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2012年2月15日水曜日

子どもの幸福度指数(家庭)

法政大学の坂本光司教授の研究グループが,47都道府県の幸福度指数なるものを開発して,話題を呼んでいるようです。機能面・経済面とは違った,住民の幸福度を測る試みとしては初めてとのことで,注目を集めていると聞きます。大変意義のある仕事と,敬意を表します。
http://www.hosei.ac.jp/koho/photo/2011/111110.html

 私は,坂本教授らに触発されて,「子どもの幸福度指数」なるものを計算できないか,と考えました。さまざまな年齢層を含む全人口を一括りにするのではなく,それぞれの層に特化した診断も必要であると思われます。教育学徒の端くれである私は,各県の子どもの幸福度を計測する尺度(measure)を考えてみよう,と思い立った次第です。

 子どもの年齢的な定義ですが,義務教育学校(小・中学校)の就学年齢の者を指すこととします。おおよそ,6~14歳の児童・生徒です。法律用語でいうと,学齢の児童・生徒ということになります。

 次に,子どもの幸福度を測る統計指標の選定ですが,これに先立って,大まかな領域を立てておく必要があります。坂本教授らは,住民の幸福度を測るに際して,生活・家族部門,労働・企業部門,安全・安心部門,医療・健康部門,という4つの領域を設定しています。

 対象が子どもの場合,どういう領域設定がよいでしょうか。ここでは,子どもの主要な生活の場を据えてみます。家庭,学校,そして地域社会です。3つの場ごとに子どもの幸福度を計測し,最後に,それらを総合するのが得策かと思います。

 今回は,家庭面での幸福度を測ってみます。家庭は,血縁に基づく情緒的・情愛的な人間関係が支配的な第一次集団です。このような性格を持つ家庭は,成員にとっての憩い・癒しの場になると同時に,子ども,とりわけ幼少の子どもに他者への基本的信頼感を獲得させる機能を期待されています。

 このような理想態から,各県の子どもの家庭がどれほど隔たっているか(どれほど近いか)を測る指標を考えてみます。私は,①被保護人員率,②虐待被害率,③家族交流率,という3つの指標を思いつきました。

 ①は,貧困の多寡を測る指標です。貧困は,上記のような家族の機能遂行を妨げる基底的な条件をなしています。被保護人員率とは,生活保護を受けている小・中学生が,小・中学生全体に占める比率です。分子の生活保護人員は厚労省『被保護者全国一斉調査』,分母の小・中学生数は文科省『学校基本調査』から得ました。2009年のデータです。

 ②は,家族の機能障害を測る指標です。虐待は,子どもに他者への信頼感ではなく,不信感を植えつけてしまうことは,いうまでもありません。この指標が高いことは,家庭が癒しの場ではなく,緊張や葛藤の場になってしまっている度合いが高いことを示唆します。虐待被害率とは,小・中学生が被害者である児童虐待の相談件数が,小・中学生に占める比率です。分子の相談件数は,厚労省の『社会福祉行政業務報告』から得ました。同じく2009年のデータです。

 ③は,字のごとく,家族間の交流の頻度です。この指標が高いほど,上述の理想態に近いと判断されます。家族交流率とは,文科省『全国学力・学習状況調査』の「学校での出来事を家の人と話していますか」という設問に対し,「している」と答えた小・中学生の比率です。ここでいう小・中学生とは,公立の小学校6年生,中学校3年生です。こちらも,2009年のデータです。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm

 私は,この3つの指標を都道府県別に計算しました。全国値と,47都道府県の両端の値を示します。


 どの指標も,県別にみるとかなりの差があります。北海道では,生活保護を受けている子どもが28人に1人なのに対し,富山では1,667人に1人です。虐待被害率も,神奈川と鹿児島では10倍の開きです。家族交流率も,両端では10ポイント以上の開きが観察されます。

 これら3指標を総合して,家庭面での子どもの幸福度指数を構成してみようと思います。坂本教授らのやり方にしたがって,各県の指標の値を,47都道府県中の順位に依拠して点数化します。

 貧困と虐待の指標はマイナス面の指標なので,1~5位=1点,6~10位=2点,11~15位=3点,16~20位=4点,21~25位=5点,26~30位=6点,31~35位=7点,36~40位=8点,41~45位=9点,46~47位=10点,と換算します。

 家族交流はプラス面の指標なので,1~5位=10点,6~10位=9点,11~15位=8点,16~20位=7点,21~25位=6点,26~30位=5点,31~35位=4点,36~40位=3点,41~45位=2点,46~47位=1点,と換算します。

 点数化した3指標の値を平均したものを,家庭面での子どもの幸福度指数といたしましょう。この値が高いほど,幸福度が高いと判断されます。下表に,47都道府県の一覧表を掲げます。


 3指標を総合した,最終的な幸福度指数は右端に掲載されています。富山,静岡,そして鹿児島が7.67と同値で1位です。最下位は大阪の1.67点です。

 うおー,わが郷里の鹿児島が1位とは。当県は虐待被害が全国で最も少なく,家族交流頻度がそこそこ高いことが寄与したようです。貧困の指標はやや高めですが,家族密度が高いことが示唆されます。土地勘がある私としては,分かるような気がします。

 指数が7.00を超える県は赤色にしています。家庭面での子どもの幸福度が相対的に高い県です。お知りおきいただければと思います。

 最後に,47都道府県の幸福度指数を地図化しておきましょう。4点未満を黒色,4点台を赤色,5点台を黄色,6点台を水色,7点以上を白色で塗った地図をつくりました。


 指数が高い白色の地域は,北関東や東海に多く分布しています。指数が低い黒色や赤色は,首都圏や近畿といった都市部に多い印象を受けます。大阪は,坂本教授らのトータルな幸福度診断でも最下位でした。子どもの状況は,社会の状況と無関係ではないことがうかがわれます。

 次回は,学校という場を想定して,各県の子どもの幸福度を測ってみようと思います。家庭面とはまた違った結果が出てくるものと思われます。