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2013年6月13日木曜日

産業別の就業者の離職率

 最近,『就業構造基本調査』の分析にのめり込んでいるのですが,この資料を使って,就業者の離職率を産業別に出せることを知りました。今回は,その試算値をご覧に入れようと存じます。

 2007年調査の報告書に,2006年10月~2007年9月までの間に前職を離職した者の数が掲載されています。要するに,調査時点(2007年10月)の前の1年間における離職経験者数です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 キツイことで知られる飲食・宿泊業ですが,調査時点の15~24歳人口のうち,上記期間中にこの産業の職を離職したという者は26万8,300人となっています。離職時点の年齢は若干異なると思われますが,直近1年間の離職者数ですので,調査時点年齢=離職時点年齢と仮定してもよいでしょう。

 この数を分子にして離職率を出したいのですが,2006年の『労働力調査』によると,同年10月時点の飲食・宿泊業の15~24歳就業者は約68万人です。これを母数にすると,この期間中における離職率は39.5%と算出されます。およそ4割,5人に2人。

 パートや派遣社員等の非正規も含む率ですが,すさまじい値ですね。巷でいわれていること,さもありなんという感じです。同じやり方で,他の産業,他の年齢層の離職率もはじいてみました。下表は,その一覧です。


 左端の若年層に注目すると,運輸,不動産,そして飲食・宿泊業で離職率が3割を超えています。・・・分かるような気がします。

 複合サービス(郵便局,協同組合)の離職率も高くなっていますが,これは,パートやバイトの比重が高いためでしょう。郵便局は,「ゆうメイト」等のバイトさんをたくさん雇っていますしね。後でみるように,正規職に限定すると,この産業の離職率はうんと下がります。

 では,正規職に限定した離職率も出してみましょう。冒頭の資料から,2006年10月~2007年9月までの間に前職を離職した者の数を,産業別・雇用形態別に知ることができます。それによると,調査時点(2007年10月)の15~24歳人口のうち,この期間中に飲食・宿泊業の正規雇用職を辞したという者は2万4,700人なり。先ほど示した,非正規も含む全体の数よりもかなり少ないですね。

 離職率の算出に使う母数ですが,『労働力調査』からは,産業別・年齢層別の正規就業者数は分かりません。そこで代替策として,2007年の『就業構造基本調査』に載っている,同年10月時点の数値を充てることとします。

 本当は,2006年10月時点の正規就業者数をベースにすべきですが,1年間のラグなら大きな問題はないとみて,翌年10月時点の数値を使うことをお許しください。

 2007年10月時点における,飲食・宿泊業の15~24歳正規雇用就業者は約10万100人。よって,この産業の若年正規就業者の離職率は,24,700/10,0100 ≒ 24.7%となります。非正規も含む離職率(39.5%)よりも低いのですが,正規職でも4人に1人が辞めるとは・・・。

 下表は,正規就業者に限定した離職率の産業別・年齢層別一覧です。


 不動産と飲食・宿泊が高いのは,非正規込みの離職率と同じです。先ほど述べたように,バイトの比重が高い複合サービス業の離職率はぐんと下がっています。運輸もそうですね。荷物の仕分けバイト等,こちらも非正規の比重が高いためでしょうか。

 あと目を引くのは,若年の正規公務員の離職率が結構高いことです。他の年齢層を圧倒しています。このブログでは,教員の離職率をさまざまな角度から分析しましたが,近年,若年の教員の病気離職率が上がっているというデータもあります。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/07/blog-post_23.html

 いろいろバッシングにさらされて公務員も大変といいますが,そのしわ寄せが若年層にいっているという見方もできるでしょう。

 最後に,上の2表の統計をちょっと可視化しておきましょう。私は「視覚人間」ですので,こういうオマケをつけないと気分が悪いのです。横軸に非正規も含む全就業者の離職率,縦軸に正規雇用就業者の離職率をとった座標上に,15の産業のデータをプロットしてみました。15~24歳の若年層の図です。


 不動産と飲食・宿泊業が,右上に暗雲立ち込めるゾーンに位置しています。対極の安泰ゾーンにあるのは,電気・ガス・熱供給・水道業。公共事業だからかなあ。でも,2011年の原発事故を経た2012年の統計(来月公表)では,離職率はぐんと上がっていることでしょう。

 私の卒論ゼミの教え子で,外食産業に入ったものの,入職後わずかの期間で体調を崩して職を辞した子がいます。彼女が今回のデータをみたら,どう思うことか・・・。

 身近に起きていること,常日頃肌身で感じていることを,マクロな統計で裏づける。この手の作業を,これからも続けていこうと思うのです。こういうエビデンスの蓄積が,社会の変革につながることを念じながら。