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2013年4月16日火曜日

大学教員の職務時間の変化

 前期の授業が始まりました。非常勤先の大学で,知っている専任の先生に会うと,みなさん疲れた顔をしておられます。「(忙しくて)もうシャレになんねえよ・・・」。エレベータに同乗したある先生は,こんなことをつぶやいておられました。

 私は非常勤講師ですが,専任の先生方は確かに大変そうだな,という印象を持ちます。そうした印象を検証できるデータをみつけましたので,今回はそれをご報告します。

 用いるのは,文科省『大学等におけるフルタイム換算データに関する調査』の結果です。大学,短大,および大学附置研究所等の教員の年間職務時間が明らかにされています。調査対象の多くは4年制大学教員ですので,以下では単に大学教員ということにします。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa06/fulltime/1284874.htm

 最新の2008年度調査によると,集計対象となった大学教員2,709人の当該年度間の総職務時間は2,920時間だそうです。厚労省の『毎月勤労統計調査』から推し量られる,2011年の常用労働者の年間実労働時間は1,789時間。ほう。大学教員はこれよりもはかるかに長く働いているのですね。

 これは,研究時間が幅広く解釈されているためと思われます。上記文科省調査の用語説明によると,研究活動時間とは「事物・機能・現象等について新しい知識を得るために,又は既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力及び探求」と定義されていますが,自宅で本を読んだり,図書館で文献収集をするというような活動も,これに含まれているのではないでしょうか。勤務時間ではなく,職務時間という言葉が使われていることにも注意しましょう。

 さて,大学教員のこうした「広義」の総職務時間は,2002年度間では2,793時間でした。ということは,この6年間にかけて,127時間増加したことになります。大学のセンセイの労働時間は伸びた,ということです。

 次に,その内訳をみてみましょう。大学教員の主な職務は,教育者としての「教育活動」と,研究者としての「研究活動」です。そして第3の職務として,最近では「社会サービス活動」の重要性もいわれています。加えて,大学運営に関わる各種の雑務も担うこととされています。

 私は,この4種の活動の内訳を調べました。下表は,2002年度と2008年度の結果を整理したものです。4カテゴリーの時間の総和は,最下段の総職務時間に等しくなります。


 年度間の総勤務時間が増えているのは先ほどみましたが,種別ごとにみても傾向は同じです。ただ,一つだけ時間数が減じているものがあります。研究時間です。2002年度から2008年度にかけて,1,300時間から1,142時間へと減少をみています。全体に占める比重も,46.5%から39.1%へと低下しているのです。

 研究が職務の最も多くを占めることは今も変わりませんが,以前に比してその時間が削られているのだろうな,という印象が数値で確認されました。

 もう少し分析を深めてみましょう。大学教員といっても一枚岩の存在ではありません。教授もいれば講師もいますし,文系の先生もいれば理系の先生もいます。私は,2002~2008年度にかけての研究時間の変化を,細かい属性ごとに明らかにしてみました。職種別,国公私別,および専攻別のデータです。


 どの属性でみても,全体の傾向に漏れず,研究時間は減少しています。職種別では,教授や准教授といった上位の職での減少率の大きさが目立っています。設置主体別では差異はありません。専攻別では,人文・社会系での研究時間の減少が際立っています。1,202時間から893時間へと,4分の3にまで減りました。

 このような変化は,各種委員等の仕事をはじめとした雑務の増加によるものでしょう。2008年度調査では,研究時間減少の要因を尋ねていますが,有効回答を寄せた1,901人の教員のうち,1,523人(80.1%)が「学内事務等の時間」というものを挙げています。ダントツでトップです。人文・社会系の教員に限りると,この数値は86.8%にも達します。

 「忙しくて研究できない・・・」。データをみるとさもありなんです。これからの大学教員の採用条件は,研究者としてではなく一職員として勤められるかどうかだと,ある先生がおっしゃっていましたが,大学教員の役割革新の時なのかもしれません。

 むろん,大学教員は研究のアウトプットを出すことを厳しく求められています。しかるに,厳しい条件の中で短期間のうちに成果を出すように強いられ,出てくるのは薄っぺらなものばかり・・・。こういう事態にもなっているのではないでしょうか。

 大学教員の研究者としての側面を軽んじることは,わが国の知的体力の低下を招くことにつながるでしょう。今度,上記の文科省調査が実施される2014年度ではどういうことになっているか。ちょっと怖い思いがします。