http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/index.html
このブログでは幾多の官庁統計を分析していますが,『就業構造基本調査』は最も活用しているものの一つです。この調査の目玉は有業者の所得を調査していることで,所得をキーにしたクロス集計表も多数アップされています。性別・年齢層別の所得分布,所得階層別の未婚率など,いろいろなことを明らかにできます。
本調査でいう所得とは,「賃金,給料,手間賃,諸手当,ボーナスなど過去1年間に得た税込みの給与総額」をいいます(用語解説)。税引き後の年収とは区別される概念です。
私は,2017年のデータが公表されたら,今の自分の世代の所得がどうなっているかをまず明らかにしたいと考えていました。私の世代は,2017年では40代前半になっています。原資料の度数分布表に当たって,40代前半男性の所得分布を整理してみました。今の特徴を浮き彫りにすべく,過去との比較もします。そうですねえ。バブル末期の1992年と比べましょうか。
所得が分かる40代前半男性有業者は,1992年では521万人,2017年では439万人ほどです。この人たちの年間所得分布を整理すると,以下のようになります。カテゴリーがちょっと粗いですが,1992年の原統計の区分に依拠しています。
バリバリの働き盛りの男性ですが,この四半世紀で所得分布に変化が見られます。500万超の層が減り,代わって低所得層が増えています。所得200万未満には灰色をつけましたが,この層の割合は,1992年では4.8%でしたが,2017年では7.9%となっています。ワーキング・プアが微増しています。
この分布から,フツーのアラフォー男性の所得がナンボかを,一つの代表値で可視化しましょう。高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる人の所得がいくらかという,中央値がベストです。右端の累積相対度数から,1992年は500~600万円台,2017年は400万円台の階層に含まれることが分かります。
按分比例を用いて,累積相対度数が50ジャストの値を推し量りましょう。
1992年:
按分比=(50.0-46.3)/(77.0-46.3)=0.120
中央値=500万円+(200万円×0.120)=524.1万円
2017年:
按分比=(50.0-37.4)/(55.0-37.4)=0.717
中央値=400万円+(100万円×0.717)=471.7万円
はじき出された所得中央値は,1992年が524万円,2017年が472万円です。この四半世紀で,40代前半男性の所得中央値は50万円以上減ったことが知られます。蛇足ですが,私の所得は2017年のメディアンに遠く及びませんね。
これは全国値ですが,労働者の所得は地域によって大きく違います。47都道府県別にみると,この四半世紀でどの県も所得が減っていますが,全県の動きを上から俯瞰(ふかん)すると,列島貧困化と呼ぶべき現象が浮かび上がります。上記と同じやり方で全県の40代前半男性の所得中央値を出し,高い順に配列すると,以下のようになります。
1992年では20県の所得中央値が500万円を超えていましたが,2017年ではそういう県はわずか5県です。最近では,西の大都市の大阪もこのラインを超えていません。
その代わり低所得の県が増えており,最近ではアラフォー男子の所得中央値が400万円にも満たない県が11県あります。これはキツイ。子育てどころではありません。これは税引き前の所得ですので,税引き後の年収でみたらもっと悲惨な事態になっています。
上記の表で濃い色を付けた県を地図上で可視化しましょう。昨日,ツイッターでも発信したマップです。再掲します。
アベノミクスの効果だ,ロスジェネに対する無策の結果だ,政府はロスジェネに慰謝料を払うべきだ,というリプが付いていますが,当事者の一人として,こうも言いたくなります。
2017年の40代前半といえば,私の世代,世紀の変わり目の超氷河期に大学を出たロスト・ジェネレーションです。今回のデータは,この世代が40代前半のステージに達したことの影響が大きいでしょう。新卒時に正規就職が叶わず,ずっと非正規に滞留したままの人,キャリアや昇給が順調に行っていない人が多いのですから。
この点については繰り返し書いてきましたが,少し上の団塊ジュニアと同様,この世代も人数的に多いのですので,管理職のポストが足りず,昇進が頭打ちになっていることもあるでしょうね。一昔前のアラフォーは,課長や部長の役職につく人も少なくなかったと思いますが,最近はそうではないと。
また,長らく続いてきた年功賃金が崩壊していることもあるでしょう。ざっと考えて,世代の要因,企業の人事管理の変化の要因,という2つに大別できるかと思います。
現実がこんなですので,今までと同じく,子育て・教育の費用を家計任せにするというのは無理というものです。政府もやっとこれに気づき,幼児教育・高等教育の費用の無償化が図られることになりましたが,対象を大きく絞った制度設計で十分といえるかどうか…。
今回みたのは男性個人の所得ですが,世帯年収の変化でみたら,様相は違うかもしれません。共働きが増えていますしね。同年代の世帯所得も出して,男性個人の所得と対比させたら,妻の稼ぎ寄与度が出てくるかも。以前に比して,増えていることは間違いないでしょう。男性の腕一本で妻子を養える時代など終わっていることは,今回のデータからよく分かります。
毎度,同じようなデータを出していますが,自分の世代的な恨みの可視化と同時に,時代は変わっていることを,「これでもか」というくらいしつこく訴えたいからです。それに,やり過ぎはないと考えています。