新年度だというのに,失業の話ばかりで恐縮です。前回,わが国は,失業という事態の重みが大きい社会なのではないか,という推測をしました。
ところで,世界を見渡せば,失業率が高くても自殺率はあまり高くない,という社会もあるでしょう。失業が人々の生活に与えるダメージというのは,社会によって異なると思います。今回は,失業と自殺の関連の仕方の国際比較を手がけてみます。
私は,世界の42か国について,男性の失業率と自殺率を集めました。失業率とは,完全失業者数を労働力人口で除した値です。単位は%です。自殺率は,その年の自殺者がベースの人口に占める比率です。通常,10万人あたりの人数で表現されます。
各国の失業率は,総務省『世界の統計2010』あるいは,ILOのホームページから得ました。各国の自殺率は,WHOのホームページから得ました。URLを下記に貼っておきます。統計の年次は,できるだけ新しいものを使いました。
ILO:http://laborsta.ilo.org/STP/guest
WHO:http://apps.who.int/whosis/database/mort/table1.cfm
上記の表は,自殺率が高い順に42か国のデータを並べたものです。日本の自殺率は,42か国中3位です。一方,失業率はそれほど高い水準ではありません。34位です。にもかかわらず,自殺率が高いということは,失業と自殺の連鎖がそれだけ強い,ということでしょう。
しかるに,これとは対極の社会もあります。南アフリカは失業率が22.6%とぶっちぎりで高いのに,自殺率はわずか1.5です。両者にまったく関連がないことがうかがわれます。
様相を分かりやすくするため,横軸に失業率,縦軸に自殺率をとった座標上に,42か国をプロットしました。図の右下のほうに位置する国は,失業率は高いが自殺率は低い国です。南アフリカ,ベネズエラ,フィリピンなどが位置しています。
もっとも,これらの国において,失業が人々の生活に何ら影響しない,とは言い切れません。いずれも凶悪犯罪の発生率が高い国です。失業が多いことによる生活不安が,自殺とは別の害毒をもたらしている可能性があります。しかし,失業しても相互扶助により何とか生活できるのでは,という憶測もしたいところです。
日本は,こうした国々とは対極的な社会でしょう。失業による生活不安が自殺に直結するような,内向的な国民性を持っています。また,孤族化の進行により,少し失業率が上がるだけで,自殺率が急上昇するという弱さもうかがわせます。
図の右下に位置する社会は,言ってみれば,「ホット」な社会です。暴れる,助け合う社会です。逆に,左上に位置する社会は,「クール」な社会といえないでしょうか。暴れない,自分を責める,助け合わない社会です。
日本が,後者の「クール」な社会になりつつあるように思うのは,私だけではないでしょう。