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2013年7月23日火曜日

成人の通学人口率地図

 社会の生涯学習化が進行するなか,大学等の組織的な教育機関で学ぶ成人が増えてきています。

 2010年の『国勢調査』の労働力集計をみると,伝統的就学年齢を過ぎた30歳以上の成人のうち,「就学の傍ら仕事」の者は50,123人,「通学」の者は95,847人となっています。合計すると約14万6千人。私が住んでいる多摩市の人口とほぼ同じくらいです。

 臨時教育審議会が,21世紀に向けた教育改革の目玉ポイントとして「生涯学習体系への移行」を打ち出したのは,1987年のことです。この少し前の1985年の同調査から分かる数値と比べてみましょう。下表をご覧ください。


 bとcを足した通学人口は,1985年では4万6千人であったのが,2010年では14万6千人になっています。この四半世紀の間で,10万人ほど増えたわけです。人口の高齢化が進んでいることを勘案して,ベース人口あたりの出現率を出しても,値の増加が観察されます(右欄)。

 上記の臨教審答申以降,人々の生涯学習推進に向けたさまざまな取組がなされてきています。1990年には生涯学習振興法が制定され,都道府県レベルでの生涯学習推進施策について定められました。2008年2月の中教審答申では,「学習成果の評価の社会的通用性の向上」が明言されました。大学等で学ぶ成人の量の増加は,こうした施策の賜物であるともいえましょう。

 さて,今回の主眼は,上記の通学人口率を都道府県別に明らかにすることです。先ほど出した通学人口率は,当然,地域によって大きく変異することでしょう。

 私は,同じやり方にて,30歳以上の成人の通学人口率を県別に計算し,値に基づいて各県を塗り分けた地図をつくりました。生涯学習施策が本格化する前の1985年と,2010年現在の地図の模様をみていただきたいと思います。


 この四半世紀にかけて,全体的に地図の色が濃くなっていますね。大学等に通う成人の量が増えているのは,地域を問わないようです。通学人口率の増加倍率が最も大きいのは岐阜で,3.3から12.4へと4倍近くにも伸びています。

 ただ,2010年現在の地図をみると,色が濃い高率県が,首都圏や近畿圏,ならびに地方中枢県に偏していることが気がかりです。大学等の高等教育機関が都市部に集中していることも影響しているでしょう。

 ちなみに標準偏差(S.D)も,1985年の2.38から2010年の4.86へと拡大しています。成人の通学人口率の地域格差が開いている,ということです。

 7月2日の記事でみたように,国際的にみれば,わが国の成人の通学人口率はお話にならない低さなのですが,それもさることながら,国内の格差が大きい,ということにも注意が要るかと思います。

 外的な条件に由来する教育上の格差を総称して「教育格差」といいますが,成人の場合,子どもにも増して,この問題が深刻化する恐れがあります。成人が学ぶ高等教育機関の地域的偏在という条件もありますが,それよりも大きいのは,生涯学習というのは,各人の自発的な意思に依拠してなされる,ということです。

 米国のピーターソンは,“Education more Education”という法則を提唱していますが,既に教育(学歴)を有している者ほど,生涯学習への欲求は高いことでしょう。おそらく,各県の成人の通学人口率は,住民の高学歴率のような指標と大変強く相関していると思われます。

 少子高齢化の進展により,生涯学習の重要性は高まりこそすれ,その逆はないでしょう。その中において,大学等の組織的な機関での学びというのは,大きな位置を占めています。それを推進する伝統的な施策は,社会人入学枠拡大,教育有給休暇取得促進,遠隔教育の充実,といったものでしょうが,これから先は,いわゆる「アウト・リーチ」政策に力点を置くことが求められるかもしれません。

 教育格差の問題は,多くの教育社会学者が関心を寄せるところですが,子どもだけでなく成人をも射程に入れた議論をすることが要請されると思います。

 現在,OECDの国際成人力調査(PIAAC)の結果集計がなされているそうですが,これなどは大変貴重なデータとなることでしょう。諸々の条件によって,「成人力」なる指標がどういう変異をみせるか。結果の公表を心待ちにしています。