今日の毎日新聞朝刊に,「弁護士:急増を背景に格差拡大 所得100万円以下2割,1000万円超3割以上」と題する記事が載っています。
http://mainichi.jp/select/news/20130509ddm041040108000c.html
弁護士というと高収入の職業というイメージがありますが,そう一括りにはできないようです。背景として,司法制度改革により弁護士が量産される一方,裁判沙汰になる訴訟件数は減っていることがあるそうな。これでは,食い扶持をなくす弁護士が出てきてもおかしくありません。
歯医者さんなども,稼いでいる者とそうでない者とで収入格差が大きいと聞きます。視界を広げれば,それがもっと顕著な職業もあることでしょう。今回は,それぞれの職業ごとに,収入格差の程度を表すジニ係数を計算してみようと思います。
資料は,2012年の厚労省『賃金構造基本統計調査』です。本資料から,従業員10人以上の事業所に勤める一般労働者の所定内月収分布を,職種ごとに知ることができます。一般労働者とは,常用労働者から短時間労働者を除いた者です。所定内月収とは,同年6月に支給された月収から,超過労働手当を差し引いた額をいいます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html
では手始めに,男性弁護士の2012年6月の所定内月収分布をみてみましょう。下表の赤色の数値をみてください。
さすがといいますか,月収分布は高い方に偏っていますね。全体の66.0%が月収50万以上です。しかるに,人数的に最も多いのは,14~15万円台です(250人)。比率にすると,16.7%。男性弁護士の6人に1人は,こうした低収入層なのですね。
世間ではあまり知られていませんが,上もいれば下もいるようです。それでは,各収入階層の人数分布を富量のそれと照合して,ジニ係数を計算してみましょう。
各階層の月収は,中間の階級値で代表させます。14~15万円台の層でいうと,一律に中間の15万円とみなすわけです。この場合,この階層が受け取った富量は,250人×15万円=3750万円となります。
中央の相対度数の欄をみると,14~15万円台の階層の弁護士は,人数の上では全体の16.7%を占めますが,受け取った富量は全体の4.1%にすぎません。人数分布と富量分布のズレは,右欄の累積相対度数をみればもっとクリアーでしょう。
26の収入階層の累積相対度数を使って,男性弁護士の月収ローレンツ曲線を描くと,下図のようになります。横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に26階層をプロットし,線でつないだものです。
完全平等を表す対角線から結構隔たっていますね。図中の色つきの面積を2倍した値がジニ係数ですが,これを出すと0.299となります。この値は,2009年6月の所定内月収の統計では0.103でした。弁護士の間で,収入格差が広がっていることが知られます。
私は同じやり方で,118職業の所定内月収のジニ係数を計算しました。それを縦軸にとり,月収分布から計算した平均月収額を横軸にとったマトリクス上に,各職業を位置づけた図をつくってみました。
この図から,各職業の収入の水準,ならびに内部格差の程度を視覚的にみてとることができます。点線は,118職業の平均値です。弁護士については,最近3年間の位置変化も分かるようにしました。矢印のしっぽは2009年,先端は2012年の位置です。
先ほど計算した弁護士のジニ係数(0.299)は,188職業の中では3位です。トップは保険外交員の0.309,2位は歯科医師の0.300でした。なるほど。出来高制のウェイトの大きい保険外交員は,収入の開きが大きいというのも頷けます。歯医者さんの収入格差は,予想通りです。
右上には医師とパイロットが位置していますが,これらの職業は高収入であると同時に,内部格差も比較的大きいことが知られますね。
問題の弁護士はというと,この3年間でジニ係数が跳ね上がっています。冒頭の記事でいわれているように,弁護士の量産が進んだことにもよるでしょう。
あと一点。赤枠で囲んでいる大学教員は,収入の水準が高く,かつ内部格差が小さい職業であることが分かります。給与は職階ごとに定められており,教授になれば双六の上がり。後は,論文を書こうがどうであろうが給与は一緒。巷でいわれることが,上図において可視化されています。
そういえば,酒の場でこんなことをおっしゃっていた先生がいたなあ。「業績を挙げていない者がいるが,ああいう奴と給料が一緒というのが耐えられない。会うたびに,ちゃんとペーパー書け,学位取れ,と言いたくて仕方がない」。
語弊があるかもしれませんが,「ぬるま湯型」というところでしょうか。しかるに,今後はどうなるでしょう。上図でいうと,弁護士と同様,上方向にシフトすることも考えられます。研究の活性化という点で,そのほうがよかったりして・・・。適度においてです。
弁護士と同じようにして,すべての職業について,最近の変化をたどってみるのも面白いでしょう。では,この辺りで。