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2012年3月21日水曜日

精神疾患による教員の休職率(年齢層別,都道府県別)

精神疾患が原因で休職する確率が最も高いのは,教員のどの年齢層でしょうか。昨年の6月3日の記事でみたところによると,公立学校の教員のうち,精神疾患による休職確率が最高なのは,50歳以上の高齢教員です。

 しかるに,これは全国の統計です。都道府県別にみれば,様相は多様であることでしょう。教員のメンタルヘルスに中心的に取り組む主体が,各県の行政であることを思うと,精神疾患を罹患しやすい年齢層(要注意層)を県別に割り出す作業が必要かと存じます。

 そのためには,精神疾患による休職教員の年齢層別数値を県ごとに得なければいけませんが,文科省の「教育職員に係る懲戒処分等の状況について」では,そこまで細かいデータは公表されていません。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1300332.htm

 そこで私は,文科省に情報公開申請を行い,目的のデータを入手することを試みました。1か月ほど待たされましたが,本日,年齢層別の休職者数(2009年度間)を各自治体別にまとめた資料が送られてきました。感無量です。現物の写真をお見せします。


 47都道府県・19指定都市の計66枚の資料が封筒に入っていました。写真に映っているのは,北海道,青森,そして岩手のものです。

 この資料をもとに,各県について,2009年度中に精神疾患で休職した公立学校教員の年齢層別の数を明らかにしました。それを,各県の本務教員の年齢統計で除して,年齢層別の休職率を計算ました。

 ここでいう公立学校教員とは,小学校,中学校,および高等学校の教員のことです。休職率計算の際,分母として使った県別・年齢層別の本務教員数は,2010年10月1日時点の数値です(文科省『学校教員統計調査』)。分子の休職者数と年次が1年ズレていますが,2009年の本務教員数の県別・年齢層別数値を得ることはできませんので,このような措置をとったことをお許しください。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001033683&cycode=0

 では,作業に入りましょう。まずは,休職率の計算過程のイメージを持っていただくため,東京と全国について,分子と分母のロー・データをお見せします。


 上表は,3つの年齢層について,精神疾患による休職率(以下,精神疾患率)を出したものです。どうでしょう。全国でも東京でも,精神疾患率は,中年層(40代)で最も高くなっています。中年期の危機というやつでしょうか。*昨年の6月3日の記事と違った結果になっていますが,指標の計算方法が異なること,特別支援学校の教員を除外していることが影響していると思われます。

 なお,どの年齢層でも,精神疾患率は東京のほうが高いようです。都市的環境の故でしょうか。このことを考えるのは,他県の統計も押さえてからにしましょう。下表は,47都道府県の年齢層別の精神疾患率を一覧にしたものです。指定都市の分は,当該市がある県の分に含めて率を計算したことを申し添えます。


 左欄は,休職率の実値です。最大値には黄色,最小値には青色のマークをしました。各県で値が最も高い年齢層の数値は赤色にしています。右欄は,47都道府県中の相対順位です。1~5位までの数字は赤色にしています。

 多くの県で中年層(40代)の精神疾患率が最も高いようですが,例外もあります。秋田,茨城,そして福井では,若年層(20~30代)の率が最高です。秋田と福井は学力調査の上位常連県ですが,このような偉業の裏には,若年教員の燃え尽き(バーン・アウト)のような問題が潜んでいるのでしょうか。これらの県では,若年教員の比重は小さいことでしょう。それだけ,彼らが被る圧力も大きいのではないかと思われます。

 50歳以上の高年層の精神疾患率が最も高いのは,8県です。広島や福岡といった,地方の中枢県が含まれています。

 なお,どの年齢層でみても,教員の精神疾患率が最も高いのは沖縄です。当県の精神疾患率が高いのは知っていましたが,それは,年齢階層を問わないようです。沖縄の中年層の率は19.6‰(≒2%)ですから,50人に1人ということになります。

 次に,各年齢層の精神疾患率と関連する環境要因について考えてみましょう。右欄の順位をみると,沖縄はオール1位ですが,東京も,全年齢層の率が上位5位にランクインしています。大阪は,中年層と高年層の率が2位です。高年層の精神疾患率の上位5位は,沖縄,大阪,広島,東京,そして福岡です。いずれも都市地域です。

 教員の精神疾患率と都市的環境の関連は,2月22日の記事でも明らかにしましたが,双方の関連が強いのはどの年齢層でしょうか。私は,2010年の『国勢調査』から,各県の人口集中地区居住率を計算し,教員の年齢層ごとの精神疾患率との相関関係を調べました。

 人口集中地区居住率(都市化率)は,若年教員の精神疾患率と0.187,中年教員の率と0.419,高年教員の率と0.570,という相関関係にあります。後二者の相関係数は,統計的に有意です。高齢の教員ほど,精神疾患と都市的環境のつながりが強い傾向にあります。


 都市地域ほど,あれこれと口出ししてくる(高学歴の)保護者が多いことでしょう。理不尽な要求を吹っ掛けてくるモンスター・ペアレントについても然り。こういう状況に対する戸惑いが大きいのは,長年異なる状況下で教員生活を送ってきた高齢教員であると思われます。

 若年教員の場合,精神疾患と都市的環境は無関係のようですが,この層の精神疾患率を規定する社会的要因は何でしょう。教員集団の年齢構成(若年層の量),近年の採用試験の競争率(ゆとり世代の量)など,いろいろ考えられます。

 精密な要因解析は,長期的な課題にしようと思っております。各県の教員の勤務条件指標などは,間もなく公表される,2010年の文科省『学校教員統計』の詳細結果から知ることができますし。

 当局の内部資料も含め,教員の精神疾患に関連する統計資料がたまってきました。これらをまとめて,「教職危機の社会学的研究」というような学術研究につなげることはできないか,と思案しています。