前回は,公立学校の新規採用教諭の年齢構成を明らかにしました。そこで分かったのは,新卒該当年齢(20代前半)が思ったより少ないこと,以前より高齢化が進んでいることです。
採用試験の難関化により,現役一発ではなかなか受かりにくくなっている,ということがあるでしょう。と同時に,民間企業での勤務経験者のような,多様な人材が求められる傾向が強まっていることも影響していると推察されます。
今回は,都道府県別のデータをみてみようと思います。私は,2009年度の小・中学校の新規採用教諭の年齢構成を県別に明らかにしました。資料は,2010年の文科省『学校教員統計調査』です。なお,新規採用教諭の県別の年齢層別数値は,国公私の全体のものしかとれません。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
まあ,小・中学校では,国私立校のウェイトはごくわずかですから,公立学校の採用試験の合格者とほぼ近似する集団とみなしてよいでしょう。
下表は,各県の新規採用教諭の中で,30歳を超える者がどれほど占めるかを整理した一覧表です。最大値には黄色,最小値には青色のマークをしています。
一番下の全国値をみると,30歳以上の者の比率は,小学校は23.4%,中学校は28.4%です。前回みた,公立学校の数値と大差はありません。
県別にみるとどうでしょう。私が在住している東京の小学校では,新規採用教諭1,629人のうち,30歳を超える者は340人です。率にすると20.9%で,全国水準よりは低くなっています。中学校は33.1%で,こちらは全国値を凌駕しています。
47都道府県中の最大値は,小,中学校とも沖縄です。この県では,新規採用教諭のほぼ7割が30歳以上です。最も低いのは愛媛です。当県の小学校の新規採用教諭は,9割以上が20代です。すごい差ですね。
40%を超える場合,数字を赤色にしています。小学校では4県,中学校では7県において,30歳以上の者の比率が4割を超えていることが知られます。新規採用教員の年齢構成は,県によって違うものですね。社会人経験者を対象とした特別選抜を実施しているかどうかなど,要因はいろいろ考えられますが,ここでは深入りしません。
小学校の新採用教諭について,30歳以上の者の比率を地図化してみました。10%の区分で塗り分けた日本地図です。
新規採用教諭の高齢化が比較的進んでいる,黒色と赤色の地域は,東北や四国・九州など,周辺部に分布しています。首都圏や近畿の都市部の県は,色が薄くなっています。
今思ったのですが,地方周辺県で採用者の高齢化が進んでいるのは,都市からのUターン組が多いためではないでしょうか。私は,鹿児島県奄美群島の高卒者の人生行路を調べたことがあるのですが,調査対象者の多くが高卒後都市部(本土)に出て,30近くになってから地元にUターンする,という経路をたどっていました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/40006490522
面接対象者の中に,「教免でもあれば,地元の採用試験を受けるんだけどねえ」と言っていた人がいました。沖縄では,本土からのUターン者が受験者に多く含まれているのではないかしらん。となると,上記のデータは,地元での「再チャレンジ」の機会がそれなりに与えられているという解釈も可能です。
しかるに沖縄では,若年(20代)の採用者が少ないためか,教員の年齢構成がやや「いびつ」になっています。
上図は,2010年の文科省『学校教員統計調査』から作成したものですが,沖縄は20代の比重が極端に少なく,中堅層が出っ張った型になっています。20代の比率は全国は13.3%ですが,沖縄はわずか3.2%です。
2月19日の記事でみたように,沖縄は教員の精神疾患率が全国で最も高いのですが,その一因は,こうした教員集団の組成にあるのかもしれません。少数の若年教員にかかる圧力も大きいものと思われます。
文科省の『学校教員統計調査』からは,新規採用教諭の「採用前の状況」も知ることができます。社会人が何%いるか,という情報を得ることも可能です。こちらも手掛けてみたい課題です。
この調査は,本当に「宝の山」です。教員研究に携わっておられる大学院生のみなさん,本調査を存分に活用なさってください。忙しい現場の先生に調査をお願いするのは,こういう既存資料をしゃぶり尽くしてからにしたほうがよいかと思います。
「これだけは自前で調査しないと分からない,これだけは明らかにしたい!」という焦点が鮮明になっているなら,調査票はごくシンプルなものになるはずです。ぶくぶく太った調査票になるのは,焦点が定まっていない証拠です。それは先方への失礼以外の何ものでもありません。
最近,外部からの調査に対する,学校現場のガードが非常に固くなっていると聞きますが,それは当然の成り行きともいえます。大学院生が急増した現在,事前の詰めもなく,安易な調査依頼をする輩が増えていますので。