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2011年6月21日火曜日

子どもの自尊心

 日本の子どもの自尊感情(self-esteem)は,他国と比べて低いといわれています。学校において繰り返しテストの機会にさらされ,そこで悪い点ばかり取っているうちに,「自分はダメなのだ」という劣等感を植えつけられる子どもが多い,ということでしょう。

 しかるに,学校のテストは,子どもの理解度を測定し,今後の指導の改善に役立てるためのものです。できる子とできない子を選り分けることが主目的ではありません。ですが,実際のところ,前者よりも後者が前面に出されることがしばしばです。教科書レベルの簡単な問題では「選り分け」の機能が果たせないので,それを可能ならしめる奇問難問が出され,無理やり,「できない子」が作りだされている,というのが実情でしょう。こうした傾向は,学年を上がるほど濃厚になっていくものと思われます。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象者に,「自分には,よいところがあると思うか」と尋ねています。2010年度調査の結果でいうと,この問いに対し,「あてはまる」ないしは「どちらかといえば,あてはまる」と答えた者の比率は,公立小学校6年生で74.4%,公立中学校3年生で63.1%です。小6から中3にかけて,肯定率が10ポイント以上下がります。

 さて,このような子どもの自尊心の多寡が,どういう要因とつながっているのかに興味が持たれます。私は,このことを考えるための一助として,上記の設問への肯定率を,都道府県別に出してみました。公立学校のものです。以下に,一覧表を示します。
http://www.nier.go.jp/10chousakekkahoukoku/06todoufuken_chousakekka_shiryou.htm


 全国値は,先ほどみたように,小6が74.4%,中3が63.1%です。しかし,県別にみるとかなり異なり,小6では,最高の宮崎(80.7%)と最低の北海道(68.8%)まで11.9ポイントの開きがあります。中3では,最高の群馬(69.0%)と最低の大阪(55.6%)とでは,13.4ポイント違います。ちなみに,差の規模を測る標準偏差を出すと,小6で2.59,中3で3.35です。子どもの自尊心の地域差は,小学生よりも中学生で大きいようです。

 はて,子どもの自尊心が相対的に高い県は,どういう県なのでしょう。下図は,中学校3年生の自尊感情を地図化したものです。


 上表の肯定率に基づいて,各県を2%刻みで塗り分けています。黒色の高率地域は,秋田,山形,群馬,富山,福井,長野,および愛媛です。白色の低率県の分布をみると,近畿圏が真っ白に染まっているのが注目されます。

 子どもの自尊心と関連する要因として,まず思いつくのは学力です。個人単位でいえば,学力が高い子どもほど自尊感情が高い,という仮説を立てることができます。上記の地域単位の統計をみても,秋田や福井など,学力テストで上位の県が,子どもの自尊感情の上位県に含まれています。

 しかるに,学力と自尊心が過度に結びついていることは,子どもの自尊心の拠り所が,ペーパーテストで測られる教科の学力という,狭小の部分に一元化されていることを意味します。個性重視の教育の必要がいわれる昨今にあって,これは何とも悲しいことです。

 次回において,子どもの自尊心と学力はどれほど相関しているか,また相関の仕方が学年を上がるにつれてどう変わるか,ということを県単位の統計から明らかにしてみようと思います。