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2013年2月27日水曜日

女性の社会進出の国際比較

 男女共同参画社会に向けての取組が開始されて久しいですが,わが国の女性の社会進出はどれほど進んでいるのか。ごく簡単な問いのようですが,これに対し,実証的に答えてくれるデータというのは,あまり見かけません。

 社会進出とは,字のごとく社会に出ていくことですから,その程度を測るには,成人女性のうちフルタイム就業が何%,専業主婦が何%というような,就業状態に注目するのがよいと思います。

 この点は『国勢調査』のデータから分かりますが,それだけでは「ふーん」でおしまいです。「わが国の女性の社会進出はどれほど進んでいるのか」を見極めるには,他の社会との比較が必要です。

 まあ,米英独仏のような主要国との比較は,当局の白書等でなされているのでしょうが,より多くの社会を見据えた広い布置構造の中で,わが国はどこあたりに位置づくのか。過去からどう動いてきたか。こういうことを知りたく思うのです。

 『世界価値観調査』(WVS)では,各国の調査対象者の就業状態を調べています。用意されている回答カテゴリーは,①フルタイム(週30時間以上),②パートタイム,③自営・自由業,④定年退職・年金,⑤主婦専業(働いていない),⑥学生,⑦失業,⑧その他,です。

 私は,最新の第5回調査(2005~08年)の結果データを分析して,54か国の30~49歳女性の回答分布を明らかにしました。それぞれの社会について,「性×年齢層×就業形態」の3重クロス表を作成したわけです。WVSサイトのオンライン分析の箇所にて,自分の関心に沿った集計表を独自につくれることは,前回申した通りです(ただし3重クロスまで)。
http://www.wvsevsdb.com/wvs/WVSAnalize.jsp

 最初に,日本と北欧のスウェーデンとで,当該年齢の女性のすがたがどう違うかをみてみましょう。下表いは,D.KとN.Aを除く有効回答の分布を示したものです。日本は2005年,スウェーデンは2006年の調査結果です。


 日本では,フルタイム,パートタイム,および専業主婦がほぼ拮抗して多くなっています。最も多いのは専業主婦(Housewife)で,3分の1がこのカテゴリーに含まれています。まあ,日常感覚に照らしてみても,こんなところだろう,という感じです。

 しかるに比較対象のスウェーデンでは,同年齢の女性の7割近くがフルタイム就業です。日本で多くを占める専業主婦という人種はほんのわずかしかいません。

 同じ中年期の女性であっても,日本とスウェーデンでは,そのすがたが大きく異なっています。子育て期の最中の年齢というのは,両国とも同じです。後者の社会では,子育て期の女性がフルタイム就業できる条件が整っているほか,そもそも育児の負担は夫婦均等に分かつべきという考え方が浸透していると聞きます。なるほど,さもありなんです。

 それでは,比較の対象を全世界の54か国に広げましょう。私は,各国の回答分布表を一通り眺めた上で,「フルタイム就業」と「専業主婦」の比重に注目するのがよい,と考えました。この2カテゴリーの量を明らかにすることで,女性の社会進出の程度をざっくりと把握できると思います。

 私は,有効回答中のフルタイム就業率と専業主婦率のマトリクス上に,54の社会を散りばめてみました。統計の年次は国によって違いますが,2005~07年のいずれかであることを申し添えます。

 なお,日本,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,およびスウェーデンの6つの社会については,1980年代初頭からの位置変化も分かるようにしました。矢印のしっぽは1981(82)年,先端は2005(06)年の位置を表します。


 図の左上にあるのは,中年女性のフルタイム就業率が高く,専業主婦率が低い社会であり,女性の社会進出が進んでいると評されます。右下に位置する社会は,その反対です。

 最も左上にあるのは,フランスとスペインの間の小国アンドラです。30~40代女性の83.2%がフルタイム就業です。専業主婦はたったの3.4%しかいません。この小社会では,性役割観念(男は仕事,女は家庭)というものがほとんどないのではなかしらん。

 大国ロシア,先ほどみたスウェーデンも,このゾーンに位置しています。水色の線の中にあるのは,この3国のほか,ノルウェー,ブルガリア,スロベニア,およびフィンランドです。女性の社会進出がトップレベルの国には,北欧国が多いですね。

 左下にあるのは,フルタイム就業,専業主婦とも少ない社会ですが,ガーナやルワンダのような農業社会では,自営業が多くなっています。アジアのベトナムでは,なぜか「その他」というカテゴリーが多くを占めていました。

 図の右下には,イラク,イラン,トルコ,およびエジプトといったイスラーム諸国が位置しています。フルタイム就業率が低く,専業主婦率が高い社会です。イスラーム国家では,女性はあまり外に出ないといいますが,こういう文化的な要因も大きいことでしょう。

 次に,わが国を含む主要国の傾向ですが,6つの社会とも,右下から左上に動いています。これは専業主婦が減り,フルタイム就業が増えたという変化であり,女性の社会進出が進んだことを表します。1980年代初頭以降,女性差別撤廃条約の発効(日本は85年に締結)を皮切りに,最近では男女共同参画に向けた実践も各国で行われています。こういう状況変化の所産であると思われます。

 しかるに,変化の幅は国によって違うようです。米独仏は,この4半世紀にかけて,専業主婦よりもフルタイム就業のほうが多い社会に様変わりしました(斜線で均等線であり,この線よりも上にある場合,専業主婦率<フルタイム就業率であることを意味します)。

 北欧のスウェーデンは,80年代初頭にして,今のドイツあたりの位置でしたが,それ以降にかけて,女性の社会進出がさらに進行しました。

 さて東洋の日本はというと,この期間中に左上に動いたのは確かですが,変動幅は相対的に小さく,まだ斜線を越えてもいません。つまり,まだ専業主婦が幅を利かせている社会です。広い国際的な布置構造でいうと,今の日本の女性の社会進出度は,ちょうど真ん中あたりというところでしょうか。

 現在,第6回WVS(2010年)が実施中とのことですが,より近況でみた日本の位置はどうなっていることか。この点についてですが,最新の『男女共同参画社会に関する世論調査』によると,最近,伝統的性役割観の支持率が高まっているそうです。こうした傾向は,とりわけ20代の若年層で顕著であるとか。昨今の就職難も手伝って,もしかしたら右下に逆戻りしていたりして・・・。
http://www.asahi.com/national/update/1215/TKY201212150110.html?ref=reca

 私は,専業主婦が悪いなどと主張するのではありません。ただ,職域をはじめとした家庭外のさまざまな場においても,男女双方の視点が必要であるという考えを持っています。世の中には男女が半々ずついますが,わが国の職域,とりわけ指導的地位にある人間の集団が,未だに男性だらけであることはよく知られています。こういう状態はよろしくありません。その意味で,上図における日本の位置がもっと左上にシフトすることを願うものです。

 そういえば,2010年の末に策定された『男女共同参画基本計画(第3次)』では,2030年時点で女性のフルタイム就業率が何%というような,政策目標値が提示されていたな。それを上図に位置づけたらどの辺だろう。こういう展望をしてみるのもまた一興です。広い布置構造でみたら現在の位置と大して変わらず,数値訂正の必要性が露わになるかもしれませんね。