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2015年11月30日月曜日

2015年11月の教員不祥事報道

 寒くなってきました。私は今,クリーニングから返ってきた綿入り半纏を着て,本記事をしたためています。これが軽くて,肩もこらずよいのです。冬場の愛用品です。

 今月,私がネット上で把握した教員不祥事報道は43件です。久々に40件を超えました。今月は,「女の裸は金になる」,「死んだらええねん」といった不適切発言が目立ちます。私もつい授業ヤバイことを口走り,学生さんにたしなめられることがありますが,注意したいものです。

 それと個人情報紛失(USBデータ紛失)も2件。個人情報の校外への無断持ち出しはNGです。この点については,文科省通知「個人情報の持ち出し等による漏えいの防止について」(2006年4月)でもいわれています。この点は,教員採用試験でもたまに聞かれますので,受験生は覚えておきましょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/koukai/kojin/info/002.htm

 明日から師走です。私は変わらず暇人ですが,みなさんさぞ,慌ただしい日が続くかと存じます。忘年会シーズンですが,お酒に酔ってのご乱行には要注意。楽しい年末を。

<2015年11月の教員不祥事報道>
都教育委、特別支援学校教諭を免職 ホテルや車で生徒にみだらな行為
 (11/2,産経,東京,特,男,41)
中3少女にみだらな行為、28歳小学教諭を懲戒免職(11/2,産経,大阪,小,男,28)
女子高生のスカートの中を盗撮の疑い 高校教諭逮捕(11/4,フジテレビ,千葉,高,男,29)
ひき逃げ容疑で中学講師逮捕 国道で81歳女性はね死亡させる
 (11/4,京都新聞,大阪,中,男,24)
<わいせつ図画>コンビニトイレに陳列、高校教諭逮捕(11/5,毎日,山口,高,男,48)
相次ぐUSBメモリー紛失 中学教諭2人減給処分(11/5,千葉日報,千葉,中女24,中男28)
教え子にわいせつ? 愛知の非常勤講師を懲戒免職(11/6,中日新聞,愛知,高,男,27)
長崎鶴洋高の教諭(46)窃盗の疑いで逮捕(11/6,中京テレビ,長崎,高,男,46)
警官集団強姦事件など2教諭を懲戒免職
 (11/6,産経,大阪,集団強姦:小男32,買春:中男41)
盗撮目的で小学校の更衣室に侵入の疑い(11/10,朝日,愛知,小,男,54)
県教委、3教諭を懲戒処分 不適切言動など書類送検事案も
 (11/10,山形新聞,山形,適切言動:中男50代,わいせつ画像映写:中男50代,体罰:高男40代)
着服の高校教諭を懲戒免職 京都、職員室で窃盗も(11/11,京都新聞,京都,高,男,34)
横浜市立小教諭を書類送検 スマホに児童ポルノ動画など5千点
 (11/11,神奈川新聞,神奈川,小,男,29)
高校教諭がUSBメモリー紛失 3年生の成績記録(11/12,朝日,愛知,高,男,599
県立高校教諭 セクハラで処分(11/12,NHK,高知,高,男)
「民間企業で働いている」と身分隠し 無免許運転の元校長免職
 (11/12,産経,他移動,高,男,57)
免停中に車運転の疑い教諭逮捕(11/12,NHK,静岡,小,男,34)
強制わいせつ罪の元中学教諭を永久追放へ 日本体操協会
 (11/13,朝日,宮城,中,男,42)
15歳にわいせつ行為の疑い 宮崎県立高講師逮捕(11/14,産経,宮崎,高,男,27)
無免許授業 276人が再履修へ (11/15,千葉日報,千葉,高,女,369
特別支援学級の生徒に体罰、教諭が拳で頭殴る(11/17,朝日,愛知,中,男,50代)
飲酒事故の講師を懲戒免職(11/17,NHK,佐賀,中,男,22)
柔道部顧問、部員を「いじめろ」…複数に命令(11/17,読売,茨城,高,男,30代)
買春の男性教諭免職 セクハラ、万引で停職
 (11/19,千葉日報,千葉,買春:高男30,セクハラ:高男29,万引:特女54)
万引きや窃盗の疑い、2教諭を停職処分(11/19,朝日,愛知,小女54:窃盗,小男23:万引)
懲戒処分:県立高教諭を停職 わいせつ行為認定(11/19,毎日,香川,高,男,59)
<無免許運転>10年以上通勤や生徒送迎 長崎の教諭懲戒免
 (11/21,毎日,長崎,中,男,44)
有田川町立小学校男性教諭が窃盗で懲戒免職(11/21,和歌山放送,和歌山,小,男,41)
免許失効後も授業 伊賀の私立校非常勤講師 生徒の単位無効も
 (11/21,伊勢新聞,三重,高,女,58)
愛知県の町立小学校で男性教諭が体罰 小4男児が鎖骨を折るけが
  (11/21,共同通信,愛知,小,男,30)
学校の会合などで飲酒後、酒気帯び運転で事故(11/21,産経,鳥取,小,男,37)
「女の裸は金になる」 小学教諭が発言(11/24,朝日,愛知,小,男,20代)
「お前ら全員殺す」…秋田の養護学校講師を逮捕 知人女性にストーカーし脅迫
 (11/24,産経,秋田,特,男,20代)
都教委 盗撮の教諭ら7人処分(11/24,nHK,東京,小男35,小男30,中男29)
男子児童を裸にして撮影した容疑、小学校教諭を逮捕(11/25,TBS,東京,小,男,38)
スカート内盗撮 男性教諭を懲戒処分
 (11/26,神戸新聞,兵庫,盗撮:高男44,セクハラ:高男57,高男56,高男40,速度違反:小男56,個人情報漏えい:小男59,体罰:高男53)
17歳少女にみだらな行為 容疑で東京・港区立小の講師逮捕
 (11/26,産経,東京,小,男,32)
部員に「死んだらええねん」 体罰の中学教諭を処分
 (11/27,神奈川新聞,神奈川,体罰:中男29,アダルトDVD輸入:小男39)
校長…パワハラで処分(11/26,日テレ,長崎,小,男,60) 
三省堂謝礼問題、福岡市立中校長を減給処分 (11/28,読売,福岡,中,男)
・秋田県立高教諭、女子生徒に抱き付く 県教委、懲戒免職も情報隠す
 (11/28,産経,秋田,高,男,50代)
知的障害の生徒にみだらな行為した疑い 中学教諭を逮捕(11/30,朝日,愛知,中,男,54)
・和歌山・公立小学校教諭の女を逮捕(11/30,毎日放送,和歌山,小,女,50)

2015年11月29日日曜日

奨学金タイプの国際比較

 今日のお昼に,面白いツイートを見つけました。大学教育への公的支出のうち,奨学金が何%を占めるかの国際データです。
https://twitter.com/kabutoyama_taro/status/670377662485917696


 注目されるのは,割合がナンボよりも,奨学金のメインが給付型か貸与型かです。日本は大半が貸与型。国際標準から大きくずれています。

 このツイートはすごく拡散しているようですが,「これはおかしいだろ」と誰もが日ごろ感じていることが,データではっきりと可視化されているからでしょう。私もこれを見たときは,「やはり」と膝をたたきました。

 グラフのデータの出典は,OECD『図表でみる教育2014年版』となっています。OECDの教育白書『Education at a Glance 2014』の和訳です。私はもっと多くの国のデータも見たいと思い,原資料に当たってみました。下記サイトで,本資料の全文をPDFでダウンロードできます。
http://www.oecd.org/education/eag.htm

 どうやら,Table B5.4「Public support for households and other private entities for tertiary education  (2011)」のデータのようです。「tertiary education」とありますから,正確には高等教育でしょうね。日本でいうと,4年制大学だけでなく,短大や高専も含むとみられます。

 この表から,高等教育機関への公的支出のうち奨学金が占める割合を,32か国について知ることができます。それをヨコの棒グラフにすると,下図のようになります。


 なるほど,多くの国のデータでみても,日本の特異性が際立っています。わが国の奨学金は,貸与依存型です。アイスランドもそうですが,この国は,国公立大学の授業料はタダ。授業料が高いアメリカは,給付型の奨学金がメインとなっています。

 「授業料バカ高&奨学金は返済義務あり」のダブルパンチを食わせているのは,日本だけではないでしょうか。このような貧弱な学生支援では学生も過重なバイトをせざるを得ず,人手不足の産業界の要求と相まって,「ブラックバイト」のような問題が蔓延るのもうなづけます。日本は,大学生のバイト実施率が6割で,主要国ではマックスとなっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/668055259227357184

 日本は教育が普及した社会ですが,それは家計に大きな負担を強いることが成り立っています。大学では,バイトに精を出すあまり,ただ籍を置くだけという「形式的就学」も広がっています。私も,そういう学生を何人も見てきました。

 教育大国の中身を解剖すると,このような病理が検出されるのは確かです。

2015年11月28日土曜日

ネット上の剽窃にどう対処するか

 私はブログやツイッターで統計グラフを発信していますが,「舞田さんは,さぞパクリの被害が多いだろうねえ」と,よく言われます。
https://twitter.com/kumaemon9/status/664999212178780161

 まさにその通りで,紙媒体での被害経験はありませんが,ネット上ではしょっちゅうです。以前の私なら,剽窃を見つけたら怒り心頭,すぐに当該URLをツイッターで晒していたのですが,それをやると,相手のサイトの宣伝になってしまいます。また言い合いになった場合,ツイッターが罵詈雑言で汚れ,フォロワーの方々にも不快な思いをさせることになります(リムーブされるだけですが)。

 しかし私も徐々に学習し,スマートな問題解決の方法が分かってきました。それをツイッターでちょっと開陳したところ,RTしてくださる方が多く,ちょっと驚いています。この手の被害に遭っている人って,多いのでしょうか。

 そこで,現時点で私が把握している知識をここに載せようと思います。思考の記録の意味合いも兼ねてです。

①:著作権侵害の報告をする(ツイッターでパクられた場合)
 一番多いのは,ツイッターでのパクリでしょう。私は前までは,当該ツイートのURLをツイッターで晒していたのですが,それは相手のアカウントの宣伝になるだけ。向こうのフォロワー数を20から100に増やしてしまったこともあります。

 「削除しろ」と@するのも手ですが,自分のツイッターの「ツイートと返信欄」に出てしまいますので,これも不可。

 そこで最近は,ツイッター当局にダイレクトに通告することにしています。相手の剽窃ツイートの右下にある「報告」をクリックすると,「著作権侵害について報告する」というオプションが出てきます。そこから通告するのです。
https://support.twitter.com/forms/dmca


 イタズラの通告を排除するため,個人情報の記載が求められますが,心配は要りません。この下には,相手の剽窃ツイートと,自分のオリジナルツイートのURLを記載する欄があります。これを埋めて,電子署名をして「送信」をクリックすれば完了です。

 通告後,早ければ2日ほどで以下のようなメールがきます。相手のツイートから,剽窃の画像を削除したという知らせです。


 これでおしまい。いたって簡単です。ツイッター上で相手と言い合いをしても,百害あって一利なしです。ツイッターでのパクリ被害には,この対処がベストだと思います。やり方の詳細は,下記のまとめをご覧ください。私もこれを参考にしました。
http://togetter.com/li/628156

 この措置を2~3回くらったアカウントは,おそらく凍結されるでしょう。

②:グーグル八分にする(ブログや個人サイトでパクられた場合)
 これはどうするか。アメブロなど,たいていの無料ブログには「著作侵害を報告」というツールがついてますが,私の経験では,これで問題が解決した試しはないです。対応が遅いうえに,面倒な書類の郵送を求められたり,「当事者で話し合ってくれ」など,つれない答えが返ってきたりします。

 まあ,コメント欄を通じて「削除しろ」と言えば,良識ある普通の人なら応じてくれます。しかし無視する人もいますし,連絡先が公開されていないサイトも多々あります。

 その場合,当該のサイトが検索で引っかからないようにする手立てがあります。具体的には,グーグル八分です。グーグルのアカウントをお持ちの方は,これが可能です。「著作権侵害による削除」というコンテンツを開いて,そこから通告します。


グーグルは審査に慎重を期しているようで,ちょっと時間がかかりますが(1週間ほど),著作権侵害と承認されると,通告したサイトは,グーグル検索で表示されなくなります。グーグルの検索エンジンを使っているヤフーでもです。私も試してみましたが,確かに,両方の検索結果に表示されなくなりました。

 ブログのアクセスはたいてい検索経由ですので,これは相手にとって大きなダメージとなるでしょう。下手に炎上させてPV数アップに貢献するよりも,こちらのほうがよいかと思います。この方法は,ある方からツイッターで教えていただきました。感謝申します。
https://twitter.com/FoD5/status/646117938651512832

③:ブログで晒す(悪質な場合)
 これは,レベルマックスです。「剽窃だ,削除せよ」という指摘に対し,開き直って悪態をついてくるアホもいます。去年のコンサルはまさにそれで,「名誉毀損だ,弁護士に訴える」などと馬鹿げたことを言い,ツイッターで罵倒してきました。

 ここまでくると,上記のグーグル八分では不十分で,制裁が必要と考えます。私は,こういう輩については,ブログで事の経緯を詳細に公開することとしています。件のコンサルについては,この措置をとりました。3回にかけて,事の経緯を詳細につづった記録記事を公開しました。

 これにより当人のサイトは大炎上,さぞPVも急騰したことでしょう。しかし損失はそれをはるかに上回ったようで,仕事に支障が出ているそうです(当人委嘱の弁護士による)。急増したPV数は,この男が失った社会的信用の数だったわけです。まぎれもなく,自業自得です。

 本件ですが,去年の11月初旬,弁護士を通じて当人から謝罪したいという申し出があり,直筆の謝罪文は届きました。しかし内容が極めて不十分でしたので,私は受け入れを拒否し,現在に至っています。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/01/blog-post_14.html

 以上,現時点で私が知りえている,剽窃への対処法について書いてみました。同じ問題で悩んでいる方の参考になれば幸いです。

2015年11月26日木曜日

教育にカネを使わない国,ニッポン

 タイトルに関連するデータが公表されました。教育機関への公的支出額がGDPの何%になるか,という国際データです。一昨日の朝日新聞でも報じられましたので,ご存じの方も多いでしょう。
http://www.asahi.com/articles/ASHCS4PSXHCSUTIL03G.html

 原資料は,OECDの『Education at a Glance 2015』です。この資料には,最新の2012年のデータが掲載されています。私はこれに当たって,OECD加盟の32か国の数値を高い順に並べたランキング・グラフを作ってみました。

 当該資料は,下記サイトにて全文をPDFでダウンロードできます。ありがたいことに,それぞれの統計表の下にエクセルファイルへのリンクもはられています。これを開いて,必要データをコピペしてグラフにするだけ。ホント,便利になったものです。
http://www.oecd.org/education/education-at-a-glance-19991487.htm


 日本は3.5%で,OECD加盟国の中で最下位となっています。毎年のことですので「またか」という感じですが,まさに「教育にカネを使わない国,ニッポン」です。

 少子化が進んだ日本では子どもが少ないからだろうといわれますが,教育の対象は子どもだけではありません。いみじくも現代は,生涯学習の時代。大人が学校から締め出されるいわれはありません。

 上記のデータは,日本の学校が未だに子どもや若者の占有物になってることの証左とも読めるでしょう。上位の北欧諸国は,学校の門戸が成人にも開かれている社会です。6位のイギリスは,大学開放(university extension)の発祥の国なり。

 「子どもが少ないからだ」といって,切って捨てていい現実ではないと思います。成人学生比率の国際比較は,下記のニューズウィーク記事をご覧ください。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/08/post-3823.php

 ちなみに教育機関に公的支出がどれほどされているかは,段階によって違っています。日本は対象が初等・中等教育段階に偏していて,その前後,つまり就学前教育と高等教育への公的支出がなおざりになっています。

 幼稚園等の就学前教育費と,大学等の高等教育費の公費割合をみると,日本は順に,44.2%,34.3%となっています(2012年,上記OECD資料)。ウラを返すと,残りは私費負担,つまり個々の家庭が支払う授業料等で賄われていると。

 「義務教育じゃないんだし,他の国もそんなものじゃないの」と思われるかもしれませんが,さにあらず。横軸に就学前教育の公費比率,縦軸の高等教育のそれをとった座標上に,双方が分かる24か国を配置すると,下図のようになります。


 日本は就学前教育,高等教育の費用とも,公費負担割合が低くなっています。まさに,「私」依存型の社会です。日本は教育が普及した社会ですが,それは,家計に大きな負担を強いることで成り立っているといえます。

 対して北欧の諸国では,就学前教育・高等教育とも,9割以上が公費で維持されています。ノルウェーでは,大学の授業料はタダだそうですが,さもありなん。

 教育史の授業で習うことですが,日本は「」の教育の伝統が強い社会です。江戸期の私塾に象徴されるように,篤志家が塾を開いて弟子を教育する。わが国の学校のルーツはこれです。近代以降も,義務教育の小学校は別として,就学前教育や高等教育は,私立学校に依存する形で発展してきた経緯があります。今でも幼稚園や大学の大半が私立であるのは,そのためです。

 だからといって,国が何もしなくてよいということにはなりません。義務教育でないからといって,その費用の多くの家庭に負担させるのは異常ですし,日本の現状が国際標準から大きく外れていることは,上のグラフを見ても分かること。

 それに伴う問題も出てきています。日本の大学の学費はバカ高,おまけに奨学金制度は貧弱。よって多くの学生がバイトせざるを得ず,産業界の人手不足の要求と相まって,「ブラックバイト」のような問題が生じていると。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/11/post-4152.php

 ごく一部の限られた階層しか大学に進学しなかった時代では,私費負担型も維持できたのでしょうが,大学のユニバーサル化の段階に入っている今では,それが不可能なのは明らか。

 高等教育の便益は個人に帰されるのだから,その費用は当人が負担すべしという考えもあります。しかし,多くの人が高等教育を受けることで,高度な知識が普及する,知に裏付けられた道徳心が増す,犯罪が減るなど,社会的な便益も期待できます。その計測は容易でないですが,知識基盤社会を標榜する日本では,こちらの面が強いことにも注意すべきでしょう。

 国際的にみても異常な,「私」依存型の日本の高等教育。その費用負担の構造を見直す時期に来ているのではないか。昨日公開のニューズウィーク記事(上記URL)で申したのは,このことです。

2015年11月24日火曜日

小学校から保育所に人材が流れるか

 保育士不足を解消するため,幼稚園や小学校の教員免許をもって,保育士資格に代替する案が公表されています。
http://www.asahi.com/articles/ASHCJ4WQVHCJUTFL006.html

 幼稚園教諭は3~5歳児,小学校教諭は5歳児の保育を担い,養護教諭は対象の定めはないそうです。

 なんとも苦肉の策ですが,はたして人材の移動は起きるか。ある方がツイッターで,「給料が高いほうから低いほうに移るわけねえだろ」とつぶやいていましたが,確かにそんな感じです。水は「高きから低き」に流れますが,労働力の移動はその逆であるのが常。

 保育士,幼稚園教員,小学校教員の月収分布を比べてみましょう。前2者のデータは,9月28日の日経デュアル記事で出しています。厚労省『賃金構造基本統計』から計算した,2014年6月の月収分布です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 残りの小学校教員のデータは,2013年の文科省『学校教員統計』から出してみました。2013年6月の本務教員の月収分布です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm

 厚労省と文科省の資料では,月収の区分が違っていますので,20万未満,20万円台,30万円台,40万円以上の4カテゴリーに簡略化しました。下図は,その構成比の帯グラフです。


 ご覧のように,保育士の年収が最も低くなっています。月収20万未満の比率は,保育士で55.3%,幼稚園教員で39.2%,小学校教員で6.2%です。

 はたして,水が「高きから低き」に流れるがごとく,人材もこの方向に動くかどうか・・・。有識者もこういう懸念を持っているようで,「緊急対策もいいが,保育士確保や離職防止のためには,一義的には処遇改善を目指すべきだ」という声が上がっています(上記の朝日新聞記事より)。

 いっそ,保育士の待遇改善のための公的な基金(fund)を設けたらどうでしょう。非利用者から反発があるでしょうが,保育サービスを充実できるか否かは,少子化の解決,ひいては社会の維持存続にかかわる重大事です。子どもがいない人だって,いずれは下の世代にお世話になるのですから。

 資源の傾斜配分には慎重でなければいけませんが,保育や介護の領域には,まずもってそれが向けられるべきでしょう。政策に早計は禁物ですが,時には思い切った決断も必要になります。政府には今,それが求められていると思います。

2015年11月21日土曜日

首都圏の「お金持ち」率マップ

 11月13日の記事では,首都圏の貧困世帯率マップを作ったのですが,今回はその逆の富裕層比率マップをご覧に入れようと思います。年収が1000万以上を超える世帯が,全世帯の何%かです。

 資料は,2013年の総務省「住宅土地統計」です。この資料には,各県内の市区町村別の世帯年収分布が掲載されています。私は,1都3県の214市区町村の年収1000万以上世帯比率を出してみました。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm

 以下は,その地図です。


 都内の都心,横浜市の北部,千葉北部の新興地域の色が濃くなっています。年収1000万以上の世帯の率が10%を超える地域です。

 トップは,東京・港区の26.5%! この区では,全世帯の4分の1が年収1000万超ということになります。ヒルズ族の存在も寄与しているでしょうね。2位は千代田区,3位は横浜市の青葉区。前にお付き合いしていた編集者さんは,この青葉区にお住まいの方でした。

 「それより下は?自分の住んでいる市区町村はどうなの?」という関心もあおりでしょう。そこで,214市区町村のランキング表も掲げます。


 首都圏214市区町村の「お金持ち」率ランキングですが,いかがでしょう。左上の赤字は,年収1000万以上世帯率が15%を超える地域です。さもありなん,という顔ぶれですね。

 私が住んでいる多摩市は,7.8%ほど。おそらくは,ジブリ「耳をすませば」のモデル地となった,高台のあそこに富裕層は集中しているのだと思います。聖地巡礼の経験がある方はお分かりかと思いますが,あそこは豪邸がたくさん…。

 最後に都内23区を取り出して,この「お金持ち」比率と,子どもの学力の相関図をつくってみましょう。


 何も言いますまい。先日の貧困世帯比率との相関とは逆の,明瞭なプラスの相関が出ています。相関係数は,+0.7835にもなります。

 「親が高所得 → 学校での高いアチーブメント → 子も高い地位」というような,再生産の過程が存在することを示唆する,マクロデータであるといえましょう。

 某県の知事が,「子どもの学力=教師力」と発言していましたが,そんなことはないと考えます。上記のような現実があることを知らないと,教師をやたらと追いつめることになる。教員研修には,大学の研究者の講演も組み込まれているのでしょうが,歓迎されるのは教育方法学や教育心理学とかの専門家で,教育社会学はお呼びでないのかしら。少なくとも,教員採用試験ではそうです。

 私は,8/21に都の教員研修会で講演させていただきましたが,都内23区の学力地図や肥満地図,注目されましたよ。皆さん,パワポのスライドを食い入るように見ておられました。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/08/blog-post_22.html

 教育の社会的規定性について知っているなら,学力テストの地域別データをどう読むか(活かすか)も変わってくるはず。この点は,下記の記事「東京都内23区の学力の推計」をご覧いただければと思います。
http://tmaita77.blogspot.jp/2014/07/23.html

2015年11月18日水曜日

年齢層別の暴行犯出現率

 前回の記事では,高齢者の暴行犯検挙人員が近年激増していることをみました。それでもって,「キレる高齢者」の増加と読んだのですが,これは人口変化を考慮していない実数です。

 まあ,1995年から2012年にかけて60歳以上人口は1.6倍の増なのに対し,当該年齢の暴行検挙人員は25倍以上の増。この事実から上記の解釈が的外れでないことは明らかですが,検挙人員をベース人口で除した出現率の推移をみるのがスマートでしょう。また,少年と高齢者だけでなく,他の年齢層の動向も気になります。

 そこで今回は,人口あたりの暴行検挙人員の出現率を出してみます。当該年齢人口10万人あたりでみて,暴行検挙人員が何人かです。2012年の警察庁『犯罪統計書』によると,同年中の14~19歳の暴行検挙人員は1496人,同年10月の当該年齢人口は約725万人(総務省「人口推計年報」)。したがって,この年の少年の暴行犯出現率は,20.6となります。

 私は,この暴行犯出現率の推移を年齢層ごとに明らかにしました。前回は90年代半ばからの近況でしたが,今回は1960年からの半世紀の長期推移をたどってみます。下の図は,そのグラフです。


 暴行犯出現率は,概して昔のほうが高かったようです。とくに若者はそうで,現在の比ではありません。まあ,当時の時代状況を思えばさもありなん。20代のピークは60年代後半ですが,学生運動の全盛期だったころです。

 10代のピークは1964年。東京オリンピックの年ですが,当時は今みたいに大半が上級学校(高校,大学)に行く時代ではなく,少年の世界は,学生と勤労青年にほぼ2分されていました。つまり地位の分化(segregation)が大きかったのですが,それゆえに地位不満に由来する葛藤型の暴力犯罪が多発していたそうです。

 こうした激しい時代が終わり,社会が安定するにつれ暴力沙汰も減ってきますが,世紀の変わり目を境に再び増加に転じてきます。

 最近では,30~40代の暴行犯出現率が最も高くなっています。不遇にさらされた,ロスジェネの怒りってやつでしょうか。20代と50代も,暴行発生率が少年を超えています。最近キレるのは子どもではなく,大人であるようです。

 前回注目した高齢者は,人口当たりの出現率は他の年齢層に比して低いですが,過去と比べた増加率はマックスです。この面での変化も視覚化しておきましょう。始点の1960年の暴行犯出現率を1.0とした指数をグラフにすると,以下のようになります。


 最近の高齢者の暴行犯出現率は,高度経済成長期の頃に比べて3倍。今世紀以降の伸びが大きくなっています。人口あたりの出現率の指数値ですので,「キレる高齢者」の増加と読み取ってよいでしょう。

 これを団塊世代の世代要因に帰す見方があるようですが,今世紀になって他の年齢層の指数も増えていますので,特定世代云々ではなく,近年の社会状況の影響とみるのが妥当かと思います。40代や50代も過去最高ですが,老後の展望不良なども関与しているのではないでしょうか。ハーシのボンド理論ではないですが,失うものがない人間は自棄になりやすい…。

 前回の分析の補足でした。

2015年11月15日日曜日

キレる高齢者

 前世紀の末に,栃木県で中1生徒が女性教師をナイフで刺殺す事件が発生し,「キレる子ども」の存在が話題になりました。学校にナイフを持ってくる生徒もいるとのことで,当時の文部大臣が「ナイフを持つのは止めよう」と呼びかけていたのを覚えています。

 しかし最近キレるのは大人,それも高齢者であるようです。一昨日のJ-castニュースにズバリ「キレる高齢者・各地で大暴れ」と題する記事が公開されています。
http://www.j-cast.com/tv/2015/11/13250510.html

 まあ私の経験でも,電車やバス車内でケータイで通話し,注意されて逆ギレする高齢者をよく見かけます。

 統計でも,キレる統計者の増殖が観察されます。私は警察庁の犯罪統計に当たって,1995年から2012年までの高齢者の暴行検挙人員数を調べました。ついでに,犯罪の代表格である窃盗(≒万引)の数も拾ってみました。

 下の表は,少年と高齢者の数の推移を整理したものです。上段は実数,下段は始点の1995年を1.0とした指数です。


 高齢者(60歳以上)の暴行検挙人員は1995年では193人でしたが,2012年では4989年にまで激増しています。25倍以上の増です。少年の暴行検挙人員は減っているのと対照的。

 これは少子高齢化という人口変動要因だけで説明できる現象ではありません。高齢人口はこの期間で1.6倍にしか増えていませんが,暴力沙汰を起こした高齢者は25倍以上の増。明らかに,キレる高齢者が増えているといえましょう。

 若いころ学生運動などで大暴れした団塊の世代ですが,定年退職して,そのエネルギーが再燃しているのでしょうか。だとしたら,それが別の方向に向くよう仕向けたいものです。

 なお,窃盗で捕まる高齢者も増えています。1995年から2012年にかけて3.7倍の増。多くは万引です。この種の犯罪は少年の専売特許のような感がありますが,2012年では検挙人員の実数でみて,高齢者が少年を抜いています。

 生活苦による部分が大きいでしょうが,孤独な状態に置かれ,どうにかして人と関わりたい,話を聞いてほしい,という欲求もあるでしょうね。480円の和菓子を万引きし捕まった高齢者が,罰金の40万円を即日納付したケースもありますし。捜査関係者のコメント=「この人,お金持ってるんですね」。
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1856485.html

 近年の高齢者の苦境は,経済的なものだけではないと思います。

 上記表の暴行検挙人の指数推移をグラフにしておきましょう。青色は少年,赤色は高齢者の推移線です。


 これをもって,短気な暴走老人,何もかも希望が叶ってきた団塊世代のワガママというような,個々人の資質だけに原因を帰すのは誤りでしょう。

 急速に少子高齢社会に突入している我が国では,高齢者の生活を保障する制度の整備が追い付いていません。年金などの経済面だけでなく,高齢者の居場所・つながりの創出といった面でもです。これまでは家族依存型の福祉で何とかやってこれましたが,今後はそれも通用しなくなる。

 変動の時代は危機の時代といいますが,上記の折れ線は,こうした過渡期におかれた高齢者の苦悩・葛藤の現れとも見るべきだと思います。

2015年11月14日土曜日

首都圏214市区町村の貧困世帯率ランキング

 前回の記事では,首都圏(1都3県)の貧困世帯率の地図を紹介しました。年収が貧困線(186.6万円)に満たない世帯の割合です。

 今回は,地図にする前の生情報,すなわち各市区町村の貧困世帯率の数値を提示しようと思います。総務省「住宅土地統計」(2013年)の世帯年収分布のデータをもとに,私が独自に計算した数値です。計算方法の詳細は,前回の記事を参照ください。

 貧困世帯率が高い順に並べたランキング表を掲げます。


 千葉県の勝浦市が41.8%でダントツですが,これは学生の単身世帯が多いためとみられます。国際武道大学がある市ですので。ほか郡部で値が高いのは,高齢の単身世帯が多いためかもしれません。

 全世帯の貧困世帯率ですので,地域の単身化や高齢化のレベルが影響している可能性もあることに留意ください。

 東京都内23区のような大都市部の数値は,住民の所得水準やひとり親世帯の量など,貧困化の表現指標と読んでよいかと思います。前回お見せしたように,23区の貧困世帯率は子どもの学力とも強く相関しています。

 以上,参考資料としてここに掲げておきます。

2015年11月13日金曜日

首都圏の貧困世帯率マップ

 総務省の「住宅土地統計」には,市区町村別の世帯年収分布が掲載されているのですが,これを使って,各地域の貧困世帯率を計算することが可能です。

 貧困世帯とは,世帯員の年収が,全国でみた年収の中央値の半分に満たない世帯をいいます。これに該当する世帯が全世帯の何%か。これが,ここでいう貧困世帯率です。

 私は,2013年のデータを使って,首都圏(1都3県)の214市区町村の貧困世帯率を出してみました。それをもとに,地図も作ってみました。今回は,それをご覧に入れようと思います。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm

 まずは,全国の世帯年収分布から,貧困世帯を割り出すための貧困線を求めてみましょう。前述のように,年収の中央値の半分です。


 全国の4868万世帯(主世帯)の年収分布は,上記表のようになっています。年収200万円台の世帯が全体の17.8%と最多ですが,これは,若年や高齢の単身世帯等も含むためです。

 さて中央値はいくらかですが,右端の累積相対度数から,年収300万円台のどこかということになります。按分比例の考えを使って,中央値の見積もりを出してみます。以下の2ステップです。

 ① (50.0-38.5)/(54.2-38.5)=0.732
 ② 300+(100×0.732)=373.2万円

 全国の世帯年収分布の中央値は,373.2万円と想定されます。よって貧困線(poverty line)は,この半分の値をとって,186.6万円となります。年収がこれに満たない世帯は,貧困世帯と判定されるわけです。

 ここでは,年収186.5万円までの世帯を貧困世帯とみなすことにしましょう。上記の分布表から,これに該当する世帯数は,以下のように推し量られます。

 3,306,400+(6,744,700×0.865)=9,140,566世帯

 よって,全国データでの貧困世帯率は,これを世帯の全数(48,678,900世帯)で除して,18.8%となります。およそ5分の1が貧困世帯。まあ,違和感のない数値です。

 私は同じやり方にて,首都圏214市区町村の貧困世帯率を出してみました。貧困線の年収186.6万円未満,つまり年収186.5万円までの世帯の割合です。それを地図にすると,下図のようになります。首都圏の貧困世帯率マップです。


  上の首都圏地図をみると,千葉の周辺部の色が濃くなっていますね。これは,単身の高齢世帯が多いためでしょう。214市区町村の貧困世帯率トップは,同県の勝浦市で41.8%にもなりますが,国際武道大学がある当該市では,学生の単身世帯が多いためとみられます。

 ここで使っているのは全世帯のデータですので,各地域の貧困世帯率は,高齢化や単身化の影響を受ける可能性があることに留意ください。

 下に掲げたのは,都内23区の拡大図です。地域性がはっきり出ていて,北部の色が濃くなっています。これは,高齢化や単身化の影響だけではないでしょう。地域の所得水準やひとり親世帯の量など,住民の貧困化レベルの表現と読めそうです。

 ちなみに都内23区の貧困世帯率は,子どもの学力と強く相関しています。下の図は,貧困世帯率と小学校5年生の算数学力の相関図です。


 貧困世帯率が高い区ほど,算数の正答率が低い傾向にあります。相関係数は-0.6927にもなり,1%水準で有意です。貧困と学力不振の相関のマクロ的な表現といえるでしょう。

 通塾や参考書購入の費用を賄えない,勉強部屋がないといった,個々人の家庭環境の要因と同時に,地域に貧困カルチャー,どんよりとしたクライメイトが漂うことの影響も大きいでしょう。上の統計図から,家庭環境とは別の地域の要因も汲み取るべきかと思います。

 次回は,ここで出した首都圏214市区町村の貧困世帯率のランキング表を掲載いたします。

2015年11月10日火曜日

汁なし二郎

 今日は,杏林大学八王子キャンパスで5限の授業でしたが,帰りに,ラーメン二郎・めじろ台法政大学前店に寄ってきました。


 八王子から西八王子に行き,そこから法政大学行きの京王バスで南下。榛名橋というバス停で降りて,すごそこです。

 18時50分頃に着きましたが,店の外には法政大の学生とおぼしき青年が数名。店外で10分ほど待ち,入店。小ラーメン700円と汁なし100円の食券を買い,それを握りしめて立ち待ち10分,着席して待つこと10分,ようやくブツにありつけました。

 汁なし小ラーメン,麺少なめ,トッピングは「ニンニクマシマシ」でお願いしました。


 右上の茶色いのはフライドオニオン,左下のクリーム色は刻みニンニクです。ニンニク好きの私には,たまりません。

 汁なしには,卵黄もついています。これを麺にからめると,ほどよい甘味が出てグー。麺にはブラックペッパーが練り込まれており,スパイシーさもあります。

 普通の汁ありラーメンよりも「かさ」が少なく,あっさり平らげました。健康のためにも,ヤサイマシにすればよかったと思います。麺を少なめにして,ヤサイマシにすれば,健康食ってものでしょう。脂っこい汁もないことですし。

 食した後は,ふきんで机を拭いて「ごちそうさま」。バスで八王子みなみ野駅まで行き,横浜線で橋本へ。そこから京王相模原線で,京王永山まで帰ってきました。

 汁なし二郎を初めて体験しましたが,これはいい。このメニューを食せる店は多くないですが,横浜関内店や藤沢湘南店でも食べれるようですので,今度どっちかに行ってみようかな。横浜のほうは,有明キャンパスの帰りに行けそうです。

 汁なし二郎初体験の記でした。

2015年11月7日土曜日

年収の官民差の国際比較

 7月30日の記事で類似のテーマを扱いましたが,そこで使ったのは個人の収入ではなく世帯収入,それも自己評定(社会全体の中でどの辺りと思うか)のデータでした。

 それでもまあ,もっともらしい結果が出ましたが,個人の収入実額のデータを使った比較をしたいものです。ISSP(国際社会調査プログラム)の第4回「家族とジェンダー役割の革新に関する調査」(2012年)では,調査対象者個人の年収実額を尋ねています。また就業者に対し,公務員(public employer)か民間企業勤務者(private employer)かを問うています。
http://www.issp.org/index.php

 したがって,この調査のローデータを分析することで,各国の公務員と民間勤務者の年収分布を出すことが可能です。今回は,それをやってみようと思います。最近の日本では公務員人気が高いですが,公務員の収入優位度は他国と比してどうなのでしょう。

 手始めに,わが国の公務員と民間勤務者の年収分布を出してみます。下表は,生産年齢(20~50代)の年収分布です。階級と階級値は,原資料のものを使っています。


 年収が分かる有効サンプル数は,公務員が71人,民間勤務者が460人です。公務員がちょいと少ないですが,分析に耐えない数ではないでしょう。

 最頻階級(Mode)をみると,公務員は年収100万円台と600万円台,民間は100万円台となっています。低収入層が多いのは,パート等の非正規雇用者も含むためです。本当は正規職員に限定したいのですが,ISSPのデータではそれは叶いません。

 構成比(%)は添えていませんが,年収600万以上の割合は公務員が31.0%,民間が13.0%です。高収入層は,公務員のほうが多いですね。

 階級値を使って平均値を出すと,公務員が414.1万円,民間が337.4万円となります。公務員は,民間の1.227倍。まあ,違和感のない数値ですね。

 さて,ここでの関心事は,この倍率が国によってどう違うかです。私は,上記調査の対象国36か国について,同じ値を計算しました。各国通貨の年収分布をもとに平均値を出し,公務員が民間の何倍かを明らかにした次第です。

 なお,それぞれの社会における公務員の地位文脈(status context)も知りたいと考え,分析対象のサンプル数をもとに,就業者全体に占める公務員の割合も出しました。日本は公務員71人,民間460人ですから,公務員割合は,71/(71+460)=13.4%となります。

 下図は,横軸に公務員割合,縦軸に官民差の倍率をとった座標上に,36の社会を位置付けたグラフです。ドイツは調査対象が東西に分かれていますので,西独の数値を用いています。


 どうでしょう。縦軸の官民差倍率1.0のラインを引きましたが,これより下に位置している社会が結構あります。公務員よりも民間勤務者の年収が高い国です。英仏やスウェーデンなど,ヨーロッパにはこういう社会が多くなっています。

 数の上では,「官>民」よりも,その反対の社会が多いようです。わが国の状況は,普遍的ではないのですね。こういう発見があるから,国際比較はオモシロイ。

 日本は「官」優位の社会なのですが,南アフリカ,フィリピン,米国は,その度合いがもっと大きくなっています。米国では,民間勤務者の収入格差がべらぼうに大きいためでしょう。

 このように,公務員の年収の相対水準は社会によって大きく異なっているのですが,それは,公務員の地位文脈と無関係ではないようです。上図をみると,36か国のドットは右下がりに分布しており,公務員が少ない社会ほど,その優位性が大きい傾向がみられます。公務員比率と官民差倍率の相関係数は-0.6488であり,1%水準で有意です。

 公務員が希少な国ほど,その優位度が高い。フィリピンはその典型であり,日韓米もそういうタイプの社会のようです。右下のカナダは,就業者の6割が公務員となっていますが,これは,ISSP調査のサンプルの歪みと思われます。あくまで参考と捉えてください。

 上記のグラフをみて,縦軸の官民差倍率に興味を持つ人が多いでしょうが,私は横軸上の日本の位置に「はて?」と思います。日本は,公務員が少ない社会。目下,これをさらに減らそうという動きが出ていますが,超高齢化社会に適した方向なのかどうか。

 前回の記事で,保育士や介護士の給与が激安であることを見ましたが,福祉の「私」化ではなく,「公」化の方向を採れないものか。こんなことを考えています。

2015年11月4日水曜日

保育士・介護職員の月収分布

 介護福祉士志望の学生に,学費を貸し付ける制度が拡充されるのだそうです。卒業後5年間,介護業界で働けば,返済免除になるとのこと。

 介護職志望の学生を何とか増やそうという策でしょうが,人が集まらないのは給料が激安であるためであることは,誰もが知っていること。


 保育士と介護職員は,半分以上が月収20万未満です。

 保育士も介護士も,人の命を預かる専門職です。待遇の改善が急務。大学教員の給料を下げて,これらに回してもいいかも。大学教員は,給料を下げても希望者は有り余るほどいることですし・・・。

 百聞は一見に如かず。この図を拡大して,国会議事堂の廊下の壁に貼ったらいいと思います。

2015年11月2日月曜日

若者の「恋人なし」率の国際比較

 若者の草食化が進んでいるといいます。性行動の経験率が減っているのはよく知られていますが,そういうタイトな交わりだけでなく,そもそも恋人すら作らないと。

 これは日本の状況ですが,他国はどうなのでしょう。国際比較は,自国を相対視させてくれる鏡です。今回は,タイトルのごとく,若者の「恋人なし」率の国際比較をしてみようと思います。

 データは,内閣府の『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)です。本調査のローデータを独自に分析して,10~20代の若者の「恋人」なし率を明らかにしてみました。ローデータは,申請すればすぐに,エクセルないしはSPSSファイルで送ってもらえます。

 この調査の属性質問(F3)では,対象者の配偶関係を尋ねています。この質問への回答から,目的のデータを作ることが可能です。下図は,10代と20代に分けて,回答分布を国別に図示したものです。国名は当て字にしていますが,「瑞」とは,北欧のスウェーデンを指します。


 日本は,恋人なしの比重が高くなっています。10代では90%,20代でも57%が恋人なしです。10代の少年期では欧米でも恋人なし率は高いですが,20代になると,結婚(事実婚)している者,恋人ありの者が多くなります。この年代でも恋人なし率が半分を超えるのは,日本と韓国だけです。

 話がそれますが,独仏瑞の3国は,赤色の事実婚のシェアが高いですねえ。これらの国では,法律上の結婚に踏み切る前に,同棲のお試し期間があるといいますが,その表れでしょう。

 さて,予想通りといいますか,日本の若者の恋人なし率が高いことが分かったのですが,もうちょっと深めてみましょう。若者の中で,恋人なし率が高いのはどの層か? こういう問題を立ててみます。

 社会学を専攻している人間なら,収入が職業といった社会的地位指標との関連をみたくなるもの。私もそうです。男性の場合,収入が高いほど婚姻率が高いことは本ブログでも繰り返し明らかにしてきたことであり,先日,ニューズウィーク日本版の寄稿記事でもこの点を指摘しました。

 多くの社会で,男性が一家を養うべし,主な稼ぎを担うべしというジェンダー規範があるため,男性には,相応の経済力が求められるためです。それは,結婚を前提としたお付き合いをする異性がみつかるかどうかにも,影響するでしょう。

 ここで使っている内閣府調査では,収入が職業は聞いていませんが,対象者の学歴は尋ねています。私は,日本の20代男女の配偶関係構成を,高卒と大卒に分けて明らかにしてみました。わが国では,事実婚と離婚・死別の回答はとても少ないので,これらはオミットしています。下図は,残りの3カテゴリーの内訳を帯グラフで示したものです。


 男性でみても女性でみても,配偶関係構成には学歴差があります。サンプルが少ないですが,男女とも,5%水準で有意の学歴差が検出されます。

 どういう学歴差があるかというと,男女で違っていて,男性では高卒のほうが恋人なし率が高く,女性はその逆です。これが何を意味するかは,取り立てて言うまでもありますまい。

 こういうジェンダー差は,韓国や欧米諸国でもありますが,統計的な有意差が出るのは日本だけです。わが国は,若者が恋人を見つけるに際して,ジェンダーや学歴(≒収入・職業)といった,社会的拘束が強い国ということになります。

 なお,今の若者の中では大卒者がマジョリティーなのですが,大卒者の中でも差があると思われます。たとえば,大学ランクによる違いなど。あと,私が前々から思っているのは,奨学金という借金の有無による違いです。

 今や大学生の半数が奨学金を借りており,数百万円(有利子)の借金を背負って社会に出ていくのですが,このことが,若者の恋人なし化,未婚化,ひいては少子化につながっていないか。相手に多額の借金があると知るや,交際や結婚はためらわれるもの。

 日本学生支援機構がその気になれば作れると思いますが,奨学金の借入額と婚姻状況の関連のデータを見てみたいものです。

 ひとまず,日本の若者の「恋人なし」率が,国際的にみても高いことを知りました。これは草食化というような若者のメンタリティ要因で説明されがちですが,社会的拘束を被った現象であるという点も,押さえておくべきかと思います。