昨日,『2010年度・子どもの学習費調査』の結果が,文科省より公表されました。授業料,修学旅行費,教科書代,通学費,学習塾費など,保護者が子の教育に費やした費用の詳細を知ることができる資料です。教育費といったほうがしっくり来るかと思いますが,原資料の用語に依拠して,「学習費」ということにします。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001012023
この調査は隔年で実施されていますので,前回は2008年度調査ということになります。私は,2008年度から2010年度にかけて,高校段階の学習費がどう変化したかを明らかにしようと思います。この間に,高校教育の大きな制度転換があったからです。それは,高校無償化政策です。
ご存知の通り,高校無償化政策とは,公立高校の授業料をタダにし,国・私立高校の授業料に補助を出す制度です。当局の言葉を借りると,「家庭の状況にかかわらず,全ての意志ある高校生等が,安心して勉学に打ち込める社会をつくるため,国の費用により,公立高等学校の授業料を無償化するとともに,国立・私立高校等の生徒の授業料に充てる高等学校等就学支援金を創設し,家庭の教育費の負担を軽減」する制度だそうです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/index.htm
この制度は,2010年度より実施されています。よって,2010年度の上記調査の結果には,この制度の影響が出ていることになります。はて,学習費の総額やその内訳はどう変わったのでしょうか。昨年の11月6日の記事では,この制度の実施により,高校の中退率,とりわけ経済的な理由による中退率が大きく減じていることを明らかにしました。今回は,学習費の構造変化という観点から,高校無償化政策の効果を検証してみようと思います。
まずは,学習費の総額の変化をみてみましょう。公立と私立とに分けて示します。下表は,高校生の保護者が支出した学習費の平均値を整理したものです。単位は円です。
公立高校の学習費は,52万円から39万円へと大きく減っています。年間12万円ほどの授業料がタダになったことの影響がはっきりと表れています。私立も,公立ほどではありませんが,減少の傾向です。
なお,学習費は,授業料や通学費などの学校教育費と,学習塾費や地域活動費などの学校外活動費に大別されます。この両者の変化をみると,当然,授業料が含まれる学校教育費の減少が顕著です。学校外活動費は,公立と私立で違った様相を呈しています。公立は微減,私立は増です。
うーん,何か嫌な予感がします。高校無償化政策は,所得に関係なく,全ての生徒に一律に適用されるものです。私立高校では富裕層が多いと思いますが,授業料の負担が軽減された分,家庭教師や学習塾の費用を増やした家庭が多いのでは。となると,教育格差の問題が・・・。
細かい細目の変化も観察してみましょう。学校教育費は13の費目,学校外活動費は8の費目から構成されます。まずは,公立高校のデータをご覧ください。
21の費目のうち,12の費目の額が増加しています。増加倍率が最も高いのは寄付金ですが,これは額が少ないので,考慮の外に置きましょう。ある程度の額であり,かつ増加率が高いのは,体験活動・地域活動費と芸術文化活動費です。
授業料がタダになった分,この種の活動への投資が増えるのは,好ましいことだと思います。なお,家庭教師費も増えています。こちらは,先に述べたような懸念が伴いますが,ひとまず置いておきましょう。
次に,私立高校の細目の変化をみてください。公立とは違った傾向が見受けられます。
私立の場合,増えている費目の数は10です。公立より少ないですが,増加幅の大きなものが目につきます。家庭教師費と学習塾費は1.4倍の伸びです。最初の表でみた,私立の学校外活動費の伸びは,これらによるものであるようです。・・・上述の懸念が濃厚になってきます。
高校無償化政策により,授業料負担が大きく軽減されたことにより,経済的理由による高校中退が激減しました。これは,この政策の大きな成果であると思います。ですが,所得の制限をつけなかったことで,学校外教育への投資の階層格差を拡大させたのではないか,という懸念が持たれます。富裕層が多い私立校で,塾や家庭教師関連の支出の伸び幅が大きいことが気になります。
学校外教育への投資を増やしたのは,どういう階層か。上記の文科省調査では,家庭の年収別の支出状況が明らかにされています。そのデータの検討は,次回に譲ろうと思います。