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2012年4月26日木曜日

都道府県別の小学校教員の離職率(2009年度)

昨年の7月28日の記事では,教員の離職率を県別に明らかにしたのですが,この記事を見てくださる方が多いようです。本記事の離職率は2006年度間のものですが,もっと新しいデータはないか,という要望もあるかと存じます。

 お待たせしました。先月の末に公表された,2010年の文科省『学校教員統計調査』のデータを使って,2009年度の県別離職率を出してみました。同調査の教員異動調査では,調査年の前年度間に離職した教員の数が計上されています。最新の2010年調査では,2009年度間に離職した教員の数が明らかにされているわけです。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172

 ここでの関心は,各種の危機や困難によって教壇を去った教員の量を測ることです。よって,定年や大学等入学による離職は除きます。また,死亡という理由も,偶発的な要素が濃いので除外します。あと一つ,転職による離職ですが,文科省に問い合わせたところ,現場から指導主事として教育委員会に出向くようなケースも転職とみなされるそうなので,この理由の離職者数も計算に含めないこととします。

 残りの離職理由は,①「病気」,②「家庭の事情」,③「職務上の問題」,および④「その他」というものです。私は,これらの理由による離職者数が,教員全体に占める比率を計算しました。「家庭の事情」を含めることに違和感を持たれる方がいるかと思いますが,この理由カテゴリーは曖昧な要素を持っています。不適応で辞める場合であっても,形式上,このような理由が表明されることが結構あると聞きます。

 なお,2006年度までの離職統計では,上記の②~④は「その他」として一括されていました。過去の離職率との比較も行う関係上,②と③も分子に含めることとした次第です。

 あと一点,申しておくべきことがあります。教員といってもいくつかの学校種がありますが,今回は,小学校教員の県別離職率を計算します。このことの理由についてです。

 県別の理由別の離職者数は,国公私をひっくるめた全体のものしか得られません。中高では私立校のシェアが大きくなりますが,私立校の場合,経営不振に伴うリストラによる離職者が,④の「その他」のカテゴリーに多く含まれると思われます。このような弊を最小限に抑えるため,ほとんどが公立校である小学校段階の離職率を計算することとしました。

 前置きが長くなりました。では,作業に入りましょう。下表のbは,2009年度間の離職者数です。aは,同年5月1日時点の本務教員数です。bの総和をaで除すことで,諸々の危機による,小学校教員の離職率を算出することができます。単位は‰です。千人あたり何人か,という意味です。


 全国値は11.5‰,つまり100人に1人ほどですが,県別にみると,かなりの差異が見受けられます。最も高いのは鹿児島です。私の郷里です・・・。当県の離職率は38.1‰(≒3.8%),およそ26人に1人が,何らかの危機や不適応によって職を辞したと推測されます。

 ほか,離職率が高い県はどこでしょう。20‰(2%)以上の数値は赤色にしましたが,千葉,京都,鳥取,および徳島がこの水準を超えています。

 小学校教員の離職率が最も低いのは沖縄です。たったの3.3‰です。2月19日の記事でみたところによると,精神疾患による休職率はこの県が最高なのですが,離職率は真逆になっています。民間に比した教員の給与水準が高い沖縄では,教員の職を手放すのが惜しく,休職という形で職に留まる者が多い,ということでしょうか。

 離職率が最も高い鹿児島ですが,分子の4つの理由による離職者数は295人です。このうち,20代が137人と,46.4%をも占めています。当県では,危機や不適応によると推測される離職者のほぼ半分が20代の若年教員です。全国の同じ値(28.4%)を大きく上回っています。

 鹿児島では,若年教員の離職率の高さが,全体の離職率の高さとなって表れているものと思われます。年齢層別の離職率を県別に出すのも面白い作業ですが,それは回を改めることとしましょう。

 次にみてみたいのは,2006年度から2009年度にかけて,各県の小学校教員の離職率がどう変わったかです。3月30日の記事では,この期間中にかけて,公立小学校教員の離職率が大幅に伸びていることを知りました。東京都がモンスター・ペアレントに関する実態調査の結果を公表したのは2008年9月ですが,現場の困難度がいっそう高まった時期と解されます。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr080918j.htm#bessi

 はて,この3年間にかけて,各県の小学校教員の離職率はどう動いたのでしょう。2006年度と2009年度の離職率を比較してみます。県別の一覧を掲げるだけというのは芸がないので,結果を視覚的に表現してみましょう。

 横軸に2006年度,縦軸に2009年度の離職率をとった座標上に,47の都道府県を位置づけてみました。Y=Xは均等線です。この線よりも上に位置する場合,この期間中に離職率が高まったことを意味します。下にある場合は,その逆です。Y=2Xよりも上にある場合,この3年間で離職率が2倍以上になったことを示唆します。


 この期間中,離職率が下がったのは8県です。減少幅が最も大きいのは山梨で,16.2‰から6.9‰へと9.3ポイントも減じています。次に減少幅が大きいのは石川で,4.8ポイントの減です。

 これらは事態が好転している県ですが,悲しいかな,残りの大半の県はその逆です。とくに,図中のY=2Xよりも上方に位置する11の県が気がかりです。これらの県では,わずか3年間で離職率が倍増しています。県名が気になる方もいると思うので,掲げておきましょう。宮城,秋田,山形,福島,茨城,福井,滋賀,京都,島根,長崎,鹿児島,です。

 図の位置からお分かりかと思いますが,増加倍率が最高なのは鹿児島です。8.6‰から38.1‰と,4.4倍になっています。故郷だからでもありますが,この県で何が起きているのか気になるなあ。

 回を改めて,当県の性別・年齢層別の離職率を出し,どの層において,全国水準との開きが大きいのかを探ってみることにします。言葉がよくないですが,病巣を突き止める作業です。社会病理学徒の端くれである私に課せられる仕事というのは,こういうことなのかもしれません。