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2012年12月6日木曜日

若者の海外渡航率の都道府県差

 今年も残すところあとわずかとなりましたが,年末年始はどのようにお過ごしの予定でしょうか。私は,どこも行くアテ(カネ)はありませんが,海外に行かれるという方も多いと思います。

 JTBの発表によると,この年末年始に海外旅行に出かける人は,前年よりも0.3%増の65万7千人だそうです。全国民(1億2千万人)あたりの比率にすると,およそ0.5%です。国民200人に1人が,異国でお正月を過ごすということになります。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121205/k10013977191000.html

 さて,海外旅行の頻度が高いのは若者ですが,近年,若者の海外旅行離れがいわれます。不況のためだとか,ウチ化傾向のためだとか,いろいろな説が飛び交っていますが,統計でみて,海外に渡航する若者の数はどう推移しているのでしょう。

 法務省の『出入国管理統計』(2011年版)によると,同年中に出国した20代の日本人は281万人です。10年前の2001年では354万人でした。なるほど。数が大きく減っています。
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_nyukan.html

 ですが,この期間中に,20代人口そのものが減少していることを考慮しなければなりません。そこで,20代の出国者数を当該年齢人口で除した,出国者出現率を計算してみました。以下では,渡航率ということにします。下のグラフは,この指標の長期推移です。


 1965年(昭和40年)以降の推移線が描かれています。海外渡航=海外旅行とは限りませんが,まあ,若者の海外旅行頻度の近似指標とみなす分には問題ないでしょう。

 昔は,1ドル=360円のレートに耐えられる富裕層しか,海外旅行は叶いませんでした。1965年の渡航率は0.4%,1970年は0.9%です。しかし,その後ゆるやかに上昇し,80年代半ば以降は円高が進んだこともあり,若者の海外渡航率はぐんぐん上がります。

 観察期間中のピークは,1996年の24.2%です。私がちょうど20歳(大学2年)の頃です。確かに,休み期間中とかに海外に行く人がいたよなあ。しかし,以後,不況が深刻化したためか,率は下降に転じます。今世紀の初頭に急落し,2003年の15.8%にまでダウンします。

 その後はやや持ち直し,2008年まで低下した後,再び増加に転じています。2011年の20代の海外渡航者出現率は20.7%です。分子の渡航者数は延べ数ですが,ベース人口5人に1人です。2012年の率はまだ出せませんが,先のJTBの公表統計から推測するに,前年の値を凌駕しているのではないでしょうか。

 若者の海外旅行離れは,最近は多少緩和されているように思えます。円高という条件が強まっているためでもあるでしょう。

 さて,ここからが今回の本題です。若者の海外渡航率を都道府県別に出してみるとどうでしょう。海外旅行はタダで行けるものではありません。お金がかかります。地方在住者の場合,国際空港がある大都市圏までの移動コストも上乗せされます。それゆえ,若者の海外渡航率には,かなりの地域差があるのではないでしょうか。様相を可視化してみましょう。

 法務省の上記資料では,出国者の数が都道府県別に集計されています。住所地に依拠したものです。東京の場合,2011年中の20代の出国者は54万人です。同年10月時点の都内の20代人口は175万人(総務省『人口推計年報』)。よって,東京の20代の海外渡航率は30.8%となります。

 私は,同じやり方で,全県の20代の海外渡航率を計算しました。下図は,5%の区間を設けて,47都道府県を塗り分けた地図です。


 予想通りといいますか,若者の海外旅行の頻度は地域によって大きく違っています。最高の東京は30.8%ですが,最低の青森はわずか5.3%です。この両端では,6倍近くもの開きがあります。

 黒色は20%を超える県ですが,この高率県は,ほとんどが首都圏や近畿圏に位置しています。大局的には,こうした大都市圏から遠ざかるほど,色が薄くなっていく傾向が看取されます。海外への玄関口(国際空港)の距離という要因も大きいと思われます。

 しかるに,地理的な要因だけではありますまい。先にもいいましたが,海外旅行にはお金がかかります。そうである以上,各県の所得水準のような経済要因も効いていることでしょう。私は,県別の海外渡航率を,各県の住民1人あたり県民所得と関連づけてみました。後者のソースは,2009年度の内閣府『県民経済計算年報』です。


 結果は正の相関です。所得水準が高い県ほど,若者の海外旅行頻度が高い傾向にあります。相関係数は+0.741と大変高くなっています。当然といえばそうですが,海外旅行行動の社会的規定性の一端がうかがわれます。

 こうみると,最初の図でみた,近年の海外渡航率の増加傾向は,都市地域の若者に限ったことであるのかもしれません。地方県では,相変わらず減少傾向が継続している,ということも考えられます。

 この点を吟味するには,海外渡航率の時系列曲線を,都道府県別に描く必要があります。これは興味深い作業です。海外渡航率の地域差が拡大したのかどうかも明らかにできます。後々の課題といたします。