2015年7月31日金曜日

2015年7月の教員不祥事報道

 うっかりしてました。今日は月末でしたね。恒例の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上でキャッチした不祥事報道は38件です。今月は件数が相対的に多く,夏ゆえか盗撮などが多くなっています。

 児童の姿勢を直そうと,イスに画鋲を貼った女性教諭の事案は,注目を集めました。私の頃も,児童がよりかかるのが癪だとか言って,背もたれのない角イスに座らせる教師はいましたけどね。

 今日で7月も終わり,明日から8月です。ブログの背景もサマーバージョンにします。月1で背景をチェンジするのは,気分転換になってよいです。

<2015年7月の教員不祥事報道>
特別支援学校生徒に体罰 臨時教諭の処分検討(7/1,神戸新聞,兵庫,特,男,53)
32歳の小学校講師を逮捕 盛岡駅ビルで女性盗撮容疑
 (7/3,岩手日報,岩手,小,男,32)
「ストレスたまって…」女性留守宅に侵入、下着を撮影(7/3,産経,大阪,中,男,26)
教室で児童の裸撮影 臨時講師逮捕(7/5,日テレ,兵庫,小,男,23)
教諭時代に生徒と交際 愛知県立高元校長、退職金返納へ
 (7/7,中日新聞,愛知,高,男,61)
児童名記録のUSBを紛失 教諭を戒告(7/8,西日本新聞,熊本,小,男,43)
「自分で見るため」女子生徒盗撮…教諭懲戒処分 (7/9,読売,福井,中,男,29)
生徒に包丁、不適切指導で中学講師に戒告処分(7/9,下野新聞,栃木,中,男,40代)
「生活態度悪い」県立高男性教諭、テニス部員らに平手打ち
 (7/10,埼玉新聞,埼玉,高,男)
児童に10針縫うけが、小学校講師を減給
 (7/10,産経,大阪,体罰:小男32,痴漢:中男24
全面禁煙の高校で…体育館裏に教員用喫煙所 校長を減給
 (7/10,朝日,大阪,高,男,58)
都庁前で生徒96人正座させる  遅刻とがめた教諭(7/11,朝日,東京,高,男,35)
授業中に前日見た動画映る…男性教諭を懲戒処分(7/11,読売,山形,中,男,40代)
個別指導中くすぐり教諭処分 女子生徒の思い出話で発覚
 (7/14,朝日,東京,わいせつ:高男37,住居侵入:中男59,体罰:中男30,小女51,小男31)
生徒にわいせつ 40代教諭懲戒免(7/15,上毛新聞,群馬,中,男,40代)
遠足で同僚にセクハラ、市川昴高講師を停職
 (7/16,産経,千葉,セクハラ:高男53,答案紛失:高男63)
銭湯で高校生盗撮容疑=24歳小学教諭を書類送検(7/16,時事通信,大阪,小,男,24)
姿勢直そうと椅子に画びょう=小学校教諭を処分(7/16,神戸新聞,兵庫,小,女,38)
食器早く返却しただけで 児童はたいた教諭戒告処分(7/17,神戸新聞,兵庫,小,男,29)
体罰教諭を戒告 会津の中学校で男子生徒に肩ぶつける
 (7/18,福島民友,福島,中,男,54)
生徒個人情報140人分紛失 口座番号や住所など
 (7/21,神戸新聞,兵庫,中学,女性養護教諭)
盗撮に「達成感」を感じた中学校教諭 懲戒免職に(7/22,産経,和歌山,中,男,51)
女子生徒にわいせつ行為、臨時講師を懲戒免職
 (7/22,朝日,兵庫,わいせつ:高男20代,体罰:高男39)
採用後に繰り返し万引き、男性教諭を懲戒免職に(7/23,朝日,静岡,特,男,30代)
教諭3人懲戒 生徒にわいせつ、体罰で
 (7/24,埼玉新聞,埼玉,わいせつ:高男32,高男52,体罰:中男27)
生徒にキス・盗撮・不適切休暇… 神奈川県立高3教諭に処分
 (7/24,神奈川新聞,神奈川,わいせつ:高男48,不適切休暇:高男58,盗撮:中男39)
体罰の男性教諭に減給処分 (7/24,NHK,茨城,中,男,54)
小学校の懇親会参加後に飲酒事故 鳥取県警、教諭逮捕(7/24,産経,鳥取,小,男,37)
元教え子と飲酒、わいせつな行為…臨時講師免職
 (7/24,読売,兵庫,わいせつ:高男20代,体罰:高男39)
部活指導で負傷と偽り療養費払わせた疑い(7/24,朝日,長崎,高,男,53)
臨時講師を懲戒免職=女性のスカート盗撮(7/26,時事通信,高知,高,男,31)
盗撮容疑で県立高教諭逮捕 買い物かごに薄型カメラ忍ばせて
 (7/28,神戸新聞,兵庫,高,男,40)
スカート内を盗撮、小学校臨時教諭処分(7/28,産経,鹿児島,小,男,24)
<懲戒処分>交通死亡事故の中学教諭を処分(7/28,毎日,宮崎,中,女,30)
八戸の中学教諭 淫行容疑で逮捕(7/29,河北新報,青森,中,男,40)
県教委、2教諭を懲戒免職 女児らの裸画像受信などで処分
 (7/29,東京新聞,群馬,裸画像受信:中男26,危険ドラッグ密輸:小男53)
広島市の公立中学校教諭セクハラで停職処分(7/29,日テレ,広島,中,男,61)
横浜・小学校副校長が懲戒免職、PTA会費など約470万円着服
 (7/31,TBS,神奈川,小,男,58)

2015年7月30日木曜日

収入の官民差の国際比較

 教員採用試験が実施されている最中ですが,公務員を志望する学生さんが年々増えているように感じます。「安定している」「食いっぱぐれがない」「親に強く薦められる」といった理由からです。

 高度経済成長期の頃は,民間に比した公務員の劣勢は際立っており,教員に至っては,「教師にでもなるか」「教師にしかなれない」という意味合いの「デモシカ教師」という言葉が流行ったのは,よく知られています。しかし,今は違うのでしょうね。時代は変わったものです。

 ところで,これは時間軸の変化ですが,空間軸の変異はどうでしょう。社会によって,収入の官民差がどう異なるか,という問題です。日本では「官>民」であり,おそらく多くの社会でそうでしょうが,その程度はまちまちであると思われます。もしかすると,「官<民」の社会もあるかもしれません。

 2010~14年に実施された「世界価値観調査」では,対象の国民に対し,自分が属する世帯の収入水準が,当該社会の中でどの辺りの位置にあるかを10段階で自己評定してもらっています。私は,フルタイムの公務員と民間企業勤務者のサンプルを取り出し,この設問への回答がどう異なるかを比べてみました。ここで報告するのは,本調査のローデータを独自に分析した結果です。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 対象者個人ではなく,各人が属する世帯の収入評定ですが,フルタイム就業者ですので,多くは家計支持者であるとみられます。ここで回答している個人の収入の相似値とみなしても,大きな誤りではないでしょう。

 日本の場合,この設問に有効回答を寄せたのは,公務員が98人,民間勤務者が678人となっています。民間がマジョリティーです。10段階の世帯収入評定の平均点は,前者が5.82点,後者が4.39点です。予想通り,公務員のほうが収入は高いようです。平均値の差は1.42点。

 これは日本のデータですが,他国はどうなのでしょう。57か国の一覧表をつくってみました。右端の公務員比率は,有効回答をしたサンプル(公務員+民間)中の公務員比率です。日本の場合,98/(98+678)=12.6%となります。それぞれの社会において,公務員がどれほどいるかの情報です。


 どうでしょう。注目ポイントは,公務員と民間の差分ですが,日本はプラス方向の絶対値が最も大きくなっています。あくまで世帯収入の自己評定ですが,収入の「官>民」差が最も大きな社会であることがうかがわれます。2位のモロッコ(+0.93)を大きく引き離し,ダントツでトップです。

 この値がマイナス,つまり「官<民」の社会も結構あり,北欧のスウェーデンもこのタイプです。それが最も際立っているのはインドで,民間が公務員を1.44ポイントも上回っています。

 インドでは,採用試験でカンニングが横行するほど公務員が優遇されていると聞きますが,それは一部の上級公務員に限った話なのでしょうか。収入が激安だから,警官も賄賂を取らないとやってられないのか・・・。南国の楽園,タイも。

 それはさておき,各国の公務員の優位度は,公務員のボリュームとも関連しているかもしれません。収入の官民差がマックスの日本は,フルタイム就業者中の公務員比率は12.6%と,57か国の中で最も低くなっています。こういう希少性(プレミア)の故ともいえるでしょう。

 横軸に公務員比率,縦軸に官から民を引いた差分ポイントをとった座標上に,57の社会をプロットすると,下図のようになります。


 公務員が少ない(希少な)社会ほど,収入の「官>民」の度合いが大きい傾向です。両者の相関係数は-0.4335であり,1%水準で有意です。各国の公務員の地位文脈と相対収入(relative income)が相関しているのは,興味深い現象ですね。

 最近,公務員を減らそうという議論もあるようですが,上図をみて分かるように,わが国は公務員が最も少ない社会です。生活保護の現場では,ケースワーカーの数が足りず,悲鳴が上がっていると聞きます。もうちょっと右下に降りてもいいのではないか,と思います。民ではなく,公でしか担えない仕事もあるわけですから。

 7月も明日で終わりです。酷暑の日が続きますね。みなさま,ご自愛くださいますよう。

2015年7月29日水曜日

専攻別の大学卒業者の進路

 「授業のひまつぶしに最適な鉛筆の芯アート」という記事を見かけました。授業中の退屈しのぎに鉛筆をカッターでガリガリやる子どもは多いですが,彼らが作るにはあまりにハイレベルな作品例が示されています。
http://www.gizmodo.jp/2015/07/post_17615.html

 私が中学の頃,国語の授業中,鉛筆の全体を削ってトーエムポールを作っている男子生徒がいました。これがなかなかの出来栄えで,1本もらったのを覚えています。聞くところによると彼は美大に行ったとのことですが,今はどうしているのやら・・・。

 芸術の道は厳しいといいますが,美大の卒業後の進路というのは,全体に比して惨憺たるものです。昨日,ツイッターでグラフをつくって発信したところ,見てくださる方が多く,「他の専攻も知りたい」というリクエストがありました。
https://twitter.com/tmaita77/status/625955041195601921

 なるほど,大学生の卒業後の進路といっても,専攻によって大きく違いますしね。文学,社会科学,工学・・・というような大雑把な専攻ごとの進路は前に出したことがありますが,それよりも下った小専攻単位の進路構成はまだ明らかにしてませんでした。ここにて,それをやってみようと思います。

 2014年度の文科省「学校基本調査」に,同年春の大卒者の進路が,細かい専攻別に掲載されています。下記サイトの表74です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001056000&cycode=0

 原表で設けられている進路カテゴリーは,以下の8つです。

 ①:進学者
 ②:正規の職員の就職者
 ③:正規の職員でない就職者(非正規就職者)
 ④:臨床研修医
 ⑤:専修学校・外国の学校等入学者
 ⑥:一時的な仕事に就いた者
 ⑦:左記以外の者(その他)
 ⑧:不詳・死亡

 これら8つの内訳をとるのは煩瑣なので,5つに簡略化しました。①と⑤を足して「進学者」,②と④を足して「正規就職」,⑦と⑧を足して「その他・不詳」とした次第です。あとは同じです。

 大学卒業者全体(56万5573人)でみると,進学が12.6%,正規就職が67.4%,非正規就職が3.9%,一時的な仕事が2.6%,その他・不詳が13.4%,となっています。新聞等で報じられている数値と近いですね。進学でも就職でもない「その他・不詳」は1割強で,これもよくいわれる数値と合致しています。

 同じ内訳を,細かい専攻別に出してみました。下表は,その一覧です。卒業生数が100人に満たない専攻は,ペンディングにしています。


 この表は資料としてご覧いただければと思いますが,正社員就職率が80%超と,その他・不詳が15%超は赤字にしてみました。

 正社員率は,厳密には,就職の意志のない進学者をベースから抜いて出さないといけませんが,まあ就職に有利な専攻の参考値としてご覧ください。トップは看護学で,この専攻の卒業生の92%は正社員就職を果たしています。需要ありますものね。*厳密な専攻別の正社員就職率は,前に「日経デュアル」の論稿で出したことがあります。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3276

 一方,おめでたくない「その他・不詳」率の赤字は,人文・社会系や芸術系に多くなっています。トップは美術専攻の34.3%です。3人に1人が,進学でも就職でもない近似ニート?? まあ,留学準備とかの者も多いとは思いますが。

 自作のトーテムポール鉛筆をくれた彼も,美大ということですから,おそらくこの専攻に行ったのではないかと思われますが,今はどうしているのやら。まあ私も,かつての級友から同じように思われているのかもしれませんが。

2015年7月27日月曜日

子どもの将来展望観の国際比較

 最近のわが国では,閉塞感が増してきています。世論調査で「これから生活が悪くなる」と考える国民の比率が年々増してきていることは,よく知られています。

 そうである以上,未来を生きる子どもの暮らし向きも,おそらくは芳しいものではないだろう,という悲観的な展望が蔓延しているのではないかと思われます。この点を可視化するデータを見つけましたので,今回はそれをご紹介しましょう。

 ピュー研究所という国際機関が,「Global Attitude Survey」という調査を定期的に実施しています。各国の18歳以上の国民に対し,さまざまな意識や価値観を問うものです。その中に,「子どもの将来の暮らし向きは,親世代に比してどうなっていると思うか」という設問があります。回答の選択肢は,「よくなる」,「悪くなる」,「同じようなもの」,「分からない」です。

 私は,この設問への回答を国別に集計してみました。2014年春調査のデータです。下記サイトにて,リモート集計ができます。「よくなる」と答えた国民の割合を出し,ランキングにすると下図のようになります。
http://www.pewglobal.org/question-search/


 どうでしょう。上位には,「まだまだこれから」という発展途上国が多く位置しています。ベトナムでは,対象者のほぼ全員が,子どもの将来の暮らし向きは親世代を超える,という良好な展望を抱いています。大国・中国は85%,お隣の韓国も52%と半分を超えます。

 一方,下位には先進国が多くみられます。わが国はたった14%であり,下から2番目です。発展を遂げてしまい,これから先は悪くなるだけ,という先進国の悲哀のようなものが感じられます。日本も1950年くらいの頃は,上記の設問に対し,ほぼ全ての国民が「よくなる」と答えていたのでしょうが,2014年現在ではこの有様です。

 日本の場合,これから少子高齢化がますます進行し,未来の現役層にかかる負担は大きくなると見込まれます。子どもの将来展望について悲観的に考える国民が多いのも,無理からぬことです。同じく下位に位置する,イタリアやギリシアといった社会も事情は同じでしょう。

 事実,上記の数値は,各国の高齢人口率(65歳以上人口率)と相関しています。


 高齢化が進んでいる社会ほど,子どもの将来展望がおもわしくない,という傾向がみられます。相関係数は-0.5870であり,1%水準で有意です。右下の社会では,未来の現役層の負担増が懸念されているようです。

 少子高齢化は,教育を外から規定する社会条件の一つです。こうした社会変動が教育に及ぼす影響を,多角的な角度から検討する必要があるでしょう。ここでの作業は,そのうちの一つです。

2015年7月25日土曜日

若者の死亡率の地域差

 健康体の若者であっても,不幸にして命を落とす確率は,環境によって異なると思われます。最近は,厚労省「人口動態統計」の公表データがとても充実してきており,年齢層別の死亡者数を県別はもちろん,それよりも下った区市町村別に知ることができます。

 私はこの恩恵を利用して,大都市・東京都内23区の若者の死亡率を計算してみました。各区の20~30代の死亡者数を,該当年齢人口で除した値です。

 ただ,区別の若者の死亡者数は数が多くありません。年による変動も大きくなっています。そこで分子には,2009~2013年の5年分の死亡者数を充てることとします。分母のベース人口も5年分とらないといけませんが,こちらは,2013年1月1日の20~30代人口を5倍することとしましょう。人口のほうは,年による変動が大きくないので,このような便法でも差支えないでしょう。

 分子のソースは厚労省「人口動態統計」,分母は「東京都住民基本台帳」です。双方とも,外国人は含まない日本人の統計であることを申し添えます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm


 上表は,算出された若者の死亡率の一覧です。同じ大都市でも,若者の死亡確率は区によって異なり,10万人あたり37.2人から65.6人までのレインヂがあります。上位3位は,新宿区,台東区,そして足立区です。

 副都心の新宿区は,物騒な事件が相対的に多く,事故死や事件死が多いような気がしますが,他の高率区はちょっと事情が違うように思います。

 それぞれの区の事情を個々バラバラに考えるのは控え,23区の総体的な傾向を観察してみましょう。値が高いのはどういう特性の区か,という問題です。それには,マッピングが一番。上記の死亡率に依拠して,23の区を塗り分けてみました。


 大都市の若者の死亡率マップは,こんな模様になります。副都心の新宿区と豊島区を別にすると,濃い色は北東に固まっていますね。土地勘のある人なら,この図柄をみて,貧困要因との関連を疑う人が少なくないでしょう。

 現代は「格差」の時代ですが,収入格差,学力格差ならぬ「健康格差」という現象も指摘されています。老衰を除くと,わが国の死因の大半は生活習慣病(がん,心疾患,脳卒中)ですが,収入が低い層ほどこの病の疾患率が高いそうです。低収入層ほど,安価で高カロリーの食べ物を摂取する頻度が高いなど,食習慣をはじめとした各種の生活習慣が乱れがちであるためでしょう。

 はて,23区の若者死亡率は,各区の年収水準とどう相関しているのか。3月2日の記事で出した,平均世帯年収(2013年)との相関をとると,下図のようになります。


 ご覧の通り,年収が低い区ほど,若者の死亡率が高い傾向にあります。相関係数は-0.5846であり,1%水準で有意です。

 あくまで相関であり,「貧困→死亡」という因果の表現とは限りませんが,後者の説明ができないではありません。若者の死因のトップは自殺ですが,低収入や生活苦という状況は将来展望閉塞をももたらし,自らを殺めるのようなことにもつながるでしょう。その次は生活習慣病ですが,低収入層は生活の乱れが生じやすく,これらの病の罹患率も高くなることでしょう。

 ちなみに個人データでみると,学歴と健康意識(管理)は相関しており,低学歴層ほど喫煙や飲酒の頻度が高く,健診の受診率も低いことが知られます(厚労省「国民生活基礎調査」)。ここにて観察している地域データは,その集積の結果といえるかもしれません。

 上図の左上の区ではとりわけ,健康意識を高めるための啓発や,健診ないしは健康相談への参加を呼び掛ける実践が必要といえましょう。私は6月初旬に受けた30代健診で異常値が出てしまい,昨日,健康指導を受けてきたのですが,今の生活の乱れがはっきりと自覚できました。こういう機会って重要だな,と思った次第です。

 「健康第一」といいますが,健康とは生存の基礎で,何にもまして前段に位置するものです。それが,収入をはじめとした外的な条件と強く結び付いているとしたら,大変なことです。先に述べたように,現代は「格差」の時代ですが,健康格差の問題はその中でもとくに,重要な位置を占めていると考えています。

2015年7月22日水曜日

二郎系ラーメンの経験率

 知る人ぞ知る,ラーメン二郎。油たっぷりの極太ラーメンであり,これにハマっている人たちは,通称「ジロリアン」と呼ばれます。私も,そのうちの一人です。
http://magazine.ietty.me/life/jiro/

 しかし経験者はあまり多くないようで,親しい編集者さんや学生さんに尋ねても,「食べたことないですね」という返答がほとんどです。それではと,一度連れて行って感想を聞くと,「いやあ,これはダメです。もういいです」と,音を上げる人がこれまた多数。

 私などはすっかりのめり込んでいますが,全体からすれば,ジロリアンはマイノリティーなのかもしれませんね。二郎の経験率や,それに対する評価を調べた統計調査がないかと前から思っていたのですが,一昨日,まさに「それ」というデータが公開されました。

 マイナビスチューデントが,19~78歳の社会人男女(432人)を対象に実施したWebアンケートの結果です。本誌の読者が対象ですので,母集団をきちんと代表していないきらいはありますが,初の調査データとして注目されます。
https://gakumado.mynavi.jp/gmd/articles/16114

 設計はシンプルで,対象者に二郎系ラーメンの経験の有無を尋ね,食べたことがある者には味の評価を問い,食べたことがない者には今後食べたいかどうかを問う,というものです。対象者432人の回答は,以下のようになっています。比率は,全数(432人)ベースのものです。


 対象の成人男女432人のうち,食べたことがあるのは58人,経験率は13.4%となります。大人の7人に1ですか,思ったより少ないな,という印象です。まあ二郎は都市部(ほとんどが首都圏)にしかありませんので,こんなものでしょうか。言わずもがな,首都圏居住の男性に対象を絞れば,経験率はうんと高くなるでしょう。

 味の評価は,食べたことがある58人のうち,34人(58.6%)が「おいしい」と評しています。未経験者374人のうち,今後食べてみたいと考えているのは93人(24.9%)です。

 マイナビの記事では文章で調査結果が淡々と説明されていますが,私なら,結果の図解を載せます。以下のような図はどうでしょう。


 結果を視覚化すると,二郎の経験層は少ないことに加えて,潜在的な需要層もさほど多くはないことが分かります。ただ,これが性別,年齢,居住地といった属性によってどう変異するかは,興味あるところです。

 口でくだくだ説明するだけなく,言いたいことを凝縮させた1枚のグラフをポンと提示する。こういう精神も大事かと思います。昨年出した電子書籍「平均年収の真実-31の統計から年収と格差社会を図解-」(インプレス)は,この考え方に基づいてしたためた本です。ご覧いただければ幸いです。
http://quickbooks.impress.jp/?p=2419

 そろそろ二郎を食べに行きたいのですが,先日受けた健康診断で異常値が出てしまいましたので,思いとどまっています。24日の金曜,栄養士の指導を受けに行くのですが,はて何と言われるやら・・・。禁「二郎」にならないか,ヒヤヒヤしています。

2015年7月21日火曜日

ニューズウィーク日本版にて連載スタート

 ニューズウィーク日本版のサイトにて,連載が始まりました。データ分析をもとにした論稿を,おおむね週1回のペースで載せていただく予定です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/07/post-3779.php


 初回は,殺人率と自殺率の国際比較です。初っ端から物騒なテーマですが,インパクトをつけるためこのテーマにしてみました。全く逆の方向を向いた2つの逸脱行動ですが,これらを同時に観察することで,それぞれの社会の国民性のようなものが見えてきます。詳細は,記事のほうをご覧ください。

 本誌は国際的なニュースや論説がメインのようですので,国際データの紹介に力点を置こうと考えております。国際比較の統計は,だいぶストックがあります。それを順次,開陳していく予定です。

 新記事がアップされ次第,ツイッターにて告知いたします。日経デュアルの連載と共に,こちらもご覧いただけますと幸いです。

2015年7月19日日曜日

人物重視の県はどこか

 全国で教員採用試験が実施されている最中ですが,1次試験が終わって胸をなでおろしている受験者も多いことでしょう。しかし油断は禁物。最近は人物重視の考えが強まり,筆記ではたくさん通すものの,面接でバンバン落とす自治体が増えていると聞きます。

 私の頃は,「筆記さえ通れば,後はよほどのヘマをしない限り落とされることはない」とか言われてましたが,近頃はそうではないのでしょうね。しかるに,教員採用試験の実施主体は各自治体であり,人物(面接)をどれほど重視するかは,自治体によって異なるでしょう。

 私は,最新の小学校教員採用試験結果のデータをもとに,各都道府県の人物重視度を測ってみました。受験者のみなさんの参考になればと思います。

 参照したのは,東京アカデミーのホームページです。下記サイトにて,小学校教員採用試験の①受験者数,②1次試験合格者数,③最終合格者数が県別に掲載されています。私はここから,最新の2015年度試験(昨年夏実施)のデータを収集しました。

 各県の①~③の数値を眺めると,教員採用試験の実施タイプは多様であることが知られます。面接重視の県もあれば,筆記重視の県もあり。手始めに,対照的な2県の様相をみていただきましょう。下の図は,神奈川と沖縄の3つの数値を,正方形の面積で表現したものです。


 お分かりかと思いますが,神奈川は筆記ではたくさん通すものの面接でガンガン落とすタイプ,沖縄は筆記でうんと絞って面接ではほとんど落とさないタイプです。前者は人物重視,後者は筆記重視の典型です。

 ここでの関心は,人物重視の程度を数値で可視化することですが,それは,面接試験での不合格者が,不合格者全体の何%を占めるかで表されます。以下の式です。

 人物重視度 = 面接試験での不合格者数/不合格者全体 = (b-c)/(a-c)

 これに従うと,神奈川と沖縄の試験の人物重視度は,以下の数値で測られます。

 ・神奈川= (1133-474)/(1616-474) = 57.7%
 ・沖縄 = (261-223)/(1482-223) = 3.0%

 神奈川では不合格者の6割が面接で落とされているのに対し,沖縄ではわずか3%です。後者の南国では,筆記さえ通れば後は楽勝?の感があります。

 それでは,他の県のデータもお見せしましょう。3つの元数値(a~c)と,算出された人物重視度の一覧表です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。


 右端の面接重視度は,県によってかなりのバラツキがあります。最高は大分の61.9%,最低は先ほどみた沖縄の3.0%です。大分は,2007年頃,教員採用試験の不正で問題になった県ですが,最近では人物志向が最も強い県であることが知られます。

 ほか,人物重視度が高いのは,赤字の北海道,神奈川,愛知,大阪,といった府県です。不合格者の半分以上が面接で落とされています。

 その一方で,沖縄や愛媛のように,1次の筆記でほぼ勝負がついてしまう県もあり。教員採用試験の実施タイプって,ホント多様であると思います。

 様相を分かりやすくするため,右端の人物重視度(不合格者中の面接脱落者の比率)が高い順に各県を並べたランキングにしてみましょう。


 左上の自治体の受験者は,筆記が終わったからといって,まだまだ気は抜けません。1次はほんの小手調べで,これからが勝負の本番です。

 来年の試験の受験者で,右下の自治体を希望する人は,筆記試験の万全を期しておく必要があるでしょう。教職教養でいうと,福島は難しいですよ~。選択肢を与えない空欄補充問題がメイン。学習指導要領の原文や主要法規の条文を,しっかり暗記しておかねばなりません。拙著『教職教養らくらくマスター』(実務教育出版)にて,赤シートの学習を繰り返しやっていただければと思います。来年実施の2017年度試験向けの本は,来月下旬に出る予定です。

 ところで今回のデータは,試験の受験者だけの参考に与するものではありません。試験の実施者の側は,ここにて観察された試験の実施タイプの分化によって,採用される教員のパフォーマンスがどう異なるか,という問題を吟味する必要があるでしょう。子どもの学力上位の秋田や福井は,どちらかというと筆記重視型のようですが・・・。

 今回出したデータが,教員採用試験の受験者・実施者の双方にとって参考になれば幸いに思います。

2015年7月18日土曜日

暴力行為の許容度の国際比較

 各国の研究者が共同で実施している「世界価値観調査」は,国ごとの国民性を知ることができるスグレモノであり,いろいろな項目をランキングしたいという欲求にかられます。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 7月11日の記事では,若者の戦争観の比較をしましたが,今回は,暴力行為の容認度を比べてみよいと思います。最新の第6回調査(2010~14年)では,以下の項目に対する許容度を10段階で答えてもらっています。

 ・夫が妻を殴る (V208)
 ・親が子どもを殴る (V209)

 最初の「夫が妻を殴る」に対する許容度の分布は,日本の場合,どうなっているのでしょう。18歳以上の調査対象者2,336人の評点分布は,以下の表のようになっています。人口大国のインドについても,同じ分布をとってみました。両国とも,無回答・無効回答を除く有効回答の分布です。


 日本は,8割以上の国民が最も低い1点を選んでいます。昔はいざ知らず,最近は「暴力はいけない」という認識が高まっていますしね。

 比較対象のインドも1点が最多ですが,この社会では,許容度が高い者も少なくありません。33.9%,3人に1人が6点以上を選択しています。この大国では,女性蔑視が激しいといいますが,それは数値にも表れているように思えます。

 この分布から,日印の許容度の平均点を出してみましょう。全体を100とした構成比を使うほうが,計算は楽です。わが国の平均点は,以下のようにして求められます。

 {(1点×84.3)+(2点×8.0)+(3点×3.1)+・・・(10点×1.3)}/100.0 ≒ 1.40点

 「夫が妻を殴ること」に対する10段階の許容度平均は,日本の場合,1.40点です。インドは,4.10点なり。後者は前者の4倍近くです。

 他国についても同じ平均点を出し,高い順に並べたランキングにしてみました。左欄「夫が妻を殴る」,右欄は「親が子を殴る」の許容度ランキングです。「夫→妻」,「親→子」という,家庭内の主な暴力行為ですが,それに対する許容度は社会によって異なっています。


 双方ともトップは,アフリカのルワンダです。とくに「親が子を殴る」の許容度は,この社会がダントツです。上位には,発展途上国が多く位置しています。暴力に対する許容度というのも,1人あたりGDPのような経済指標と並んで,社会の発展度を測る指標(measure)といえましょう。

 ちなみに,北欧のスウェーデンでは,子どもを怒鳴る,叩くという行為は違法行為なのだそうです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=1795

 しかるに,それはわが国でも同じこと。児童虐待防止法という法律が厳としてあります。この法律が定めている虐待のタイプは,①身体的虐待,②性的虐待,③心理的虐待,④ネグレクトですが,子どもを過度に勉学に駆り立てること,早期受験の強制なども,虐待の原義に照らせば,立派な虐待です。いわゆる「教育虐待」と呼ばれるものですが,虐待の英訳が「abuse=ab+use(異常に扱う)」であることを想起してください。

 この点については,私も前に書いたことがあります。以下の記事をご覧いただければと思います。「過重な勉強も虐待か」(日経デュアル,2014年12月18日)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82292310T20C15A1000000/

2015年7月15日水曜日

高校の偏差値と生活の乱れの関連

 高校生を対象とした都教委の体力テストは,結果が学校別に公表されているスグレモノです。前回は,各高校の体力水準を偏差値と関連付けてみたのですが,若き高校生の体力は,在籍している学校のランクときれいに相関していることを知りました。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/seisaku_sport-8.htm

 この調査では,生徒の体力だけでなく,各種の生活習慣も調べています。私は,生活習慣の乱れが高校ランクとどう関連しているかを知りたくなりました。結果はだいたい想像がつきますが,それをデータで明らかにすることは無駄ではありますまい。

 私は,2014年度の調査対象の都立高校168校(島嶼部除く)について,2年生男子の朝食欠食率と長時間ケータイ使用率を拾いました。前者は朝食を食べない生徒の比率であり,後者は1日にケータイを3時間以上見る生徒の割合です。いずれも,原資料に計算済みの数値が掲載されています(上記サイトの第5章PDF)。

 前回と同様,一切加工をしていない原表を掲げます。偏差値は,下記サイトのものです。高校の掲載準は,原資料と対応しています。No1は日比谷高校,No2は三田高校,・・・です。
http://www.geocities.jp/toritsukoukou2/


 朝食欠食率,長時間ケータイ率とも,高校によってかなり違います。前者は0.6%~25.5%,後者は6.4%~66.7%ものレインヂがあります。スゴイ差ですね。

 これが各校の入試偏差値とどう関連しているかですが,黄色の最上位校(偏差値70以上)と青色の最下位校(40 or 39)をみると,前者より後者で高くなっています。

 もう少し幅を広げて,偏差値65以上の21校と偏差値45未満の27校を取り出し,朝食欠食率と長時間ケータイ使用率のマトリクス上に散りばめてみると,下図のようになります。


 偏差値が低い高校は,欠食率,長時間ケータイ率とも高いゾーン(右上)に多く分布していますが,高偏差値の高校はその逆です。

 残りの高校も入れたら,どういう傾向になるでしょう。私は,偏差値と生活の乱れの2指標が判明する158高校を,入試偏差値の水準に依拠して6つの群に分かちました。偏差値45未満(27校),45以上50未満(49校),50以上55未満(28校),55以上60未満(20校),60以上65未満(13校),65以上(21校)です。

 そして群ごとに,朝食欠食率と長時間ケータイ使用率の平均値(average)し,上図の同じ座標上にプロットしてみました。下図がそれです。円の大きさによって,各群の学校数も表しています。量的に最多のⅤ群(49校)の円が,最も大きくなっています。


 偏差値が下がるにつれて,左下から右上にシフトしていきます。欠食率,長時間ケータイ率とも上がっていく,ということです。

 学力,体力に加えて,生活習慣の乱れも,在籍学校のランクと相関していることが知られます。これは,各高校に入学する生徒の質というインプット要因の影響といわれるかもしれませんが,在学中にかけてそれが強化されるというスループット要因の存在も疑われます。

 これまでの教育社会学の研究成果からすると,後者の組織的社会化の影響が強調されてしかるべきです。あとは前回の最後とダブりますので,ここで筆を置くこととします。

2015年7月13日月曜日

高校の偏差値と体力の相関

 東京都は毎年,「児童・生徒体力・運動能力,生活・運動習慣等調査」を実施しています。調査対象は,都内の公立小・中・高校生です。驚くべきことに,高校調査の結果は,個々の学校別に公表されています。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/seisaku_sport-8.htm

 高校段階になると,いわゆるランク別の学校分化が明瞭になるのは,誰もが知っています。教育社会学をやっている人間ならば,こうしたランク別にみて,体力テストの結果がどう異なるか,という問題に関心を持つことでしょう。

 学力テストであれば,入試偏差値が高い高校ほど成績がよい,という傾向がクリアーに出るでしょうが,体力のほうは如何。私は,調査対象の都立高校を入試偏差値の群に仕分け,体力テストの結果の平均値を群ごとに比較してみました。

 入試偏差値は,下記サイトのものを使わせていただきました。
http://www.geocities.jp/toritsukoukou2/

 生徒の体力テストの結果は,最新の2014年度調査のデータを使いました。拾ったのは,2年生男子の体力合計点(①)と,A評価獲得率(②)です。都教委の体力テストは8種目からなり,各種目の記録を1~10点のスコアに換算し,それを合計する方法がとられています。①は,この合計点をさします。

 この合計点に依拠して,5段階の相対評価がつけられるのですが,②のA評価獲得率とは,最高のA評価をゲットした生徒の割合(%)です。高校2年生といったら多くが16歳ないしは17歳ですが,16歳のA評価の基準は合計点63点以上,17歳は65点以上となっています。

 2014年度の調査対象の都立高校は,島嶼部を除くと168校です。これらの高校について,入試偏差値と上記の①と②の平均値を整理すると,下表のようになります。繰り返しますが,体力テストの合計点とA評価率は,2年生男子のものです。

 表の高校Noは,原資料(冒頭サイトの第5章)の掲載順に対応しています。No1は日比谷高校,No2は三田高校,…です。


 加工を一切していない原データですが,どうでしょう。偏差値が70を超える4高校と,最も低い39ないしは40の5高校にマークをしましたが,前者の群のほうが,合計点・A評価率とも高くなっています。

 これは両端ですが,それでは,各高校を偏差値の群別に分け,合計点とA評価率の平均値を出してみましょう。分析対象は,上表の3つの数値が全部判明する156高校です。

 私は,偏差値45未満,45以上50未満,50以上55未満,55以上60未満,60以上65未満,65以上の6つの群に分けました。該当する高校数は順に27,49,27,20,13,20です。これらの群ごとに,合計点とA評価率の平均値を出しグラフにすると,下図のようになります。


 入試偏差値が高い群ほど,体力テストの成績の平均水準が高い傾向にあります。進学校には「文武両道」の学校が多いと聞きますが,さもありなんです。

 生徒の学力だけでなく体力も,在籍高校の地位文脈(ランク)と関連していることが知られます。「まじめな生徒は勉強も運動も熱心にやる」,「在籍生徒の家庭環境の違いだ」という説明が付されるでしょうが,各高校における組織的社会化の効果もあるでしょう。

 今回使ったのは2年生男子のデータですが,入学して間もない1年生のデータでは,上記のような関連はもっと薄いのではないでしょうか。しかし学年を上がるにつれ,徐々に在籍学校のカルチャーに染まっていき,その結果,学力のみならず体力の学校間格差(ランク差)も広がっていく。1年生のデータを比べれば分かることですが,こういう現象もあるかもしれません。

 都立高校では学区が撤廃されており,高校進学時における生徒分化がひときわ激しくなっていることと思いますが,個々の生徒の能力形成という点からすると,問題があるのではと思われます。

 80年代初頭,渡部真教授は,非行下位文化の蔓延度が高校間で著しく異なっていることをデータで明らかにし,その論稿を次のような言で結んでいます。「中学生の学業成績のみによる輪切り進学は,高校生の生徒文化形成という面からも非常に問題をかかえており,早急な改善が必要であるといえよう」(「高校間格差と生徒の非行文化」『犯罪社会学研究』第7号,1982年)。本記事も,この言を借りて締めくくることにいたしましょう。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002779743

2015年7月11日土曜日

若者の戦争観の国際比較

 時宜にかなったデータを提示しようと思います。若者の戦争観です。「世界価値観調査」(2010-14)に盛られている,以下の2つの項目に対する20代の肯定率を拾ってみました。
http://www.worldvaluessurvey.org/

 ①:場合によっては,正義を守るために戦争はやむを得ない (V187)
 ②:戦争が起きたら,国のために戦う (V66)

 いずれも,同意(肯定)か反対(否定)かの二択で答えてもらっています。私は,59か国の若者の同意率(肯定率)を計算しました。無効回答を除いた,有効回答の中での比率です。下の表は,値をランキングにしたものです。資料として,ここに掲げておきます。

2015年7月7日火曜日

社会と個人のバランス類型

 phaさんより,新刊『持たない幸福論』(幻冬舎)を謹呈いただきました。副題は「働きたくない,家族を作らない,お金に縛られたくない」。精神科医の斎藤環氏による,「史上最強の脱力系幸福論」というお墨付きもついています。
http://www.gentosha.co.jp/book/b8819.html


 phaさんといえば,話題となった『ニートの歩き方』技術評論社(2012年)の筆者として知られるお方。ニートとしてどう生きる術を指南した「ニート・マニュアル」という性格の本ですが,ニートの視点から社会を変革する構想も綴られています。今の病んだ日本社会を根底から覆すユニークな発想が盛りだくさん。私も本書に触発され,記事を1本書いたことがあります。
http://getnews.jp/archives/293387

 さて,お送りいただいた『持たない幸福論』は,この続刊に位置するものです。いま半分ほど読み終えましたが,この本も随所で「むうう」と唸らされ,付箋を貼りたくっています。ここにて,そのうちの一つをご紹介します。

 それは,54ページに掲載されている,社会と個人のバランス類型の図です。社会的存在である人間は,まったくの自己チューでいるわけにはいかず,社会的な行動様式で振る舞い,社会が求める役割を果たすことが求められます。しかしそれがあまりに強調されると,自分がなくなってしまいます。個人が社会に潰される事態です。かといって自分を押し出し過ぎると,これもまた厄介なことになる。

 現実の人間は,この両端の間でバランスをとっているわけですが,phaさんは社会を肯定するか否定するか,自分を肯定するか否定するかという2本の軸をクロスし,社会と個人のバランス類型を導き出しています。

 以下の図は,私が原書の図を改編して作成したものです。青色の四角形の面積で,4タイプの量的規模(見積もり)の表現もしています。


 右下のは,社会も個人も肯定している「仕事も自分もいい感じ」人間,現実の人間タイプでいうと適応社員というところでしょう。隣のは,求められる仕事はやらないとと思っているが,それがうまくできない自分に嫌気がさしているタイプ,ないしは無理をして(自分を殺して)それを遂行しているタイプです。俗にいうヘトヘト社員であり,最近の日本では,この類型が結構いることは想像に難くありません。集団に適応できず自己嫌悪に陥っている者も,ここに含めてよいでしょう。

 左上のは,自分を否定するだけでなく,社会から求められる役割遂行(仕事)をも拒絶し,ふさぎこんでいるタイプ。社会を否定し,自分の肯定している最後のは,自分の好きなことだけをしているような,自己完結人間と性格付けることができるでしょう。

 これらの類型は固定的ではなく流動的であり,phaさんは矢印のような変化の方向を説いています。自分も仕事もいい感じの適応正社員でも,その中の多くがⅡにシフトします。うまくⅠに戻れればいいですが,仕事を辞めるなどして,Ⅲの状態に入る人もいる。しかしそれがいつまでも続くわけではなく,ちょっと楽になり,自分の好きなことくらいはしようかなとⅣになる。そのうち,それでは物足りない,社会との接点が欲しいと,再びⅠに戻ってくる。こんなサイクルです。

 最近では,Ⅱの類型の人が少なからずいますが,phaさんによると,無理にⅠに戻ろうとするのはよくないのだそうです。それよりも,ⅢとⅣを経由して戻ったほうがいいとのこと。なるほど,同じⅠに戻るにしても,そっちのほうが人間の幅が広がるでしょうしね。そしてまたⅡに落ちたら,同じルートをたどってⅠに戻る。このサイクルの繰り返しによって,人は成長するともいえるでしょう。

 Ⅱの状態にある人の多くは,上のⅢにはいかず,右のⅠに無理に戻ろうとするのでしょうが,前者の道も広く開放されるべきだと思います。疲れたら休むという,自然の摂理です。Ⅲの具体例としてが,ニートやヒッキーだけではなく,旅に出るようなことも考えられます。それより一歩進んだⅣの例としては,リカレント学生として学校で好きなことを学ぶ,ということも挙げられます。

 こういう迂回を経てⅠに戻ってきたとき,前のⅠの状態時に比して,一皮も二皮も剥けていることは間違いなしです。phaさんが書かれているように,それこそが人生というものでしょう(58ページ)。このような人生行路が開かれているなら,どんなに素晴らしいことでしょう。

 現段階ではまさに「机上の空論」の誹りを免れないともいえますが,肝心なのは,この枠組みを常に念頭において,少しずつ社会を変えていくことです。今の現実から遊離した空想図であっても,それを提示するのが無意味なことではありません。徐々にそれに近づくよう,努力すればいいのですから。

 むろん改革というのはそんな悠長な姿勢を許さず,早急になされるべきであり,現実味のあるプランが求められるのですが,全てがそうなのではありません。近視眼なものだけでなく,壮大な構想図も必要です。それを示してくれたphaさんの発想に敬意を表しつつ,本書の続きを読ませていただこうと思います。

2015年7月5日日曜日

47都道府県の保育タイプ

 古市憲寿さんの「保育園義務教育化」(小学館)という本が話題になっています。私はまだ読んでいませんが,内容の紹介文をみると,次のようにあります。
http://www.shogakukan.co.jp/books/09388430

 「保育園義務教育化はただ少子化解消に貢献するというよりも,社会全体のレベルをあげることにつながる。良質な乳幼児教育を受けた子どもは,大人になってから収入が高く,犯罪率が低くなることがわかっている。」

 へえ,すごいことがデータで分かっているのですね。知りませんでした。この中に「良質な乳幼児教育」とありますが,あらゆる段階の教育の中で,各人が受ける教育の質の差が最も出るのは,乳幼児期,すなわち就学前教育であるのかもしれません。この段階においては,父母の意向が強く反映されるのはいうまでもありません。

 私は,小学校に上がる前の就学前教育の構造がどうなっているかを,データで知りたくなりました。地域による違いにも興味を持ちます。厚労省の「国民生活基礎調査」の中に,この関心に応えるデータがありますので,それを分析してみましょう。具体的にいうと,乳幼児の主たる保育者に関する統計です。ここでいう乳幼児とは,就学前の子どものことです。

 最近,2013年の「国民生活基礎調査」は3年に一度の大規模調査ですが,乳幼児がいる世帯の世帯主に対し,当該子の主な保育者を尋ねています。6つの選択肢を提示し,当てはまるものを全て選んでもらう形式です。それによると,638万人の乳幼児の主な保育者は,下表のようになっています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html


 主に父母によって保育されている乳幼児が最も多く,全体の45%を占めています。その次が認可保育所で34%,3人に1人です。赤ちゃんも含む乳幼児全体でみると,わが国の就学前保育はまだ「父母型」なのですね。

 北欧国など他の社会がどうなっているかが興味深いですが,あいにく国際比較のデータはありません。しかし,国内の地域比較は可能です。上表は全国統計ですが,地域によって数字はずいぶん違うことと思います。私は,量的に多数を占める赤色のカテゴリーの比重に着目しました。「父母型」か「保育所型」か。この軸の上に,47の都道府県を位置付けてみようという試みです。

 各県の乳幼児のうち,主な保育者が父母である者と,認可保育所である者の比率をまとめてみました。


 全国値では父母が45%,認可保育所が34%ですが,この値がどうかは県によって大きく違っています。首都の東京は父母が49%,保育所が29%ですが,北陸の福井は順に29%,61%です。前者は父母型,後者は保育所型と性格づけることができるでしょう。

 ひとまず客観的な基準を設けることとし,保育所率から父母率を引いた値がマイナス10ポイントより低くなる県を父母型,プラス10ポイントより高くなる県を保育所型としましょう。右端は,この基準でそれぞれの県をタイプ分けした結果です。

 数でみると,父母型が20,保育所型が11,どちらにも該当しない中間型が16となっています。各タイプが地域的に固まっていることにも注目。首都圏や近畿では父母型が多く,日本海沿岸では保育所型が多くあります。地図にすると,この構造はもっとクリアーです。


 私型の保育(赤)と公型の保育(青)の塗り分けでもあります。このタイプ如何によって,子育て期の女性の就業率が大きく異なるのは,申すまでもありません。

 日本海沿岸で,働くママが多いのは,よく知られています。その理由として三世代世帯率が高いからだといわれますが,上図のような保育タイプの違いによる部分も大きいでしょう。しかるに私としては,こういう世代構造よりも,今見ているような就学前教育構造の影響が大きいのではないか,と思っています。この点については,6月21日の記事もご覧ください。女性の就業率に及ぼす,保育所効果と親族効果の大きさを比べています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/06/blog-post_21.html

 これから先,女性も重要な労働力となってくることは不可避であり,女性の就業チャンスを大きく規定する就学前教育(保育)の有様が大きな関心事となるのは,当然の成り行きです。

 しかるにもう一つ大事なのは,当の子どもの発育や人格形成との関連です。たとえば,父母型の保育を受けた者と保育所型の保育を受けた者では,青年期以後の人格形成や成人後の地位達成にどういう差異がみられるか。この点を解明した,追跡調査みたいなのはあるのでしょうか。

 子どもの学力が高い秋田や福井は,上の地図では青色です。主な保育者が認可保育所である乳幼児の比率(2番目の表のb)と,公立小学校6年生の算数Bの正答率(2013年度)の相関係数を出すと+0.352であり,5%水準で有意です。単なる疑似相関かもしれませんが,乳幼児期における集団的社会化の効果の可能性を消し去ることができますまい。

 冒頭の古市さんの本では,この点について詳しく書かれていそうで楽しみです。これから読ませていただきたいと考えております。乳幼児教育の有様は,母親の就業チャンスとの関わりで論じられることが多いのですが,本書は子どもの人間形成との関連に焦点を当てた本であると拝察します。楽しみです。

2015年7月2日木曜日

若者の自殺率の都道府県比較

 社会の危機状況の指標として注目される自殺率。近年,人口全体の自殺率は減っていますが,若者の自殺率だけは伸びています。この点については,前にデータで示したところです。

 就職失敗自殺,ブラック企業,展望不良…。最近の若者を取り巻く状況を思うとさもありなんですが,地域による差もあるでしょう。白書等では全国のデータしか示されませんが,彼らの危機状況のレベルは地域によって異なると思われます。

 そこで今回は,若者の自殺率を都道府県別に出してみようと思います。こういうデータは,あまり見かけませんよね。各県の若者施策担当者の方々の参考になればと思います。

 自殺者数といえば厚労省の「人口動態統計」ですが,最近は,公表データがとても充実してきており,死因別・年齢層別のデータが県別に公表されています。私は最新の2013年の資料にあたって,各県の20代の自殺者数を採取しました。原表は,下記サイトの表2です。県ごとにエクセルファイルが分かれているので,数値を取り出すのに手間がかかりました(笑)。

 首都の東京でいうと,2013年中の20代の自殺者は312人です。「人口推計年報」から分かる,同年10月時点の東京の20代人口は約169万人。よって,この年の20代の自殺率は,ベース10万人あたりの数にして18.5となります。

 このやり方で,47都道府県について,2013年の20代の自殺率を計算しました。下の表は,値が高い順に並べたランキング表です。


 トップは秋田で32.0であり,その次が被災県の福島の31.4です。上位5位のうち4県が東北県となっています。一方,同じ東北の青森は最下位です。その次に低いのは,南端の沖縄。首都の東京も,若者の自殺率は相対的に低いようです。

 県別の若者の自殺率は,分子が多くないので,安定した傾向ではないのでしょうが,2013年の資料から算出された,県別の20代の自殺率はこのようなものです。

 秋田は子どもの学力も首位なのですが,能力に見合う活躍の場を得られないでいる若者が欲求不満を募らせているのでしょうか。本県は子どもの学力が高いにもかかわらず,大学進学率は低い水準になります。おそらくは,経済的障壁が大きく立ちはだかっているとみられます。このことは若者をして,希望と現実のギャップに由来する焦燥,マートン流にいうとアノミーの状態に据え置くのに十分でしょう。6位の福井も,このような状況にあるのかもしれません。

 福島と宮城については,2011年の震災の影響を疑ってみる必要があります。この未曽有の災害によって,若者の生活基盤が破壊されたことは,誰もが認めるところです。

 以上は20代の自殺率の比較ですが,言わずもがな,若者だけを全体の文脈から切り離すのは好ましくありません。各県の人口全体の自殺率も比較軸に据え,若者の特徴を検出してみましょう。若者の自殺率が全体よりも高いならば,当該の県では,危機が若者に集中する度合いが高いといえます。

 私は,2013年の人口全体の自殺率を横軸,縦軸に20代の自殺率をとった座標上に,47都道府県をプロットした図をつくりました。


 下の実斜線は均等線であり,この線よりも上にある県は,全体よりも若者の自殺率が高いことになります。数としては,ちょうど半分ほどです。自殺は若者ではわずかとみられがちですが,最近の統計でみると,半分ほどの地域で若者の自殺率高が目立っているのです。

 中でもとりわけ要注意と判断されるのは,点斜線よりも上に位置する県です。若者の自殺率が全体よりも5ポイント以上高い県で,先ほど言及した秋田と福井,そして被災2県がこのゾーンに入っています。

 福島と宮城は,全体の自殺率の相対順位は中ほどですが,若者の自殺率は上位です。2011年の大震災に由来する危機は,前途ある若年層に集中しているとも考えられます。

 北陸の福井は,この傾向がもっと顕著です。上述の秋田と似たような若者のアノミーがないか,点検してみる必要があるのではないでしょうか。

 繰り返しますが,若者の自殺率を県別に出す場合,分子が多くないので,安定した傾向を見出すのは困難です。上記のランク表も,年によってかなり変動することでしょう。「秋田や福井と同様,学力が高く,進学率が低い青森の自殺率はなぜ低いか?」と問われるならば,返答に窮します。データの精度を高めるのは,2013年の単年だけでなく,過去5年くらいの自殺率を揃えることが求められます。

 今回お見せしたのは,その前段に位置するラフデータです。そこから導かれる仮説的見解は,①若者アノミー,②震災危機の若年集中,という2点でしょうか。前者は,最近問題になっている教育格差・進学格差は,若者の生に影響する可能性を示唆するものです。これから精緻な検証を要する事項ですが,記録にとどめておきたいと思います。

2015年7月1日水曜日

学校での教育は,仕事に必要な技術や能力を身につける上で意義があったか

 長ったらしいタイトルになりましたが,「職業的意義」という専門タームを使うのはちょっと気がひけますので,こうしました。

 上記の問いを投げかけられた場合,おそらくは「NO」と答える方も少なくないと思います。はて,統計でみるとどうなのでしょう。内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(2013年)において,上記の設問がそのまま盛られています。各国の若者の回答を比べてみましょう。

 私は,本調査のローデータを加工して,20代の学校卒業者の回答分布を明らかにしました。下図は,それをグラフにしたものです。どの国も,350人以上のサンプルがあります(日本は490人)。


 日本は,他国に比して肯定の回答が少なくなっています。他国は7~9割が「意義があった」と答えていますが,日本は半分ほど。逆にいえば,残りの半分は「意義がなかった」と考えていることになります。

 日本の職業教育の脆弱性はよく指摘されるところですが,卒業生の評価もそれを表しているようです。わが国の場合,上記のサンプルの多くは大卒者ですが,職業教育に特化した専門大学をつくろう,という議論がなされています。確かに,ユニバーサル化した大学教育の大半がアカデミックなんて,ポエムですしね。

 次に,属性によって回答がどう違うかをみてみましょう。上図のサンプルは20代の学校卒業者ですが,その中にはしっかりとした形で職業生活に参入している者もいれば,そうでない者もいます。私は,日本の男性サンプルを正規職員とその他(非正規職員,失業,無職)に分かち,両群の回答分布を比較してみました。性別の影響を除くため,男性のサンプルを使っています。


 学校時代,仕事に有用な教育を受けたと評する者の率は,正社員で高くなっています。見方を変えると,職業的意義の高い教育が正社員の地位ゲットにつながりやすいと。

 まあ,ここでいう評価はあくまで自己評定であり,「一つのことをじっくり追求する構え」や「考える力」というような,曖昧な事柄が想定されているのだと思われます。職業に直結するスキルを念頭に,学校教育は仕事の能力獲得の上で意義があったと評している者は多くないでしょう。

 職業教育の専門大学をつくろうという議論は,後者のようなはっきりとした職業的意義を高めることを想定しているのでしょうが,「役立つスキルは陳腐化が速い,汎用性がない」ともいいます。変動が激しい時代にあっては,こちらの面を強調し過ぎてもいけません。既存のシステムのよい所は残し,その上に必要な新たな要素を付加する。「産湯と共に赤子を流す」ことがあってはなりません。

 目下台頭している「文系大学切り捨て論」にも,このことは言えるのではないか,と考えています。