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2011年11月6日日曜日

高校無償化政策の効果

すみません。ちょっと話題を変えさせてください。11月5日の朝日新聞に,「経済的理由の私立高中退者,4割減:全国私教連調査」と題する記事が載っていました。
http://www.asahi.com/national/update/1104/TKY201111040603.html

 それによると,経済的理由で私立高校を中退した生徒の数が,9月時点でみて,昨年度よりも4割減ったとのことです。周知のとおり,2010年度から実施されている高校無償化政策の一環として,私立高校の授業料には国からの助成金が下りるようになっています。こうした政策の効果が表れてきた,ということでしょう。

 高校無償化政策のもう一つの目玉は,公立高校の授業料を無償(タダ)にすることです。そうである以上,公立高校の状況も気になります。また,政策が実施されたのは2010年度からですので,政策の実質的な効果をみるには,2009年度と2010年度の統計を比較するのがよいかと思います。

 文科省が毎年実施している『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』では,高校中退者の数が事由別に集計されています。経済的理由による高校中退者の実数と,経済的理由による中退者が中退者全体に占める比率の長期的な推移をとると,下図のようです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016708


 経済的理由による中退者の数は,1980年代にかけて減少し続けますが,平成不況に入った90年代半ばから上昇し,2000年に3,493人に達した後,減少に転じています。中退理由全体に占める経済的理由のウェイトも,似たような推移をたどっています。

 高校無償化政策が実施される前の2009年度と,それが実施された後の2010年度の数字を比べると,経済的理由による中退者の数は,1,647人から1,007人へと減っています。ほぼ4割の減です。経済的理由の比重も,2.9%から1.9%へと大きな減少をみせています。

 グラフをみても,2009年度から2010年度にかけての減少幅の大きさが見てとれます。高校無償化政策の実施は,それなりの効をもたらしたといってよいでしょう。

 次に,政策の実施前と実施後にかけての変化を,公立と私立に分けてみてみましょう。下の表をご覧ください。


 経済的理由による中退者は,公立では807人から498人へと減っています。私立では,840人から509人へと減っています。減少率は双方とも拮抗していて,ほぼ4割ほどです。

 経済的理由による中退者の具体的な状況をみると,公立では,授業料減免の対象となっていた者が242人から31人へと激減しています。授業料が無償となったことの影響でしょう。私立では,授業料の滞納者の減少率が大きいようです。国から就学支援金が出るようになったことで,学費の負担が緩和されたことが大きいと思われます。

 公立と私立に分けてみても,高校無償化政策の効果が看取されます。あと一つ検証してみたいのは,経済的理由による高校非進学が減少したか,ということです。4月30日の記事では,東京都内の高校非進学率の地域差が,教育扶助世帯率のそれとリンクしていることを明らかにしました(2009年度データ)。はて,このような現象が消失しているのかどうか。機会をみつけて,検証してみようと存じます。

*高校無償化政策は,意図せざる結果をもたらした側面もあります。2012年2月11日,12日の記事も参照いただけますと幸いです。