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2011年3月16日水曜日

49市区の子どもたち①

 私は,2008年7月に,『47都道府県の子どもたち』という本を出しました。そこでは,いろいろな統計指標を使って,各県の子どもたちのすがたを捉えたのですが,県という地域単位は,あまりにも大きすぎるのではないか,というご意見をよくいただきました。

 確かに,一つの県の中には,社会的特性を著しく異にする地域(市町村)が含まれており,こういう多様性を捨象してしまうのは,望ましいことではないでしょう。そこで,県よりももっと下りた,市町村レベルでの診断をやろうと前から思っていたのですが,資料収集の困難の理由で,断念していました。しかるに,東京都内の地域については,多少の資料を得ることができましたので,試行的な意味合いも込めて,作業を手掛けてみることにします。診断の対象は,都内の49市区です。

 診断の観点は,A)発育状況,B)能力,C)逸脱行動,というものです。Aは,肥満児出現率で計測します。Bは,学力テストの成績で測ります。Cは,不登校児の出現率で計測します。これらの3指標について説明します。

 肥満児出現率は,学校医から肥満傾向と判定された児童が,全児童に占める比率のことです。2009年の公立小学校4年生の統計を使います。資料は,東京都教育委員会『東京都の学校保健統計』です。49市区全体の値は2.3%ですが,49市区別にみると,最高の4.8%から最低の0.2%までの差があります。

 次に,学力テストの成績ですが,用いるのは,東京都教育委員会『平成22年度・児童生徒の学力向上を図るための調査』の結果です。この中の,「読み解く力」の問題の平均正答率を使おうと思います。「読み解く力」とは,①必要な情報を正確に取り出す力,②比較・関連付けて読み取る力,③意図や背景,理由を理解・解釈・推論して解決する力,という要素からなるそうです。公立小学校4年生の算数の結果を使用します。49市区全体の平均正答率は53.5%です。49市区中の最大値は66.3.%,最小値は35.3%です。

 最後に,不登校児出現率ですが,字のごとく,不登校児が全児童に占める比率のことです。不登校児とは,「不登校」という理由で,年間30日以上欠席した児童です。2009年度間の小学校の不登校児数を,同年の小学校の児童数で除した値を使います。資料は,東京都教育委員会『公立学校統計調査報告書(学校調査編)』です。この指標の49市区全体の値は3.3‰です。49市区中の最大値は6.7‰,最小値は0.4‰です。


 49市区(一部は省略)について,これら3指標の値を示すと,上記のようになります。表の左欄が実値ですが,このままだと,各地域の状況を把握するのは困難です。それぞれの指標の値が,49市区全体の値と比べてどうか,49市区全体の分布の中でどの辺りにあるのかが,一目で分かるような工夫をしたいものです。

 右欄のスコア値は,このような必要を満たすために算出したものです。この数字は,49市区中の最大値を5,最小値を1,49市区全体の値を3とした場合,各地域の値がどうなるかを示したものです。学力テストの平均正答率を例にとって,説明しましょう。下図をみてください。


 図には,3つの点(35.3,1.0),(53.5,3.0),(66.3,5.0)を通る2次曲線が描かれています。この関数式を使って,各地域の平均正答率の実値を,1~5の間に収まるスコア値に換算しようというのです。私が住んでいる多摩市の場合,正答率のスコア値は,以下のように算出されます。
     0.0015×(52.4)×(52.4)-0.0229×52.4-0.0548≒2.9

 2.9ということは,49市区全体の値とほぼ同じ,つまり普通程度ということになります。このような工夫を施すことで,各地域の指標の値が,全体の中でどの位置にあるか,ということが直ちに分かります。また,異なる指標の相対水準を比較することも可能です。

 次回以降,このスコア値を使って描いた,各地域の診断カルテをご紹介したいと思います。