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2011年6月26日日曜日

殺人率と自殺率の国際比較

 1月14日の記事において,日本,アメリカ,イギリス,フランス,およびドイツといった先進国の殺人発生率と自殺率を比較しました。日本は,自殺率は高いのですが,殺人率は非常に低いことが分かりました。アメリカなどは,その逆です。このことから,危機状況への対処の仕方が,前者は内向的,後者は外向的であるという特徴づけをしました。

 しかし,世界を見渡せば,もっと多くの国(社会)があります。たとえば,南米諸国の殺人発生率は,先進国の比ではないといわれます。今回は,これらの国をも交えた比較を行い,わが国の国民性の特徴をもっとはっきりさせてみたいと思います。

 私は,世界の40か国について,殺人発生率と自殺率を明らかにしました。前者は,殺人事件の発生件数が人口に占める比率です。後者は,自殺者が人口に占める比率です。双方とも,10万人あたりの率で表します。殺人発生率は,国際連合の統計サイトから得ました。自殺率は,WHOのMortality Databaseから得ました。下記に,URLを貼っておきます。
国連サイト:http://data.un.org/Data.aspx?d=UNODC&f=tableCode%3a1
WHOサイト:http://apps.who.int/whosis/database/mort/table1.cfm

 統計の年次ですが,両指標とも最新のもの使っています。ただし,双方の年次がそろうようにしています。その結果,40か国の統計は,だいたい,2005年前後のものとなったことを申し添えます。日本の場合,2006年の統計を拾っています。下図は,横軸に自殺率,縦軸に殺人発生率をとった座標上に,40か国を位置づけたものです。


 日本は,自殺率が高く,殺人率が非常に低いので,図の右下の底辺を這うような位置にあります。その対極が,コロンビアや南アフリカです。自殺率は低いのですが,殺人率が飛びぬけて高いので,図の左上にプロットされています。

 4月3日の記事で,南アフリカや南米諸国は,失業率が高いにもかかわらず,自殺率は低いことを明らかにしました。殺人率の高さを併せて考えると,これらの国々では,他人に危害をもたらすことで,危機状況を乗り切ることが多いものと推察されます。日本などは,その真逆です。危機状況への対処に際して,自らを殺めるようなことが多いと解釈されます。

 危機状況への対処の仕方が,どれほど内向的(外向的)かを測る尺度を考えてみましょう。今,殺人発生率(H)と自殺率(S)を合算した値(H+S)を,当該社会における極限の危機状況の総量とみなします。この合算値に対するSの比率をもって,内向率といたしましょう。この値が高いほど,危機状況への対処の仕方が内向的であると考えられます。

 日本の場合(H=0.4,S=23.7),この意味での内向率は,23.7/(0.4+23.7)≒98.2%です。極限の危機状況のほぼすべてが,自らを殺めることで処理されているわけです。この指標が最低なのは南アフリカでわずか2.4%です。裏返すと,この国では,危機状況の97.6%が他人を殺めることで処理されていることになります。

 40か国について,内向率の上位5位を挙げると,日本(98.2%),スロヴァニア(97.8%),オーストリア(95.5%),シンガポール(95.5%),スイス(94.6%),です。下位5位をみると,低い順に,南アフリカ(2.4%),コロンビア(8.2%),ベネズエラ(10.6%),ブラジル(12.3%),パラグアイ(16.8%),です。後者では,ほとんどが南米の国です。他の国はどうかという関心をお持ちの方もおられると思うので,HとSの組成図を以下に掲げておきます。


 危機状況への対処の仕方が内向的のほうがよいのか,その逆のほうがよいのかという,価値判断はできません。しかし,日本の内向率の高さは国際的にみても際立っています。時系列的にみても,この内向率が高まってきているのではないでしょうか。

 近年,「自己責任」という言葉が社会全体にはびこっているように思います。しかるに,自らに責を帰す「内向的」な国民性があることをよいことに,お上(政府)が惰眠をむさぼるようなことがあってはならないと存じます。

 付記:殺人率と自殺率の関係から,内向率という指標を考案されたのは,私の恩師の松本良夫教授です。下記の論文を紹介させていただきます。松本良夫「日本における自殺の近況」『現代の社会病理』第21号(2006年),松本良夫・舞田敏彦「殺人・自殺の発生動向の関連分析」『武蔵野女子大学現代社会学部紀要』第3号(2002年)。