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2020年8月31日月曜日

2020年8月の教員不祥事報道

  8月も今日でおしまい。酷暑は続いてますが,陽が落ちるのは確実に早くなっており,秋の訪れを感じます。暦の上では,明日から秋です。

 今月,私が把握した教員不祥事報道は30件です。暑さとコロナでネジが2つ,3つ飛んでいるのか,わいせつを通り越した性的暴行が数件見受けられるのは,痛々しい限りです。

 個人情報紛失という事案もあり。答案採点など,持ち帰り仕事をせざるを得ない教員に起こりがちなことで,決まりの上では持ち出しには管理職の許可が要るのですが,なかなかそういうコントロールが機能しないのが実情です。持ち帰り仕事が発生しないよう,教員の仕事を減らす,ないしは答案採点などは補助スタッフに委ねるなどすればよろしい。2019年1月の中教審答申でも,成績評価などは「教師の業務であるが負担軽減可能」なものとして仕分けされています。

 私事ですが,今年は小学校と中高社会の要点整理集の大幅改訂を決めたため,7月~8月は毎日,朝から夕方まで原稿の手直しの日々が続きました。せっせと夏休みの宿題をこなした気分です。

 9月は,ちょっとばかりゆっくりさせていただこうかなと思っています。ツイッターで呟いていますが,楽しいゲームもあり,刑事告訴の初体験です。10月中には,刑事告訴の体験記を披露できるかと存じます。

 背景を初秋模様に変えます。


<2020年8月の教員不祥事報道>

「ばか」「くず」生徒に繰り返し暴言、高校教諭を停職処分(8/1,琉球新報,沖縄,高,男,45)

教頭がメールで誤送信 生徒39人の個人情報、保護者に謝罪(8/5,琉球新報,沖縄,高)

教員免許が切れた男性教諭、3カ月間勤務(8/6,埼玉新聞,埼玉,特,男,33)

“盗撮”高校教師を懲戒免職 広島県立高校(8/7,広島ホームテレビ,広島,高,男,32)

TV電話で高知県女子中生の服脱がせる(8/8,高知新聞,静岡,高,男,36)

酔った大学生に性的暴行加えた疑い 小学校教諭を逮(8/9,朝日,東京,小,男,37)

金品回収役か 幼稚園教諭を逮捕(8/10,山陽新聞,大阪,幼,22)

小学生女児にわいせつ行為 柏崎市の教師逮捕 (8/15,FNN,新潟,小,男,44)

性的暴行の罪で小学校教諭を起訴(8/17,NHK,鳥取,小,男,34)

生徒の個人情報紛失で教諭を戒告処分(8/17,セキュリティニュース,福岡,中)

女子更衣室の隙間から小型カメラのぞく…利用者通報(8/18,読売,中高一貫,男,30)

生徒を無断撮影 高校教諭が停職1か月(8/20,静岡第一テレビ,静岡,高,男,60代)

少女に性的暴行の教諭を懲戒免職(8/20,NHK,三重,小,男,26)

43歳高校教師 小学5年の娘を叩くなどしてケガさせたか(8/21,東海テレビ,高,男,43)

埼玉 川口 中学校教諭を逮捕・起訴 覚醒剤を使用した罪で(8/21,NHK,埼玉,中,男,40)

札幌の中学校教諭が酒気帯び運転で摘発(8/22,HBC,北海道,中,男,60代)

小学校教諭が“男湯脱衣所で盗撮容疑”で逮捕(8/24,MBS,兵庫,小,男,33)

仙台・宮城野区の中学教諭、答案用紙99人分紛失(8/24,河北新報,宮城,中,女,20代)

女子高生盗撮か 38歳教諭逮捕(8/24,NHK,静岡,指導主事)

女子高校生にわいせつ行為 38歳の中学校教師を逮捕(8/25,関西テレビ,奈良,中,男,38)

小学校教諭 セクハラで減給の懲戒処分(8/25,NNN,香川,小,男,40)

飲酒運転で教諭停職 同乗の養護教諭も(8/26,茨城新聞,茨城,高男36,女31)

大分の高校教諭が部活合宿で飲酒、生徒の布団に放尿(8/27,毎日,大分,高,男,50代)

県立高校教諭 部費窃盗疑い逮捕(8/27,NHK,奈良,高,男,56)

幼稚園教諭がわいせつ動画所持で懲戒処分(8/27,NNN,静岡,幼,男,40代)

転売する目的で窃盗を繰り返した中学校教諭(32)を懲戒免職(8/28,中京テレビ,岐阜,中,男,32)

三重の高校教師が17歳少女にみだらな行為か 山形への帰路資金不足で発覚(8/28,三重テレビ,三重,高,男,33)

未明まで飲酒した教諭、一度はタクシーで帰宅したが…車を取りに戻る(8/30,読売,大分,高,男,49)

女子生徒盗撮で教諭懲戒免職 小型カメラやスマホ使用(8/31,共同通信,福井,高,男,30代)

【長崎】女児への強制わいせつ容疑で小学校教諭逮捕(8/31,長崎文化放送,長崎,小,男,30)

2020年8月28日金曜日

校長の性格

  学校の長である校長先生。その職務は,学校教育法37条にて「校務をつかさどり,所属職員を監督すること」と規定されています。

 教頭以下と違うのは,「児童生徒の教育をつかさどる」という文言がないことです。平たく言うと,校長の職務には授業は含まれない,ということです。そう,校長は純然たる管理職なんですね。

 OECDの国際教員調査「TALIS 2018」の報告書第2巻にて,授業の義務がある校長の割合が国別に出ています。中学校の校長先生のうち,授業の義務があるという人は何%かです。言わずもがな,日本の数値は0.0%で皆無となっています。しかし海を隔てたアメリカでは3.4%,フランスでは13.2%,北欧のフィンランドでは60.7%にもなります。何かと話題になるフィンランドでは,授業をする校長先生がマジョリティです。

 原資料の統計表から,日本を含む47か国・地域の数値を知れます。以下の表は,高い順に並べたものです。コチラの表「Ⅱ-3-20」をもとに作成しました。


 世界を見渡すと,授業をする校長先生が少なくない国が多いですね。旧共産圏にそういう社会が多く,チェコでは中学校の校長全員が授業の義務を有しています。

 校長は授業をやらない管理職。これが日本の常識で,法規でも明文化されているのですが,国際的にみると,そういう校長の性格付けは普遍的ではないようです。むしろマイノリティです。

 校長の職務に授業は含まれない,換言するとやりたくてもできないってことですが,これについてはいろいろ意見はあるでしょう。私が見聞する限り,否定的な意見が多いようで,教壇に立って授業をしないようでは,自校の児童生徒についてよく知ることができない,校長も週に何時間かは授業を持つべきではないか,という声があります。

 校長と他の職階の間に大きな段差を設けることは,中高年の教員に,実践者から管理職へのアイデンティティ変更を迫ることにもなります。教員の職業満足度は,大よそアラフィフのステージで最も低くなるのですが,それは,こうした断絶に戸惑う教員が多いからではないか。

 いやそれ以前に,授業ができなくなること,すなわち実践者の立場を奪われるのをよしとしない教員は,管理職への昇進を望まないかもしれません。日本の教員の管理職昇進希望率は低いのですが,多忙になるという理由に加え,子どもの前に立てなくなることと,というのもあるかと思います。うろ覚えですが,それを実証した調査データもどこかにあったような。

 気骨のある優秀な教員ほど,実践者としての性格が失われることに抵抗を覚え,管理職への昇進を忌避する傾向もあるかも分かりません。だとしたら,問題であるといえるでしょう。校長にも実践者としての性格を残すようにしたらどうか。学校教育法37条の校長の職務規定に,「必要に応じ児童の教育をつかさどる」の文言を加えたらどうか。こんなふうにも思うのです。

 まあこれはあくまで建前で,教壇に立つ校長先生もおられるでしょう。それなら,法律の規定も変えていいのではないか。校長室という四角い密室に居心地のよさを感じるのは,気骨ある実践志向の人ではなく,事なかれ主義のつまらない人だけかもしれません。

2020年8月19日水曜日

暑いニッポン

  前に「安いニッポン」という記事を書いた気がしますが,今回は「暑いニッポン」です。今の季節の日本を形容するには,この表現がふさわしい。

 今年は梅雨明けが遅かったですが,雨三昧の日々が終わるや,酷暑の日が続いております。今日も35度超え。コロナも怖いですが,熱中症はもっと怖い。死者数でいえば,圧倒的に後者が多し。「熱中症死者100人」がツイッターでトレンド入りしてます。

 うち8割が屋内でエアコンをつけてない状態だったそうです。エアコンがあるのにつけないのか,それともないのか定かでないですが,エアコンはつけるべし。冷房嫌いでつけないという人には啓発をし,経済的理由で持てないという人には支援をすべきでしょう。ちきりんさんも言われてますが,「冷房をつけよ」という自粛警察の活動は大歓迎です。

 いったい,この暑さは何なんでしょう。気温のデータを確かめたいと思い,気象庁のホームページに当たってみました。いやあ,すごいですね。過去100年あまりの地点別・月別・日別のデータを呼び出すことができます。http://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php

 年で一番暑い8月の気温がどう変わったか。東京の日ごとの平均気温・最高気温・最低気温をグラフにしてみましょう。1920年と2019年を左右に並べます。100年間の変化の可視化です。

 それぞれの日の最高気温と最低気温の幅を,高低線の落差で表してます。オレンジのドットは,当該の日の平均気温です。

 ツイッターでも流しましたが,100年間の変化が一目瞭然です。ぱっと見,チャートが上にシフトしているのが分かります。1世紀前の大正時代では,真夏といえど最高気温が30度を超える日は半分にも達しません。しかし今ではほとんどの日が30度超えで,35度を超える日も8日あります。真夏日のラインが,昔は30度だったのですが,今では35度であると。100年間で5度変わったわけです。

 暑くなっているのが,データではっきりと見て取れます。自分を苦しめているものが何かを「見える化」されるのはスカッとするのか,上記のグラフはツイッターでかなり見られています。

 8月の31日間の最高気温の分布も出してみましょう。1920年と2019年の間に,中間の1970年も入れ,半世紀刻みのデータにします。

 1920年では29度台の日が12日と最も多かったですが,1970年には32度台が最も多く,2019年では35度以上が最多です。分布の山が29度台,32度台,35度以上と,きれいにシフトしてきています。

 以上は東京のデータですが,地域差もあります。暑さの地域比較も興味深い。8月の31日間の最高気温の平均値でもって,各地域の暑さの指標としましょう。東京の場合,2019年8月の31日間の最高気温の平均値は32.8度です。

 これを県別に出し,高低で塗り分けたマップの今昔比較をすると「!」となります。県庁所在地の8月の平均値の地図化です。

 左は1980年,右は2019年の地図ですが,日本列島の猛暑化が進んでいるのが分かります。1980年では30度を超える県が4つだけでしたが,最近はほぼ全国が30度超え(色付き)で,32の都府県で32度を超えてます。

 インパクトがありますねえ。私が子どもの頃とは違います。今となっては,学校の教室にエアコンは必須。かつ,真夏の屋外でのスポ根指導などは命に関わることです。私は小学校の頃,炎天下の体育の授業で気分が悪くなり,保健室に行ったことがあります(当時は熱中症ではなく日射病と言ってました)。「あれくらいの暑さでだらしない」と嫌味を言われましたが,今では無理は厳禁です。一昨年でしたか,大阪の小学校の屋外活動で,熱中症で小学生男児が命を落とす事故も起きています。

 最近では暑さ指数(WGBT)という指標が開発されていて,これが31度を越えたら「運動は原則禁止」です。中高の保健体育の教員採用試験でよく出ますので,受験者は覚えておきましょう。

 最後に,上記のマップの元データを掲げておきます。暑いのはどの県か,という関心もあるでしょうしね。下の表は,8月の31日間の最高気温の平均値が高い順に,47都道府県を並べたものです。上記と同じく,1980年と2019年の対比にしてます。色付けも,上記マップと同じです。

 どの県でも,真夏の最高気温が上昇しています。東京は,1980年は26.6度でしたが,2019年は32.8度,40年間で6.2度アップしています。全県中の順位は34位から12位に上がっています。

 私の郷里の鹿児島は,31.1度から32.1度と,そんなに上がっていません。順位はかなり下がっています。南端の沖縄は,1位から35位に下落です。2019年では,沖縄より東京のほうがずっと暑いのですね。沖縄は東京の避暑地。巷でささやかれていることが,データで実証です。

 1980年では,暑さは大よそ地理的位置と関連してました(南ほど暑い)。しかし現在はどうではなく,都市部ほど暑い傾向にあるように見えます。ヒートアイランド現象ってやつでしょうか。エアコンの室外機など,都市では人工排熱も多いですしね。

 上記のデータも,地方への人口移動を促すのによさそうです。「密」&「暑い」都会を離れ,地方に移住すべし。

 以上,真夏の暑さの時代比較,地域比較をやってみました。日本は昔に比して暑くなっていること,地域差の構造が変わってきていること。これらがファインディングスです。

2020年8月6日木曜日

若者の同性愛への寛容度

 2017~20年に実施された,第7回『世界価値観調査』のデータが公表されました。各国の研究者が共同で実施している国際調査で,サイトからローデータをダウンロードすることもできます。

 私はこれまで,この調査の過去のデータを使って,いろいろな角度から国際比較をしてきました。タイトルに掲げた,同性愛(homosexuality)への寛容度も,そのうちの一つです。最新のデータでは日本はどういう位置になるかと,国別の数値を計算したら「!」という結果が出てきました。ツイッターでバズってますので,計算方法も含め,ブログにも書いておきます。

 私は各国の20代の若者を取り出し,同性愛への寛容度を数値化しました。用いたのは,同性愛をどれほど受け入れられるかを,10段階で自己評定してもらった結果です。調査票のQ182です。日本と韓国の20代の回答分布をローデータから明らかにすると,以下のようになります。数値が高いほど,寛容度が高いことを意味します。
 日本の有効回答は118人,韓国は220人です。お隣同士で意識が似通った国と言われますが,分布はまるで違ってますね。日本はマックスの10点が最多ですが,韓国は最小の1点を選んだ人が最も多くなってます。

 右欄は全体を100とした%分布ですが,両国の違いは一目瞭然。伝統を重んじる韓国では,若者といえど同性愛への目線は厳しいようです。対して日本の若者は寛容で,全体の6割(5人中3人)がマックスの10点に丸をつけてます。

 たくさんの国を比較するため,この分布を簡素な代表値にまとめます。最もポピュラーな平均値にしましょう。計算方法はお分かりですよね。日本だと,以下のようにして出します。

 {(1点×4人)+(2点×0人)+…(10点×70人)}/118人=8.58点

 日本の20代の寛容度は,8.58点という数値で可視化されました。10点満点中ですので,これは高い部類でしょう。韓国は3.84点で,日本の半分未満です。

 これは東アジアの2国の結果ですが,世界全体に視野を広げるとどうでしょう。第7回『世界価値観調査』の個票データファイルには,48の国の回答データが入っています。このうち,同性愛への寛容度を明らかにできるのは46か国です。同じやり方で,20代の寛容度平均点を出し,高い順に配列すると以下のようになります。
 これがツイッターで発信した表なんですが,驚きですよねえ。エクセルでランク付けしたとき,「うえ?」と声を上げてしまいました。何と何と,日本の若者の寛容度は1位ではないですか。意識が進んでいるといわれる,欧米諸国を差し置いてです。

 ツイッターで色々なリプ(コメント)が来ていますが,おおよそ3つにまとめられます。

 ア)宗教的戒律がない
 イ)アニメ・漫画の影響
 ウ)寛容ってことは,無関心の裏返し。人に興味がないんでは?

 ア)については,疑い得ない所です。対極の右下(下位)をみると,イスラーム諸国が並んでいます。言わずもがな,同性愛はご法度。厳しい所だと死刑です。キリスト教でも,宗派によってはタブー視されています。

 イ)は,日本の強みですよね。絵入りで分かりやすくストーリーを描く漫画は,日本発祥の誇るべき文化。同性愛を主題としたものも出回ってますので,それに影響されている可能性もあります。とくに若者にあっては。

 ウ)はちょっと悲しくなりますが,人の嗜好にあれこれ干渉する「自粛警察」のような存在よりはいいと思います。今の若者はボランティア志向なども強く,他人に冷淡ってわけじゃないでしょう。必要なときは関わるが,基本的に多様性を認める。結構なことです。

 日本の若者,同性愛への寛容度が主要国の中で最も高し。喜びたくなる結果ですが,その割には,法整備をはじめ,社会全体の同性愛に対する眼差しは,まだまだ冷たいような気がします。法律を決める国会の議場に,若者があまりいないからでしょうね。多くが高齢者です。

 では,社会の舵を切る高齢者は,同性愛にどういう眼差しを向けているのでしょう。上記表の左上をみると,日本をはじめ,ドイツ,ニュージーランド,オーストラリア,アメリカといった先進国が並んでいます。これら5か国について,年齢層別の同性愛への寛容度平均点を計算しグラフにすると,日本の残念な現実が露わになります。

 10歳刻みの年齢層ごとに最初の表のような分布を出し,平均点を算出し,それらを線でつないだ折れ線です,JPNは日本,USAはアメリカ,DEUはドイツ,AUSはオーストラリア,NZLはニュージーランドです。
 高齢層ほど伝統的な考えが強いといいますか,どの社会でも年齢を上がるにつれ,寛容度の平均点は右下がりに落ちていきます。日本はそれが顕著で,50代まで直線的に下がり,60代になると,さらに急降下してしまいます。

  両端の日本の位置を比べると,大きな違いですね。20代では5か国の中でトップですが,60歳以上の高齢層だと打って変わって最下位となっています。若者の意識は進んでいるが,高齢者はさにあらず。残念なことに,社会を動かす為政者のマジョリティは後者です。

 日本の大きな年齢差。短期間で激しい社会変化を経験した国ですので,同性愛への寛容度に限らず,諸々の意識や価値観の世代差が大きくなっています。それだけに,法律や政治を決める為政者が高齢層に偏ると,社会の分裂の危機が大きくなります。同性愛に関する政策を決める場に,若者と高齢者が同数居合わせたら,ジェネレーションギャップ(衝突)がもろに出るでしょうね。しかし現実は後者が大多数で,後者の意向が通ってしまっています。

 言い古されていることですが,若者の政治参画が進めば,社会が変わる可能性は大です。地方では議員のなり手も不足しているようですが,志ある若者は移住して,「我こそは」と名乗りを上げてみるのもいい。地方からの変革です。

 若者の投票率が低いのも問題。コロナ渦で,アナログのやり方が随所で綻びを見せ始めています。これを機に,ネット選挙の導入を真剣に検討すべし。私は投票には欠かさず行ってますが,老人ホームかと思うくらい,投票所にいるのは白髪の老人ばかりです。投票所の四角い銀色の箱だけでなく,若者が慣れ親しんでいるスマホからも,民意を吸収できるようにしていただきたい。

 日本は老いた社会ですが,新風が吹き込まれ,若返る余地はある。今回のデータを見ると,そういう希望的観測を抑えられません。同性婚のパートナー一シップ条例を,全国で最初に制定した自治体が,若者の街・渋谷区であるのも想起されるべきこと。

2020年8月4日火曜日

批判的思考を育む授業

 今朝の日経新聞ウェブに「教員養成,現場の創造性高めよ 批判的な見方が必要」という記事が出ています。語り手は,常葉大学の紅林伸幸教授です。滋賀大学におられたかと思うのですが,移られたのですね。

 それはさておき,教員志望の学生を対象とした,紅林教授の調査結果が紹介されています。同一の対象を追跡したパネル調査にて,1年生と4年生の学びや意識を比較しています。4年生になると現場と結びついた実践的なことを学んでいる学生の率が高まる一方で,社会問題や政治・選挙への関心は薄まるとのこと。

 前者の知見は想像できますが,後者の知見は驚きです。4年間の教職課程において,教員に必要な力量を身につける,凝った言い回しをすると「教職的社会化」を遂げるのですが,それは従順に飼い慣らされる過程でもあるんだなあと。

 最近の教職課程では,授業の技術に加え,トラブルへの対処や保護者との付き合い方など,いわゆる「ハウツー」に重きが置かれると聞きます。早い段階から実習の機会も用意されるのですが,紅林教授によると,そのことが「未熟な自分と経験豊かな優れた教師」というフレームを形成し,学生は物言わぬ従順な教師へと仕向けられるのだそうです。

 自由奔放な思想や行動が許される学生の時期までもが,今の教職課程では,学校現場の色に染められてしまうと。風変わりなことや批判めいたことを言うと嫌われますので,社会に対する学生の関心,批判意識が薄れるというのも道理です。教職課程の学生の読書時間は,普通の学生より低いなんていう現実もあるかもですね(忙しいという要因を引いても)。

 こういう学生が教員採用試験を突破し,学校現場にやってきたらどうなるか。教育委員会や管理職にしたら,まあ扱いやすい存在でしょうが,今の現場に新風を吹き込む創造性なんて持たないでしょうし,今の社会の問題について子どもたちに熱く語るなんてこともないでしょう。学習指導要領では重要とされている「批判的思考」を育む授業も,望むべくもありません。

 それはデータで裏付けられます。OECDの国際教員調査「TALIS 2018」では,授業において批判的思考を促すことがどれほどあるか,と問うています(対象は中学校教員)。選択肢は4つですが,最も強い肯定の回答「A lot(しばしばする)」の回答比率は,日本は3.1%,海を隔てたアメリカは33.6%です。スゴイ差ですね。

 主要国について,4つの回答の分布を出すと以下のごとし。個票データから独自に集計して作図しました。ドイツは調査に参加してません。


 日本の回答分布は,他の7国とかけ離れています。他国では「A lot(しばしば)」と「Quite a bit(かなり)」が大半ですが,日本はたった24.4%しかいません。

 個票データから48か国・地域の数値を出せますが,日本より,批判的思考を促す授業の頻度が低い国ってあるでしょうか。上記の2カテゴリーの比率を拾い,48の国・地域をランクづけると下表のようになります。


 日本の率は48国・地域の中で最も低く,すぐ上のノルウェーとの落差も大きくなってます。ダントツのワーストです。率が低いことに加え,国際標準から大きく外れていることも強調しないといけません。

 「批判的思考とは何ぞや?」と深く考えちゃったのかもしれませんが,ここまで他国と違うとは驚きです。まあ,従順に飼い慣らされ,批判思考の牙を抜かれた教員が,それを育む授業をするのは難しいというもの。教員が考えないのに,子どもが考えるはずはありません。

 前にニューズウィーク記事にて,日本の若者の創造性や冒険志向は世界最下位というデータを出しましたが,学校でどういう授業を受けてきたかの違いによるかもしれません。だとしたら,えらいことです。

 ちなみに「TALIS 2018」では,「批判的思考が必要な課題をどれほど出すか」も尋ねています。この設問への回答も加味し,日本の位置を視覚的に表現してみましょう。選択肢は同じく4つですが,肯定の2つの回答(「Always 」,「Frequently」)の比率をとります。

 下図は,横軸に批判的思考を促す頻度,縦軸に批判的思考が必要な課題を出す頻度をとった座標上に,48の社会を配置したグラフです。


 エクセルでこのグラフが出てきた瞬間,目を疑いました。強烈ですねえ。両軸ともダントツで最下位で,他国の群れから大きく取り残されています。異国の人が見たら,日本人が大人しい理由が分かった,と膝を打つでしょうか。「やはり教育なんだな」と。

 上記のようなショッキングな事実の要因はいろいろあります。そもそも日本では批判思考を重視する授業に馴染みがなく,教員も多忙で,そういう工夫された授業を練る時間が取れないという条件もあります。最初の表をみると,上位には南欧や南米の国がありますが,これらの国では教員の仕事の大半は授業です。日本みたいに,仕事の半分が授業以外の雑務なんてことは考えられません。

 こういう勤務条件の改善とともに,教員の研修を充実すべし,と言いたい人もおられるでしょう。研修は入職前と入職後に分解されますが,紅林教授の調査結果と,ここでお見せしたデータを踏まえると,前者の入職前,つまり教員養成の問い直しが求められるといえます。

 未来の教員を育てる教職課程だからといって,職務と直結した実践的なことに重きを置き過ぎ,疑似的な学校空間に学生を閉じ込めてはいないか。多様な学びの機会を学生から取り上げ,社会から目を逸らさせてはいないか。学部時代,デュルケムの原書講読の手引きをしてくださった,教育哲学のH教授が「今の文部省は,実践的なことをやれ,そればっかりなんだよ」と言われていたのを思い出します。

 組織としての学校を成り立たせるには,ある程度の従順さや協調性は不可欠ですが,」創造性や批判的思考を持ち合わせない人が教壇に立つと,未来を担う子どもの教育にも影を落とします。

 教職課程のカリキュラムを点検しろ,という提言で結ぶのは簡単ですが,以下の提案をしておきましょう。教職課程の学生の読書調査です。紅林教授の調査のように,パネルの追跡調査が望ましい。普通の学生と比べてどうか。問題を可視化し,改革の提言に説得力を持たせるには,これがいいかと思うのです。