2016年4月8日金曜日

大卒グレー・ブルーカラー

 2013年10月24日の朝日新聞Web版に,「日本人,学歴高すぎ? 仕事上の必要以上に『ある』3割」という記事が載りました。OECDの国際成人学力調査「PIAAC 2012」のデータが紹介されています。

 今の仕事に必要と思われる以上の学歴を持っている労働者の割合は,日本は31.1%で,世界トップだとのこと。OECDの原資料にあたって,値のランキングの図をつくってみました。


 日本はトップです。大学進学率が50%を超えている状況を思うと,さもありなんです。しかし,日本以上に大学進学率が高いアメリカでは,「オーバー・クオリフィケーション」の値は意外に低くなっています。世界をリードする技術先進国ですので,膨らんだ高等教育修了者を吸収する受け皿があるのでしょうか。

 最近では,大卒者が販売職やサービス職などに就くのは珍しくありませんが,彼らの多くは,上記のような意識を腹の底で抱いていると思われます。

 1970年代初頭に,「大卒グレー・ブルーカラー」の存在が話題になりました。「大学まで出たのに,仕事は店員,運転手,工場労働者 親の嘆き・・・」。当時の新聞や週刊誌をみると,この手の記事がわんさと出てきます。高度経済成長に陰りが見え,大卒を吸収できる高度な職業が増えなくなった一方で,大学進学率はどんどん伸びる。こうした状況から,学歴と職業のミスマッチが露わになりました。

 また国としても,こういう状況は好ましくない,と考えていたようです。高等教育には多額の税金を投入するのですが,大学レベルの知識や技術を要さない職に就く者が多いとあらば,世論を説得できない。大学は多すぎると。ご存知の方はおられるでしょうが,就職しても,数年で結婚して家庭に入る女子に,税金を投じて高等教育を与えるのはよくないという,「女子学生亡国論」がいわれたのもこのころです。

 こうした声もあって,1975年に,大学や短大とは別の中等後教育機関として専修学校ができたのはよく知られています。

 当時から40年ほどの歳月がたちましたが,現在における「大卒グレー・ブルーカラー」の量はどれくらいでしょう。他国との違いは? ISSPの『家族と性役割に関する意識調査』(2012年)のローデータを使って,データをつくってみました。それをご覧に入れましょう。

 この調査では,最終学歴と現在職業を訊いています。これらの回答を使って,25~54歳の大卒就業者のG・Bカラー比率を出してみました。G・Bカラーとは,管理職,専門技術職,事務職(ホワイトカラー)以外の職をいいます。比率の計算に際しては,軍人と職業不詳者はベースから除きました。

 下表は,結果の一覧です。大卒のG・Bカラー率の性格を知るため,就業者全体での比率と照合しています。


  日本の大卒者のG・Bカラー率は18.8%となっています。これは高い部類で,アメリカは8.6%,最低のチェコではわずか1.8%しかいません。その一方で,インドやベネズエラのように,大卒者の6~7割がG・Bカラーという社会もあります。

 これは社会全体の職業構成の影響もあるでしょう。そこで,大卒者のG・Bカラー率(b)を就業者全体のそれ(a)で除して,出現率を尺度を計算してみました。こうすることで,当該社会の職業構成の影響を除去できます。

 算出された出現度をみると,日本は0.446で,37か国中7位です。大卒がG・Bカラーになる確率は,通常の半分よりちょい下。アメリカは0.222,最下位のチェコに至っては0.036です。この小国では,大卒の優位性が際立っています。

 インドやベネズエラの値はバカ高なのですが,これらの国の大卒者比率(右端)は高くありません(10%ちょい)。大卒者が溢れているわけではないのですが,大卒者の多くがG・Bカラーなる社会です。大学を出てもしょーもない社会ってことでしょうか。

 表では分かりにくいので,社会全体の職業構成を考慮した,大卒のG・Bカラー出現度をグラフにしておきます。


 インドとベネズエラを除いて,上位は大卒者が多い国々です。この値はおおよそ,それぞれの社会の大卒者割合とプラスの相関関係にあります。大卒が多いほどプレミアが下がる,ということです。

 今回は25~54歳のデータを使いましたが,若年層に限ったら,日本の大卒のG・Bカラー率はもっと高くなるとみられます。

 これを見て,「社会の機能的必要以上に大学が膨張している,もっと減らせ」というのは短絡に過ぎるでしょう。グローバル化が進んだ現在,修了生の活躍の場は国内に限られません。お隣の韓国は,大卒者の多くが国外に出ていくといいますが,国外で活躍している大卒者も含めたら,上記の値はもっと低くなるでしょう。

 今キンドルで読んでいる,堀江貴文さんの本(『君はどこにでも行ける』徳間書店,2016年)にも書いてありますが,世界規模でみれば,躍進を可能性を秘めている国がたくさんあります。高度な専門職への重要が生まれそうな国々です。日本国内の「萎んでいく」市場だけを見据えると,「大学を減らせ」となるでしょうが,今後の人材養成は,国境のない「ボーダレス」社会を想定して考えないといけません。

 ただそれが過ぎると,国内でコストをかけて育成した高度人材が他国に流れる一方,という事態になってしまいますが。