団塊世代の大量退職により,競争率は低下の傾向にあるものの,教員採用試験が難関であることには変わりありません。この試験を突破して,晴れて教員として採用される者は,どういう人間なのでしょうか。
いうまでもなく,能力・人物ともに優れた人でしょう。しかるに,このような内面に関する事柄は,マクロな統計から知ることはできません。統計から知り得ることは,採用者の性別,学歴といった,外的な属性です。今回は,小学校教員採用試験を突破して採用に至った人間に,どういう属性の者が多いかを明らかにしようと思います。
文部科学省のサイトの統計によると,2010年度試験に合格して,公立小学校の教員として採用された者の数は,12,284人です。この12,284人のうち,女性が7,762人で63.2%を占めています。受験者に占める女性の比率は58.4%ですから,男性よりも,女性のほうが合格可能性が高い,といえそうです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1300242.htm
私は,1980年度から2010年度の小学校教員採用試験について,受験者と採用者の属性構成を調べ,比較してみました。属性の構成は,性別,学歴別,および新卒・既卒別という3つの観点から明らかにしました。2001年度試験以降は,文科省のサイトの統計によります。2000年度以前の試験については,文科省『教育委員会月報』(第一法規)のバックナンバーをさかのぼって,情報を得ました。
まず性別の構成をみると,小学校ゆえか,受験者,採用者とも,女性が多くなっています。1990年代以降,受験者に占める男性の比率が高くなってきています。近年の受験者と採用者の組成を比較すると,先ほど述べたように,女性のほうが合格可能性がやや高い,といえます。
次に,2段目の学歴別です。文科省の統計では,教員養成大学卒,一般大学卒,短期大学卒,大学院卒,という4つのカテゴリーが設けられています。わが国の教員養成は,開放制の原則にのっとり,教員養成系大学のみならず,一般大学でも行われています。左側の受験者の構成をみると,以前は,教員養成大学が最も多かったのですが,最近では,一般大学が最多となっています。2010年度試験では,受験者のうち,一般大学卒業生が53.1%を占めています。
受験者と採用者の学歴構成を比較すると,以前は,教員養成系大学卒業者の合格可能性が明らかに高かったようです。たとえば,1985年度試験では,受験者では39.4%しか占めない教員養成系卒業者が,採用者では63.9%をも占めています。現在でも,程度は減じていますが,教員養成系の有利さは保たれています。
最後に,新卒か既卒かです。受験者,採用者とも,既卒が圧倒的に多くなっています。新卒者の比率は,採用者のほうで高くなっています。新卒者のほうが,合格可能性が高いことがうかがわれます。
それぞれの属性の合格可能性は,上記の図にて,受験者と採用者の組成を比較すれば分かります。しかるに,学歴別はやや入り組んでいて,明確な傾向が読み取りにくいので,1つの尺度を出してみます。
上述のように,1985年度試験では,教員養成系卒業者は受験者では39.4%,採用者では63.9%を占めています。後者を前者で除すと,1.62となります。つまり,教員養成系卒業者からは,通常期待されるよりも1.62倍多く,採用者が輩出されていると考えられます。私は,この値(採用者中の比率÷受験者中の比率)を輩出率と命名し,4つの学歴グループについて,この値の推移をとってみました。
上図によると,一般大学と短大の卒業者は,輩出率が一貫して1.0を下回っています。これは,採用者の輩出可能性が通常期待されるよりも低い,ということです。輩出率が最も高いのは,教員養成系卒業者です。ピーク時の1984年では,1.73にも達していました。しかし,それ以降低下し,2010年度試験では1.22となっています。大学院は,受験者,採用者とも数が少ないので,曲線が安定しません。参考程度にとどめてください。
ところで,1990年代後半以降,教員養成系と一般大学の輩出率の差が縮まり,1.0付近に収束しつつあることが注目されます。一般大学ががんばっている,ということでしょう。教員のリクルートのすそ野が広がっていることでもあり,結構なことではないでしょうか。
今回は,採用時の断面をみたことになりますが,その後の職務遂行のパフォーマンスが,教員養成系出身者と一般大学出身者とでどう違うか,という大変興味ある問題も横たわっています。この問題に対し,マクロな統計から接近できないかと思案しているところです。