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2023年12月20日水曜日

都道府県別の大学進学率(2023年春)

  今年の『学校基本調査』の確報結果が出ました。例年同様,都道府県別の大学進学率を計算することといたしましょう。毎年のことですので,計算の方法の説明と,出てきた数値を淡々と報告します。

 大学進学率とは,18歳人口ベースの浪人込みの進学率をいいます。分子には,当該年春の大学入学者数を充てます。2023年春でいうと,63万2902人です。この中には,より上の世代(浪人経由者)も含まれますが,今年春の18歳人口からも,浪人経由で大学に入る人が同数出ると仮定します。

 分母には,今年春の推定18歳人口を使います。3年前の『学校基本調査』に出ている,①中卒者数,②中等教育学校前期課程卒業者数,および③義務教育学校卒業者数を合算します。3年前(2020年春)の①は108万7468人,②は5430人,③は4518人で,これらを足すと109万7416人。これが,今年(2023年)春の推定18歳人口です。

 これで分子と分母が得られましたので,2023年春の大学進学率は,63万2902人/109万7416人=57.7%となる次第です。元資料(このページの図表9)で報告されている数値と一致します。

 同世代の何%が4年制大学に進学するかですが,6割のラインに近づいてきましたね。

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 さて,本題はここからです。57.7%というのは全国の数値であり,地域別にみると著しい違いがあります。これは高等教育機会の地域格差の表現であって,私は毎年,これを明らかにしているわけです。便宜上,地域を都道府県単位で捉えています。

 県別の大学進学率は,『学校基本調査』の結果レポートには載っていません。上記の方法にのっとって,私が独自に計算します。県別の場合,大学進学率の分子には,当該県の高校出身の大学入学者数を充てます。私の郷里の鹿児島県だと,本県の高校出身者で,今年春に全国のどこかの大学に入学したのは6373人(このページの表16)。

 分母には推定18歳人口を使いますが,3年前(2020年春)の中卒者,中等教育前期課程卒業者,義務教育学校卒業者の合算は1万5086人。よって,今年春の鹿児島県の大学進学率は42.2%となります。先ほどみた全国値(57.7%)よりだいぶ低いですね。

 私はこのやり方で,47都道府県の大学進学率を計算しました。各県の分子,分母の数値は男女別にも得られますので,男子と女子に分けた進学率も出しました。以下の表は,結果の一覧です。縦長の表で,スクショを1枚に収められませんでしたので,上下2枚に分割していることをお許しください。

 繰り返しになりますが,この県別・性別のデータは,文科省の『学校基本調査』のデータをもとに,私が独自に計算したものであることを申し添えます。

 47都道府県中の最高値には黄色マーク,最低値には青色のマークをしました。左端の男女計でみると,最高は東京の77.6%,最低は宮崎の40.1%。倍近くの差で,同じ国内かと思う得るほどの格差です。毎年のことで,私はあまり驚かなくなりましたが。

 各県の大学進学率を男女別に出すと,これも毎年のことですが,「男子>女子」の県が大半です。鹿児島では,男子が46.1%であるのに対し,女子は38.1%,8ポイントの差です。一方,東京は性差が1.4ポイントと小さくなっています。自宅から通える大学が多いためでしょう。

 私はかれこれ,10年ほど前から毎年,県別の大学進学率を出してきてますが,各県の位置にも変化があります。たとえば沖縄県で,以前とは異なり,近年の全県での順位は「中の上」です。本県独自の子どもの貧困対策や,国の高等教育無償化政策の効果もあるかと思われます。

 ここで明らかにした大学進学率の都道府県差が,各県の生徒の自発的な進路選択の結果などと考える,おめでたい人はいないでしょう。何よりの反証材料は,子どもの学力首位の秋田が,大学進学率では最低水準であることです。各県の男女差などは,「ジェンダー」の反映ともとれます。(1人しか行かせられないなら男子優先,女子は自宅通学のみ可…)。

 大学進学率の地域差がどういう問題か,どういう要因でもたらされているかについて,私が思うところは,本ブログで何度も書きましたので,ここで繰り返しません。毎年,「都道府県別の大学進学率(**年春)」という記事をアップしています。各県の所得や親世代の大卒率との相関をとったグラフを掲載した記事もあります。

 興味ある方は,左上の検索窓に「都道府県 大学進学率」と打って,呼び出してみてください。

2023年11月18日土曜日

失業と自殺の相関の国際比較

  先日ツイッターで出したグラフについて,「元データがどういうものか,イメージしにくい」という声がありますので,ここで詳細を書いておきます。

 当該のグラフは,男性の失業率と自殺率の時系列データから算出した相関係数を,国ごとに棒グラフにしたものです。日本は+0.9を超えていて,主要国では断トツ。米国は+0.073で無相関,フランスやスペインに至ってはマイナスです。

 失業率は,15歳以上の労働力人口に占める完全失業者の割合です。働く意欲のある人のうち,職に就いておらず,せっせと職探しをしている人が何パーセントかです。出所は,ILOの統計データベースで,「Unemployment rate sex and age (%) - annual」という表にて,各国の男性の失業率の長期推移を,国別に呼び出せます。

 自殺率は,人口10万人あたりの年間自殺者数です。ソースは,WHOの「Mortality Database」で,「Self-inflicted injuries」という死因による死亡者数が,10万人あたりの人数に換算された数値が出ています。

 私はこの2つの資料から,男性の失業率と自殺率の推移を,国別に明らかにしました。観察期間は,1990~2020年の30年間です。日本とスペインについて,採取したデータを漏れなく示すと以下のようになります。


 黄色マークは観察期間中の最大値,青色は最小値です。日本の失業率は低く,30年間であまり動いていませんが,自殺率は変化の幅が大きくなっています(20.4~36.5)。対してスペインは,失業率は大きく揺れ動いているものの,自殺率はほぼフラットです。

 しかしスペインは失業率がメチャ高で,2桁はデフォルト。それでも自殺率は日本よりだいぶ低し。2つの国のコントラストが浮き出ています。

 上記の30年間のデータをもとに,男性の失業率と自殺率の相関関係をみてみます。下図は横軸に失業率,縦軸に自殺率をとった座標上に,各年のドットをプロットした散布図です。赤色は日本,青色はスペインです。


 日本は,失業率が高い年ほど自殺率も高いという,明瞭なプラスの相関関係がみられます。対してスペインは無相関。失業率は大きく揺れ動いているにもかかわらず,自殺率はほぼフラットです。

 両軸が因果の関係にあるとは限りませんが,「失業⇒生活苦⇒自殺」という経路を想定するのは容易いでしょう。日本は,それが非常に強い社会のようです。

 上記は2つの国の比較ですが,分析対象の国をもう少し増やしてみましょう。欧米主要国について,最初の表と同じようなデータをそろえ,相関係数を算出しました。8か国の相関係数を棒グラフにすると,以下のようになります。ツイッターで発信したグラフはこれです。

 瑞典はスウェーデン,西はスペインです。


 主要国の比較ですが,どうでしょうか。失業と自殺が強く関連する社会もあれば,そうでない社会もある。数としては後者が多く,日本の特異性が際立ちます。全世界でみても,失業が最も重くのしかかる社会ではないでしょうか。

 背景として,大きく3つが考えられるでしょう。一つは,日本男性の生活が仕事一辺倒になっていること。自我の拠り所にもなっていて,それを失うことのダメージは計り知れない。日ごろから家庭や地域での暮らしをないがしろにしているので,職場に代わる,自我を安定させるための集団も見いだせない。

 2つ目は,社会保障が不備であること。中高年男性が失職した場合,再就職が容易でなく,貯金がない,頼れる親族がいないという場合でも,生活保護を受けるのも難しい。上のグラフをみると,フランスでは相関係数がマイナスにふれていて,失業率が高い時期ほど自殺率が低い,という傾向すらあります。失業保険が手厚く,若者もガンガン生活保護を受けると聞きますが,そういう要因でしょうか。

 最後は,性役割分業です。日本は「男は仕事,女は家庭」という性役割分業が強く,女性に家事や育児・介護等の負荷がかかる一方で,男性には「一家の稼ぎ手」という役割が強く期待されます。それを遂行できないと,一家が直ちに生活苦に陥り,周囲からの目線も厳しく,当人も自責の念にかられ,最悪の結果になってしまう。

 簡単に言えば,生活(役割)の偏り,社会保障の不備,ということです。これには国ごとの濃淡がありますが,日本は際立って「濃」であることが,失業と自殺の相関関係から知られます。

 日本社会の「病」。治療の余地は大ありです。

2023年7月24日月曜日

フリーランスの時給分布

  2022年の『就業構造基本調査』の結果が出ました。

 働く人の稼ぎを知るならコレです。厚労省の『賃金構造基本統計』や,国税庁の『民間給与実態調査』は,一定規模以上の会社に勤める雇用労働者に限定されますが,『就業構造基本調査』では,自営等も含む全ての労働者の稼ぎを知れます。

 5年に1回実施される調査で,集計の仕方も年々改善されてきています。2022年調査では,従業地位のカテゴリーとして「フリーランス」が新設されています。フリーランスの働き方をしている人が増えているためでしょう。

 従業地位と年収のクロス表により,フリーランスの稼ぎをみてみると,まあ低いこと。かといって,労働時間が短いわけではありません。経験者は分かるかと思いますが,フリーランスの場合,仕事時間に際限がなくなりがちです。

 時間給にすると,まあ悲惨なデータが出てくるだろうと前々から思っていましたが,2022年の『就業構造基本調査』のデータが出たのを機に,数値化をしてみようと思います。使うのは,「年間就業日数 × 週間就業時間 × 年収」の3重クロス表です。

 3つの変数のカテゴリーは,以下のようになっています。


 年間就業日数は3カテゴリー,週間就業時間は14カテゴリー,年収は16のカテゴリーとなっています。よって3つの変数のクロス表は,3×14×16=672のセルからなります。

 年間260日・週42時間就業,年収630万円の普通のサラリーマンは,上記の赤字をかけ合わせたセルに入ることになります。このセルに入る人たちの時間給を,階級値(真ん中の値)を使って計算します。年間就業日数は275日,週の就業時間は42.5時間,年収は650万円と一律にみなすわけです。

 この仮定をおくと,1日あたりの就業時間は,週の就業時間(42.5時間)を5日で割って8.5時間。年間の就業時間は,8.5時間×275日=2337.5時間となります。年収650万円をこれで割って,時間給は2781円となる次第です。まあ,まともな会社の正社員ならこんなものでしょうね。

 他のセルについても,同じやり方で時間給を算出し,672のセルを全部埋めた時給表をつくります。それを参照し,各セルに入っている労働者の数を,時給の度数分布表に割振って時間給の分布を出す,という段取りです。

 いささか乱暴ではありますが,私はこの方法にて,正規職員,非正規職員,フリーランスの時給分布を出しました。年間200日以上の規則的就業をしている者で,時給を出せたのは正規職員が3261万人,非正規職員が1049万人,フリーランスが115万人です。

 完成した分布表は以下になります。昨日,ツイッターで発信したものです。


 3つのグループでは,分布がかなり異なっています。非正規とフリーランスは,低い方のボリュームが多く,時給1000円未満の率は,正規が10.5%であるのに対し,非正規は41.6%,フリーランスは38.8%です。

 フリーランスでは,最も低い500円未満が18.8%と最も多くなっています。ほぼ5人に1人が,超悲惨な働き方をしていると。仕事時間が際限なく長くなりがちな一方で,もらえる対価が少ないためです。

 なお,性別のデータも出せます。予想通り,男性より女性の分布が下に偏しているのですが,フリーランスにあってはそれが顕著です。男性フリーランス89万人,女性フリーランス26万人の時給分布を出し,グラフにすると,以下のようになります。


 フリーランスの時給ピラミッドですが,いかがでしょうか。分布の棒を男女で塗り分けると,女性フリーランスにあっては,時給の最下層が多いことが分かります。全体の33.8%,3人に1人が時給500円未満です。

 報酬の不当な減額,さらには不払いなんてのもあるでしょう。時給500円未満が最多,まったくもって目も当てられません。

 その一方で高収入の人もいて,フリーランスでは「上」と「下」に割れている度合いが高いのも特徴といえます。

 これからは,組織に属さない「個」の働き方が増えてくる,今のままではいけないと,フリーランス保護法なるものもできていますが,2022年の実態はこうです。文書での発注義務,一方的な報酬減額禁止など,法律の遵守を国としても徹底させないといけません。