2019年6月18日火曜日

対等夫婦

 現在は,同世代の半分が4年制大学に進学します。昔は大学なんて高嶺の花と諦める家庭が多かったのですが,今では,多くの家庭が子を大学に行かせようと考えています。出生順位なんて関係ないでしょう。できれば,子をみんな行かせてやりたい。

 しかるに,子を2人大学にやるのは生半可なことではないようです。子を2人以上大学ないしは大学院に行かせている世帯の所得分布をとると,半分が1000万円を超えています。東大生の家庭とほぼ同じです。

 このデータをツイッターで流したところ,一馬力ならともかく二馬力ならどうにかなる,「所得というより,生きる意味でのパートナーシップがあるかないか」ではないか,というリプが寄せられました。
https://twitter.com/toki21991/status/1140214017631248384

 個人ではともかく,世帯単位なら1000万を越えるケースは結構あります。進学該当年齢の子がいる親世代の所得中央値は,男性は650万円,女性は350万円ほどです(正社員)。夫婦の合算で1000万円です。

 何度も言いますが,共稼ぎが求められる時代ですよね。夫婦の間に,生きる意味でのパートナーシップを構築したい。きわめて多義的な概念ですが,共稼ぎであること,できれば夫婦が対等の割合の収入があること,また家庭内の家事労働を対等に分担することが望ましい。こういう夫婦は,いつでも柔軟に役割をチェンジし,先行き不透明な中を生き抜いて行けます。

 収入が対等で,家事分担も対等。こういう夫婦は,パーセンテージでどれほどいるのでしょう。おそらく日本ではごくわずかでしょうが,他国では違うような気もします。希望が得られることを願い,数値を出してみることにしました。

 ISSPが2012年に実施した「家族と性役割に関する調査』では,パートナーのいる人に対し,家事分担はどうか,パートナーとあなたのどちらの収入が多いか,と尋ねています,前者はQ18,後者はQ20です。個票データを利用可能です。
http://www.issp.org/data-download/by-year/

 パートナーのいる25~54歳女性を取り出し,「夫が自分と対等以上家事をする」,「夫と対等以上の収入がある」と答えた人の割合を計算しました。また双方の回答をクロスし,どちらにも当てはまる人の割合も出しました。この数値が,先ほど述べた「収入が対等で,家事分担も対等」の夫婦の出現率に相当します。

 手始めに,日本とスウェーデンの比較図をご覧いただきましょう。両方の設問に有効回答を寄せた,25~54歳の既婚女性が母数です(日本は212人,スウェーデンは220人)。結果を面積図で表現しました。


 夫が対等以上家事をするという女性は,日本は32.4%,スウェーデンは53.8%です。日本の数値が高すぎるような気もしますが,それは置いておきましょう。夫と対等以上稼ぐ妻の率は,順に5.6%,38.9%となっています。スウェーデンは,妻の4割が夫と対等以上の稼ぎがあるのですね。

 2つの正方形が重なった緑色のゾーンは,双方の条件を満たす女性の比重です。夫が自分と対等以上家事をし,かつ夫と対等以上の稼ぎがある女性の率。日本は1.9%,スウェーデンは20.5%と出ました。生きるパートナーシップが構築された対等夫婦の出現率は,日本は53分の1ですが,スウェーデンは5分の1であると。

 さもありなんという結果ですね。しかし,男女共同参画先進国のスウェーデンとの比較は極端じゃね?という意見もあるでしょうか。では,調査対象41か国全ての計算結果を見ていただきましょう。上図でいう赤色(家事対等),青色(収入対等),緑色(両方!)の比重の一覧です。


 いかがでしょう。3つの数値とも,日本は低い位置にあるようです。夫と同等以上の稼ぎのある女性,家事・稼ぎの比重が夫と対等以上の女性の率は,41か国の中でダントツの最下位となっています。

 口先の意識の上では,日本のジェンダー観は薄くなっているといいますが,こうして行動のレベルでみると,薄まっているどころか,未だにワーストであることが分かっちゃいます。

 右端の「対等夫婦」の出現率が2割を超える数値は赤字にしました。首位は,ポルトガルの36.1%です。この南欧国では,既婚女性の3人に1人が「夫が自分と対等以上家事をし,自分は夫と対等以上の収入がある」と答えています。あくまで自己評定であることに注意が要りますが,スゴイですね。

 2位はインドの29.3%です。性役割観が強い社会のように思えますが,男性が怠けるので,あくせく頑張る女性が多いのでしょうか。東欧の旧共産圏の社会でも比較的高いようですが,国民皆労働の伝統が強いためか。

 右端の数値を高い順に並べたグラフにしておきます。


 パートナーと「生きるパートナーシップ」を築いている女性の出現率です。今から7年前のデータですが,日本のこの無様な位置は,目に焼き付けておいていいでしょう。

 しかし,夫と家事や稼ぎの比重が対等であるからといって,妻の心中が晴れやかであるとは限りません。女性がバリバリ働くのが当然の旧共産圏の女性は,日本の女性を羨ましがるといいます(主婦なんて夢のようだと)。

 日本の場合,対等夫婦の女性のサンプルがわずかしかないので検証できませんが,他国のデータにて,幸福度の設問とのクロスをしてみると,多くの国において,この群の女性の幸福感は,他の女性よりも高くなっています。

 担うことのできる役割には,なるべく幅を持たせておいたほうがいい。稼ぎのない女性はDVや貧困と常に背中合わせですし,家事スキルのない男性は,定年後はただの「お荷物」です。日本では,妻に去られた(死なれた)高齢男性の自殺率はべらぼうに高し。

 日本では2%もいない対等夫婦ですが,柔軟に夫婦の役割がチェンジできるのでいいですよね。どちらか一方が,学校で学び直しをするなんてのもできる。日本は,男女の性役割分業で社会が築かれてきた経緯があり,仕事・家事の双方に求められるレベルがとても高くなっています。両方するなんてムリ,どちらか一方に特化すべし。そこで仕事は男性,家事は女性の専業になったと。

 しからば,2つの役割遂行のレベルを下げてしまえばいい。私が何度も言っている「ゆる勤」「手抜き家事」のススメです。これが不可能でないことは,欧米社会のルポを読むとよく分かります。
https://twitter.com/tmaita77/status/1127339881259134976

 対等夫婦を増やす策として,保育所増設だの,3世代同居を推奨だの言われそうですが,それは今の高いレベルの就労・家事への適応を前提とした話(保育所増設には賛成ですけど)。これでは,とりわけ女性は地獄をみます。子をあやしながら仕事していい,店のレジ係は座っていていい…。平時の料理はとことん手抜き。

 諸外国にて,対等夫婦の出現率が日本よりはるかに高いのは,こういう戦略が社会の隅々にまで浸透しているからではないでしょうか。高齢化が進み,国民の多数が体力の衰えた高齢者になる日本において,模倣すべきであるのは明らかでしょう。