一口に犯罪といっても,コソ泥から殺人のようなシリアスなものまで,さまざまな罪種があります。2010年中に警察に検挙・補導された犯罪者の罪種構成を調べてみました。*14歳に満たない触法少年の場合,検挙ではなく「補導」といいます。
警察庁『平成22年の犯罪』によると,同年中に検挙・補導された10代少年は102,609人,20歳以上の成人は236,226人だそうです。合計すると,338,835人なり。延べ数にして,年間33万9千人ほどの犯罪者が出たことになります。国民全体(1億2千万人)に対する比率にすると,千人あたり2.8人となります。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm#sousa
10代少年(以下,少年)と成人に分けて,罪種の構成をみると,下表のようです。6つの包括区分のもと,28の小罪種ごとの内訳を百分比で表しています。
少年でも成人でも,万引きのような非侵入盗が全体の4割を占めています。次に目立つのが占有離脱物横領。これは,他人の手(占有)を離れた物をくすね取ることです。落ちている財布を交番に届けないでわが物にした場合,この罪に問われることになります。
少年では乗り物盗も多くなっています。大半が自転車ドロでしょう。成人では,暴行や傷害といった粗暴犯も比較的多し。なお,世間を騒がせる凶悪犯は,少年でみても成人でみても,比重の上ではごくわずかです。少年で0.9%,成人で1.8%なり。
ところで,少年といっても,年少少年と年長少年では傾向が違うことでしょう。成人にしても,若者と高齢者の差異が気になります。そこで,細かい年齢別の傾向も観察してみることにしました。少年は1歳刻み,成人は5~10歳刻みにして,罪種の構成を明らかにし,結果を面グラフで表現してみました。
当然ですが,非侵入盗が多くの領分を占めています。真ん中から左右へと広がっていく蝶のような形です。年少の少年や高齢者では,スーパーなどでの万引きが多いためでしょう。
少年では,中学生あたりでは乗り物盗が幅をきかせています。また,加齢とともに占有離脱物横領のシェアが増してきます。この罪種の比重のピークは,19歳で31.7%です。なお19歳では,詐欺のような知能犯も目につきます。振り込め詐欺の片棒を担がされるなどのケースも少なくないことでしょう。
成人では,20~30代の若年層では,暴行や傷害が2割ほどを占めます。この層では,御用となった輩の5人に1人が,こうした粗暴犯によるものです。30~40代では,詐欺やわいせつも比較的目立っています。前者の多くは,オレオレ詐欺や振り込め詐欺でしょう。
私は,教育社会学や社会病理学の授業で犯罪・非行について話す時は,この面グラフをパワーポイントに取り込んで,学生さんに見せています。すると,「殺人はどこですか?」という質問がきます。
冒頭の表でみたように,殺人は比重がとても小さいので,グラフの上では把握できません。こう答えると,「へえ,意外」という反応。凶悪犯罪を派手に報道するメディアに感化されているのだろうなあ。
そういえば,2010年11月の内閣府『少年非行に関する世論調査』にて,「少年非行は増加しているか」と問うたところ,対象者の75.6%が「増えている」と答えたとのこと。しかるに,現実は逆なり。むーん,国民の4人中3人が誤った状況認識を持っていることになります。
http://www8.cao.go.jp/survey/h22/h22-shounenhikou/index.html
この中には,国や自治体の舵を切る政策担当者もいることでしょう。誤った状況認識によって政策が決定されることほど,恐ろしいことはありますまい。医者の誤診によって,とんでもない薬が処方されるのと同じです。
他人が言うこと鵜呑みにせず,自分で「調べる」。こうしたチカラを,各人が発揮することが求められます。現在は,ネットの普及や図書館サービスの向上により,誰もが,当局の原資料や原統計に容易にアクセスできるようになっています。国会議事録なども,今はネットで閲覧可能です。
学生さんに,「**について調べてごらんなさい」という課題を出すと,とんでもなく面倒なことを押しつけられたかのごとく,露骨に嫌な顔をされることがしばしばあります。「調べる」という作業への抵抗(偏見)でしょう。もったいないな,と思います。
現在の学校では情報教育が重視されていますが,各種のツールを駆使した「調べる力」の育成というのも,内容の一角を構成して然るべきであると思います。