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2011年8月7日日曜日

教員の犯罪

 わいせつ目的で,小学校6年生の女子児童を車で連れ去った,川崎市の小学校教諭が逮捕されたそうです。昨年の同じ頃,小・中学生の少女5人を強姦した罪で,稲城市の小学校教諭が逮捕されたことも記憶に新しいところです。
http://www.asahi.com/national/update/0805/TKY201108040932.html

 新聞報道に接する限り,こうした犯罪行為をしでかす教員が増えているような感覚を持ちます。とくに,女児に乱暴やわいせつ行為をはたらく,性犯罪(sexual crime)が多いような印象を受けます。数字でみるとどうなのでしょう。

 警察庁が毎年発刊している『犯罪統計書』には,刑法犯による検挙人員が,犯行時の職業別に記載されています。その中に,「教員」というカテゴリーがあります。小学校や中学校のような,学校教育法第1条が定める正規の学校のほか,専修学校や各種学校の教員なども含んでいるのでしょうが,母集団の構成からして,多くが,小・中・高等学校の教員とみて間違いないでしょう。

 最新の2009年の統計をみると,刑法犯で検挙された教員の数は585人です。そのうち,性犯罪(強姦,わいせつ)による者は45人となっています。この数字は,どう推移してきたのでしょう。「教員」というカテゴリーの検挙人員が分かるのは1996年からですので,この年からの推移をとってみます。


 上表によると,警察の御用となった教員の数は増えてきています。1996年では365人でしたが,2002年に500人を超え,2004年には601人とピークを迎えます。2009年の数字は,それよりも少し減って585人です。1996年の数を100とした指数をみると,この期間中,検挙人員の総数は1.6倍になったようです。性犯罪者の増加率はもっと高く,2.1倍です。

 教員の犯罪が増えていることが確認されましたが,犯罪といっても,いろいろな罪種があります。最新の2009年の検挙人員について,包括罪種の内訳をみてみましょう。教員の特徴を浮かび上がらせるため,成人(20歳以上)の検挙人員全体のものと対比してみます。


 上図によると,成人全体では窃盗犯が最も多いのですが,教員では,粗暴犯による者が32.6%と最多を占めています。粗暴犯とは,暴行,傷害,脅迫,および恐喝の総称です。教員の場合,一般人に比して,こうした暴力犯罪の比重が高くなっています。また,風俗犯の比率が比較的大きいことも注目されます。わいせつは,風俗犯に含まれます。

 数の上ではごくわずかですが,子どもを教え,導く存在である教員の犯罪が増えていることは忌々しき事態です。教員採用試験の教職教養において,公務員が遵守すべき服務について問われる頻度が高いというのも,さもありなん,という感じです。この夏に実施された,東京都の試験の教職教養では,服務の問題が出題されています。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/p_gakko/24senko/answer.htm

 研修などを強化し,服務をしっかりと教え込むことは,犯罪への誘発要因(プル要因)への免疫をつけることにはなるでしょう。しかし,それだけでは不十分であり,犯罪行為へと主体を突き動かすような,プッシュ要因への対処も必要になります。ここでいうプッシュ要因とは,不安定な生活態度が形成されることです。過重な勤務によるストレス増などは,この典型に位置します。

 昨年の夏,小・中学生の女児に対する性犯罪で逮捕された,稲城市の小学校教諭は,動機として「高学年の担当でストレスがたまった」と供述しています。不安定な生活態度(プッシュ要因)が,純粋無垢な女児と接する機会が多いという,プル要因に結びついたが故の犯行といえないでしょうか。

 教員の勤務条件の改善ということも,犯罪抑止策の一翼を担うものと思います。