2016年9月30日金曜日

2016年9月の教員不祥事報道

 朝夕は,ちょっと冷え込んできました。今朝の散歩(6:30~)は,カーディガンを羽織らないと寒いくらいでした。

 さて,毎月恒例の教員不祥事報道の整理です。今月,私がキャッチした報道は46件です。毎月のことですが,わいせつ事案が多し。今月は,男子の被害事件が多いという印象です。ちなみに刑法改正により,男性も強姦被害者に入れることとなりました。

 私が関心を持ったのは,赤字の事案。麻薬密輸で岩手の中学教諭が御用になった事件。国際郵便で取り寄せたのが発覚したそうですが,私は,学生時代にバンコクで聞いた話を思い出しました。

 「空港で現地人からモノを持ってほしいとか,預かってほしいとか言われても,絶対に応じるな」。その通りで,中に麻薬などが入っていたりしたら,運び屋に仕立てられてしまいます。今では,タイでは麻薬密輸への罰がとても厳しくなっており,空港で捕まった場合,最悪死刑です。海外ビギナーの方はご注意を。

 それと,高校のプール飛び込みで生徒が重傷を負った事件。小中では飛び込みは禁止されていますが,高校はさにあらず。当該記事で,名古屋大学の内田良氏も言われていますが,飛び込みは,高校でも禁止すべきでしょうね。

 明日から10月。もう,来年のカレンダーを買う時期になりました。本当に早いですね。年をとるほど時の流れは速く感じられるといいますが,確かにそれを実感します。

 背景を秋晴れ模様に変えます。私は,実はこれが一番気に入っています。季節の変わり目,体調を崩されませぬよう。

<2016年9月の教員不祥事報道>
女子児童盗撮の名古屋市の教諭を懲戒免職(9/1,CBCテレビ,愛知,小,男,33)
自宅で日本酒→パチンコ→缶酎ハイ 酒気帯び運転で中学教諭を懲戒免職
 (9/1,産経,福岡,中,男,53)
教え子を自宅に連れ込みみだらな行為…中学非常勤講師の男を逮捕
 (9/5,産経,東京,中,男,34)
電車内で女子高生触る 容疑の小学校教諭逮捕 京都(9/6,産経,滋賀,小,男,39)
静岡県教委2人懲戒免 危険ドラッグ所持、酒気帯び運転
 (9/6,静岡新聞,静岡,ドラッグ:高男45,酒気帯び:高男31)
ファイル:公印紛失の幼稚園教頭を戒告(9/6,毎日,愛媛,幼,女,50代)
女子生徒にみだらな行為、男性教諭と講師を懲戒免職
 (9/6,日刊スポーツ,栃木,中男25,高男24)
児童に頬ずり100回、男児の下半身触る 都内の小学校教諭ら5人処分
 (9/7,産経,東京,わいせつ:小男35,頬ずり:小男48,校内で無許可バーベキュー:小男55)
52歳の小学教諭、女児のほおに教室でキスした疑い(9/9,朝日,愛知,小,男,52)
麻薬密輸容疑で教諭逮捕 岩手県警(9/9,産経,岩手,中,男,46)
教諭が女子中学生の着替え盗撮 停職6カ月「衝動的にやった」
 (9/10,産経,愛知,中,男,30)
県教委 高校の教諭と講師2人を懲戒処分
 (9/10,鹿児島読売テレビ,熊本,盗撮:高男45,試験問題漏えい:高男62)
中学教諭を女子更衣室侵入容疑で逮捕、盗撮目的か(9/11,TBS,埼玉,中,男,52)
私語をやめない...児童に「粘着テープ」(9/11,福島民友,福島,小,男,48)
体罰の中学教諭を戒告処分(9/11,NHK,愛知,中,男,41)
高校教諭3人懲戒処分(9/13,NHK,宮城,高男36,47,50)
民泊営業で教諭を減給 埼玉県教委(9/13,産経,埼玉,高,男,47)
元教え子の女子高生にみだらな行為 容疑で29歳教諭を逮捕
 (9/13,産経,埼玉,高,男,29)
女性宅侵入の高校教諭を逮捕 窃盗未遂などの容疑で真庭署
 (9/13,山陽新聞,岡山,高,男,29)
体罰で男性教諭懲戒処分(9/13,河北新報,宮城,中,男,52)
飲酒運転の教諭停職3カ月 高知県教委(9/13,産経,高知,高,男,29)
男子高生を買春容疑=高校教諭を逮捕-(9/14,時事ドットコム,神奈川,高,男,30)
PTA会費こっそり返すため通帳持ち出した日、抜き打ち検査が
 (9/15,産経,大阪,小,男,55)
男児の下半身触り免職 千葉県の小学校男性教諭(9/15,産経,千葉,小,男,30代)
校内で男児にわいせつ 男性教諭を懲戒免職(9/16,千葉日報,千葉,小,男,30代)
児童ポルノ製造容疑などで大町市立小学校教諭を書類送検(9/17,産経,長野,小,男,30)
<期末テスト>中学教諭、答案を誤ってリサイクルに(9/17,毎日,千葉,中,女,40代)
生徒情報を紛失 横浜市、教諭を戒告処分(9/17,神奈川新聞,神奈川,中,男,25)
補助金私的流用、財布を置引き…あきれた教諭、講師を免職処分
 (9/17,産経,大阪,着服:高男61,置き引き:小男26,体罰:特男51)
小学校教頭、男子トイレ盗撮容疑 図書館でスマホかざす(9/19,朝日,愛知,小,男)
17歳男子高校生にわいせつ行為 29歳の元高校教諭を逮捕
 (9/20,産経,滋賀,高,男,29)
覚醒剤所持容疑 小学校非常勤教員を逮捕(9/20,産経,東京,小,男,57)
参院選 教員に候補者の支援依頼 小学校教頭処分(9/21,神戸新聞,兵庫,小,男,55)
公然わいせつ容疑 公立中学校教諭を懲戒免職処分(9/21,テレ玉,埼玉,中,男,36)
酒気帯びと侵入、2教諭を懲戒免職
 (9/21,京都新聞,滋賀,酒気帯び:高男31,女子トイレ侵入:中男21)
「急いでいたから…」無免許運転、容疑で中学校教諭を逮捕(9/23,産経,京都,中,男,43)
体罰で堺市立小教諭戒告…児童の胸ぐらつかむ (9/23,産経,大阪,小,男,32)
教え子の女子生徒にキス 53歳中学教諭を免職(9/23,産経,朝日,中,男,53)
茨城 県立高校教諭が検定料、約75万円を盗む(9/26,TBS,茨城,高,男,31)
墨田工業高の水泳授業で生徒が首骨折 教諭が飛び込み指示
 (9/27,東京新聞,東京,高,男,43)
男子高校生にわいせつ行為 岡山・津山市の中学講師逮捕
 (9/27,山陽新聞,岡山,中,男,35)
15歳女子高生を買春疑い 26歳大阪府立高教諭逮捕 (9/27,産経,大阪,高,男,26)
強制わいせつ疑いで豊田市の教諭再逮捕(9/28,中日新聞,愛知,小,男,52)
部活女子の胸触った疑い 奈良県立高教諭を逮捕(9/29,産経,奈良,高,男,39)
支援学校講師がスカート内盗撮で懲戒免職(9/29,日刊スポーツ,大阪,特,男,29)
個人情報データ持ち出し盗難 白井市の小学校教諭(9/30,千葉日報,千葉,小,男,20代)

2016年9月28日水曜日

ホープレスな若者

 増田利明著『ホープレス労働 働く人のホンネ』(労働開発研究会)という本が話題になっています。今年の6月に出た書籍です。
https://www.roudou-kk.co.jp/books/book-list/4031/

 「ホープレス(希望なし)」とはよく言ったもので,確かに日本の労働者の現況を言い当てているように思います。若者にあっては,とりわけ当てはまるでしょう。

 内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)では,「自分の将来について,明るい希望を持っているか」と尋ねています(Q7)。この回答のデータをみることで,若者の希望の国際比較ができます。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 オーソドックスな主題ですので,既に本ブログでもやっていたかと思いきや,そうではないようなので,ここでデータを提示することにします。

 若者といっても,一枚岩の存在ではありません。関心がもたれるのは,正社員にありつけた者と,そうでない者の違いです。雇用の非正規化が進んでいる現在では,なおさらのこと。上記調査のローデータ(個票データ)を独自に分析し,この点を国ごとに明らかにしてみました。

 私は,20代の対象者(学生は除く)を取り出し,希望があると答えた者の割合を,正社員の群とその他の群について計算してみました。男女で傾向が異なると思われるので,性別で仕分けています。

 下表は,結果の一覧です。正社員とその他の群の希望率が,国別・性別に示されています。カッコ内の数値は,%値の母数です。日本の男性の場合,正社員が141人,その他が89人であることを意味します。ドイツの男性のその他は,サンプルサイズが小さいことに留意ください。


 男女とも,日本の希望率は他国に比して段違いに低くなっています。正社員でいうと,他国では8~9割なのに対し,日本の男性は55.3%,女性は60.2%です。

 正社員とその他の落差が大きいのも特徴。男性では,正社員が55.3%,その他が30.3%で,実に25ポイントも開いています。これがホンマの希望格差。正社員とそれ以外では,収入や各種の保障に差がつけられており,「正社員にあらずんば,人にあらず」みたいな社会ですからね。女性にはみられない,男性固有の傾向であるのも注目されます。

 日本の男性サンプル(計230人)に占める,その他の89人の比率は38.7%で,決して少数派ではありません。母集団全体でみても,最近ではこんなものじゃないでしょうか。

 毎度のパターンですが,上表の数値をグラフで視覚化しましょう。ポピュラーな棒グラフでもいいですが,それでは芸がないので,ちょっと凝ったグラフにします。横軸に正社員,縦軸にその他(正社員以外)の希望率をとった座標上に,7か国の男女のドットを置いてみました。


 日本のドットの外れっぷりが明瞭なこと。どの国でも「正社員>その他」なので,斜線の均等線より下にありますが,日本の男性(Jm)は,このラインからの乖離が大きくなっています。正社員とその他の格差が大きい,ということです。

 日本の男性非正規雇用の希望喪失(剥奪)は,深刻といえましょう。昔と違って,このグループは今では決してマイノリティではありません。放置していたら,社会を覆しかねない危険因子に転化する恐れもある。

 私は今40歳ですが,現在地位は,自営(文筆業)と非常勤講師(非正規雇用)を足した状態です。自由な時間が多いので,今の状況を気に入っています。昨日の講義で,「僕は週1日しか出勤しない」と言ったら,学生さんから「えー」と驚かれました。

 しかるに,言わずもがな収入は少なし。各種の保障もなし。毎月の国保&年金は実に重い。40になりましたので介護保険料も加わり,さらにキツくなりました。

 正社員でなくとも,人間らしい暮らしができるようにしていただきたい。労働力不足の問題を解決するため,働き方の多様化を進めるそうですが,そのための重要な条件となるでしょう。

 強調すべきファインディングスは,以下の2点。
①:日本の若者は,他の先進国に比して,希望がないこと。
②:正社員とその他の希望格差が大きいこと(男性)。

 ちなみに前に検討したことがありますが,若者にあっては,希望の量と自殺率は密接に関連しています。20代男性の時系列統計でみると,展望不良率と自殺率は+0.871という相関関係にあります。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/04/blog-post.html

 それより上の年齢層にはみられない,若者固有の傾向です。前途ある若者にとって,希望は重要。ありふれた文言ですが,それを支持するデータは多いのです。

2016年9月26日月曜日

官公庁系データはしゃぶり尽くせ!

 本日発売の『プレジデント』誌にて,表記のテーマについて私が答えたインタビュー記事が掲載されています。
http://presidentstore.jp/books/products/detail.php?product_id=2677


 『プレジデント』誌といえば,言わずとも知れたビジネスマン向けの雑誌ですが,読者のビジネスパーソンにとって役立つ「資料術」の特集の一環として,企画されたパートです。


 見開き2ページ(82~83ページ)の記事ですが,思う所を言わせていただきました。ネタ明かしは,ここではしません。コンビニなどにも置かれると思いますので,興味ある方はご覧くださいませ。

 ただ一点だけ。「舞田さんは,高い研究費をもらっているから,ああいうデータやグラフができるんだろう」と言われることがありますが,とんでもない話です。在野の学徒の私は,1円たりともそんなお金はもらっていません。

 タダで使える官庁統計(公表データ,ローデータ)を使わせてもらっているだけです。それでも,このブログで紹介しているような作品はできる。私のような貧乏人でも,こういう作品は作れる。この点は,強調しておきたいと思います。私のマネは,どなたでもできます。

 よしんば,「研究費をあげるよ」と持ち掛けられても,私は断るでしょうね。変にお金を持つようになると,「独自にこういう調査をやってみよう」などという,いらぬ欲が出て,集中力が削がれる恐れがある。

 故・西村滋さんの『お菓子放浪記』の中に,「欠乏という名の贅沢」という言葉が出てきますが,私はそれを享受しています。これからも,このスタイルは崩さないつもりです。

 最後に,本企画を提案いただいた,プレジデント社記者の大塚常好氏に感謝申します。上記記事の文章は,氏の筆になるものです。

 私の言いたいことを,限られたスペースで実に上手くまとめてくださっています。記事にはグラフが3つ載っていますが,「既存統計からこういう作品ができるという,サンプルを示したほうがいい」という,氏の提案に従いました。さすがはプロですねえ。読者目線をよく心得ておられる。

 大塚氏には,プレジデント・オンライン連載でも,担当編集者としてお世話になっています。私のような輩の相手をするのは楽ではないと思いますが,今後ともお付き合いいただければと存じます。

2016年9月25日日曜日

子育てに選ばれる地域はどこか(全国1918市区町村)

 前に,首都圏(1都3県)の市区町村のデータでやったことのあるテーマですが,射程を全国に広げて,同じ分析をしてみましょう。

 わが国では人口が減っていますが,どの自治体も,何とか新住民を取り込もうと一生懸命です。狙いは,とりわけ子育て期の年代です。子どものいるファミリーが入ってきてくれれば,地域も活性化するというもの。そういう事情からか,「子育てに選ばれる地域はどこか?」という特集を,育児雑誌の類でよく見かけます。

 私はこの主題に,統計的にアプローチしてみようと思います。各市町村について,子育て年代(25~39歳)の転入超過率という指標を出してみます。2015年中の転入超過数(=転入数-転出数)を,同年1月1日時点の人口で除した値です。意味するところは,人口の転出入(mobility)によって,初期人口が何%増えたか,です。『住民基本台帳人口移動報告』(2015年)に載っている,日本人住民のデータを使います。
http://www.stat.go.jp/data/idou/3.htm

 上記資料によると,私が済んでいる東京都多摩市の場合,2015年中の25~39歳の転入超過数は-47人(A)です。入ってくる人より出ていく人が多い,「転入<転出」ですので,マイナスの値になります。子育てにはいい環境だと思うのですがねえ・・・。

 2015年1月1日時点における,25~39歳人口は26,952人(B)。したがって,2015年の多摩市の子育て年代の転入超過率は,A/B=-0.17% と算出されます。値はマイナス。残念ながら,総勘定でみて,子育て年代が出て行っていることになります。

 一方,都心の中央区は+5.18%です。転入超過により,子育て人口(25~39歳)が年間で5.18%増えている計算です。通勤時間も短くて済むし,タワマンがそびえたっていますからねえ。

 これは,東京都の多摩市と中央区のケースですが,私は同じ値を,全国の1918市区町村について計算しました。分布の範囲はとても広く,最高の+21.59%から,最低の-13.39%までの幅があります。

 ヒストグラムにて,分布の素性を見ていただきましょう。ピンク色はプラス,緑色はマイナスの市区町村です。


 2015年中に,子育て年代が増えた市区町村(転入超過率がプラス)が665で,全体の3分の1ほどです。残りの3分の2の地域では,逆に減少しています。数でみて,子育て年代人口を減らしている市区町村がマジョリティです。

 そうした中,子育て年代をたくさん取り込んでいる地域(グラフの上のほう)に関心がもたれます。その顔ぶれをご覧に入れましょう。下表は,25~39歳の転入超過率が上位50位の市区町村です。


 上位には過疎地域が並んでいますが,これは初期人口(ベース)が少ないことに注意しないといけません。

 赤字はベースの初期人口が千人以上で,黄色マーク付きは1万人以上の市区町村なり。先ほど上げた,東京の中央区があります。駅前保育が自慢の,千葉県流山市もランクイン。茨城のつくばみらい市も見受けられますが,つくばエクスプレスの効能でしょうか。

 統計から明らかになった,子育て年代人口(25~39歳)の転入超過率の上位一覧です。「子育てに選ばれる地域はどこか」に関する,雑談のネタにでもお使いいただければと存じます。

2016年9月24日土曜日

中学校の過労死予備軍教員数

 2014年10月に発生した,中学校の男性教諭(当時27歳)の自殺事件が公務災害として認定されたそうです。月間の残業時間は160時間にも達したとのこと。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160923-00000112-mai-soci

 中学校の若手教員ですから,過重な部活指導なども負わされたのでしょう。それで精神疾患を発症し,自殺に至ったという因果関係が認められました。

 全国の中学校を見渡すならば,このレベルの過重労働をしている教員は少なくないように思えます。月間残業時間160時間ということは,週あたりの残業時間は40時間。法定就業時間(8時間×5日=40時間)との差分で考えると,週80時間以上の就業ということになるでしょうか。

 OECDの国際教員調査「TALIS 2013」では,中学校教員の週間就業時間を尋ねています。それによると,日本の20代の中学校教員(フルタイム)のうち,週80時間以上勤務している者の割合は12.9%となっています。およそ8人に1人で,少数派ではありません。
http://www.oecd.org/edu/school/talis.htm

 30代では9.4%,40代では6.1%,50代では4.1%,となっています。やはり,若手ほど負荷が大きいようです。この比率を,各年齢層の本務教員数に乗じ,出てきた値を合算することで,冒頭の男性教員と同じくらい働いている,過労死予備軍教員の数を推し量ってみましょう。

 計算に使う本務教員数(母数)は,2013年の文科省『学校教員統計』から得ました。同年10月時点の数値です。


 中学校の過労死予備軍教員数は,20代が4,280人,30代が4,896人,40代が3,865人,50代が3,312人で,合計すると16,353人となります。

 全国の中学校には,週80時間以上勤務(月間残業160時間以上)の過労死予備軍教員が,およそ1万6千人ほどいる計算になります。20~50代のフルタイム中学校教員全体の,およそ7.1%(14人に1人)なり。

 以上のことを図解すると,下図のようになります。ブラックが,過労死予備軍教員です。図の横幅で,本務教員の上での年齢層比重を表現しています。


 仮に,この1万6千人の1.0%(160人)が自殺を図るとすると,中学校教員の自殺率は69.9人(ベース10万人あたり)となり,国民全体の自殺率(近年は,10万人あたり20人ほど)よりも,段違いに高くなることになります。

過労死(自殺)予備軍が1万6千人。そのうち,自殺に傾く恐れがある者が160人。あり得ない事態ではないと思います。当然,上図のような図柄ができるのは,世界広しといえど,日本だけです。

 次期学習指導要領では,AL授業だの道徳の教科化など,英語教育の早期化など,さらに負荷がかかりますが,人員増員・業務のスリム化などの条件整備がないならば,事態はさらに悪化することになります。

 われわれはこの事実を直視し,教員の勤務状態改善に取り組まねばなりません。

2016年9月22日木曜日

学部別の浪人生率の分布

 今年の初頭に書いた「大学受験の50年史」という記事が,昨日からよく読まれています。大学の入学者と入学志願者のデータから,各時期の受験競争の度合いを可視化したグラフがウケているようです。「自分の頃はこんなだったんだ」という思いを抱かれていることでしょう。

 今回は,このネタの延長のお話をしようと思います。

 上記記事のグラフから分かるように,以前に比して,大学受験競争はかなり緩和されています。試験の不合格率はピークの1990年では44.5%と半分近くでしたが,直近の2015年ではたったの6.7%です。あと数年もすれば,入学者と志願者の数がほぼ一致する,実態としての「大学全入時代」が到来するかもしれません。

 18歳人口は減っていますが,進学率の高まりにより,入学者の絶対数は増えています。1990年では49万人ほどでしたが,2014年では59万人です。

 変わったのは,入学者の絶対数だけではありません。この内訳(現役・浪人割合)も大きく変わっている。下図は,1990年と2014年の入学者の組成図です。各カテゴリーの入学者数を,正方形の面積で表現しています。2015年以降の『学校基本調査』では,大学入学者の現役・浪人割合を集計していませんので,最近の状況は2014年の断面でみています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528


 先ほど書いたように,この四半世紀で大学入学者は49万人から59万人に増えていますので,トータルの正方形は大きくなっています。

 しかし,その組成が変わっている。色付きは浪人経由者(1浪,2浪,多浪=3浪以上)ですが,正方形の面積で示される絶対量も,入学者全体に占める相対量も減っています。1990年では浪人生の割合は35.9%でしたが,2014年では14.0%です。今後,色付きの領分はますます小さくなるでしょう。

 浪人生の比重も,大学受験の変容を可視化する際の注目ポイントになります。その減少は,競争が緩和されていることの表現に他なりません。

 しかるに,大学入学者は一枚岩の存在にあらず。いろいろな学部がありますし,設置主体(国立,公立,私立)の違いもあるでしょう。ちょっと思いを馳せれば分かりますが,現在でも,競争が激しい学部はあります。たとえば,安い費用で医者になれる国立の医学部などは,今でも激戦であると思われます。

 最近の入学者の組成を,細かい学部別にみてみましょう。私は,2014年春の入学者の浪人経由者比率(以下,浪人生率)を,569学部について明らかにしてみました。この年の春に入学者がいた学部です。

 なお同じ学部でも,設置主体によって難易度は異なりますので,国立・公立・私立は別個に計算しました。上記の569学部の中には,文学部でしたら,国・公・私立の文学部が別個に含まれています。

 下に掲げるのは,569学部の入学性の浪人生率の分布です。5%刻みのヒストグラムにしてみました。


 広く分布していますねえ。569学部の平均値は12.2%ですが,浪人生比率が6割や7割を超える難関学部もあります。マックスは75.1%です。

 しかしこうした学部は数の上ではごく少数で,569学部のうち309学部(54.3%)が,浪人生率1割未満となっています。裏返すと,現役率9割超の「楽勝」学部ということになりましょうか。色分けをみると,その多くが私立なり。それに比して国立は難関のようで,上のほうに多く分布しています。

 分布の素性を知っていただいたところで,浪人生率が高い難関学部と,その逆の楽勝学部の顔ぶれをご覧に入れましょう。まずは前者です。浪人生率が3割を超える,41の学部です。


 浪人生率が75%(4分の3)にもなる最難関学部は,国立の美術学部です。具体的にいうと東京芸大ですが,ここの入試の難しさはよく知られていること。東大以上でしょう。

 その次は私立の医学部で,ほか歯学部など,上位には医療系の学部が食い込んでいます。入学生の半分以上が浪人経由者です。国立の医学部が意外に低いのは,医学科とは別の看護学科などの比重が高いためかもしれません。

 以上は,大学受験競争が緩くなっている今でも,熾烈な競争を極めている学部です。しかるに上記のヒストグラムで分かるように,この手の学部は数の上では少数派。昨今のマジョリティは,ゆるゆるのフリーパス状態の学部です。

 その顔ぶれを見ていただきましょう。以下に掲げるのは,入学者の浪人生率が1%未満の学部,つまりほぼ全てが現役生という学部です(その数,29学部)。


 見事に全部私立で,今流行りの「2文字組み合わせ」の学部名が並んでいます。青字は,入学者の全員が現役生という学部です。

 いずれも,定員割れが著しい,偏差値の低い私大と思われます。入試はほぼフリーパス。面接で志願者が合意すれば合格という「アグリーメント入試」,あれどの学部でやってるんでしたっけ・・・。

 大学入試競争は緩和されてきていますが,全体から下って,細かい部分(学部)ごとにみると,多様な様相がみえてくる。今回お見せした,学部別の浪人生率の分布は,その「見える化」です。全体だけをみて,事を語るなかれ。

 公的統計資料による,最近の大学入試状況の解剖作業でした。

2016年9月19日月曜日

読売新聞『大学の実力 2017』分析②

 分析第二弾です。予告通り,入学者の一般入試経由率が学部の入試偏差値によってどう変異するかを明らかにしてみようと思います。

 18歳人口の減少により,私大の4割が定員割れしている状況ですが,下位ランクの大学の中にはもう,なりふり構わず学生獲得に走っている大学もあるでしょう。志願者が入学に合意すれば合格という「アグリーメント入試」をやっている大学もあるといいます。

 首都圏私大の文系学部を例に,現実を可視化してみましょう。

 この作業は前に,埼玉県内の私立大学を分析対象としてやったことがありますが,ここでは首都圏(1都3県)に射程を広げます。また,人文・社会系の学部というように,対象を限定します。こうすことで,専攻の影響を除くことができるでしょう。

 このほど刊行された読売新聞『大学の実力2017』には,今年春の入学者総数と一般入試経由の入学者数が,各大学の学部別に掲載されています。首都圏私大の人文・社会系学部でみると,両方のデータが分かるのは281学部です。

 この281学部の入学者総数は12万3996人で,そのうち一般入試を経た入った者は6万3381人となっています。一般入試経由率は,後者を前者で除して51.1%,ちょうど半分です。逆にいうと,残りの半分は一般入試を経ていないことになります。

 今では,首都圏の私大文系学部の半分が,一般入試以外のAO入試とかで入っていると。地方では,おそらくもっと多いでしょうね。

 これは全体の値ですが,入試偏差値別にみるとどうなるか。分析対象の281学部を偏差値に依拠して5つの群に仕分けし,今年春の入学者の一般入試経由率を出してみました。


 入学者総数は,A群で最も多いですね。マンモス私大が多いためでしょう。入学者の一般入試経由率は,予想通り,偏差値群によって違っています。下に行くほど低くなる,リニアな傾向です。

 偏差値60以上のA群では61.6%ですが,45未満のE群ではわずか27.8%なり。7割以上が,学力を問う一般入試を経ないで入ってきていると。

 上表のデータをグラフにしましょう。横幅の大小で群ごとの入学者数を表現した,モザイク図にします。


 先ほど述べたように,A群にはマンモス私大が多いので,入学者数ではこの群が最も多くなっています(横幅)。

 色付きは一般入試の経て入った者の領分ですが,A群でも,残りの4割は一般入試以外なんですね。まあ,付属学校からの推薦組とかでしょう。有力私大は,こうしたエスカレーター組が多し。

 これが,ユニバーサル化した大学の入試の「今」です。今後,ますます白色の領分は大きくなることでしょう。それに伴い,リメディアル教育などが重要になってくる。初年次教育学会なる学会もあるようで,大学に入って間もない新入生のカリキュラムについて,活発な議論がされている模様です。

 私は,上図でいうE群の大学で6年間教えた経験がありますが,それを踏まえて,思うところはあります。それは,冒頭のリンク先記事で申しています。偏見丸出しの考えに聞こえるでしょうが,興味ある方はお読みくださいませ。

2016年9月18日日曜日

読売新聞『大学の実力 2017』分析①

 一昨日(16日)に表記の資料が刊行され,早速アマゾンで取り寄せました。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2016/09/004890.html


 全国の大学を対象に毎年実施される,国内最大規模の調査です。回答率も年々上がっており,今年は全国の国公私立大学の91%が回答したそうです。

 この調査に回答していない残りの1割弱の大学は,行ってはいけない「ヤバい」大学ということになるでしょうね。退学率などの情報を出したくない,ということですから。去年の報告書のあとがきに書いていましたが,都合の悪いデータも含め,情報をちゃんと出すかどうかは,当該の大学がどれほど誠実かを見極める指標になります。

 ちなみにこの本の売り上げは,被災地復興を担う学生の奨学金に充てられるそうです。買っちゃいましょう。

 さて私は,毎年この調査のデータの分析をしており,今年もそれをしようと思います。本を開くと例年通り,各大学の学部別に,いろいろなデータが掲載されています。「おや」と思ったのは,今年から調査対象の学部が専攻別に分けられています。文学,社会科学,理学・・・というように。

 これはありがたい。私は前から,文系(人文・社会系)の学部に絞った分析をしたいと思っていたのですが,それが可能になります。今年は,首都圏(1都3県)の私立大学の人文・社会系学部を分析対象とします。その数,297学部なり。

 分析の第一弾では,各学部の正規職員就職率退学率に注目します。この値が,入試偏差値とどう関連しているか。まあ,結果は予想できますが,データでしっかりと可視化してみるのもいいでしょう。首都圏の私大の文系学部に限った分析をできるのも,ありがたい。

 私は下記サイトを参照し,分析対象の学部の入試偏差値を調べました。偏差値が分かったのは,294学部です。この294学部を偏差値に基づいて群分けしました。偏差値45未満が92学部,45以上50未満が60学部,50以上55未満が49学部,55以上60未満が37学部,60以上が55学部,という具合です。
http://daigakujyuken2.boy.jp/kantoken.html

 この5つの群ごとに,正規就職率と退学率の平均値(average)を計算しました。双方とも,原資料に計算済みの数値が学部別に掲載されています。

 正規就職率は,2016年春の卒業生の正規職員就職者数が,4年前の2012年春入学者の何%かです。退学率は,2012年入学者のうち,今年春の卒業までに何%が退学したかです。当該の学部に入った者のうち,4年後の卒業時に何%が正社員になれるか,何%が中途で退学するか。こういう指標です。

 下表は,5つの偏差値群ごとの平均値です。


 どうでしょう。予想通り,正規就職率と退学率は,大学ランクときれいに相関しています。正規就職率の平均値は,偏差値45未満のE群では60.1%ですが,60以上のA群では70.5%です。

 A群の大学では,大学院への進学者が多いでしょうから,この層を分母から除外した就職率の平均値は,もっと高くなると思われます。

 退学率もきれいに相関しています。E群では16.4%ですが,偏差値が上がるにつれて平均値はリニアに下がり,A群ではわずか2.9%であると。上表の傾向をグラフにすると,以下のようになります。


 オーソドックスな折れ線グラフですが,退学率は傾斜が大きい。正規就職率も,進学者を分母から除いた場合の率であれば,5つの群の間の差はもっと大きくなるでしょう。

 これで終わりでは芸がないので,あと一つ,やや凝ったグラフを作ってみました。横幅の大小で,5つの群の量の比重を表現しています。各群の学部数(上表)に基づく比重です。


 学部の数の上では,最下層のE群が最も多くなっています。ユニバーサル化した日本の大学教育は,下が厚いピラミッド型になっている点にも注意が要ります。

 誰もが肌で感じている現実の可視化です。首都圏,私大の人文・社会系学部に限ったデータであるのもミソです。地域性や専攻の影響は除外されています。

 レポートの第2弾では,一般入試の経由率が偏差値群でどう違うかをみてみます。次回になるかどうかは分かりませんが。

2016年9月16日金曜日

OECD 「Education at a Glance 2016」

 本日,表記の資料が公表されました。OECDの教育白書で,教育の国際比較のデータが数多く載っています。

 この資料のファインディングスについて,いろいろ報じられていますが,日本の教育費構造の特異性(異常性)に言及した記事が多いようです。私が目を通したのは,以下の2本(いずれも本日付)です。

・「教育への公的支出,日本なお低水準 13年OECD調べ」日本経済新聞
・「日本の大学私費負担,OECD平均の2倍超える」読売新聞

 最初の日経記事によると,日本の教育費支出額の対GDP比は3.2%で,OECD加盟国中下から2位だそうです。その影響か,日本の高等教育費用の64.8%は私費(家計負担)で賄われているとのこと(読売記事)。後者は,大学のバカ高の学費を説明してくれます。

 まあ,以前から言われていることで,新しい知見ではないですが,最新の2013年データでもこうであり,「相変わらずだな」という印象です。

 私は,この手の報道に接すると,原資料にて詳細なデータを確認したくなります。タイトルの資料に当たって,上記の2本の記事で使われたデータを揃えてみました。 「Education at a Glance 2016」ですが,下記サイトにて,全文のPDFを無償でダウンロードできます。エクセルファイルのデータも呼び出すことができ,入力の手間も要りません。ありがたや。

 先の2本の記事で使われている国際データは,下表のとおりです。


 日本は,公的教育支出の対GDP比が低く,高等教育支出の私費負担率が高い。前者は32位(下から2番目),後者は2位です。

 その対極はノルウェーで,高等教育費の私費割合はたった4.0%です。なるほど,この北欧国では大学の授業料がタダなわけですな。

 上表のデータをグラフにすることで,教育費構造のタイプを可視化することができます。横軸に公的教育支出の対GDP比,縦軸に高等教育費の私費割合をとった座標上に,両方のデータがある32か国を配置すると,下図のようになります。


 右下にあるのは,教育の公的支出が多く,国民(家計)の費用負担が軽い社会です。北欧国が固まっています。

 左上はその逆で,政府が教育にカネを使わず,負担が個々の家庭に押し付けられる社会。悲しいかな,その典型は日本です。大学生の親御さんは,「何でこんなに学費が高いんだ」と嘆いておられるでしょうが,上記のグラフをご覧になれば,事情をお察しいただけると存じます。大学教員が,べらぼうに高い給料をもらっているからではありません。

 前にニューズウィーク記事で書きましたが,こういう構造にもかかわらず,日本国民は「家庭の富裕度に関係なく,頑張れば成功できる」イデオロギーを持っているのも恐ろしい。大学の学費が無償の北欧なら,こういう意識が生まれるのも分かるのですが・・・。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5055_2.php

 日本の「私」依存型の教育は,少子化や未婚化という,社会の維持・存続に関わる問題を引き起こしています。後者は,奨学金返済が足かせになり,若者の結婚が阻まれる,というようなことです。

 このグラフを拡大して国会の壁に貼り,為政者の皆さんには,「国民に負担を強いる構造を変えよう」という決意を,絶えず新たにしてほしいと思います。

 最後にもう一つ。新聞記事で報じられるデータを,原資料から再現させるという作業を,調査法の授業で学生さんにやらせるのもいいかな,と思います。他者の研究成果の追試(test)も,調査の一角を構成します。今後の授業立案のメモとして。

2016年9月12日月曜日

幼少期のコンピュータ利用と学力の関連

 「幼少期に**すべし」「頭のいい子は,幼少期をこう過ごした」・・・。いつの時代でも親御さんの関心をひくトピックで,私が関わっている『日経デュアル』でも,この手の記事がウケています。

 正直言って,私はこういう話はあまり好まないのですが,偏見ばかりというのはよくないと思い,あるデータを分析してみました。それは,タイトルにある通りです。

 日本はICT後進国で,子どものパソコン所持率は低く,学校の授業での利用頻度も低くなっています。この点の国際データは何度も提示しましたが,コンピュータの利用開始年齢も,諸外国に比して遅くなっています。

 OECDの国際学力調査「PISA 2012」のICT調査では,対象の15歳生徒に対し,「初めてコンピュータを利用したのは何歳の時か」と問うています。下図は,主要国の回答分布です。下記サイトにて,リモート集計ができます(粗い整数値でしか%が出せませんが)。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 米英仏は,ICT関連の設問には回答していないようです。


 詳細なコメントは要りますまい。差が出ているのは,就学前の幼少期にコンピュータに触れたという生徒の率です。日本はたった13%ですが,北欧諸国で半分を声,ICT先進国のデンマークでは6割近くにもなっています。

 まあ,さもありなんという結果ですが,本題はここからです。実は日本のデータでみると,パソコンの使用開始年齢が,「PISA 2012」で測られる学力水準と相関しているのです。

 「PISA 2012」では,15歳生徒の数学リテラシー,読解力,科学的リテラシー,問題解決能力を測定していますが,その平均点は,初めてコンピュータを使った年齢によって違っています。

 下図は,その関連のグラフです。学力は社会階層に規定されますので,その影響を除くべく,両親のいずれかが大卒(ISCED 5A or 6)以上の生徒に限定しています。このグループに絞っても,コンピュータの利用開始年齢分布は,上図の全体とほぼ同じです。


 どの面の学力でみても,コンピュータの使用開始年齢が早かった群ほど,平均点が高くなっています。数学リテラシーでいうと,乳幼児期にコンピュータを使い始めた群の平均点は592点ですが,7~9歳の群では566点,10~12歳の群では556点,中学校に上がって初めて使い始めたという群では522点という有様です。

 むーん,全く攪乱のないきれいな傾向ですね。幼少期にパソコンに触れさせることは,ゲーム脳をつくる,よからぬことを覚えるというように,否定的に捉えられることが多いのですが,その後の学力とこうも相関しているとは。

 この点について何か言われていないかと検索してみたら,ズバリ「子どものパソコン所有は学力アップにつながる」という記事(2016年8月10日公表)を見つけました。
http://news.mynavi.jp/kikaku/2016/08/10/003/

 子どもにパソコンを使わせた親御さん曰く,「ITへの理解が増した」「情報収集力が高まった」「資料作成力が高まった」「勉強意欲が高まった」「様々なことに対する興味が高まった」とのこと。

 なるほど,とりわけPISA型学力の問題解決能力につながるような要素が盛りだくさんですね。コンピュータを使って,自分の創作物を発信することなどは,何のために勉強するかという,勉学意欲も高めるでしょう。いろいろな反応がもらえますしね。

 上記記事にて,脳科学者の中野氏も言われていますが,ネットから受ける刺激は,本やテレビから受けるそれよりもはるかに広範で,子どもの興味の幅を大きく広げてくれるでしょう。頭が柔らかい年少の子どもがそれに接することは,いい効果をもたらすのかもしれません。

 言わずもがな,ネットの情報は玉石混交です。幼児はそれをジャッジする能力を持ちませんので,保護者が適切なコントロールをすることが必要です。使わせるなら,フィルタリングつきのパソコンにするなど。

 社会階層の変数を統制しても,幼少期のコンピュータ使用経験と学力の間にリニアな相関がある。これは因果の可能性ありか。だとしたら,具体的にどういうことか。議論のタネにでもなればと思い,データをここに提示しておきます。

2016年9月10日土曜日

教員養成大学 VS 一般大学

 新規採用教員に占める,国立教員養成大学出身者の割合が低下しているそうです。公的資源の投入を受けて,教員を輩出することを使命とする教員養成大学にとって,これは看過できないこと。

 曰く,「国立の教員養成大学は未だに研究重視の風潮があり,社会の変化を見据えた教育ができていないのではないか」。むう,関係者にとっては,耳の痛い指摘ですね。

 危機感を持ったのか,文科省内に,国立教員養成大学の改革の方向を議論するチームが立ち上げられている模様です。

 2015年度の公立小学校教員採用試験のデータでみると,試験を突破した採用者のうち,教員養成大学出身者は33.2%となっています。およそ3人に1人ですが,過去最低です。一方,一般大学出身者の比率は58.3%で,こちらは過去最高となっています。

 しかるにこれは,一般大学からの受験者が増えているためとも考えられます。近年,私立大学の教職課程が増えていますからね。「教員免許を取得できますよ」は,学生獲得のための格好のアピールになります。

 ゆえに,教員養成大学が劣勢になっているかを判断するには,受験者(ベース)の構成変化を考慮する必要があるでしょう。小学校教員採用試験の受験者・採用者に占める,教員養成大学出身者,一般大学出身者の割合を推移をとると,下表のようになります。記録のある,1980年代以降のデータです。

 観察期間中の最大値には黄色,最小値には青色のマークをしています。


 採用者に占める教員養成大学出身者の割合は下がっていますが,受験者でみてもそうです。ピークの99年度試験では受験者の半分でしたが,2015年度では24.8%,4分の1にまで萎んでいます。

 対して,一般大学出身者は受験者でも採用者でも増加傾向。先に述べたように,私立大学の教職課程が増えているためです。

 受験者での割合(A)と採用者での割合(B)を照合すると,まだ,教員養成大学出身者のほうが優位ですね。受験者では24.8%だが,採用者では33.2%いる(2015年度)。この群からは,通常期待されるよりも1.34倍多く採用者が出ていることになります。

 BをAで除した採用者輩出率という指標を出し,推移をグラフにしてみましょう。この数値が1.0より大きい場合,通常期待されるよりも高い確率で採用者が出ていることになります。1.0を下回る場合は,その反対です。


 どの時期でも,教員養成大学出身者の輩出率は1.0を超えており,受験者の比重から期待されるよりも高い確率で採用者が出ています。一般大学出身者はその逆です。

 今から10年前の2006年には,2つの曲線がかなり接近しましたが,それ以降,再び乖離しています。関係者の杞憂といいますか,採用試験における国立教員養成大学学生の出来は落ちてはいないようです。上記は小学校試験のデータですが,中高でみても同じです。

 ただ,教員養成大学では採用試験の受験者が減っている,ということはあり得るかもしれません。試験の受験を希望するという時点で,それなりに質がセレクトされていると。ゆえに,卒業での割合を勘案した輩出率だと,カーブは違った型になるかもしれません。

 データがないのでこの点は検討できませんが,仮にそうだとしたら,教員養成大学の機能不全の問題が提起されます。

 新規採用教員の多くは,教員養成大学出身者で占められるべき。関係者はこう考えているのでしょうが,私はそうは思ってません。新規採用教員の組成は,できるだけ多様化したほうがいいと考えています。それこそ,「開放制」というわが国の教員養成の趣旨が具現されるというもの。

 大卒の教員就職者が,大学で何を学んだか(専攻)の内訳をみると,下表のようになります。2015年春の大学学部卒業者のデータです。


 教員就職者のうち,理学部や工学部などで理系の学問を学んだ者は少なくなっています。小学校では,ほぼ皆無です。

 教育専攻の中に,教育学部の理科教育専攻の学生がいるでしょうが,バリバリの理系畑出身の教員がもっと増えてもいいのではないか,と思ったりします。次期学習指導要領の目玉は「アクティブ・ラーニング」ですが,AL型の理科教育を行うに際して,こういう専門性のある教員は力を発揮してくれるでしょう。

 教員養成大学出身と一般大学出身で,教員としての力量にどういう違いができるか。こうしたパフォーマンスの比較研究に興味を持ちますが,そういう研究ってあるのかしら。それなりの資源を投入して,長期的な追跡調査をやってみる価値はあると思います。

2016年9月8日木曜日

自殺の潜在量

 昨日,衝撃的な記事を見かけました。朝日新聞の「4人に1人『本気で自殺したい』 日本財団4万人調査」と題する記事です。
http://www.asahi.com/articles/ASJ975JVJJ97UTFL00J.htmll

 4人に1人が本気で自殺を考えたことがあり,推計53万人が過去1年間に自殺未遂を図ったことがあると。性別・年齢層別の未遂率を,2015年の『国勢調査速報』の人口に乗じて出したそうですが,妥当な推計だとしたら,日本はヤバい。明らかに病んだ社会ということになります。

 最近の年間自殺者は2万5千人くらいですが,その下には膨大な潜在量(予備軍)が存在することが示唆されます。

 その潜在量の指標ですが,自損行為をして,救急車で運ばれた人間の数というのはどうでしょう。これには,リストカットやOD(オーバードーズ)などによる,自殺未遂者も多く含まれると思われます。

 総務省『消防白書』によると,2014年中の自損行為の救急搬送人員は4万742人となっています。同年の自殺者数2万4417人のおよそ1.7倍。結構,乖離がありますね。

 1990年から2014年にかけて,年間の自殺者数と自損行為搬送者数がどう推移してきたかをグラフにすると,下図のようになります。前者の出所は厚労省『人口動態統計』,後者は『消防白書』です。
http://www.fdma.go.jp/concern/publication/


90年代の末までは,両者の数は近似していました。97年から98年にかけての激増傾向もそっくりです。

 しかしその後,自殺者は横ばいなのに対し,自損行為搬送人員は増加し,両者は乖離しています。近年は,自殺者の背後に少なからぬ潜在量があることが知られます。自殺者の統計だけを見ていると,社会の危機量を見誤る恐れがある。

 ちなみに,自殺者と自損行為搬送人員の属性は,大きく違っています。性別・年齢層別でみると,自殺者は「男性>女性」「高齢者>若者」ですが,自損行為搬送人員はその逆です。

 全国の自損行為搬送人員の属性は分かりませんが,東京都のそれは知ることができます(『東京都消防統計書』)。2014年中の都内の搬送者数は4055人ですが,そのうち女性が2551人(62.9%)を占めます。自殺者と違い,男性より女性が多し。
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/tfd/hp-kikakuka/toukei/index.html

 年齢構成も,自殺者とは異なっています。下図は,2014年の全国の自殺者(2万4345人)と,東京都の自損行為搬送人員(4055人)の年齢分布です。前者は,年齢不詳者は除いています。


 自殺者は高齢層の比重が高いですが,自損行為搬送者は若者が多く,ピークは20代で,この層だけで全体の4分の1近くを占めます。

 潜在量をも考慮すると,生の危機は若者に多く分布しているとみられます。自殺対策の重点層を割り出すに当たっても,自殺者の統計だけを見ていると,事態を見誤るなと感じます。

 冒頭の朝日新聞記事でいわれている,推計自殺未遂者53万人のマジョリティーは,若年の女性でしょう。この層の自殺率は低く,自殺対策の重点として注目されにくいのですが,膨大な危機の潜在量を抱えた層です。

 「生きづらさ」の指標は,絶えず点検されないといけない。でないと,対策の在り方を間違えてしまう。昨日の朝日新聞記事を読んで,このことを強く認識させられます。

2016年9月6日火曜日

全国1271市区町村の「家賃/年収」比

 前々回の記事では,47都道府県別,首都圏の市区町村別に,借家世帯の「家賃/年収」比を出してみました。生活の基礎経費と収入を照合して出した,生活の余裕度を測る指標です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/09/blog-post.html

 県別にみると,最高の22.4%(東京)から最低の13.8%(島根)まで分布しています(25~34歳の借家世帯)。首都圏の市区町村別では,27.0%(東京・中野区)から12.0%(埼玉・吉身町)までの分布幅です(全借家世帯)。

 首都圏とは埼玉・千葉・東京・神奈川の1都3県ですが,全国の市区町村に射程を広げると,「家賃/年収」比はもっと幅広く分布しています。地方県の郡部では,この値が格段に低い地域もあるでしょう。こういう例の提示は,地方創生の促進の上でも意義あることと存じます。

 私は,総務省『住宅土地統計』(2013年)のデータをもとに,全国1271市区町村の借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみました。同資料に載っている,各地域の借家世帯の平均家賃月額を12倍した年額を,同じく借家世帯の平均年収で除した値です。借家世帯の年収のうち,家賃の比重は何%か?
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm

 できれば若年世帯というように,世帯主の年齢を統制できたほうがいいのですが,市区町村レベルの統計では,家賃額・年収とも,全借家世帯のものしか知ることができません。今回お見せするのは全借家世帯の「家賃/年収」比であることに留意ください。

 1271市区町村の「家賃/年収比」は,幅広く分布しています。全市区町村の一覧を掲げることはできませんので,2%間隔のヒストグラムを見ていただきましょう。


 きれいなノーマル分布です。最頻階級(mode)は,14%以上16%未満の階級なり。1271市区町村の「家賃/年収」比の平均値は15.7%となります。アベレージは,およそ7分の1というところです。私も,そんな感じかな。

 さて分布をみると,20%を超える地域もあれば,10%にも満たない地域もそこそこあります。この両端を顔ぶれをご覧に入れましょう。まずは,「家賃/年収」比が高い市区です。下表は,25%(4分の1)を超える市区です。


 トップは,大阪市の西成区で28.7%です。家賃はそんなに高くないですが年収が極端に少ないので,こういう比重になっています。生活保護世帯が多いためでしょう。

 2位は福井の永平寺町で,3位以下は東京特別区,京都市,大阪市内の区で占められています。東京の港区や渋谷区は,家賃がメチャ高であるためです。他の区は,年収が少ないことがファクターになっています。京都市は学生の単身世帯が多いこと,大阪市は生活保護受給世帯が多いことも関連していると思われます。

 次に,借家世帯の「家賃/年収」比が低い地域の一覧です。こっちのほうに関心をお持ちの方が多いと思いますが,家賃年額が年収の10%(1割)に満たない自治体は以下です。


 一番下をみると,2011年の震災の被災地が顔をのぞかせています。仮設住宅などが公的に供給されているためでしょう。

 鳥取の八頭町(3.3%)や岐阜の大野町(5.1%)などはスゴイ。家賃メチャ安なのに,借家世帯の年収は高し。地域の借家のほとんどが公務員住宅とか,特殊事情でもあるのでしょうか。わが郷里・鹿児島のさつま町や肝付町なんかも,家賃比重が低いのだなあ。

 生活の基礎経費の比重が低い地域は,予想通り地方の郡部に多いですが,市部も多く含まれています。移住者の大半は賃貸住まいをチョイスすると思いますが,こういうデータも,わが町に人を吸い寄せるエビデンスになるのではないでしょうか。

 前々回の記事でも言いましたが,白々しいPRよりも,こういう数値のほうが,人を吸い寄せる磁石として強力なのは確かだと思います。

2016年9月4日日曜日

非貨幣経済指数

 先日,野菜への年間支出額の世帯平均値を県別に出し,ツイッターで発信しました。

 それに対し,①物価の地域差を考慮すべし,②田舎では,野菜は贈与や物々交換で賄われることが多い,という意見が寄せられました。

 どちらも,ごもっともな指摘です。②でいう「贈与や物々交換」というのは,非貨幣経済という語で括られると思いますが,あらゆる財やサービスが貨幣を介して供される現在にあっても,こうした非貨幣経済が若干は残っているのも事実です。

 統計によって,この非貨幣経済がどれほど幅を利かせているかを可視化することができます。野菜への支出額と,実際の消費量(摂取量)を照合することによってです。前者が少ないのもかかわらず,後者が多いならば,野菜を非貨幣で賄っている度合いが高いことになります。

 私は,この2つの数値を都道府県別に収集し,消費量を支出額で除した,非貨幣経済指数を計算してみました。

 東京都でいうと,野菜・海藻への平均月間支出額は9744円です(2人以上世帯,『全国消費実態調査』2014年)。これを,東京の食料物価地域差指数(1.037)で除して,物価を考慮して標準化した支出額にします。その額,月間9396円(①)。*物価地域差指数とは,全国値を1.0とした場合の値です。

 2012年の厚労省『国民健康・栄養調査』によると,東京の成人男性の1日あたりの平均野菜摂取量は332.1グラム(②)となっています。年齢調整値です。

 よって東京の非貨幣経済指数は,②を①で除して,3.534となります。非貨幣経済の相対的強度を測る指標です。

 これは大都市・東京の値ですが,言わずもがな,田舎では値はもっと高いでしょう。下表は,47都道府県の計算表です。右端が,算出された非貨幣経済指数です。全県の最高値には黄色,最低値には青色マークをしています。上位5位は,赤字にしました。


 非貨幣経済指数が最も高いのは,中部の長野県です。相対比較ですが,全国で最も,贈与や物々交換などの非貨幣経済が幅を利かせていると判断されます。

 この結果に対しては,「さもありなん」という声も寄せられています。曰く,お米の3割は「縁故米」なのだとか。
https://twitter.com/39chibi/status/772095904425705472
https://twitter.com/tomoida/status/772221048351633408

 2位は,わが郷里の鹿児島県です。これは,よく分かります。離島に赴任した教員は,食べ物の費用がかからないのだそうです。「先生,食べんね」と,住民の方が野菜や魚をわんさと持ってきてくれます。それでいて,へき地手当もつくし,お金がたまり,市内に戻ったら家が建つと。

 ほか,指数の上位県は西に多いような印象を受けます。上表の指数をマップにしてみましょう。4つの階級幅を設け,47都道府県を濃淡で塗り分けてみました。


 中部のほか,西南で色が濃いですね。非貨幣経済が相対的に残存しているゾーンです。

 日本では,失業と自殺はとても強く相関しています。失業率が分かれば,自殺率を予測できるほどです。失職して収入(貨幣)が得られなくなるや,生活に必要な財やサービスが賄えなくなり,生活困窮に陥る。貨幣経済が浸透した社会の病理ともいえましょう。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/06/blog-post_24.html

 しかるに,非貨幣経済が残存している社会では,失業と自殺がリンクする度合いは低いのではないか。貨幣がなくても,生きていけるからです。アフリカや中南米の発展途上国は,失業率はメチャ高ですが,自殺率はとても低水準。その日暮らしに精一杯で,自殺などを考える暇がないためでしょうが,非貨幣経済が幅を利かしていることも要因としてあるでしょう。

 これは,海を隔てた遠い異国の話ですが,日本国内でも,非貨幣経済の残存度に地域差がある。今回みたのは都道府県差ですが,市区町村レベルまで下りれば,もっと高い指数値も出てくると思われます。鹿児島の離島部とかは,スゴイ値になりそう。

 ここで試算した非貨幣経済指数は,地域連帯の測度と読むこともできます。この高低によって,人々の生活の満足度(安定度)がどう違うか。人々の「つながり」の学である社会学の,重要課題といえましょう。

2016年9月2日金曜日

借家世帯の「家賃/年収」比

 海の見える街に住みたい。賃貸サイトにて,先日行った三浦半島(神奈川)の物件を探してみると,安くて広い物件があるわあるわ・・・。
https://twitter.com/tmaita77/status/771250273331257344

 私のような文筆業の場合,どこに住んでも収入は一緒。それで,家賃等の基礎経費が浮くとなると,生活はかなり楽になるだろうなと思います。部屋も広くなるので,本もたくさん置ける。至れり尽くせりです。

 生活にどれほど余裕があるかは,収入と支出のバランスで見て取れますが,後者の代表格は住居費,借家世帯でいうと家賃ということになります。生活の余裕の程度を測る指標として,借家世帯の「家賃/年収」比というのはどうでしょう。

 地域別の平均年収に注目されることが多いのですが,地域によって生活費の相場が違いますので,収入の多寡を見るだけでは不十分です。そこで,生活の基礎経費を測る指標として,家賃も考慮しようというわけです。

 私は,47都道府県について,借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみました。依拠した資料は,2013年の総務省『住宅土地統計』です。この資料から,借家世帯の平均年収と平均家賃額を知ることができます。世帯主の年齢層別にみることも可能です。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm

 東京を例に,世帯主が25~34歳の借家世帯の「家賃/年収」比を計算してみましょう。下記サイトの表48(都道府県)の年収分布より,当該の借家世帯の平均年収を出すと,427.6万円(①)となります。平均家賃額は,7万9753円(②)です。こちらは,表50に計算済みの数値が出ています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001056226&cycode=0

 したがって,「家賃/年収」比は,(②×12)/①=22.4%となります。年間の家賃が年収に占める割合は,およそ5分の1ということです。これは,東京の25~34歳の数値ですが,値は地域によって違います。年齢層による差もあります。

 東京と私の郷里の鹿児島について,借家世帯の「家賃/年収」比の年齢曲線を描くと,下図のようになります。


 どの年齢層でも,鹿児島より東京が高いですね。収入・家賃とも「東京>鹿児島」ですが,家賃の地域差が収入のそれを凌駕しているので,こういう結果になります。東京は,家賃高いですものね。

 しかし,東京の若年世帯はキツイ。「家賃/年収」比は45.0%! 年収の半分近くを,家賃で持って行かれることになります。何と言いますか,これでは,家賃を払うために働いているようなものですね。

 この指標は,収入が多い働き盛りの層では低くなり,収入が少なくなる高齢層になると反転して上昇します。

 上記は東京と鹿児島の例ですが,他県はどうでしょう。同じやり方で計算した,県別・年齢層別の借家世帯の「家賃/年収」比の一覧表をご覧いただきましょう。黄色は全県の最高値,青色は最低値です。赤字は,上位5位を意味します。


 マックスは,どの年齢層も東京かと思いきや,25歳未満だけは京都が最も高くなっています。「家賃/年収」比は53.0%,半分を超えます。

 これは,学生の単身世帯が多いためでしょう。京都は,大学が多いですし。しかしこの事実は,日本の下宿学生の生活が大変苦しいことの証左です。収入(仕送り,奨学金,バイト代・・・)の半分以上が家賃に食われる。こんな社会が,他にあるでしょうか。

 赤字の分布をみると,借家世帯の「家賃/年収」比は,やはり都市部で高いようです。地方で低いのは,収入は少ないですが,家賃がそれを補って余りあるほどバリ安ということ。地方では,家賃のほかに,自動車の維持費などの経費もかかるでしょうが,生活のゆとりという点では,地方に軍配がある気がします。

 言わずもがな,住居の面積も広いですし。昨日,ツイッターで発信しましたが,東京の富裕層よりも鹿児島の貧困層のほうが,広い家に住んでいるようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/771340346542297088

 しかしまあ,若年の借家世帯の「家賃/年収」比がメチャ高であることに,驚きを禁じ得ません。都市部では,ほぼ半分。収入が少ないためですが,これでは,実家を出れず親にパラサイトせざるを得ないだろうなと思います。その結果,未婚化が進行する。この点は,山田昌弘教授も指摘されています(『パラサイト・シングルの時代』1999年)。

 状況は,過去に比して悪化しているでしょう。90年代以降の不況により,若者の収入は下がる一方で,家賃は据え置き(上昇?)なのですから。ヨコの国際比較でみても,若年世帯が住居費負担にこれほど苦しんでいる社会は,日本だけではないでしょうか。藤田孝典さんの『貧困世代』(2016年)にも書いてありますが,日本の住宅支援政策(公営住宅整備,家賃補助等)がきわめて貧弱であることは,よく知られていること。

 こういう要因により,若者の自立(離家)が阻まれ,未婚化が進行。消費も低迷し,社会の維持・存続が脅かされる事態になっている。「」は生活の基盤ですが,この面の支援を,若年層に重点を置いて行うべきでしょう。

 話がそれましたが,最後に,首都圏(1都3県)の市区町村別のデータもお見せしましょう。214市区町村について,借家世帯の「家賃/年収」比を計算し,マップにしてみました。市区町村レベルでは,年齢層別のデータは出せませんので,借家世帯全体のデータであることに留意ください。


 東京の都心の色が濃くなっています。都心は,家賃がメチャ高ですからねえ。千葉は全体的に真っ白。相対的に安い。私が白羽の矢を立てている,神奈川県の三浦半島の南端もホワイト。

 これは首都圏の地図ですが,全国に視界を広げれば,値がもっと低い地域もたくさんあるでしょう。5%未満の町村とかもあったりして・・・。

 政府が推奨している「地方創生」を促すに際しては,こういうデータも積極的に公開するのがよいと思います。白々しいPRよりも,ずっと説得力に富んでいることは間違いありません。