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2012年2月13日月曜日

私立小学生の出身階層

2月1日の記事でみたように,国立・私立中学校への進学率は,富裕層が多い地域で高くなっています。中学受験をするのは,それなりに裕福な家庭の子弟であることがうかがわれます。

 しかるに,私立中学校にも増して階層的閉鎖性が強いと思われる教育機関があります。それは,私立小学校です。最新の統計によると,小学生全体のうち,私立校の児童が占める比率はたったの1.2%です(文科省『2011年度・学校基本調査』)。83人に1人。完全なマイノリティーです。

 このような局所の部分に注目して何になるのかと思われるかもしれません。ですが,私立小学校を起点としたエリートコースが存在することは,よく指摘されるところです。早稲田や慶応のように,初等部(幼稚部)からの一貫教育を手掛けている,有力私学も数多くあります。

 社会移動論の観点からも,私立小学校の児童に,どういう家庭の者が多いかを知っておくことは重要であると思います。まあ,富裕層が多いことは確かでしょうが,その偏りの程度がどれほどかは,あまり明らかにされていないようです。今回は,この点に関するデータをご覧に入れようと存じます。

 文科省の『子どもの学習費調査』から,私立小学校の児童の家庭の年収分布を知ることができます。2010年度調査の結果をみると,年収1200万以上の家庭が全体の42.1%を占めています。年収1000万以上まで幅を広げると,実に58.3%にもなります。私立小学校では,全体のおよそ6割が,年収1000万以上の家庭の子弟ということになります。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001012023

 このような分布は,小学生の子がいる世帯全体の年収分布とは明らかに隔たっていることでしょう。小学生の親御さんの年齢は,広くみて,30~40代と思われます。世帯主が30~40代である,2人以上世帯の年収分布と,私立小学生の家庭のそれを照らし合わせてみましょう。前者は,2009年の総務省『全国消費実態調査』から知ることができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001037021


 先に述べたように,私立小学校では,年収1200万円以上の階層が42.1%を占めますが,この層は,推定母集団の中では2.4%を占めるにすぎません。逆に,年収600万円未満の層は母集団では46.7%をも占めますが,私立小学校では10.2%しか占めないのです。

 なお,私立小学校の家庭での比率(b)を,推定母集団での比率(a)で除すことで,各階層から私立小学生が出る確率の近似値を計算することができます。表の右欄をみると,年収1200万以上の階層からは,通常期待されるよりも17倍の確率で私立小学生が出ていることになります。反対に,年収600万未満の層から私立小学生が出る確率は,期待値の5分の1程度です。

 いやはや,私立小学校の児童が富裕層に偏していることは火を見るより明らかです。予想はしていましたが,これほどまでとは。

 ついでですが,私立中学校と私立高校についても,生徒の家庭の年収分布を出してみました。私立小学校の分布と比べてみましょう。下図から,私立小学校の階層的閉鎖性が際立って強いことを読み取っていただければと思います。


 早いうちから子を私立学校に通わせることは,ブランド品を買うというような,高価な買い物と同じだと考えれば,何ら問題はないのかもしれません。しかし,そのことが将来における地位達成と強く結びついているというならば,話は違ってきます。生まれが人生を規定する階層社会化を容認することにもなりかねません。

 2月1日の記事でも書きましたが,教育とは,世間から咎められないやり方で既存の不平等構造を再生産するための格好のツールです。このことを念頭に置きながら,今後も,教育と社会階層の関連を明らかにする作業を続けていこうと思っております。