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2013年9月18日水曜日

まなざし係数

 今世紀初頭の2000年における日本の人口構成をみると,15歳未満の子どもが14.6%,それ以上の大人が85.4%となっています(総務省統計局『世界の統計2013』)。10代後半も子どもですが,ここでは狭くとって,年少人口を子どもということにしましょう。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm

 この場合,子ども1人に対し大人5.85人となります(85.4/14.6 ≒ 5.85)。子ども1人につき大人約6人。現代日本では,子ども1人に大人6人の「まなざし」が注がれているのですね。

 この値の過去・現在・未来を,大雑把に観察してみましょう。わが国だけでなく,主要国のトレンドもみてみます。子ども1人につき大人何人か,という指標です。まなざし係数と呼んでおきます。


 少子高齢化の速度が速い日本は,20世紀後半期にかけて他国をゴボウ抜きし,これから先も,子ども1人あたりの大人の数は上昇することが見込まれます。2000年の値は5.85ですが,2050年には9.31にもなる見込みです。

 近未来の日本は,「子ども:大人=1:9」の社会になるのですか。このような社会は,他に類をみません。子ども1人に対し,大人9人のアツイまなざしが・・・。「それがどうした」といわれるかもしれませんが,これって,子どもが上の世代から被る圧力が強くなることを示唆しないでしょうか。下図は,その様相を表現したものです。


 子どもが多くの大人によって大事に育てられるのだから,結構なことではないか,という意見もあるでしょう。しかるに,その大人の中には,子どもにあれこれと文句をつけるのを生き甲斐にしている者もいます。「**教育をやれ」「**教育をやれ」と言うのを商売にしている道徳企業家も数多し。その中には,おせっかいととれるものも結構あるのですなあ。

 未来の日本は,子どもが手厚く保護される社会なのでしょうけど,子どもにとってさぞ「生きにくい」社会になっている可能性も否定できません。

 国際比較の対象をもっと広げてみましょう。私は,『世界の統計2013』に年齢別人口が掲載されている37か国について,上記の係数を計算しました。各国の現在と未来の数値をみていただきましょう。横軸に2000年,縦軸に2050年の値をとった座標上に,37の社会を散りばめてみました。点線は,37か国の平均値です。


 比較の範囲を広げてみても,日本はかっ飛んだ位置にあります。近辺には,イタリアやスペインなど,わが国と同様,少子化が進んだ社会がありますね。対極にはアフリカ諸国が位置していますが,これらの国では子どもが多いためです。タンザニアは,2050年になっても,「子ども1.2:大人1.6」という社会なり。

 度が過ぎた形容かもしれませんが,日本は子どもにすれば,大人の「まなざし地獄」の社会であるともいえます。先に記したように,2050年では,子ども1人に大人9人のまなざしが注がれるわけです。こうした人口条件はプラス・マイナス両方の側面を持っていますが,後者の面が色濃く出てこないよう,わわれわれは十分注意せねばなりますまい。

 大人の側は,自らが完成した存在であるかのように振る舞い,上から目線で子どもにあれこれ注文をつけるのではなく,自分とて未完成であり,子どもとともに学ぶ,時には彼らから学ぶ存在であるのだ,という自覚を持たねばなりません。

 昨年の3月12日の記事では,わが国の少年の犯罪率が成人よりも飛びぬけて高く,それは国際的な特徴であることを指摘しました。これなどは,大人の側が自分たちのことは棚上げして,少年だけを重点的に取り締まっているからではないでしょうか。「子ども1:大人9」となる2050年では,果たしてどういう事態になることか・・・。

 そういえば,著名ブロガーのちきりんさんがツイッターで面白いことをつぶやいておられました。引用させていただきます。いずれも9/16のツイートです。
https://twitter.com/InsideCHIKIRIN

●「『教育に関心がある』とか言い出したら,その人自身の成長は終わりってことです。」
●「『人に教える』のは、『自分が終わった後』にちょこちょこ稼ぎながら生きていくのにはいい選択肢です。でも『自分がこういうことしたいんです!』と言っている人の魅力には全く及ばない。」
●「一言でいえば,大学で教えたがるような人とごはん食べてもおもろい話はなんもない。」

 なるほどと思います。「子ども1:大人9」の社会において,大人の側に求められるのは,こういう気構えでしょう。

 私は,非常勤ながら大学で教える身ですが,「私の生き甲斐は学生の成長です。教育は私にとって天職です」などと公言するのは,控えたいと思っています,その前に,まずは自分のことをやろうかと。