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2012年2月26日日曜日

配偶関係別の刑務所入所率

2010年の法務省『矯正統計年報』によると,この年の間に,刑務所に新たに入所した者の数は27,079人だったそうです。『国勢調査』から分かる,同年の15歳以上人口で除すと,10万人あたり24.6人という比率になります。4,065人に1人。自殺率とほぼ同じ水準です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001076421

 この刑務所入所率は,1970年が32.6,1980年が31.7,1990年が22.6,2000年が25.4,そして2010年が24.6というように推移しています。

 刑務所入所者の量的規模はさておき,罪を犯して堀の中に入る輩には,どういう人間が多いのでしょうか。女性よりも男性,高齢者よりも若年者が多いのは知っていますが,もっと突っ込んだ属性別の統計も知りたいところです。

 上記の法務省資料では,刑務所入所者(資料の用語では新受刑者)の数が配偶関係別に集計されています。この数を,『国勢調査』から分かる配偶関係別人口で除せば,配偶関係別の刑務所入所率を計算することができます。ムショ入りする確率は,配偶関係によってどれほど違うのでしょう。

 私は,有配偶者,未婚者,および離・死別者という3カテゴリーについて,人口10万人あたりの刑務所入所率を計算しました。分子の刑務所入所者数は2010年間,分母の人口は2010年10月1日時点のものです。性別の影響が入るのを防ぐため,男性と女性に分けて率を出しています。


 刑務所入所率は,性別を問わず,有配偶者よりも未婚者,未婚者よりも離・死別者で高くなっています。男性の離・死別者の入所率は,10万人あたり257.8人(388人に1人)です。他のグループを圧倒する高さです。

 なお,配偶関係による差は,女性よりも男性で大きくなっています。男性の場合,未婚者の入所率は有配偶者の3.8倍,離・死別者は15.8倍です。女性は順に,1.5倍,4.0倍です。独り者のほうが犯罪をしでかす確率が高いであろうことは予測していましたが,男性では,これほどまでに違うとは驚きです。

 T.ハーシは,社会との絆(ボンド)を多く持っている者は,犯罪を思いとどまると説いています。そのボンドの一つとして,この人物は,「愛着」というものを挙げています。簡単にいうと,愛する人を悲しませたくない,という心情のことです。「この人を悲しませたくない,この人には迷惑をかけられない」と思える愛着対象を多く持っている人間ほど,犯罪に走る確率が低いであろうことは,首肯できるところです。

 離・死別の男性の場合,この「愛着」のボンドが少ない,といえるのではないでしょうか。わが国では,夫婦が離婚した場合,母親が子を引き取るケースが大半です。つまり,男性が離婚すると,妻と子の双方に去られてしまうわけです。また最近では,失業した夫に妻が愛想をつかして離婚するケースも増えているようですが,その場合,男性にすれば,職場と家族を一気に失うことを意味します。

 このようにして,愛着ボンドを根こそぎ奪われた男性が犯罪に傾斜しやすいであろうことは,想像に難くありません。男性において,離・死別者の刑務所入所率が際立って高いことは,こういう視点から解釈できるのではないか,と思います。

 ところで,上表で明らかにした傾向は,今日に固有のものなのでしょうか。時系列比較により,この点を検証してみましょう。下表は,配偶関係別の刑務所入所率の推移を,10年刻みでとったものです。下段には,有配偶者の率を1.0とした指数値を掲げています。


 下段の指数に注目すると,男女とも,配偶関係間の差が広がってきています。男性では,有配偶者の入所率は減少してきているのに対し,未婚者や離・死別者はその逆であるためです。失業率や有期雇用率の高まりにより,職域の安定性が揺らいでいる今日,男性にとって,家族集団の重要性が増してきていることがうかがわれます。

 2010年の統計によると,男性の離・死別者は約361万人です。15歳以上の同性人口に占める比率は6.8%,およそ15人に1人です。ごく少数というわけではありません。今後,離婚率の高まりにより,この層がますます増えてくることが予想されます。

 もっと一般的にいえば,ソーシャル・ボンドが脆弱な人間が増えてくるであろう,ということです。今回みた統計は,孤族化,無縁化が急速に進行する社会の行く末を暗示しているものと,捉えることもできるでしょう。