2010年のわが国の平均寿命は,男性は79.6歳,女性は86.4歳だそうです(総務省統計局『日本の統計2012』)。日本は,世界でも有数,いや最高の長寿社会であるといえます。
http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm
しかるに,不幸にも若くして命を落としてしまう人間もいます。若い生命を散らしてしまう原因は,どのようなものなのでしょう。私は,20~30代の若者の死因がどういうものかを調べました。現在の特徴を見出すため,戦後の長期的な変化をたどってみようと思います。
まずは,若者の死亡者数,およびベースの人口あたりの死亡率がどう変化してきたかを押さえておきましょう。後者の死亡率は,10万人あたりの比率です。厚生労働省の『人口動態統計』にあたって,1950年(昭和25年)以降の5年刻みの数字を拾ってみました。
若者の死亡者数は,時代とともに大きく減ってきています。2010年の20代の死亡者は6,190人。1950年の10分の1以下です,30代の死亡者数も,この60年間で5分の1近くにまで減じています。
ベースの人口規模を考慮した死亡率も然り。1950年の30代の死亡率は,10万人あたり533人でした。百分率にすると0.53%。当時は,30代の若者であっても,188人に1人が命を落としていたわけです。しかし,その後死亡率はぐんぐん低下し,現在の30代の死亡確率は,1,445人に1人という水準にまで落ちています。
医学の進歩,衛生状態の改善といった社会変化の恩恵が表れています。ですが,今でも年間2万人近くの若い命が失われていることを等閑視すべきではありますまい。
若者の死因の内訳は,どういうものなのでしょう。高齢者の場合,死因の多くは病気なのですが,若者は違っているものと思われます。私は,上記厚労省資料の年齢層別の死因統計(簡単分類)をもとに,この60年間における若者の死因構成の変化を眺めることができる統計図をつくりました。まずは,20代の図をみていただきましょう。
グラフの始点の1950年では,全死因の半分以上が結核でした。当時はまだ,結核が不治の病であった頃です。
その後,特効薬の開発により結核の比重が減少し,他の原因が増加します。1960年代以降,モータリゼーションの進行のためか,交通事故のウェイトが高まってきます。がんや心疾患(心臓病)のような生活習慣病も目立ってきます。私が生まれた1970年代半ばには,こうした「現代型」の死因構造はできあがっていたようです。
しかるに,1990年代半ば以降,さらなる激変が起きます。自殺(suicide)の増加です。ご覧ください。ここ15年ほどにかけて,黒色の膿(うみ)が広がってきています。2010年では,20代の全死因の6割ほどが自殺です。この点については,1月16日の記事でもみたのですが,近年の変化の大きさに改めて驚かされます。
20代といえば,学校から社会への移行期にあたりますが,最近,就職失敗で自殺する大学生の存在が問題になっていることは,周知のところです。
次に,年齢層を1つを上がって,30代の死因構成図をみてみましょう。私の年齢層です。どういう模様が観察されるのやら。
変化の基本型は20代と同じです。30代でも,近年における自殺の比重の増加が見てとれます。なお,30代の自殺率がかつてないほど高まっていることは,3月23日の記事でみた通りです。
20代との相違点はといえば,3大生活習慣病(がん,心疾患,脳血管疾患)の比重が高いことでしょうか。30代といったらバリバリの働き盛りですが,近年の職場環境の歪みを考えると,さもありなんです。ずさんな食生活,運動不足といった要因も,生活習慣病の増加に寄与していることでしょう。私などは危ないなあ。
今回お見せした死因の構成変化図は,子どものものもつくれます。乳児,幼児,青少年というように,発達段階ごとの図をつくったら面白いかも。乳児の場合,虐待死(他殺)のような死因が増えているかもしれません。
この手の統計図がたまってきました。何枚かは,拡大プリントして部屋の壁に貼っています。自宅がもう少し広ければ,ちょっとした展覧会も・・・。また馬鹿げたことを考えています。*いや,学園祭のゼミの出し物としてはいいのではないかなあ。