今日の読売新聞Web版によると,福島県において子どもの肥満が増加しているそうです。記事で提示されている統計の出所は,2012年度の文科省『学校保健統計』の速報結果。ああ,そういえば昨日公表されましたね。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121226-OYT1T00011.htm?from=ylist
私はこの手の報道に接すると,原資料にあたって,詳しい統計を確認したくなります。『学校保健統計』に掲載されている肥満傾向児率は,身長と体重から肥満傾向と判定された者が全体のどれほどを占めるかという指標です。数値は,年齢ごとに記載されています。
上記の新聞記事では,2010年と2012年の数値が比較されています。同じ手順を踏みましょう。下図は,福島の年齢別肥満児率が,この2年間でどう変化したかを図示したものです。本県の特徴を見出すため,全国との比較も交えます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011648
全国データでは軒並み率が下がっていますが,福島はさにあらず。6~11歳の小学生では,年齢を問わず,肥満児の比率が高まっています。増加幅が最も大きいのは8歳であり,本県のこの年齢の肥満児率は,この2年間で8.4%から13.5%へとアップしています。
なるほど。記事でいわれていることは確かのようです。しかるに,この傾向が本県独自のものかはどうかは,47都道府県全体を見渡してからでないと分かりません。記事ではこの点に触れられていませんが,ここにて,それを明らかにしてみましょう。
私は,2010年から2012年までの肥満児率の増減ポイントを,全県について計算しました。福島の8歳でいうと,+5.1ポイントです(13.5-8.4=5.1)。他県の各年齢の変化はどうでしょう。6~11歳の小学生に焦点を当てます。
マイナスは,この2年間で肥満児の率が下がったことを意味します。表を全体的にみると,マイナスの記号が多くみられます。この期間中,全国的にみれば,子どもの肥満傾向は緩和されているようです。食育等の実践の賜物でしょうか。
ところが,福島だけが異彩を放っています。具体的な数値を引いての説明は不要でしょう。全県を見渡しても,近年における肥満児の増加は,この県の特徴であると判断されます。
2010年と2012年の間に何が起きたかは,申すまでもありません。そう,11年3月19日の東日本大震災です。それに伴う原発事故により,避難生活を余儀なくされている方もいます。
子どもの肥満増加が福島に固有の傾向であることは,まぎれもなく,このことによるでしょう。県教委も,「原発事故後,避難生活や屋外活動の制限が長く続いたことによる運動不足やストレスが原因」という見解を出しているとのこと(上記新聞記事)。
なるほど。屋内にこもりっきりで,することがなく,食べることでストレス発散,というようなことが多くなっていることでしょう。なお,当人のストレスだけでなく,母親のストレスが子どもの肥満をもたらすという説もあります。「子ども,肥満,ストレス」という3語でググったら,下記のサイトが出てきました。貼っておきます。
http://venacava.seesaa.net/article/106106745.html
『学校保健統計』では,喘息,心臓病等の疾患率も県別に分かりますが,こうした各種疾病の疾患率という点でみるとどうかしらん。2012年の速報結果では,これらのデータはまだ公表されていません。確定値が公表され次第,2010年との比較をしてみる必要がありそうです。
この分析を体系的に行うことで,震災が子どもの健康に与えた影響を,マクロ的に解明できることでしょう。