2017年6月10日土曜日

食生活の洋風化

 2016年の総務省『家計調査年報』のデータが公表されました。いろいろな品目の消費支出額が分かるスグレモノです。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/2016np/index.htm

 教育学を勉強している人間なら,家計の教育費支出額にまず関心を払うべきでしょうが,食い意地の張った私は「食」の費用に興味がいきます。どういう食材への支出が増えているか(減っているか)。これをみることで,食生活の変化を垣間見ることができます。

 「食」は大まかに和食と洋食に二分されますが,前者の主食は米,後者はパンです。おかずの代表格は,前者が魚,後者が肉でしょう。この4つの品目に,年間どれだけのおカネを使ったか。上記の資料には,世帯単位の年間平均支出額が載っています。単身世帯等も含む,総世帯の数値を拾ってみましょう。

 下のグラフは,2005年と2016年の年間支出額を比較したものです。


 米と魚が減り,パンと肉は増えています。2005年では「米>パン」,「魚>肉」でしたが,2016年では両方とも逆転しています。

 少子高齢化が進んでいますので,若年世帯が増えたためではありません。全年齢層で,和食より洋食にお金をかける傾向が強まっているようです。これは消費支出額で摂取量ではありませんが,食生活の洋風化が進んでいることをうかがわせるデータですね。

 4つの品目への支出額を使って,食の洋風化の度合いを測る指標(measure)を作ってみましょう。洋の2品目(パン+肉)が,4品目全体に占める割合というのはどうでしょう。

 洋風化率=(パン+肉類)/(米+パン+魚介類+肉類)

 先ほどのグラフの年間支出額を使って,食の洋風化率を計算すると,2005年が44.2%,2016年が53.1%となります。増えていますねえ。最近では,洋の比重が半分を超えています。

 食の洋風化のレベルを測る尺度を得ましたが,この値は都道府県別に出すことも可能です。4品目について,各県の県庁所在地の年間平均支出額を知ることができます。下表は,その一覧です。黄色マークは最高値,青色マークは最低値を意味します。


 お米は新潟がマックス。さすがは「米どころ」ですね。驚くのは,魚介類の支出額が最低なのが沖縄であること。四方八方を海で囲まれた県ですが,南国の熱帯魚はあまり食向きではないのでしょうか。

 それはさておき,4つの品目の支出額から洋風化率を出すと,右端のようになります。全国値は53.1%ですが,県別にみると46.0%から59.0%のレインヂがあります。最低は新潟,最高は兵庫です。

 若者が多い都市部で洋風化率が高いかといえば,そうでもありません。首都圏の洋風化率は,九州よりも低いようですので。各県の年齢構成よりも,地域性が効いています。地図にすると分かりますけど,食の洋風化率は大よそ「西高東低」の傾向になっています。

 その様をご覧に入れますが,過去との対比もしたいですね。そこで,2005年と2016年のマップを照合してみましょう。洋風化率45%未満,45%以上50%未満,50%以上という3つの階級を儲け,47都道府県を塗り分けた地図を作りました。


 この10年間の変化は,結構ドラスティックです。2005年の地図は全体的に色が薄く,洋風化率が50%を超えるのは熊本だけでしたが,2016年では多くの県で50%を超えています(濃い赤色)。

 全国的に,食の洋風化が進行していることが知られます。地図の模様から,その傾向は西高東低であることも分かります。現在も「和>洋」なのは,北東北や中部の諸県ですが,これらの県も間もなく濃い色に染まるでしょう。

 食の洋風化が進むと生活習慣病になりやすいとか,いろいろ言われます。その一方で,「実は,和食はヘルシーではなかった」といった説が唱えられたりします。私は振り回されるのが嫌なので,この手の情報はあまり信用しないことにしていますが,バランスのとれた食生活は心がけたいものです。余談ですが,一週間分の食材をまとめて頼む生協の宅配は,それに適していると思います。

 今回は,米・パン・魚・肉の4品目に着目しましたが,生鮮野菜の消費支出額を取り上げるのもいいかも。食費全体に占める比重をとれば,食のヘルシー指数になるでしょう。複数の品目の支出額を因子分析にかけて,47都道府県をタイプ分けするのも面白いですね。「食の生態学」というのも,やってみる価値はアリです。