ページ

2013年8月11日日曜日

東京の高校非進学の変化

 2010年度より高校無償化政策が施行されたことに伴い,公立高校の授業料は無償になり,私立高校の授業料には補助が得られるようになっています。義務教育は中学校までですが,高校が準義務化していることにかんがみ,この段階までの教育機会は公的に保障しよう,という意図からです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/

 2011年11月6日の記事でみたように,この政策により,経済的理由による高校中退者が大きく減じましたが,高校非進学者のほうはどうでしょう。大都市の東京について,政策施行前の2009年春から2012年春までにかけて,高校非進学率がどう変わったかを調べてみました。

 都教委の『公立学校統計調査(進路状況編)』から,都内の公立中学校卒業生の進路を知ることができます。私は,就職,その他(在家庭者等),および不詳という3カテゴリーの者が卒業生全体に占める比率を計算しました。高専や専修学校進学者は,別個のカテゴリーがありますので,この中には含まれません。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/toukei.html

 下表は,2009年以降の推移を示したものです。


 ほう。高校無償化政策が施行され,それが定着するにつれて,高校非進学率が低下しています。こうしたリニアな傾向は,この政策の効果とみなしてよいでしょう。

 あと一点,都内の地域別の動向も観察してみましょう。私は,上記の意味の高校非進学率を都内の49市区について出しました(町村は卒業生が少ないので除外)。下図は,政策施行前の2009年春と最新の2012年春の高校非進学率地図です。


 政策施行前では,2%(50人に1人)を越える地域が結構ありましたが,最近では,その数は少なくなっています。全体的にみても,地図の色が薄くなってきていることが分かります。ほとんどの地域で,高校非進学率は減少している模様です。

 ちなみに,各地域の住民の富裕度と高校非進学率の相関関係も消失しています。『東京都税務統計年報』に,49市区の1人あたり都民税・市区民税の平均課税額が掲載されています。2010年度の課税額と上図の高校非進学率の相関係数を出すと,2009年は-0.353,2012年は-0.010です。

 政策施行前は,課税額が少ない貧困地域ほど高校非進学率が高い傾向がありましたが,近年ではそれがみられなくなっています。このような地域統計も,高校無償化政策の効果を支持するエビデンスの一つとみてよいのではないでしょうか。

 なお,この事実は,貧困地域の非進学率が下がったことと同時に,富裕地域のそれが上がったことにも由来します。地図中で赤マルで囲んでいるのは港区ですが,この区では,2009年から2012年にかけて,高校非進学率が1.4%から3.7%へと増えています。

 港区といえば,六本木ヒルズを擁する,都内屈指の富裕地域。最近,高校段階から子どもを海外にやろうという動きが富裕層を中心に高まっていると聞きますが,そういうことの表れでしょうか。上記の地図の模様変化を読み解く観点は,一つではなさそうです。

 さて,2015年度より高校無償化政策の内容が一部変更され,所得制限が設けられるそうです。適用対象は,おおむね年収900万円未満。この措置で浮いた分を,貧困層の手厚い支援に回すとのこと。

 現行では所得制限がなく,富裕層にゆとりができるため,高校段階での教育投資の階層格差が広がる,という現象が見受けられます(昨年の2月12日の記事をご覧ください)。

 この問題が認識されたのかどうかは知りませんが,単純な一律適用ではなく,所得による傾斜配分を設け,貧困層への支援を手厚くしようという意図には賛成です。本制度の趣旨が「家庭の状況にかかわらず,高校生等のみなさんが,安心して勉学に打ち込める社会をつくる」(文科省),というものであることを思い出しておきましょう。

 間もなく,今年春の都内の地域別進路統計が公表されます。こういうマクロ統計を使って,政策の効果測定の作業を継続していくことも重要であると考えます。