4月23日の記事では,公立学校の新採教諭の採用前の状況がどういうものかを明らかにしました。2009年度の公立小学校の新採教員(12,527人)でいうと,新卒が45.5%,社会人が5.8%,非常勤講師・塾講師等が47.7%,高専以上の教員が1.0%,です。
以前は新卒が主流でしたが,現在では,非常勤講師などをしながら採用試験に複数回トライした浪人組がマジョリティになっていることが知られます。その量,およそ半分なり。
上記の記事でも書きましたが,採用試験の難関化により,現役一発ではなかなか受かりにくくなっていることがあるでしょう。採用側にしても,教職経験のある人材(非常勤含む)を歓迎する向きがあります。まあ,非常勤とはいえ,一応は教壇に立った経験のある人材が多く集うことは,悪いことではありますまい。
しかるに,非常勤講師経験の長い者は,授業が自己流になっている,という指摘もあります。彼らには研修を強制できないためです。また,正規採用時に高齢化しているので(30歳以上も多し),若さと体力で子どもから支持される経験を味わう機会を逸することにもなります。このことが,教員としての力量形成,自我形成に影響しないかどうか・・・。これらの点については,6月14日の記事をご覧いただければと存じます。
今回は,小学校新採「教諭」の採用前の状況を,都道府県別にみてみようと思います。新卒が何%,非常勤講師等が何%という構成は,県によって大きく異なることでしょう。県単位のローカルなデータも,また一興です。
資料は,2010年の文科省『学校教員統計』です。県別の数値は,国公私全体のものしか得られませんが,小学校では国・私立校はほんのわずかですので,公立小学校の新採教諭(≒採用試験合格者)のデータとみなしてもよいでしょう。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
下図は,採用前の状況の構成を,県ごとに帯グラフで示したものです。新卒は,県内学校と県外学校に分けました。社会人は,官公庁勤務,民間勤務,ないしは自営業だった者です。カッコ内の数字は,新採教諭の実数です。東京でいうと,1,629人の採用前の状況が図示されていることになります。
ほとんどの県において,非常勤講師・塾講師等(浪人組)が最多となっています。秋田,石川,宮崎,そして沖縄では,このグループの比重が8割を超えます。
全体的にみて,この層の比重は,採用試験の競争率と相関しているように思えます。東京や神奈川など,競争率が低い都市部では,紫色の領分が比較的小さいようです。競争率が高い地方県は,その反対です。試験が難関化している県ほど,採用者に浪人組が多いというのは道理です。
次に,図の青色の部分に注目しましょう。県内学校出身の新卒者の比重です。この値が高いほど,土地勘のある人間が多く採用されていることになります。各県の教育界と地域の密着度を測る尺度としての面も持っています。
県内新卒率の上位5位は,岐阜(42.7%),北海道(40.9%),新潟(39.3%),京都(39.0%),そして島根(33.9%),です。
岐阜は,新採教諭の4割以上が県内の新卒者ですが,県内の国立学校(岐阜大学)出身の新卒者に限ると,その比率は27.4%なり。ほう。4人に1人が岐阜大学出の新卒者なのですね。辞令交付式の会場は知り合いが多く,さぞ和やかな雰囲気であったことと思います。
地方の国立大学は,地元の教員養成を主たる機能としているのですが,その機能の遂行の度合いは,今計算した指標によって測れるかもしれません。岐阜大学は27.4%ですが,私の郷里の鹿児島大学は11.8%です。いろいろ注目を集めている秋田の秋田大学は16.7%なり。むーん,違うものですね。機会をみつけて,地元国立大学新卒占有率を全県分出してみようと思います。
なお,緑色の社会人の比重も県によって異なっています。15%を超える県は,青森,山形,茨城,鳥取,高知,熊本,そして大分です。社会人に,比較的門戸を開いている県といえるでしょう。
上図の模様如何によって,新採教員のパフォーマンスがどう異なるかは,興味深い問題です。新採教員の中に,非常勤経験の長い高齢教員が多くなることの問題点については,先ほど簡単に述べました。紫色の領分が大きい県では,もしかすると,こうした問題が色濃いのかもしれません。初任者研修の場で,「こんなことアホらしくてできるかい」,「そんなこと分かってるよ」とメモも取らずにふんぞり返っている輩が多いのは,こういう県かもしれません。
それでは,今回はこの辺りで。