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2013年6月27日木曜日

家計を支える女性の国際比較

 二神能基さんの『ニートがひらく幸福社会ニッポン-進化系人類が働き方・生き方を変える-』明石書店(2012年)を読んでいます。よくあるような,ニートへの説教論とは違った内容にひかれ,図書館で借りてきました。


 今,第一章を読み終えたところですが,これがまた面白い。「ニートの魅力に気づいた女性たち」,「ヒモで生きる覚悟を決めた38歳の彼の『男らしさ』」等,興味深いケース報告が盛りだくさんです。

 定職もないニート男と結婚する女性なんているわけない。こういう思い込みが蔓延していますが,それは100%妥当というのではありません。男女共同参画社会の進展により,定職を持つ女性が増えていますが,彼女らの中には,自分よりガシガシ稼ぐ男性よりも,癒しを提供してくれる男性を求める向きもあるのだそうな。

 分かる気がします。仕事のことで常日頃イライラを募らせている男性よりも,稼ぎはなくともよいから,家事や育児をやってくれて,かつ,疲れて帰宅した自分を癒してくれる男性のほうがいい。こう考える女性が一定量いるとしても,何ら不可解なことではありません。

 上記の「ヒモで生きる覚悟を決めた38歳の彼」とは,小学校の正規教員の女性と結婚した,バイト暮らしの男性です。教員にとって,今の職場はまさに戦場。せめて家庭くらいは,あらゆる緊張や葛藤から解放されることのできる,安らぎの場であってほしい。ニート男性は,それを実現してくれる条件を持った存在といえるのかもしれません。

 さて私は,こういうケース報告に接すると,マクロな統計でみてそれはどれくらい存在するのか,という関心を持ちます。今回は,家計を主に支える女性の量でもって,この点を測ってみようと思います。

 毎度利用する『世界価値観調査』(5wave,2005-2008)では,15歳以上の対象者に対し,「お宅の家計を支えているのはあなたですか」と尋ねています。この問いに対し,「はい」or「いいえ」の有効回答を寄せた,日本の有配偶女性は371人。このうち「はい」という者は18人。比率にすると4.9%です。

 パートナーがいる女性のうち,家計を主に支えている者(chief wage earner)は4.9%,20人に1人というところです。まあ,数でみるとこんなものでしょうか。

 この調査は国際調査ですので,他国についても同じ値を出すことが可能です。日本を含む51か国について,有配偶女性中の「主たる家計支持者」比率を出し,高い順に並べてみました。このデータは,WVSサイトのオンライン集計ツールを使って,私が独自に作成したものであることを申し添えます。
http://www.wvsevsdb.com/wvs/WVSAnalize.jsp


 世界を見渡すと,女性が頑張っている社会が結構ありますね。最高は南米のペルーの42.8%,その次は北欧のフィンランドで36.1%です。二神さんの本でいわれている「ニートを愛する女性」がマイノリティーではない社会なのだと思われます。

 日本はというと,4.9%という絶対値の低さもさることながら,51か国中の相対順位も低くなっています。下から3番目です。もうちと高い位置にあるかと思っていましたが,現実はこうなのですね。

 これは各国の社会文化的な要因の所産であり,どうにも動かし難いものだという悲観を持たれるかもしれませんが,それは違うと思います。このことは,過去との比較から知られます。

 私は,第3回『世界価値観調査』のデータを用いて,上図の51か国のうちの21か国について,同じ指標を出してみました。1990年頃の値です。上図の2005年近辺の数値と比べることで,1990年代以降の変化を明らかにしてみましょう。下図をみてください。


 斜線の均等線よりも上にあるのは,この期間中に,有配偶女性中の「主たる家計支持者」比率がアップした社会です。フィンランドは17.8%から36.1%と倍増しています。ブラジルに至っては,伸び幅がもっと大きくなっています。値はすこぶる可変的です。

 わが国は微変動にとどまっていますが,今後どうなるかは分かりません。男女共同参画に向けた取組は強まることはあれその逆はないでしょう。また,「男性不況」という言葉があるように,今の日本では製造業の比重が縮まり,代わって福祉・介護のような分野の市場が開けてきています。

 こういう状況変化のなか,「ニートを愛する女性」,「ヒモで生きることを決意する男性」も増えてくることでしょう。それは,否定的に捉えられるべきことではありません。

 また,もっと基底の部分では,結婚観の変化もじわじわと進行しているのではないかと思われます。双方の家柄が釣り合うか,相手の生涯獲得見込み所得はナンボかを気にした,算盤片手の結婚は,二神さんの言葉を借りると,物々交換にも似た「20世紀型価値観」に基づく結びつきです。

 しかし21世紀の社会では,そういう条件だけにとらわれない,相手の内面や人間性にも思いを寄せた,「21世紀型価値観」に依拠した結婚が台頭してくることでしょう。昔みたいに,がつがつと「モノ」を追い求める時代ではなくなっています。若者に「欲しいものは何か」と尋ねても,「別に・・・」という素っ気ない反応が返ってくる時代です。

 家計を支える女性の割合は,こういう社会変化がどれほど進行しているかを教えてくれるメルクマールでもあります。まさに,21世紀型社会の指標です。これから先,注意して観察していきたい指標の一つといえるでしょう。