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2013年5月26日日曜日

幼子がいる若年女性の専業主婦率の要因

 閑話休題。前々回の記事では,幼子がいる25~34歳女性のすがたが県によってどう違うかを明らかにしました。そこで分かったのは,結婚して子どもができることで女性が「主婦化」する確率は,地域によってかなり異なることです。

 幼子がいる25~34歳女性の専業主婦率を県別にみると,最高の65.6%(神奈川)から最低の33.3%(山形)まで大きな開きがあります。この差は何によってもたらされるのでしょう。今回は,この点に関する実証データを出してみようと思います。

 まず考えられるのは,子を預かってくれる保育所がどれほどあるかです。それを測る指標として,保育所供給率という指標を出してみます。各県の認可保育所定員数(供給量)を,6歳未満の幼子がいる25~34歳女性数(需要量)で除した値です。分子は厚労省『福祉行政報告例』(2010年),分母は総務省『国勢調査』(2010年)から得ました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 あと一つ,各県の若年有配偶女性のうち,親と同居している者がどれほどいるかです。親と同居しているならば,子ができても仕事を継続することは容易になるでしょう。私は,25~34歳の有配偶女性のうち,親と同居している者の比率を県別に計算しました。ソースは,2010年の『国勢調査』です。

 下表は,この2指標の県別数値を掲げたものです。分子,分母の数値も提示します。黄色は最高値,青色は最低値です。赤色は,上位5位であることを示唆します。


 両指標とも,かなりの地域差がありますね。保育所供給率をみると,高知のように,供給量が需要量の倍以上ある県もあれば,供給が需要の6割ほどしかない県もあります(埼玉)。

 25~34歳の有配偶女性の親同居率に至っては,最高の山形と最低の東京では,10倍近くもの開きがあります。前者では5人に2人が親同居ですが,後者ではわずか22人に1人です。この指標は,総じて都市部で低く,地方で高いようです。

 それでは,これらの指標が,幼子を抱える25~34歳女性の専業主婦率とどう関連しているかをみてみましょう。下図は,縦軸に被説明変数(主婦率),横軸に説明変数(保育所供給率or親同居率)をとった座標上に47府県を位置づけた相関図です。


 保育所供給率や親同居率が高い県ほど,幼子がいる若年女性の専業主婦率が低い,という傾向がクリアーです。地域単位の統計ですが,やはり,子を預かってくれる保育所がどれほどあるか,子の面倒をみてくれる親と同居しているかどうかは,女性が就業を続ける上での重要な条件となっていることが知られます。

 相関係数をみると,保育所供給率よりも親同居率の影響が強いようです。しからば,巷でよくいわれる保育所効果というのは,実は親同居率を媒介にした疑似相関なのかというと,そういうことはありません。

 保育所供給率と親同居率は+0.365と確かに相関していますが,これら2指標を同時に取り込んだ重回帰分析をしてみると,双方とも被説明変数に有意な独自の影響を与えています。β値は,保育所供給率が-0.456,親同居率が-0.589です。どちらか一方が真因というのではなく,2指標とも,幼子がいる若年女性の就業可能性に独自の影響を与えている,ということです。

 ここでの分析結果は,わが国の子育てが未だに個々の家庭に委ねられていることの証左であると思います。仮に,子育てへの公的支援が充実しており,親との同居云々というような条件とは関係なく,子持ちの女性が就業を継続できる状況になっているならば,親同居率と専業主婦率は無相関になるはずです。しかるに,現実のところ大変強い相関が観察されます。諸外国のデータは知りませんが,これって,日本の特徴なのではないかしらん。

 結婚しても親と同居し続けましょう,という提言はいかにもナンセンスです。今回のデータは,保育所の充実に代表されるような,育児への公的支援がもっともっと必要である,ということを主張するがために用いられるべきであると考えます。

 血縁に由来する第一次集団としての家庭でしか為し得ないことを尊重しつつ,ある程度において育児を外部化すること。子は,家庭のみならず社会全体で育てること。成熟社会における,子育ての現実的かつ理想的なすがたというのは,こういうものであると思います。