2009年5月16日の毎日新聞によると,高校中退者や中学時の不登校経験者がニートになる確率は,同世代人口全体の「7倍」にのぼるとのことです。
しかるに,計算の仕方がややラフな印象を受けたので,原資料にあたって数字を採取し,私なりに再計算してみました。上記の数字と違う結果が出ましたので,ご報告しようと思います。
内閣府『高校生活及び中学生活に関するアンケート調査』(2009年3月)では,2004年度に高校を中退した者,および同年度の中学校3年生で不登校状態にあった者の現況を調査しています。上記の毎日新聞記事は,本調査の結果を参照して書かれています。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/school-life/html/index.html
サンプル数は,高校中退者が168人,中3時の不登校者が109人。調査時点(2009年2~3月)において,「仕事にはついておらず,学校にも行っていない」というニート状態の者の比率は,以下のようです。
①:高校中退者 ・・・ 20.8%
②:中学校3年時の不登校者 ・・・ 16.5%
この数字を一般群と比較しようと思います。毎日新聞の記事では,2007年の『就業構造基本調査』のデータが使われていますが,私は2010年の『国勢調査』を用いることとしました。こちらの場合,細かい年齢別(1歳刻み)のニート率が計算できます。それゆえ,世代を精緻に揃えた比較が可能です。
2004年度の高校中退者(15~18歳)は,2010年には20代前半になっていると考えられます。2004年度の中3不登校者(14~15歳)は,2010年では20~21歳というところでしょう。それぞれの年齢層について,ニート率を計算しました。『国勢調査』でいうニートとは,非労働力人口のうち,家事も通学もしていない者のことです。非労働力人口の「その他」というカテゴリーの数字です。結果は,以下のごとし。
③:20代前半のニート率 ・・・ 1.2%
④:20~21歳のニート率 ・・・ 1.2%
①と③を比べることで,高校中退者がニートになる確率が同世代全体の何倍かが分かります。中学校3年時の不登校者の相対リスクは,②と④を比較することで知られます。割り算をすると,高校中退者がニートになる確率は同世代全体の17.3倍,中学校3年時の不登校経験者は13.8倍です。
ほほう。毎日新聞の試算結果(7倍)よりも,はるかにスパイシーな数字が出てきました。私は,不登校や高校中退は,れっきとしたオルタナティヴな道であると考えています。それを認めないと,どんな酷いいじめに遭っても学校に行き続けなければならない,というような状態になります。これでは,子どもの自殺者が激増するでしょう。
しかるに,そうしたオルタナティヴを選択した者の「その後」は,今回のデータでみる限り,芳しいものではないようです。おそらく,さまざまな偏見や不遇にさらされることが多いためと思います。文科省では,不登校生徒の大々的な追跡調査を企画しているようですが,不登校児の「その後」がリアルに解明されることを期待します。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/086/index.htm
そこにて検出された病理を取り除いていくこと。こういう実践の積み重ねが,「学校化」された子どもの世界に,風穴を開けてくれることと思います。