ジニ係数は,さまざまな現象の偏りの程度を測るのに使えます。前回は,有力大学合格者が高校間で著しく偏っていることを明らかにしました。今回は,大学院入学者の年齢の偏りを可視化してみましょう。ジニ係数の応用例その2です。
大学院は,大学学部の上に位置する教育・研究機関ですが,余暇社会・生涯学習社会といわれる今日,重要な役割を果たしています。入ってくるのは,学部からストレートに上がってくる若者に限られません。再教育の必要に迫られた社会人や,余生の目標を学位取得に定めた高齢者等,幅広い層を受け入れることを期待されています。
しかるに,私のみるところ,わが国の大学院は未だに若者の占有物であるかのような感じがします。実情はどうなのでしょうか。
2012年度の文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,同年春の大学院修士課程入学者は74,985人です。私は,この年齢別内訳を明らかにし,それぞれの年齢層の人口量と照合してみました。後者の出所は,総務省『人口推計年報』(2012年版)です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
入学者の82.2%が25歳未満の若者です。学部からのストレート進学組でしょう。ほか,20代後半が2.8%,30代が4.6%,40代が2.4%,50代が1.2%,61歳以上が0.4%,という構成なり。30歳以上の非伝統的な年齢層は8.7%しかいません。
当然ながら,こうした構成は,母集団のそれとは大きく隔たっています。成人人口の中では6%を占めるにすぎない20代前半が,入学者の上では8割をも占有していることになります。逆にいうと,人口中では多くを占める中高年層が,入学者の内ではわずかしかいないのです。
最近,大学院への社会人入学が増えたとかよくいわれますが,比重の上では,まだまだ伝統的な若者が多数を占めるのですね。
こうした偏りを可視化するため,ジニ係数を計算してみましょう。こうすることで,他のケースとの比較も可能になります。
下図は,大学院入学者の年齢ローレンツ曲線です。横軸に人口の累積相対度数,縦軸に入学者のそれをとった座標上に9つの年齢階層をプロットし,線でつないだものです。修士課程と博士課程の曲線を描いてみました。
曲線の底が深いほど,平等線(対角線)から隔たっているわけですから,偏りの程度が大きいことになります。入学者の年齢の偏りは,博士課程になるとちょっと緩和されるようです。博士課程では,入学者の37.7%が30歳以上です。
われわれが求めようとしているジニ係数は,対角線と曲線で囲まれた面積を2倍した値です。修士課程の年齢ジニ係数は0.878,博士課程のそれは0.723と算出されました。大きな偏りですねえ。リカレント教育が進んでいる北欧国では,この値はさぞ小さくなることでしょう。国際比較の統計があればなあ。
ちなみに,2003年の大学院入学者の年齢ジニ係数を同じやり方で出すと,修士課程が0.843,博士課程が0.709となります。値が上がっていることが知られます。若者による大学院のイスの占有化傾向が強まっている,ということでしょう。
これって,わが国に固有の現象なのでしょうか。確か,OECDの“Education at a Glance”に,教育に参画している成人の国別統計があったな。大学院入学者とは違うけど,考察は,それの国際比較をした後のほうがよさそうです。
ひとまず,ジニ係数の応用例その2でした。