2017年6月8日木曜日

不登校の脱問題化?

 学校に通えない子どもを受け入れる「フリースクール」を正規の学校として認めようという案が出ましたが,反対多数のため認められませんでした。

 その代わり,昨年の12月に教育機会確保法が成立しました。正式名称は「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」で,学校以外の教育機会の重要性を認める規定になっています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1380952.htm

 不登校に対する基本スタンスは,これまでは「学校に来させる」でしたが,ようやく事態が変わってきました。インターネットの普及に伴い,学校外で独学で学べる条件も出てきていますからね。

 まあ今までも,ITを使った自宅学習,フリースクールで指導を受けた日数を,条件つきで指導要録上「出席扱い」にするなどの措置はありましたが,こうした学校外の教育機会を「仕方ない」ではなく,積極的に活用しようという規定になっているのが,上記の法律の特色です。

 この法律の制定を待たずとも,不登校に対する人々の見方は変わってきていることが,統計からうかがえます。たとえば,児童相談所に寄せられた不登校相談の件数です。厚労省の『福祉行政報告例』という資料に,年齢別の相談件数のデータが載っていますが,前世紀末の1999年度と最新の2015年度の数値をグラフにすると,下図のようになります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html


 不登校の相談は,13~14歳で多くなっています。思春期の只中の難しいお年頃です。小学校と中学校の落差が大きいことによる戸惑い(中1ギャップ)もあるでしょう。

 しかしその山は,最近ではかなり低くなっています。2015年度の13~14歳の相談件数は,1999年度の半分以下です。他の年齢でみても,不登校の相談件数が減っています。

 今世紀以降,不登校の児童生徒数が大きく減ったかというと,そんなことはありません。小・中学校の不登校児童生徒数は(「不登校」が理由で年間30日以上休んだ者)は,1999年度は12万8431人,2015年度は12万5991人となっています。数はちょっと減ってますが,これは少子化のためで,全児童生徒数あたりの出現率は増えています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/shidou/1267646.htm

 不登校の子どもが激減したわけではないにもかかわらず,わが子の不登校のことで相談に訪れる親の数は減っている…。この2つを照合して,不登校の相談率という指標を出してみましょう。不登校の児童生徒数に占める,不登校の相談件数の割合です。不登校の子を持つ親のうち,わが子を案じて相談に訪れた人の割合と読むことができます。

 なお不登校相談件数は年齢別になっていますが,6歳を小1,7歳を小2…,14歳を中2としていることを申し添えます。


 学校に上がったばかりの小学校低学年の子が不登校になった場合,戸惑う親が多いためか,相談率は高くなっています。1999年度では2割以上です。

 しかし,2015年度ではどの学年でも相談率が下がっています。それもそのはず。分母の不登校児数は増えていますが,分子の相談件数は大幅に減っているのですから。

 これをどう見るか。児童相談所の敷居が高くなった,ということは考えられません。虐待相談などを含む,児童相談全体の件数は増えていますので。思うに,不登校に対する見方が柔軟になったことの表れではないでしょうか。必ずしも,学校に行く必要はない。タイトルに記したような,不登校の脱問題化です。

 昨年の暮れに,教育機会確保法が成立する前のデータです。より最近では,上表のaとbの乖離がもっと大きくなっているのではないでしょうか。不登校を問題行動として捉える枠組みも,徐々に修正を迫られることになるでしょう。

 このブログで何度も書いていることですが,情報化が進んだ社会では,学校という四角い空間だけが教育の場であり続けることはできません。イヴァン・イリイチは,こういう社会では学校の領分が縮小し,代わって人々の自発的な学習網(ラーニング・ウェヴ)が台頭してくるであろうと述べています(『脱学校の社会』)。この予言が,まさに現実のものになろうとしている。そう思っているのは,私だけではありますまい。