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2011年10月5日水曜日

専任教員の非常勤実施率

 関西圏・首都圏大学非常勤講師組合は,4年に1回,大学非常勤講師の勤務実態を明らかにする調査を実施しています。今年(2011年)は,調査の実施年であり,現在結果を集計中のことと思います。

 私としては,細かい数字を並べた統計表よりも,巻末の自由記述を読むのが楽しみです。おそらく,悲惨な生活実態が生々しく記載されていることでしょう。「雇い止めと雇用不安」,「専任との比較」,「非常勤の取り扱い」,「奨学金返済」など,興味深いカテゴリーが立てられることと思います。さて,最新の2007年調査の自由記述の中に,次のような意見(要望)があります。

 「常勤校のある教員は,他校での非常勤を小遣い稼ぎで行うことはやめてほしい。若手の研究者は分野によっては非常勤の口にさえ飢えているのが現状である。常勤校のある教員による非常勤のポストの占拠は,若手研究者の芽を摘む悪逆非道の行為であることを認識して欲しい。」
http://www.hijokin.org/en2007/6.html

 1コマでも多くのコマがほしい専業非常勤講師の,偽らざる心境でしょう。「てめーら,常勤校でどっぷり給料もらってんだろ。非常勤の口までぶん取るんじゃねーよ!」。酒でも入ると,こんな感じになるでしょうか。

 しかし,有名な先生にウチの大学で講義をしてもらいたい,あの先生の研究成果をぜひともウチの学生に・・・というような大学側の(純粋な)願いもあることでしょう。上記の記述にあるような制限策を機械的に適用するのは,行き過ぎのような気もします。

 それはさておき,大学の専任教員のうち,他校で非常勤講師をしている者はどれほどいるのでしょう。文科省の『学校教員統計調査』の2007年版によると,大学の本務教員167,971人のうち,他校で授業を担当していない者は133,985人(79.8%)だそうです。裏返すと,残りの20.2%の者が,他校で非常勤講師をしていることになります。下記サイトの表179をご覧ください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001017860&cycode=0

 この数字は,1989年では26.7%でした。大学の専任教員の非常勤実施率は以前に比べて低下しているようです。最近は,どの大学でも専任教員は雑務に忙しくて,他校で非常勤をする暇がなくなってきているのでしょう。

 このことは,親方日の丸の国立大学や,最高位の教授職といえども,例外ではないようです。下の表は,大学の設置主体および職階別に,本務教員の非常勤実施率の変化を明らかにしたものです。


 まず,国公私別にみると,非常勤実施率の減少幅が最も大きいのは,国立大学の教員です。1989年の29.8%から,2007年の21.3%へと,8.5ポイントも減っています。職階をも考慮した細かいカテゴリー別にみると,減少幅が最大なのは国立大学の教授です。実に14.0ポイントの減です(44.7%→30.7%)。

 ところで,私にとって発見なのですが,助教(助手)さんの非常勤実施率は低いのですねえ。マジョリティーである私立大学でいうと,2007年の率はたったの4.0%です。組織の末端にいる関係上,死ぬほどこき使われる,ということでしょうか。

 専任教員の非常勤バイト禁止というような制限策を実施せずとも,自然な形で,ワークシェアリングは進展していくのではないでしょうか。しかし,大学院修了者がどんどん増えてくるので,コマの争奪戦は変わらず激しさを保ち続けることでしょう。

 1コマでも多くの講義をと,皆が血眼で競い合う(蹴落とし合う)・・・。いつまでたっても,非常勤講師の労働条件が改善されないはずです。雇用者側にすれば,代わりはいくらでもいるのですから,採用の際,「給料はいくらですか」と聞いてくる輩だったら(一般社会では常識!),「じゃあ結構です」とはねつければよいわけです。

 本当の問題は,こういうところにあるというべきでしょう。人為的に実施すべきなのは,大学院進学抑制策であると思います。