2016年2月5日金曜日

結婚による損失

 キャリア女性の理想。「年収は600万円以上,職種はバックオフィス(事務・管理業務)で,結婚して子育て中」。こんな記事を見かけました。
http://blogos.com/outline/158873/

 これに対し,「身の丈を考えていない」という声が多く寄せられているようですが,私も,現実には難しいのではないか,という感じがします。女性は,家庭を持ったらバリバリ働くのを制限されるでしょうし・・・。

 統計でみて,既婚の女性正社員の年収はどれくらいなのでしょう。2012年の総務省『就業構造基本調査』のデータをもとに,計算してみました。下の表は,30代後半の女性正規職員の年収分布です。既婚者84万人,未婚者49万人の分布が示されています。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 一番多いのは,既婚者・未婚者とも,年収300万円台の階級です。年収600万円以上は,既婚者で5.2%,未婚者で6.0%となっています。少ないですね。

 上記の分布から平均値を出してみましょう。各階級に属する者の年収を,中央の階級値で代表させます。年収300万円台の女性は,一律350万円とみなすわけです。上限のない1500万超の階級は,ひとまず2000万円と仮定しましょう。

 この場合,既婚の30代後半女性正社員の平均年収は,次のようにして出されます。全体を100.0とした相対度数を使った方が,計算は楽です。

 {(25万×1.7)+(75万×2.9)+・・・(2000万×0.0)}/100.0 ≒ 344.3万円

 未婚女性の平均年収は361.8万円です。正社員で比べると,女性の年収は「既婚<未婚」のようです。

 これは私と同じ30代後半のデータですが,他の年齢層についても,女性正社員の平均年収を既婚・未婚別に出し,グラフにすると下図のようになります。


 既婚女性にとって,年収600万円は厳しいようです。しかしそれ以上に驚かされるのは,既婚者と未婚者の差です。30代後半から差が開き始め,50代前半では既婚が378.3万円,未婚が460.0万円と,81.7万円もの差になります。

 むうう。女性にとって,バリバリ稼ぐことと家庭の両立が以下に困難であるかが知られます。上記のグラフを昨日ツイッターで発信したところ,「これを突きつけられたら,結婚したいという女性が減りそう」,「結婚する気なくすわ」という声が多数寄せられました。
https://twitter.com/michelle92226/status/695240504158453760

 言葉がよくないですが,上記のグラフは,女性が結婚することに伴う損失を可視化しているともいえるでしょう。こうみると,女性が結婚相手の男性に高い年収を求めるというのも,無理からぬことのように思えてきます。

 なお,この損失の規模は地域によって違っています。上のグラフによると,30代後半から50代前半にかけて既婚女性と未婚女性の差が大きくなっています。私は47都道府県について,35~54歳の女性正社員の平均年収を,既婚・未婚別に計算してみました。下の表は,結果の一覧です。


 右端の数値は,未婚者が既婚者の何倍かです。この値が大きいほど,結婚による損失が大きいと解されます。トップは,愛知県の1.14倍。赤字は1.1倍を超える県ですが,東京もこの中に含まれています。

 その一方,既婚者のほうが未婚者より年収が高い県もあります。福井などです。三世代世帯が多く,保育所設置も充実しているので,既婚女性といえど,バリバリ働ける環境があるためでしょうか。しかし,同じような条件の富山や石川では,「既婚<未婚」であることから,そう単純な話でもなさそうです。

 結婚による女性の損失量を表す,右端の倍率をランキングにしてみましょう。


 愛知,佐賀,福島,東京,富山。中年女性正社員の平均年収の「既婚<未婚」差が大きい県なり。換言すれば,女性が家庭を持つことによる損失(拘束)が大きい県ということになります。有配偶(子持ち)の女性社員に対する配慮が,企業社会に欠けていることの表れとも読めるでしょうか。

 先のツイッターの意見にもありますが,未婚化を解消するには,こういう構造も変えないといけないでしょう。女性にすれば,結婚すると足枷をつけられる,稼げない。よって,結婚相手の男性に高い年収を期待せざるを得なくなる。しかし,このご時世。そういう男性は滅多にいない。よって,未婚化が進行する。こういう循環です。

 とくにランキング上位の地域では,働く女性の置かれた状況について,綿密に点検をしていただきたいと思います。家庭での家事・育児負担,子育て中の女性社員に対する企業の配慮などです。

 今回みたような,結婚による女性の損失が国によってどう違うかも興味が持たれます。ISSP調査のローデータで,比較のデータを作れないか,今奮闘しているところです。
https://twitter.com/winnieholzman/status/695227888547684352