それぞれの時代ごとに,年齢別の自殺率を俯瞰できるグラフがあります。それは,等高線グラフです。もともとは,気温と湿度の組み合わせによって,不快指数がどのように変異するかを示すがためによく使われるグラフですが,これは,社会現象の観測にも使えることに気づきました。
上の図は,男性の自殺率を俯瞰したものです。自殺率とは,自殺者数を人口で除した値です。2009年でいうと,男性の自殺者数は22189人(厚労省『人口動態統計』),人口は約6200万人(総務省『人口推計年報』)ですから,前者を後者で除して,自殺率は,10万人あたり35.7人と算出されます。この値を,それぞれの年について,年齢層別に計算した結果を表現したものが,上記の図なのです。
いかがでしょうか。この図から,それぞれの時代におけるデンジャラス・ゾーンというものが一目で分かります。近年では,自殺率が60を超えるブラックゾーンは,50代にあるようです。リストラ世代の悲惨さがうかがわれます。一方,今から50年以上前の1955年における20代青年の危機状況も注目されます。社会の激変期にあったこの頃,価値観の急変に適応できなかった純粋な青年の,厭世感による自殺が多かったことと思われます。あと一点,自殺率30台(紫色)のゾーンが,2000年以降,若年層に伸びてきていることも不気味です。
この図式は,私の恩師である松本良夫先生が考案されたものです。松本先生は,自殺や犯罪について,このようなグラフを作成され,論稿を発表しておられます。先生は,この図を「社会地図」と命名されています。私も,この「社会地図」方式に依拠して,しばし,別の社会事象を表現してみたいと思います。