いますが,個々の生徒の能力形成という点からすると,問題があるのではと思われます。

 80年代初頭,渡部真教授は,非行下位文化の蔓延度が高校間で著しく異なっていることをデータで明らかにし,その論稿を次のような言で結んでいます。「中学生の学業成績のみによる輪切り進学は,高校生の生徒文化形成という面からも非常に問題をかかえており,早急な改善が必要であるといえよう」(「高校間格差と生徒の非行文化」『犯罪社会学研究』第7号,1982年)。本記事も,この言を借りて締めくくることにいたしましょう。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002779743