文科省『学校教員統計調査』は,教員個人調査と教員異動調査からなるのですが,前者では,教員の基本的な属性別の人数が示されています。今回は,最新の2010年調査のデータを使って,公立学校教員の学歴構成を明らかにしようと思います。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
先生はみんな大卒に決まってるじゃん,といわれるかもしれませんが,大卒といっても,教員養成系大学卒と一般大学卒に分かれます。また最近では,大卒よりも一段高い大学院卒の先生も増えてきていることと思います。
私は,公立の幼稚園,小学校,中学校,および高等学校の教員の学歴構成を調べました。①大学院卒,②教員養成系大学卒,③一般大学卒,④短期大学卒,⑤その他,という5カテゴリーの組成がどうなっているかをグラフにしてみます。
幼稚園の教員は,ほぼ7割が短大卒です。小学校では教員養成大学卒の比重が高く,中高では一般大学卒業者の比重が高くなっています。大学院の修了者は上の段階の学校ほど高くなります。幼稚園は0.7%,小学校は3.1%,中学校は5.8%,高校は12.8%,です。
当然といえば当然ですが,上級の学校ほど,教員の学歴構成は高くなっています。次に,各学校の年齢層別の様相も観察してみましょう。若年教員と年輩教員とでは,また違った傾向が出てきます。下図は,各学校について,5歳刻みの年齢層別の学歴構成を図示したものです。
幼稚園では,短大卒(紫色)の領分が大きいのですが,若年層ほどそれが小さくなり,代わって大卒の比重が増してきます。小学校でも,年齢を下がるにつれ,短大卒の比率が減じてきます。
中学や高校といった中等教育機関では,若年層において,大学院修了者の比率が相対的に高いことが注目されます。高校の20代後半では,院卒教員の比率は21.1%です。5人に1人が院卒ということになります。
上図からはいろいろな傾向が看取されるのですが,私が注目したいのは,大学院修了者の比重です。最近は,大学進学率の上昇により,児童・生徒の保護者の多くが大卒という状況です。これでは知識の伝達者としての教員の威厳が,ということで,教員養成の期間を6年に延ばし,教員志望者には修士の学位をとらせよう,という案が浮上しています。
この案が実現すれば,上図の青色の領分がうんと広がることになりますが,そうならずとも,院卒教員の比率は伸びていくことでしょう。文科省の大学院重点化政策により,大学院修了者が激増している状況です。大学院を終えて,修士ないしは博士の学位を取っても定職に就けない者もいます。知的資源の浪費以外の何ものでもありません。こういう輩に対し,中高の教員への道が開かれるのは結構なことです。
現在,秋田県のように,博士号取得教員の採用に積極的な姿勢を示している自治体もあります。この県では,高校教員のうち何%くらいが院卒者なのかしらん。
公立高校教員に占める院卒者の比率を県別に出してみました。最近10年ほどで,各県の値がどう変わったかもみてみようと思います。下図は,1998年と2010年の県別数値を地図化したものです。両年とも,同じ基準で塗り分けました。
全国値は8.3%から12.8%へと伸びていますが,院卒教員の増加傾向は地域を問わないようです。この期間中にかけて,全体的に地図の色が濃くなっています。
2010年の最大値は佐賀です。当県では,高校教員のほぼ2割が大学院修了者です。最も低いのは埼玉の6.8%。この県だけが,1998年から2010年にかけて院卒教員率が減少しています(7.2%→6.8%)。
それはさておき,大学院修了教員の多寡によって,教育効果がどれほど違うかは興味深い問題です。専門性の高い指導により子どもの学力アップ!ということがあるのでしょうか。公立小・中学校の院卒教員率と,2010年の『全国学力・学習状況調査』の各教科の平均正答率との相関をとったところ,どの教科の正答率とも無相関でした。
うーん,残念。もし強い正の相関(院卒教員が多い県ほど正答率が高い)が認められれば,大学院バンザイ!と喝采を叫べるのですが。いや,国語や算数(数学)という教科だからかも。2012年度の学力調査から,新たに理科も調査教科に加えられるそうですが,理科の正答率とは関連があるのでは・・・。希望的観測を書いておきます。