ページ

2011年8月21日日曜日

教員採用試験の合格者

 教員採用試験の一次試験の結果が,ぼちぼち発表されているようです。合格された方は,おめでとうございます。私の卒論ゼミ生で,再トライ組が数名いるのですが,彼らはどうなったことやら…

 しかるに,最近は人物重視の方針から,一次試験は多く通して,二次試験でバンバン落とすことが多いと聞きます。「勝って兜の緒を締めよ」という格言があります。最初の関門を通過された方は,気を引き締めて,次の関門(面接等)に臨んでいただきたいと思います。

 東京都の場合,この夏(2012年度採用)の試験への応募者は21,061人だったそうです。採用見込者は3,135人だそうですから,想定倍率は6.7倍となります。採用見込み者数が増加したため,昨年よりも倍率は下がったとのことですが,激戦であることに変わりはありません。青森のような,採用数が少ない県では,もっとそうでしょう。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/06/20l69300.htm

 こうした難関を突破し,晴れて教壇に立つことになるのは,どういう人なのでしょうか。5月29日の記事では,小学校教員採用試験の合格者の外的な属性を分析しました。今回は,他の学校種についても同じ分析をしようと思います。

 年次がやや古くなりますが,2010年度の小学校教員採用試験の最終合格者(採用者)は12,284人だったそうです。このうち,教員養成系大学出身者が4,501人と41.0%を占めています。このグループは,受験者では33.7%しか占めません。よって,このグループからは,通常期待されるよりも,1.22倍多く採用者が出ていることになります(41.0/33.7=1.22)。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1300242.htm

 採用者中の比率を,受験者中の比率で除した値を,採用者輩出率と命名しましょう。小学校教員採用試験の採用者輩出率を,性別,学歴別,および新卒・既卒別に出すと,下の表のようになります。


 性別では,採用者輩出率は,男性よりも女性で高くなっています。学歴別では,教員養成系大学出身者が最も健闘しているようです。新卒か既卒では,新卒グループの有利さが目立っています。新卒者は受験者では29.4%しか占めませんが,採用者では38.4%を占有しています。民間企業と同様,教育委員会も,新卒者を好んで採るということでしょうか。まさかねえ…

 上記は,小学校の統計ですが,中学校,高等学校,および特別支援学校についても,同じ統計をつくってみましょう。時代変化の様相も把握するため,1980年度試験と2010度試験の数字を比較してみます。各グループの採用者輩出率は,この30年間でどう変わったのでしょうか。1980年度試験の統計は,文部省『教育委員会月報』(第一法規)の1980年8月号より得ました。


 注目していただきたい数字をゴチにしています。性別でみると,1980年度試験では,男性が優位でした。しかし,2010年度試験では,それがひっくり返っています。

 学歴別でみると,1980年度試験では,教員養成系大学出身者の優位性が明らかでした。このグループの採用者輩出率は,中学校では1.96,高等学校では2.07にも達していました。2010年度試験でも,このグループの相対的優位性が保たれていますが,以前ほどではありません。また,昔は,大学院修了者の採用者輩出率が高かったことも注目されます。当時はまだ院卒者が少なかった頃ですから,それだけ重宝された,ということでしょうか。

 最後に,新卒か既卒かでみると,小学校と特別支援学校(1980年度は特殊教育諸学校)では新卒優位,中学校と高等学校では既卒優位となっています。これは,試験の難易度を反映したものと思われます。倍率が高い中学校や高等学校の試験を一発で突破するのは,なかなか難しい,ということでしょう。

 この中でとくにコメントを添えたいのは,学歴別の動向についてです。最近では,昔に比べて,どのグループからも均質に採用者が輩出される傾向にあります。教員の出自が多様化するという意味において,好ましいことだと思います。わが国の教員養成は,開放性の原則に依拠していますが,その趣旨が生かされることにもなるでしょう。

 近年では,民間企業での実務経験者を教員として採用する向きもあると聞きます。こうした社会人が採用者に占めるシェアはどれほどか,また,それはどう変化してきたかも,機会をみつけて明らかにしてみようと思っています。