昨日の朝日新聞Web版に,「大学入学後の『再受験』急増 9年で60倍,予備校調査」と題する記事が載っていました。タイトルにあるように,大学に入った後,別の大学を受け直す者が増えているとのことです。
http://www.asahi.com/national/update/0205/TKY201302040433.html
私は以前,非常勤先の学生さん(1年生)から,「休学して,別の大学受けようと思ってるんですけど・・・」と相談を持ちかけられたことがあります。なるほど。数でみても,この手の学生さんが増えているのだなあ。
2011年5月18日の記事では,大学生の休学率が上昇傾向にあることをみたのですが,こういう事情によるのかもしれません。
さて,ある大学に入ったものの,思うところがあって別の大学を受け直そうという「再受験者」は,数字でみてどれくらいいるのでしょう。上記の朝日新聞記事によると,大手の駿台予備校が,以下のような手続きで推計値を出しているとのことです。説明文の箇所を引きます。
①まず,各年度の大学・短大の志願者数から入学者数を引く。これを「浪人最大数」とする。
②次に,次年度のセンター試験の志願者のうち,すでに高校を卒業した人の数から「浪人最大数」を引く。⇒現役でも浪人でもない「再受験者」数がおおまかに割り出せる。
この手続きに依拠して,私なりに再受験者の数を推し量ってみようと思います。ここ数年について,計算に必要な数字を集めてみました。下表がそれです。
大学・短大入学志願者数は,高校全日制・定時制,高校通信制,中等教育学校後期課程,ならびに特別支援学校高等部の卒業生のうち,大学・短大への入学を志願した者の数です。過年度卒業生も含みます。出所は,文科省『学校基本調査』です。2012年春でいうと,その数73万6千人。
同じ資料から分かる,同年春の大学・短大入学者は66万9千人。したがって,入学志願したもののそれが叶わず,翌年に再トライしようという浪人生の最大数は,両者の差をとって6万7千人ほどと見積もられます。
2013年1月のセンター試験受験者のうち,高校等既卒者は10万8千人(大学入試センター公表資料)。この中には,先ほど出した浪人組の6万7千人が含まれますが,残りの4万1千人が,大学入学後の再受験者であると推測されます。
大雑把な試算値ですが,大学に入った後,やっぱり別の大学を受け直そうという人間が4万人超いるのですね。ちなみにこの数は,前年春の大学・短大入学者数(66万9千人)の6.1%に該当します。ラフに見積もると,入学者の16人に1人が「再受験」を志すという計算になります。再受験者が全て1年生と仮定した場合の話ですが。
今計算したのは,2012年春の入学組から出たと思われる再受験者数ですが,より前の入学者ではどうなのでしょう。上表の素材を用いて,発生した再受験者の数を,2006年入学組から出してみました。出現率は,再受験者数を当該年の入学者数で除した値です。
ほう。再受験者は年々増えていますね。2006年入学組では1万8千人ほどでしたが,2008年入学組になると3万5千人を超え,ここ3年間では,毎年4万人前後の再受験者が出ていると推計されます。
このように再受験者が増えている傾向についての識者のコメントが,上記の朝日新聞記事で紹介されています。それをみると,「親の言うなりに進路選択をしている」,「進学先の選び方が甘くなっている」といようなことがいわれています。
また,高等教育論専攻の矢野眞和教授は,「家計の事情で浪人をあきらめて不本意な大学に入る学生が目立ってきている」と指摘されています。なるほど。経済的に切羽詰まった家庭は,浪人などなかなか許容できるものではないでしょう(私もそうでした)。昨今の不況下で,こういう家庭が増えているものと思われます。
現在,大学全入時代に突入しています。どこそこの大学のオープンキャンパスに行けばチヤホヤされ,いい気分になって「ここにするか」と安易に決めてしまう者も多いことでしょう。AOや推薦等で簡単に入れる大学に流れる,なんてこともあるでしょう。
こういう状況のなか,入学後に「なんか違うな」と感じ,「やっぱり受け直そう」と思い立つ学生さんが増えるというのは,ある意味,必然のことなのかもしれません。
あと数年もすれば,協定を結んだ大学間で,1年次のうちは(お金をかけずに)自由に転学できるようなシステムができたりして・・・。まあ今でも,3年時からの編入というような移行(transfer)の道は制度上用意されていますが。
未来型の大学は,こうした移行可能性が増した,柔軟な形態のものなのかもしれません。