10月も今日でおしまい。私がネット上でキャッチした,今月中の教員不祥事報道を整理します。その数34件なり。先月よりも減っています。最近,ネット検索の時間が短くなっているので,オチがあるかもしれませんが。
わいせつ,飲酒運転,体罰・・・。件の詳細は記事名で検索していただきたいと思いますが,動機をみると「ストレスでやった」というものが少なくありません。下図にみるように,教員(正規)の就業時間は,正社員全体に比して長いですしね。教員の4人に1人が,週60時間以上働いています。
「少人数教育は学力やいじめ発生頻度と関係ない」などという理由で,教員増をケチっている場合ではないでしょう。*私の研究では,小人数教育は学力の絶対水準と関連はなくとも,学力の社会的規定性の克服には効果あり,という結果が出ています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455
秋も深くなってきました。今朝のニュースによると,寒暖差アレルギーなる病気が広がっているそうです。ご注意くださいますよう。
<2013年10月の教員不祥事報道>
・中学臨時講師、休みにスマホでスカート内盗撮(10/1,読売,兵庫,中,男,28)
・酒気帯び運転の女性教諭を停職処分(10/1,読売,京都,中,男,45)
・忘れ物児童に招き猫ポーズさせ撮影…教諭を注意(10/4,読売,小,広島,男)
・女子着替え中の教室で騒ぎ、駆けつけた教諭が(10/4,読売,小,福岡,男,30代)
・高校教諭の男、銭湯で入浴男性客を盗撮容疑 (10/5,読売,愛媛,高,男,32)
・バーナーでケース破壊、レンズ窃盗容疑の教諭 (10/5,読売,愛知,小,男,41)
・中3女子のTシャツまくり上げる…高校教諭逮捕(10/10,読売,埼玉,高,男,25)
・バイク走行の教諭、職務質問で見つかったのは(10/11,読売,神奈川,小,男,25)
・児童の母親にキス迫る 小学教諭を停職処分(10/11,産経,長野,小,男,50代)
・ひき逃げ容疑で臨時教諭を逮捕(10/12,埼玉新聞,埼玉,中,男,25)
・窃盗容疑で教諭逮捕=高校で同僚のPC盗む(10/16,時事通信,大分,高,男,44)
・聖カタリナ高で体罰か 男性教諭、進路指導で(10/16,愛媛新聞,愛媛,高,男,30代)
・入浴中の男性客を盗撮、高校教諭に罰金命令(10/16,読売,愛媛,高,男,32)
・40代男性教諭を懲戒免職 女子生徒の尻触る(10/19,福島民友,福島,高,男,40代)
・生徒に高圧的な指導 女性教諭を分限免職(10/20,産経,香川,高,女,53)
・中学教諭が結核気づかず勤務、生徒ら15人感染(10/20,読売,東京,中,男,40代)
・指導に力が…野球部監督、イス投げ顔たたく(10/21,読売,北海道,高,男,30代)
・コンビニ弁当など906円分万引きした高校教諭(10/22,読売,長野,高,男,45)
・体罰や職務怠慢 教諭ら戒告(10/23,読売,岩手,道交法違反:中男(49),体罰:高男(49))
・「自分に気があると…」男性に下半身さらした疑い(10/23,産経,神奈川,中,男,24)
・県立高講師を懲戒免職 女子生徒にわいせつ行為(10/24,千葉日報,千葉,高,男,20代)
・小4女児にペンチ見せ「宿題忘れたら歯抜く」(10/24,読売,兵庫,小,男,30)
・同上(兵庫,体罰:中女(36),体罰:中男(48),盗撮:中男(28),飲酒運転:高男(51))
・赴任したての担任教諭、廊下走った小4を土下座(10/25,読売,愛知,小,男,50代)
・教諭が授業中に椅子投げる 女子生徒がケガ(10/25,佐賀新聞,佐賀,中,男,50代)
・高校教諭、顔見知りの10歳代後半女性に乱暴(10/25,読売,三重,高,男,35)
・前の盗み「無職」と偽った女教諭、今回は懲戒免(10/25,読売,埼玉,中,女,49)
・カラオケ店で店長を投げ飛ばす…中学教諭逮捕(10/27,読売,石川,中,男,56)
・飲酒運転の小学校教諭を懲戒(10/29,朝日,鹿児島,小,男,36)
・教室でわいせつ映像ダビング、目撃生徒どう喝(10/29,伊勢新聞,三重,中,男,40代)
・11歳女児に上半身裸画像送らせた高校教諭逮捕(10/29,読売,埼玉,高,男,47)
・登校中の中学生重傷 ひき逃げで養護学校教師逮捕(10/30,テレ朝,島根,特,女,41)
・セクハラ更迭、大阪の市立小公募校長が依願退職(10/31,読売,大阪,小,男,59)
・電車内で痴漢の臨時教諭を免職(10/31,神奈川新聞,神奈川,小,男,27)
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2013年10月31日木曜日
2013年10月27日日曜日
若者にかかる圧力
今朝方,20代の若者が上の世代から被る圧力の表現図をツイッターで発信したところ,みてくださる方が多いようです。戦後60年間の変化があまりにドラスティックだからでしょうか。
https://twitter.com/tmaita77/status/394250132876574720
ブログにも転載しようと思いますが,そのままコピペというのは芸がないので,近未来まで射程を延ばした図に作り直してみました。1950(昭和25)年,2010(平成22)年現在,および2060(平成72)年の断面をご覧ください。前2者の図は総務省『国勢調査』,2060年の図は国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」をもとにしています。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp
ご覧いただいているのは,それぞれの時点における,わが国の年齢人口ピラミッド(5歳刻み)です。赤色は20代の若者ですが,この上に乗っかっている人口量(相対)が時代とともに増えていますね。
「上は支えられる存在,下は支える存在」,「上は指導する存在,下は指導される存在」というように,年齢による役割規範が強い日本社会では,上図のような事態は,若者に対する圧力の強まりを意味しているともとれます。
こうした圧力の強さは,図中の黄色の数値によって可視化されています。赤色の上に乗っている30歳以上人口を,赤色の20代人口で除したものです。この値は戦後初期の1950年では2.2でしたが,60年後の2010年には6.6となり,2060年には9.6にまで高まることが予想されます。
近未来はおいておくとして,今の日本では,20代の若者1人につき年長者6.6人ですか。この6.6人の全てが一方的に寄りかかってくるだけの存在とは限りませんが,支えを求めてくる者,あれやこれやとうざったいことを言ってくる者がマジョリティーであることは否定できますまい。
今は6.6人ですが,2060年には,若者1人に対し年長者9.6人という社会になることが見込まれます。9.6人分の「最近の若いモンは・・・」が1人にぶつけられたらたまらんだろうな。
次に,国際比較をしてみましょう。私は,2010年近辺の54の社会について,同じ値を計算してみました。以下では,圧力係数といいます。用いた資料は,総務省統計局の『世界の統計2013』です。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm
ここでみる圧力係数は,20代人口と30歳以上人口という2つの要素から決まりますが,各国について,双方の量が分かるようにしましょう。国によって人口規模が大きく違いますので,全人口に占める相対量を使います。日本の場合,20代人口が10.7%,30歳以上人口が70.7%です。
下図は,横軸に20代人口比率,縦軸に30歳以上人口比率をとった座標上に,54の社会をプロットしたものです。斜線は,後者を前者で除した圧力係数の値を表します。2.0,3.0,4.0,5.0,および6.0のラインを引きました。
図をみると,日本は最も左上にあります。先ほど出した日本の6.6という値は,世界で一番高いようです。その次がイタリアで6.4となっています。わが国と同様,少子高齢化が進んでいる社会ですよね。
6.0を越えるのはこの2つの社会だけですが,ドイツとフィンランドが5.0~6.0のゾーンに位置し,英米仏韓の4国が4.0~5.0のゾーンに散りばめられています。主要先進国の位置は,だいたいこの辺りです。
一方,図の右下の2.0を下るゾーンには,アジアやアフリカの発展途上国が多く位置しています。若者と年長者の量がさして変わらない社会です。これらの社会では,寿命が短いためでしょう。
ここでみたのは,20代の若者1人に対し,それより上の年長者が何人いるかという指標です。この値が高いことが,若者が手厚く保護される社会の条件となるのか,それとも,彼らにとって「生きづらい」社会が生まれることの条件をなすのか。どちらに転ぶかは,われわれ次第です。
さしあたりなすべきは,年齢による(偏狭な)役割規範の克服でしょう。年長者の側も,自らが完成した存在であるかのごとく,上から目線で若者にあれこれと文句を言うばかりでなく,自分とて未完成の存在であり,若者と一緒に学ぶ,時には彼らに教えを乞う,というような謙虚な姿勢を持ちたいものです。
2010年7月に策定された「子ども・若者ビジョン」は,「子ども・若者は大人と共に生きるパートナー」という理念を掲げていますが,人口構成が「歪」になっているわが国ほど,この理念の具現が求められている社会はないでしょう。
http://www8.cao.go.jp/youth/wakugumi.html
前々回と前回みたように,最近の日本では,若者の自殺率だけが上昇しています。新卒重視採用,ブラック企業というような時代の病理を反映したものでしょうが,歪な人口構成・世代関係というような,より基底的な部分にも原因はありそうです。
https://twitter.com/tmaita77/status/394250132876574720
ブログにも転載しようと思いますが,そのままコピペというのは芸がないので,近未来まで射程を延ばした図に作り直してみました。1950(昭和25)年,2010(平成22)年現在,および2060(平成72)年の断面をご覧ください。前2者の図は総務省『国勢調査』,2060年の図は国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」をもとにしています。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp
ご覧いただいているのは,それぞれの時点における,わが国の年齢人口ピラミッド(5歳刻み)です。赤色は20代の若者ですが,この上に乗っかっている人口量(相対)が時代とともに増えていますね。
「上は支えられる存在,下は支える存在」,「上は指導する存在,下は指導される存在」というように,年齢による役割規範が強い日本社会では,上図のような事態は,若者に対する圧力の強まりを意味しているともとれます。
こうした圧力の強さは,図中の黄色の数値によって可視化されています。赤色の上に乗っている30歳以上人口を,赤色の20代人口で除したものです。この値は戦後初期の1950年では2.2でしたが,60年後の2010年には6.6となり,2060年には9.6にまで高まることが予想されます。
近未来はおいておくとして,今の日本では,20代の若者1人につき年長者6.6人ですか。この6.6人の全てが一方的に寄りかかってくるだけの存在とは限りませんが,支えを求めてくる者,あれやこれやとうざったいことを言ってくる者がマジョリティーであることは否定できますまい。
今は6.6人ですが,2060年には,若者1人に対し年長者9.6人という社会になることが見込まれます。9.6人分の「最近の若いモンは・・・」が1人にぶつけられたらたまらんだろうな。
次に,国際比較をしてみましょう。私は,2010年近辺の54の社会について,同じ値を計算してみました。以下では,圧力係数といいます。用いた資料は,総務省統計局の『世界の統計2013』です。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm
ここでみる圧力係数は,20代人口と30歳以上人口という2つの要素から決まりますが,各国について,双方の量が分かるようにしましょう。国によって人口規模が大きく違いますので,全人口に占める相対量を使います。日本の場合,20代人口が10.7%,30歳以上人口が70.7%です。
下図は,横軸に20代人口比率,縦軸に30歳以上人口比率をとった座標上に,54の社会をプロットしたものです。斜線は,後者を前者で除した圧力係数の値を表します。2.0,3.0,4.0,5.0,および6.0のラインを引きました。
図をみると,日本は最も左上にあります。先ほど出した日本の6.6という値は,世界で一番高いようです。その次がイタリアで6.4となっています。わが国と同様,少子高齢化が進んでいる社会ですよね。
6.0を越えるのはこの2つの社会だけですが,ドイツとフィンランドが5.0~6.0のゾーンに位置し,英米仏韓の4国が4.0~5.0のゾーンに散りばめられています。主要先進国の位置は,だいたいこの辺りです。
一方,図の右下の2.0を下るゾーンには,アジアやアフリカの発展途上国が多く位置しています。若者と年長者の量がさして変わらない社会です。これらの社会では,寿命が短いためでしょう。
ここでみたのは,20代の若者1人に対し,それより上の年長者が何人いるかという指標です。この値が高いことが,若者が手厚く保護される社会の条件となるのか,それとも,彼らにとって「生きづらい」社会が生まれることの条件をなすのか。どちらに転ぶかは,われわれ次第です。
さしあたりなすべきは,年齢による(偏狭な)役割規範の克服でしょう。年長者の側も,自らが完成した存在であるかのごとく,上から目線で若者にあれこれと文句を言うばかりでなく,自分とて未完成の存在であり,若者と一緒に学ぶ,時には彼らに教えを乞う,というような謙虚な姿勢を持ちたいものです。
2010年7月に策定された「子ども・若者ビジョン」は,「子ども・若者は大人と共に生きるパートナー」という理念を掲げていますが,人口構成が「歪」になっているわが国ほど,この理念の具現が求められている社会はないでしょう。
http://www8.cao.go.jp/youth/wakugumi.html
前々回と前回みたように,最近の日本では,若者の自殺率だけが上昇しています。新卒重視採用,ブラック企業というような時代の病理を反映したものでしょうが,歪な人口構成・世代関係というような,より基底的な部分にも原因はありそうです。
2013年10月25日金曜日
若者の自殺の増加(続)
前回みたように,近年のわが国の自殺率は低下しているのですが,若者の自殺率だけは上昇しています。今回は,この点について分析を深めた2つの図表をご覧に入れようと思います。
まずは,性別の変化図です。今世紀以降,20代の自殺率が高まっていることを知ったのですが,それが顕著なのは男性と女性のどちらでしょう。私は,1999年と2012年について,20代の各年齢男女の自殺率を計算し,それをつないだ折れ線を描いてみました。
自殺率とは,自殺者数をベースの人口で除した値です。分母の人口は総務省『人口推計年報』,分子の自殺者数は厚労省『人口動態統計』から得ています。双方とも,1歳刻みの細かい数値が公表されています。
この13年間の自殺率の伸びが著しいのは男性のほうです。23歳男性の自殺率は,1999年の23.4から2012年の35.4へと,10ポイント以上も増えています。学校から社会への移行期ですが,おそらく「シューカツ失敗」自殺の増加でしょう。
よくいわれる「シューカツ失敗」自殺ですが,やっぱり男子に集中する度合いが高いのだなあ。寅さんではないですが,「男はつらいよ」です。
次に,どういう動機での自殺が増えているかです。まあ,上記の図からだいたい想像つきますが,警察庁の動機別自殺者の統計にあたって,数を明らかにしてみました。
警察庁の『自殺の概要資料』では,2007年版より,細かい動機別の自殺者数を計上しています。52もの動機カテゴリーが設けられ,各々に該当する自殺者の数が掲載されています。なお,一人の自殺者の動機が複数にわたることもありますので,原表に載っている数値は延べ数であることに留意ください。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm
下表は,20代の動機別自殺者数を,2007年と2012年とで比較したものです。最近5年間の変化をご覧あれ。
予想通り,最も増えているのは「就職失敗」という動機での自殺者です。この5年間で,60人から149人へと2.5倍に増えています。生活苦による自殺が倍増していることも注目されます。
こうした憂うべき傾向の原因としては,新卒一括採用,ブラック企業による搾取などが想起されます。いずれも,社会の側の原因なり。その意味で,近年の若者の自殺増は,社会病理現象であるととれるでしょう。
以下に,前回からの分析の知見をまとめます。
①:近年,若者の自殺だけが増えている。
②:若者の自殺増加が著しいのは,都市よりも地方である。
③:性別にみると,自殺の増分の多くが男性によって担われている。
④:増えている動機は,就職失敗や生活苦といったもの。
既存統計で詰めることができるのはここまですが,病巣がどこにあるのかをより精緻に明らかにし,そこに重点を置いた対策が求められるところです。
まずは,性別の変化図です。今世紀以降,20代の自殺率が高まっていることを知ったのですが,それが顕著なのは男性と女性のどちらでしょう。私は,1999年と2012年について,20代の各年齢男女の自殺率を計算し,それをつないだ折れ線を描いてみました。
自殺率とは,自殺者数をベースの人口で除した値です。分母の人口は総務省『人口推計年報』,分子の自殺者数は厚労省『人口動態統計』から得ています。双方とも,1歳刻みの細かい数値が公表されています。
この13年間の自殺率の伸びが著しいのは男性のほうです。23歳男性の自殺率は,1999年の23.4から2012年の35.4へと,10ポイント以上も増えています。学校から社会への移行期ですが,おそらく「シューカツ失敗」自殺の増加でしょう。
よくいわれる「シューカツ失敗」自殺ですが,やっぱり男子に集中する度合いが高いのだなあ。寅さんではないですが,「男はつらいよ」です。
次に,どういう動機での自殺が増えているかです。まあ,上記の図からだいたい想像つきますが,警察庁の動機別自殺者の統計にあたって,数を明らかにしてみました。
警察庁の『自殺の概要資料』では,2007年版より,細かい動機別の自殺者数を計上しています。52もの動機カテゴリーが設けられ,各々に該当する自殺者の数が掲載されています。なお,一人の自殺者の動機が複数にわたることもありますので,原表に載っている数値は延べ数であることに留意ください。
http://www.npa.go.jp/toukei/index.htm
下表は,20代の動機別自殺者数を,2007年と2012年とで比較したものです。最近5年間の変化をご覧あれ。
予想通り,最も増えているのは「就職失敗」という動機での自殺者です。この5年間で,60人から149人へと2.5倍に増えています。生活苦による自殺が倍増していることも注目されます。
こうした憂うべき傾向の原因としては,新卒一括採用,ブラック企業による搾取などが想起されます。いずれも,社会の側の原因なり。その意味で,近年の若者の自殺増は,社会病理現象であるととれるでしょう。
以下に,前回からの分析の知見をまとめます。
①:近年,若者の自殺だけが増えている。
②:若者の自殺増加が著しいのは,都市よりも地方である。
③:性別にみると,自殺の増分の多くが男性によって担われている。
④:増えている動機は,就職失敗や生活苦といったもの。
既存統計で詰めることができるのはここまですが,病巣がどこにあるのかをより精緻に明らかにし,そこに重点を置いた対策が求められるところです。
2013年10月24日木曜日
若者の自殺の増加
近年,景気が上向いてきたこともあってか,わが国の自殺率は低下をみています。人口10万人あたりの自殺者数は,前世紀末の1999年では24.8でしたが,2012年では20.7となっています。
これは人口全体の自殺率ですが,年齢別にみるとどうでしょうか。最近は,当局の公表資料がとても充実してきており,分母の人口,分子の自殺者数とも,1歳刻みの年齢別に得ることができます。前者のソースは総務省『人口推計年報』,後者は厚労省『人口動態統計』です。
私は,1999年と2012年について,年齢別の自殺率を計算し,各々の点をつないだ自殺率年齢曲線を描いてみました。自殺率とは,ベースの人口10万人あたりの自殺者が何人か,という意味です。2012年では私は36歳でしたが,この年の36歳人口は180.3万人,自殺者は403人なので,10万人あたりの自殺率は22.4となる次第です。
では,両年の2本の折れ線をみていただきましょう。
全体の傾向と同様,ほとんどの年齢で自殺率は下がっていますね。とくに50代の中高年層で,自殺率の低下が顕著です。1997年から98年にかけて日本の経済状況は急激に悪化し(98年問題),自殺者数が一気に3万人台に増えました。その増分の多くが,リストラに遭った中高年男性であったことはよく知られています。
1999年といったら,この「魔の年」の翌年です。50代の部分が大きく突出しているというのは頷けます。最近では,そうした事態がやや緩和されている,ということでしょう。
しかるに,全体の傾向とは裏腹に,この期間中に自殺率が増加している層があります。20代の若年層です。この層だけは,赤色の線が青色よりも上にあります。
就職失敗を苦に自殺する大学生が増えていることや,若者を低賃金で死ぬほど働かせる「ブラック企業」の増殖などを思うと,さもありなんです。しかし,自殺率が高まっているのは若年層だけというのは知らなかった・・・。
この現象を,もう少し仔細に解剖してみましょう。私は,20代の自殺率の増加が著しいのはどういう地域かに興味を持ち,この年齢層の自殺率を都道府県別に明らかにしました。20代の自殺者数を47都道府県別に分けたら,かなり少なくなるだろうと言われるかもしれませんが,無理を承知で率を出してみました。そこで,分母と分子の数値も提示いたします。
下表は,1999年と2012年における,20代の自殺率の都道府県別一覧表です。自殺率の最高値には黄色,最低値には青色のマークをし,上位5位の数値は赤色にしています。
また,各県の増減が分かるよう,1999~2012年にかけて自殺率が1.5倍以上増の県には「↗」,2.0倍以上増には「↗↗」,減少の県には「↙」の記号を付しました。
2012年の県別自殺率をみると,東京などの大都市で率が高いかと思いきや,上位県はすべて地方県です。また,この13年間の変化でみても,若者の自殺率増が顕著なのは地方県なり。東京や神奈川とかは,自殺率が下がってるじゃん。
シューカツ失敗自殺やブラック企業のような病理は,都市部に多いような印象を持ちますが,地方でもあるのかもな。就職戦線は,地方の学生のほうが苦戦を強いられる度合いは高そうだし。
2011年2月には,就職が決まらないことを悲観した鹿児島大学の学生が,高速バス横転させる事件が起きています。大阪発鹿児島行きの夜行便だったそうですが,シューカツ帰りの車中での凶行だったのでしょうか。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/02/27/kiji/K20110227000329520.html
また地方では,いつまでも無職や未婚でいることに対する,地域の目線も比較的厳しいのかもしれません。このことも,地方の若者を焦らせる一因なのではないかしらん。
最後に,20代の県別自殺率を地図化(mapping)しておきましょう。1999年と2012年の地図を並べてみると,若者の危機状況の強まりがリアルにみてとれます。
人口全体の自殺率マップの模様は薄くなっていますが,若者の図はさにあらず。全国的に怪しい色が広がってきています。たとえがよくないですが,病理の広がりです。
今回みたのは,人口中の1割ほどを占めるに過ぎない20代の自殺率ですが,社会の局所の問題とみるべきではありますまい。未来の担う若年層の危機状況は,まぎれもなく社会全体にとっても危機をも意味します。
東京オリンピックが開催される2020(平成32)年では,上記の地図の模様はどうなっているか。オリンピックは希望の象徴といわれますが,危機や困難が若者に集中している「希望なき」日本において,この聖なる行事を催すのはいささか奇異です。
新卒重視採用のような奇妙な慣行の是正,若者を食い潰すブラック企業の撲滅・・・。既に着手されていることですが,若者の自殺統計を眺めた今,こうした取組をもっと徹底することの必要性を感じます。
これは人口全体の自殺率ですが,年齢別にみるとどうでしょうか。最近は,当局の公表資料がとても充実してきており,分母の人口,分子の自殺者数とも,1歳刻みの年齢別に得ることができます。前者のソースは総務省『人口推計年報』,後者は厚労省『人口動態統計』です。
私は,1999年と2012年について,年齢別の自殺率を計算し,各々の点をつないだ自殺率年齢曲線を描いてみました。自殺率とは,ベースの人口10万人あたりの自殺者が何人か,という意味です。2012年では私は36歳でしたが,この年の36歳人口は180.3万人,自殺者は403人なので,10万人あたりの自殺率は22.4となる次第です。
では,両年の2本の折れ線をみていただきましょう。
全体の傾向と同様,ほとんどの年齢で自殺率は下がっていますね。とくに50代の中高年層で,自殺率の低下が顕著です。1997年から98年にかけて日本の経済状況は急激に悪化し(98年問題),自殺者数が一気に3万人台に増えました。その増分の多くが,リストラに遭った中高年男性であったことはよく知られています。
1999年といったら,この「魔の年」の翌年です。50代の部分が大きく突出しているというのは頷けます。最近では,そうした事態がやや緩和されている,ということでしょう。
しかるに,全体の傾向とは裏腹に,この期間中に自殺率が増加している層があります。20代の若年層です。この層だけは,赤色の線が青色よりも上にあります。
就職失敗を苦に自殺する大学生が増えていることや,若者を低賃金で死ぬほど働かせる「ブラック企業」の増殖などを思うと,さもありなんです。しかし,自殺率が高まっているのは若年層だけというのは知らなかった・・・。
この現象を,もう少し仔細に解剖してみましょう。私は,20代の自殺率の増加が著しいのはどういう地域かに興味を持ち,この年齢層の自殺率を都道府県別に明らかにしました。20代の自殺者数を47都道府県別に分けたら,かなり少なくなるだろうと言われるかもしれませんが,無理を承知で率を出してみました。そこで,分母と分子の数値も提示いたします。
下表は,1999年と2012年における,20代の自殺率の都道府県別一覧表です。自殺率の最高値には黄色,最低値には青色のマークをし,上位5位の数値は赤色にしています。
また,各県の増減が分かるよう,1999~2012年にかけて自殺率が1.5倍以上増の県には「↗」,2.0倍以上増には「↗↗」,減少の県には「↙」の記号を付しました。
2012年の県別自殺率をみると,東京などの大都市で率が高いかと思いきや,上位県はすべて地方県です。また,この13年間の変化でみても,若者の自殺率増が顕著なのは地方県なり。東京や神奈川とかは,自殺率が下がってるじゃん。
シューカツ失敗自殺やブラック企業のような病理は,都市部に多いような印象を持ちますが,地方でもあるのかもな。就職戦線は,地方の学生のほうが苦戦を強いられる度合いは高そうだし。
2011年2月には,就職が決まらないことを悲観した鹿児島大学の学生が,高速バス横転させる事件が起きています。大阪発鹿児島行きの夜行便だったそうですが,シューカツ帰りの車中での凶行だったのでしょうか。
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/02/27/kiji/K20110227000329520.html
また地方では,いつまでも無職や未婚でいることに対する,地域の目線も比較的厳しいのかもしれません。このことも,地方の若者を焦らせる一因なのではないかしらん。
最後に,20代の県別自殺率を地図化(mapping)しておきましょう。1999年と2012年の地図を並べてみると,若者の危機状況の強まりがリアルにみてとれます。
人口全体の自殺率マップの模様は薄くなっていますが,若者の図はさにあらず。全国的に怪しい色が広がってきています。たとえがよくないですが,病理の広がりです。
今回みたのは,人口中の1割ほどを占めるに過ぎない20代の自殺率ですが,社会の局所の問題とみるべきではありますまい。未来の担う若年層の危機状況は,まぎれもなく社会全体にとっても危機をも意味します。
東京オリンピックが開催される2020(平成32)年では,上記の地図の模様はどうなっているか。オリンピックは希望の象徴といわれますが,危機や困難が若者に集中している「希望なき」日本において,この聖なる行事を催すのはいささか奇異です。
新卒重視採用のような奇妙な慣行の是正,若者を食い潰すブラック企業の撲滅・・・。既に着手されていることですが,若者の自殺統計を眺めた今,こうした取組をもっと徹底することの必要性を感じます。
2013年10月20日日曜日
学力と大学進学率
47都道府県の学力と大学進学率の布置図をツイッターに載せたところ,見てくださる方が多いようなので,ブログにも転載しておきます。
横軸の学力は,2013年度の『全国学力・学習状況調査』における,公立中学校3年生の数学Bの平均正答率です。数学の応用的な事項を問う科目であり,正答率の地域分散が最も大きいものです。
縦軸の大学進学率は,浪人込の4年制大学進学率です。2013年春における各県の高校出身の大学入学者数を,推定18歳人口(3年前の中学校・中等教育前期課程卒業者数)で除した値です。文科省の『学校基本調査』より数字を採取して計算しました。詳細は,9月12日の記事をご覧ください。
学力と大学進学率の間に,有意な正の相関関係はみられません。秋田や福井のように,生徒の学力は高くとも,大学進学率が低い県が結構あります。*点線は全国値。
大学進学に際しては,個々の生徒の能力とは違った,諸々の社会的要因が関与することが示唆されます。家庭の所得水準,ないしは自地域に大学があるかないかなど。また地域に大卒者が少なく,大学に進学して勉強することについてのイメージを生徒が持ちにくい,という事情も想起されます。
「ヒト」が唯一の資源である日本ですが,この図をみると,地方に埋もれている才能って結構あるんじゃないか,という気がします。
横軸の学力は,2013年度の『全国学力・学習状況調査』における,公立中学校3年生の数学Bの平均正答率です。数学の応用的な事項を問う科目であり,正答率の地域分散が最も大きいものです。
縦軸の大学進学率は,浪人込の4年制大学進学率です。2013年春における各県の高校出身の大学入学者数を,推定18歳人口(3年前の中学校・中等教育前期課程卒業者数)で除した値です。文科省の『学校基本調査』より数字を採取して計算しました。詳細は,9月12日の記事をご覧ください。
学力と大学進学率の間に,有意な正の相関関係はみられません。秋田や福井のように,生徒の学力は高くとも,大学進学率が低い県が結構あります。*点線は全国値。
大学進学に際しては,個々の生徒の能力とは違った,諸々の社会的要因が関与することが示唆されます。家庭の所得水準,ないしは自地域に大学があるかないかなど。また地域に大卒者が少なく,大学に進学して勉強することについてのイメージを生徒が持ちにくい,という事情も想起されます。
「ヒト」が唯一の資源である日本ですが,この図をみると,地方に埋もれている才能って結構あるんじゃないか,という気がします。
2013年10月17日木曜日
偏差値群別の学部の退学率分布
最近,一般入試で学生を多く入れている学部ほど正規就職率が高いとか,早い段階からゼミを必修にしている学部は退学率が低いとかいう記事をよく見かけます。それだけ,大学の「教育効果」というものに関心が集まっているのでしょう。
しかるに,この手の議論をする際,まずもって統制(control)すべき変数があります。それは入試難易度です。このような①インプット要因を揃えた上で,教育実践の有様(②スループット)と就職率なり無業率なりの③アウトプットの関連を追求する必要があります。
私もこういう分析をしたいと思い,現在独自のデータベースをつくっているところですが,①と③のデータ入力作業がだいたい終わりました。ここにて,両者の関連の一端をご覧に入れましょう。中抜けになりますが,後ほど②も加えた精緻な分析を行うための足がかりにしたいと思います。
読売新聞教育部『大学の実力2014』(中央公論新社)から,全国の大学の学部別の退学率を知ることができます。私は,私立大学の各学部(4年制)の退学率が,それぞれの入試難易度(偏差値)によってどう変異するかを明らかにしました。
上記の資料には,2種類の退学率が掲載されています。在学期間中(4年間)の退学率と初年次退学率です。以下の式で算出したとあります。
・在学期間中の退学率=2013年3月までの退学者/2009年4月の入学者
・初年次退学率=2013年3月までの退学者/2012年4月の入学者
私立大学の場合,最初の在学期間中の退学率が分かるのは1,215学部です。このうち,学習研究社の『大学受験案内2014』にて,入試偏差値が判明するのは1,192学部なり。
http://hon.gakken.jp/book/1130386100
私は,この1,192学部を偏差値の高低に依拠して4群に分かち,各群の在学期間中の退学率分布を調べました。下図は,折れ線による分布図です。*偏差値算定不能のBF(ボーダーフリー)の学部は,40未満の群に含めています。
偏差値が低い群ほど,分布の山が高いほう(右側)にシフトします。40未満の群でいうと,10~11%台の階級が最多です。この群では,413学部中111学部(26.9%)が,在学期間中の退学率20%超となっています。
各群の退学率の平均値を出すと,偏差値40未満群は15.6%,40台群は9.9%,50台群は5.7%,60以上群は3.5%,というようになります。リニアな傾向です。私立大学の学部別の退学率は,やっぱり偏差値と関連しているようです。
次に,初年次退学率も加味してみましょう。初年次退学率とは,入学後1年を待たずして辞めた者の比率です。上記の1,192学部全てについて,こちらの退学率も知ることができます。
私は,横軸に在学期間中の退学率,縦軸に初年次退学率をとった座標上に各学部をプロットした図を,偏差値の群ごとにつくりました。偏差値と2種類の退学率の関連を俯瞰できる仕掛けです。赤色のドットは,現在私が教えに行っている学部です。
ほう。偏差値が低い群ほど散らばりが大きく,偏差値が上がるにつれてドットが原点付近に収斂してきます。このことの意味について説明は要りますまい。偏差値と退学率の相関という,巷でいわれていることがくっきりと可視化されています。
教育社会学の理論に,「配分→社会化」理論というのがあります。人がある組織に配分されると,当該組織に向けられた社会的な眼差し(役割期待)に沿うような形において社会化される,というものです。高等学校の場合,制服という明瞭なシンボルがありますから,このような効果はいっそう強いと考えられます。
大っぴらに書くのは憚られますが,社会学の観点からは,こうした集団による「外的拘束性」の作用が厳として存在することを指摘しないわけにはいきません。
しからば,各大学での実践はまったく無力なのかというと,決してそういうことはありません。図から分かるように,どの群の布置構造をみても,ある程度のバラつきが観察されます。こうした差異は,各学部の偏差値のようなインプット要因とは別の要因によって生じています。各学部の教育実践も,その中に含まれるでしょう。
なずべきは,各群内部のバラつきの要因を明らかにすることです。読売新聞社の『大学の実力2014』には,入試形態はどうか,ゼミを必修にしているか,経済的支援をどれほどしているか,というような情報が学部別に掲載されています。入試偏差値や専攻(文/理系)といった条件を揃えた上で,これらの実践要因と退学率や無業率との関連を分析したら,興味ある知見が出てくるかもしれません。今後の課題にしたく思います。
さしあたり,もうちょっと,中抜きの「インプットーアウトプット」関連の分析を続けましょう。次回になるかは分かりませんが,今度は,偏差値と無業者輩出率の相関分析をしてみようと思っています。
しかるに,この手の議論をする際,まずもって統制(control)すべき変数があります。それは入試難易度です。このような①インプット要因を揃えた上で,教育実践の有様(②スループット)と就職率なり無業率なりの③アウトプットの関連を追求する必要があります。
私もこういう分析をしたいと思い,現在独自のデータベースをつくっているところですが,①と③のデータ入力作業がだいたい終わりました。ここにて,両者の関連の一端をご覧に入れましょう。中抜けになりますが,後ほど②も加えた精緻な分析を行うための足がかりにしたいと思います。
読売新聞教育部『大学の実力2014』(中央公論新社)から,全国の大学の学部別の退学率を知ることができます。私は,私立大学の各学部(4年制)の退学率が,それぞれの入試難易度(偏差値)によってどう変異するかを明らかにしました。
上記の資料には,2種類の退学率が掲載されています。在学期間中(4年間)の退学率と初年次退学率です。以下の式で算出したとあります。
・在学期間中の退学率=2013年3月までの退学者/2009年4月の入学者
・初年次退学率=2013年3月までの退学者/2012年4月の入学者
私立大学の場合,最初の在学期間中の退学率が分かるのは1,215学部です。このうち,学習研究社の『大学受験案内2014』にて,入試偏差値が判明するのは1,192学部なり。
http://hon.gakken.jp/book/1130386100
私は,この1,192学部を偏差値の高低に依拠して4群に分かち,各群の在学期間中の退学率分布を調べました。下図は,折れ線による分布図です。*偏差値算定不能のBF(ボーダーフリー)の学部は,40未満の群に含めています。
偏差値が低い群ほど,分布の山が高いほう(右側)にシフトします。40未満の群でいうと,10~11%台の階級が最多です。この群では,413学部中111学部(26.9%)が,在学期間中の退学率20%超となっています。
各群の退学率の平均値を出すと,偏差値40未満群は15.6%,40台群は9.9%,50台群は5.7%,60以上群は3.5%,というようになります。リニアな傾向です。私立大学の学部別の退学率は,やっぱり偏差値と関連しているようです。
次に,初年次退学率も加味してみましょう。初年次退学率とは,入学後1年を待たずして辞めた者の比率です。上記の1,192学部全てについて,こちらの退学率も知ることができます。
私は,横軸に在学期間中の退学率,縦軸に初年次退学率をとった座標上に各学部をプロットした図を,偏差値の群ごとにつくりました。偏差値と2種類の退学率の関連を俯瞰できる仕掛けです。赤色のドットは,現在私が教えに行っている学部です。
ほう。偏差値が低い群ほど散らばりが大きく,偏差値が上がるにつれてドットが原点付近に収斂してきます。このことの意味について説明は要りますまい。偏差値と退学率の相関という,巷でいわれていることがくっきりと可視化されています。
教育社会学の理論に,「配分→社会化」理論というのがあります。人がある組織に配分されると,当該組織に向けられた社会的な眼差し(役割期待)に沿うような形において社会化される,というものです。高等学校の場合,制服という明瞭なシンボルがありますから,このような効果はいっそう強いと考えられます。
大っぴらに書くのは憚られますが,社会学の観点からは,こうした集団による「外的拘束性」の作用が厳として存在することを指摘しないわけにはいきません。
しからば,各大学での実践はまったく無力なのかというと,決してそういうことはありません。図から分かるように,どの群の布置構造をみても,ある程度のバラつきが観察されます。こうした差異は,各学部の偏差値のようなインプット要因とは別の要因によって生じています。各学部の教育実践も,その中に含まれるでしょう。
なずべきは,各群内部のバラつきの要因を明らかにすることです。読売新聞社の『大学の実力2014』には,入試形態はどうか,ゼミを必修にしているか,経済的支援をどれほどしているか,というような情報が学部別に掲載されています。入試偏差値や専攻(文/理系)といった条件を揃えた上で,これらの実践要因と退学率や無業率との関連を分析したら,興味ある知見が出てくるかもしれません。今後の課題にしたく思います。
さしあたり,もうちょっと,中抜きの「インプットーアウトプット」関連の分析を続けましょう。次回になるかは分かりませんが,今度は,偏差値と無業者輩出率の相関分析をしてみようと思っています。
2013年10月16日水曜日
ホワイト就業率
10月6日の記事では,薄給で死ぬほど働かされている「スーパー・ブラック」就業者の比率を出したのですが,今回は,その逆の側面の量を測ってみようと思います。法定の就業時間で,フツーの収入を得ている者の比率です。ブラックの対語をとって,ホワイト就業率ということにします。
就業時間と収入という点から,ホワイトな働き方をしている者を割り出したいのですが,その基準をどうしたものでしょう。まず就業時間については,年間300日未満・週43時間未満とします。これだと最大でも,月25日,週6日,1日あたり7~8時間の就業ということになります。ちなみに,労基法が定める1日あたりの労働時間の上限は8時間です。
もっといい基準があるだろうといわれるかもしれませんが,『就業構造基本調査』の就業時間のカテゴリーを勘案して,ひとまずこの基準を据えようと思います。
次に収入ですが,こちらは年収500万円以上としましょう。フツーの収入がどれほどかは年齢(ライフステージ)によって違いますが,15歳以上の全有業者を均せば,だいたいこの辺りじゃないでしょうか。
2012年の『就業構造基本調査』の結果によると,15歳以上の有業者のうち,上記の基準を満たしている「ホワイト」就業者は432万人ほどです。全有業者(6,442万人)の6.7%に相当します。およそ15人に1人です。
年収500万以上の者は結構いますが,法定の「ホワイト」な働き方でそれを得ている者は多くないですね。
では,先の記事と同様,この値を職業別に出してみましょう。私は,68の職業について,上記の意味でのホワイト就業者の率を計算しました。以下に掲げるのは,そのランキング表です。
トップは管理的公務員で,全体の半分近くがホワイトです。まあ,年齢が高いというのもあるでしょう。その次は電車の運転手さんで,だいたい3人に1人。これも何となく分かるな。
なお,医者や法務従事者(弁護士等)のようなブラック専門職と呼ばれがちな職業が,ここでは上位に位置しています。年収を加味すると,やはりこうなるのでしょう。教員も10位にランクイン。
しかるに,これは相対順位です。職業を問わず,法定の「ホワイト」な働き方で年収500万円を得ている者は多くないことに注意しましょう。
10月6日の記事も合わせると,68の職業について,スーパー・ブラック率とホワイト率の両方が明らかになったことになります。私は,この2指標からなる2次元のマトリクス上に,それぞれの職業を位置づけた図をつくりました。「明」と「暗」の両面から,各職業の位置を知ることができます。
横軸のスーパー・ブラック就業率とは,「年間300日以上・週75時間以上就業&年収300万円未満」の者の比率です。リンク先の記事とは異なり,ここでの単位は%であることに留意ください。
左上にあるのは,ブラックが少なくホワイトが多い職業であり,右下に位置するのはその逆です。大よそ,一方が少なければ他方が多いという傾向ですが,法人・団体職員や民間の管理職のように,ブラック・ホワイトともに多い職業もみられます。
前の記事でも申しましたが,行政の側は,定期的にこの手のデータを作成し,公表するようにしたらどうでしょう。公表されている統計表では,職業別のブラック・ホワイト率しか出せないようですが,その気になれば地域別(県別)のデータも出せるはずです。
各県や業界が,ホワイトな働き方の多寡を競い合うのはまことに結構なことです。競争は人々の暮らしや生活を破壊するといいますが,こういう競争は,それとは逆の結果をもたらしてくれることでしょう。それを人為的に促す手立てを講じるのも,行政の重要な役割あると思います。
就業時間と収入という点から,ホワイトな働き方をしている者を割り出したいのですが,その基準をどうしたものでしょう。まず就業時間については,年間300日未満・週43時間未満とします。これだと最大でも,月25日,週6日,1日あたり7~8時間の就業ということになります。ちなみに,労基法が定める1日あたりの労働時間の上限は8時間です。
もっといい基準があるだろうといわれるかもしれませんが,『就業構造基本調査』の就業時間のカテゴリーを勘案して,ひとまずこの基準を据えようと思います。
次に収入ですが,こちらは年収500万円以上としましょう。フツーの収入がどれほどかは年齢(ライフステージ)によって違いますが,15歳以上の全有業者を均せば,だいたいこの辺りじゃないでしょうか。
2012年の『就業構造基本調査』の結果によると,15歳以上の有業者のうち,上記の基準を満たしている「ホワイト」就業者は432万人ほどです。全有業者(6,442万人)の6.7%に相当します。およそ15人に1人です。
年収500万以上の者は結構いますが,法定の「ホワイト」な働き方でそれを得ている者は多くないですね。
では,先の記事と同様,この値を職業別に出してみましょう。私は,68の職業について,上記の意味でのホワイト就業者の率を計算しました。以下に掲げるのは,そのランキング表です。
トップは管理的公務員で,全体の半分近くがホワイトです。まあ,年齢が高いというのもあるでしょう。その次は電車の運転手さんで,だいたい3人に1人。これも何となく分かるな。
なお,医者や法務従事者(弁護士等)のようなブラック専門職と呼ばれがちな職業が,ここでは上位に位置しています。年収を加味すると,やはりこうなるのでしょう。教員も10位にランクイン。
しかるに,これは相対順位です。職業を問わず,法定の「ホワイト」な働き方で年収500万円を得ている者は多くないことに注意しましょう。
10月6日の記事も合わせると,68の職業について,スーパー・ブラック率とホワイト率の両方が明らかになったことになります。私は,この2指標からなる2次元のマトリクス上に,それぞれの職業を位置づけた図をつくりました。「明」と「暗」の両面から,各職業の位置を知ることができます。
横軸のスーパー・ブラック就業率とは,「年間300日以上・週75時間以上就業&年収300万円未満」の者の比率です。リンク先の記事とは異なり,ここでの単位は%であることに留意ください。
左上にあるのは,ブラックが少なくホワイトが多い職業であり,右下に位置するのはその逆です。大よそ,一方が少なければ他方が多いという傾向ですが,法人・団体職員や民間の管理職のように,ブラック・ホワイトともに多い職業もみられます。
前の記事でも申しましたが,行政の側は,定期的にこの手のデータを作成し,公表するようにしたらどうでしょう。公表されている統計表では,職業別のブラック・ホワイト率しか出せないようですが,その気になれば地域別(県別)のデータも出せるはずです。
各県や業界が,ホワイトな働き方の多寡を競い合うのはまことに結構なことです。競争は人々の暮らしや生活を破壊するといいますが,こういう競争は,それとは逆の結果をもたらしてくれることでしょう。それを人為的に促す手立てを講じるのも,行政の重要な役割あると思います。
2013年10月13日日曜日
若者の起業
組織に雇われて働くのもいいですが,自分で会社を興したい,事業を立ち上げたい・・・。こういうアンビシャスな若者もいることでしょう。飲み屋でこういう野心を吹聴するのは簡単ですが,それを具現している者はどれほどいるのでしょうか。
毎度使っている『就業構造基本調査』では,起業者の数が計上されています。自営業ないしは役員のうち,現在の事業を自分で興したという者です。25~34歳の若者に焦点を当てて,起業者がどれほどいるのかを調べてみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
2012年調査の結果によると,同年10月時点の25~34歳の有業者は1,204万人です。このうち,上記の意味での起業者は24万人ほどとなっています。比率にすると2.0%,50人に1人というところです。
5年前の2007年では,同年齢層の起業者は33万人であり,有業者中の比率は2.8%でした。若者の起業は,実数・率ともに減っていることが知られます。2008年のリーマンショックなどを経て,自己防衛の気風が高まっているのでしょうか。そういえば,「増えぬ若者の起業 失敗の代償大きく」と題する記事もあったな。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC02006_S3A800C1NN1000/
それはさておき,2012年現在の若年起業者の素性を少し解剖してみましょう。まず関心がもたれるのは,どういう産業において起業が多いかです。私は,103の産業について,25~34歳の有業者中の起業者比率を計算してみました。
有業者全体では2.0%ですが,この値は業界によって大きく異なっています。下表は,1~50位までのランキング表です。比率は,‰で出しています。当該産業の有業者1,000人につき起業者が何人かです。赤線は,全産業の起業者比率(20.2‰)の位置を表します。
トップは専門サービス業で152.3‰です。この業界では,25~34歳の有業者の7人に1人が起業者ということになります。最新の標準産業分類をみると,専門サービス産業の例として,「法律事務所,特許事務所」,「公認会計士事務所,税理士事務所」,「デザイン業」,「著述・芸術家業」などが挙げられています。
http://www.stat.go.jp/index/seido/sangyo/19index.htm
なるほど。デザインの会社を立ち上げたなんていう若者の話はよく聞きます。ほか,興信所や通訳案内所なども含まれるようです。
次に多いのは,インターネット付随サービス業で102.4‰,10人に1人です。IT系の起業は多いという印象を持っていましたが,数値でもそれが確認されます。農業や建設業といった現業系での起業も多いですね。
配達飲食サービスや訪問介護といった,社会的需要の増加が見込まれる業種での起業(赤字)にも注目。先日,買い物難民を救済する事業を立ち上げた若者がテレビに出ていましたが,「いい仕事をしているな」という感想を持ちました。
次に,若者の起業が多いのはどの地域かをみてみましょう。私は,25~34歳の有業者中の起業者比率を都道府県別に出し,地図化してみました。若者の起業の地はどこか。若者の起業マップをご覧ください。
ほう。若者の起業頻度は地理的にみると「西高東低」になっています。郷里の九州なんかは,ほとんどが濃い青色じゃん。若者の起業の地は西にあり。
はて,こういう若者の起業者率の地域差はどういう要因によるのでしょう。人間形成の影響を想定して,各県の後期中等教育(高校)段階での職業教育比重との関連があるのではと考え,高校生の専門学科生徒比率(2012年)との相関をとってみました。しかるに,算出された相関係数は+0.005であり,無相関でした。
やっぱり,若者の起業支援にどれほど本腰を入れているかという,政策の影響かしらん。若者の起業者比率トップの山口では,「山口起業カレッジ」なるものを毎年開校している模様です。国レベルでは,起業に伴うリスクの緩和など,いろいろ策を講じているようですが,その熱の入れようは地域によって多様でしょう。
http://www.yamacci-college.com/
現在,ブラック企業が社会問題化していますが,こうした悪が蔓延る原因の一つは,「ここしか働き場所がない。ここを辞めたらもう後がない」というような状況に若者が追い込まれていることだと思います。
「仕事がないなら自分で興そう」,「人を騙して儲けるような仕事をする(させられる)くらいなら,社会的意義のある仕事を自分で立ち上げよう」・・・。こういう若者の志を後押しする事業を社会はなすべきであり,そうした取組の進展具合は,若者の起業頻度で冷徹に測られることになります。
各県や業界は,若者の起業率のような指標にもっと関心を持ってよいでしょう。
毎度使っている『就業構造基本調査』では,起業者の数が計上されています。自営業ないしは役員のうち,現在の事業を自分で興したという者です。25~34歳の若者に焦点を当てて,起業者がどれほどいるのかを調べてみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
2012年調査の結果によると,同年10月時点の25~34歳の有業者は1,204万人です。このうち,上記の意味での起業者は24万人ほどとなっています。比率にすると2.0%,50人に1人というところです。
5年前の2007年では,同年齢層の起業者は33万人であり,有業者中の比率は2.8%でした。若者の起業は,実数・率ともに減っていることが知られます。2008年のリーマンショックなどを経て,自己防衛の気風が高まっているのでしょうか。そういえば,「増えぬ若者の起業 失敗の代償大きく」と題する記事もあったな。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC02006_S3A800C1NN1000/
それはさておき,2012年現在の若年起業者の素性を少し解剖してみましょう。まず関心がもたれるのは,どういう産業において起業が多いかです。私は,103の産業について,25~34歳の有業者中の起業者比率を計算してみました。
有業者全体では2.0%ですが,この値は業界によって大きく異なっています。下表は,1~50位までのランキング表です。比率は,‰で出しています。当該産業の有業者1,000人につき起業者が何人かです。赤線は,全産業の起業者比率(20.2‰)の位置を表します。
トップは専門サービス業で152.3‰です。この業界では,25~34歳の有業者の7人に1人が起業者ということになります。最新の標準産業分類をみると,専門サービス産業の例として,「法律事務所,特許事務所」,「公認会計士事務所,税理士事務所」,「デザイン業」,「著述・芸術家業」などが挙げられています。
http://www.stat.go.jp/index/seido/sangyo/19index.htm
なるほど。デザインの会社を立ち上げたなんていう若者の話はよく聞きます。ほか,興信所や通訳案内所なども含まれるようです。
次に多いのは,インターネット付随サービス業で102.4‰,10人に1人です。IT系の起業は多いという印象を持っていましたが,数値でもそれが確認されます。農業や建設業といった現業系での起業も多いですね。
配達飲食サービスや訪問介護といった,社会的需要の増加が見込まれる業種での起業(赤字)にも注目。先日,買い物難民を救済する事業を立ち上げた若者がテレビに出ていましたが,「いい仕事をしているな」という感想を持ちました。
次に,若者の起業が多いのはどの地域かをみてみましょう。私は,25~34歳の有業者中の起業者比率を都道府県別に出し,地図化してみました。若者の起業の地はどこか。若者の起業マップをご覧ください。
ほう。若者の起業頻度は地理的にみると「西高東低」になっています。郷里の九州なんかは,ほとんどが濃い青色じゃん。若者の起業の地は西にあり。
はて,こういう若者の起業者率の地域差はどういう要因によるのでしょう。人間形成の影響を想定して,各県の後期中等教育(高校)段階での職業教育比重との関連があるのではと考え,高校生の専門学科生徒比率(2012年)との相関をとってみました。しかるに,算出された相関係数は+0.005であり,無相関でした。
やっぱり,若者の起業支援にどれほど本腰を入れているかという,政策の影響かしらん。若者の起業者比率トップの山口では,「山口起業カレッジ」なるものを毎年開校している模様です。国レベルでは,起業に伴うリスクの緩和など,いろいろ策を講じているようですが,その熱の入れようは地域によって多様でしょう。
http://www.yamacci-college.com/
現在,ブラック企業が社会問題化していますが,こうした悪が蔓延る原因の一つは,「ここしか働き場所がない。ここを辞めたらもう後がない」というような状況に若者が追い込まれていることだと思います。
「仕事がないなら自分で興そう」,「人を騙して儲けるような仕事をする(させられる)くらいなら,社会的意義のある仕事を自分で立ち上げよう」・・・。こういう若者の志を後押しする事業を社会はなすべきであり,そうした取組の進展具合は,若者の起業頻度で冷徹に測られることになります。
各県や業界は,若者の起業率のような指標にもっと関心を持ってよいでしょう。
2013年10月11日金曜日
最近の高卒者の進路変動
水曜日の授業終了後,某機関の記者さんとお話しました。雇用の崩壊,暮らしの破壊の問題を追いかけておられる,「アツイ」お方です。
働く人間のワーキングプア化が社会全体にどういう問題をもたらしているかについて語り合ったのですが,そこで聞いたところによると,最近の高卒者の進路に変化がみられるのだそうです。どういう変化かというと,大学進学者の減少,就職者の増加です。
親世代の所得が低下していますから,進学はさせられない,早く就職してくれ,ということなのかもしれません。なるほど。親世代の収入減(ワープア化)による,子どもの教育機会の剥奪という問題に通じます。
興味を持ったので,文科省の『学校基本調査』の統計にあたってみました。下表は,最近3年間の高卒者の進路統計です。①卒業生数,②大学等進学者数,③専修学校進学者数,および④就職者数の推移が示されています。②には短大進学者,③には職業訓練機関等への進学者も含みます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
確かに,大学進学者は減り,就職者は増えています。就職者は2010年では16.7万人でしたが,2013年の春では18.4万人であり,増加倍率にすると1.1倍です。これは,ベースの卒業生数の伸びを上回っています。
この傾向をどうみるかは,人それぞれでしょう,記者氏と私の関心に引き寄せていえば,「親世代の所得低下・ワープア化→子世代の教育機会の剥奪・不平等」という図式になりますが,「大学なんて行っても仕方ない,早く就職したほうがいい」というような,大学への見限りが強まっているとも読めますよね。表にあるように,大学と同じく学費がかかる専修学校への進学者は増えていますから。
考察を深めるため,どういう地域で「大学進学の減少,就職の増加」が顕著かをみてみましょう。私は,47都道府県の大学等進学者と就職者の数が,2010年から2013年にかけてどう変わったかを調べました。下表はその一覧であり,この3年間で何倍になったかという倍率も出しています。
大学等進学者は,増減倍率が0.95未満の数値に青色のマークをしています。大学進学者の減少が比較的顕著な県です。東北,山陰,北九州というように,多くが地方県ですね。
就職者のほうは,倍率が1.15を越える数値に黄色のマークを付しました。この3年間にかけて,就職者の増加が際立っている県です。マックスは長野で,2,592人から3,242人へと1.25倍になっています。
さて,双方のマークがついている県はというと,北海道と福井です。これらの道県では,全国統計で観察される「大学進学の減少,就職の増加」という傾向が,比較的際立っていることが知られます。
この2地域だけでは心もとないので,もう少し基準を緩めて,類似の県をもっと取り出してみましょう。下図は,横軸に大学等進学者,縦軸に就職者の増減倍率をとった座標上に,47都道府県をプロットしたものです。
赤色のゾーンにあるのは「進学減少,就職増加」の傾向がクリアーな県,黄色ゾーンはそれに準じる県です。前者には,先ほど検出した北海道と福井が位置していますが,後者まで範囲を広げると該当する県は11になります。いずれも地方県ですね。
教育機会の剥奪か,大学への見限りかという問題ですが,これら11道県の一人あたり県民所得(2009年度)の平均値は250万円であり,全県平均の255万円をちょっと下回っています。高卒者の「進学減少,就職増加」が進んでいるのは,所得が低い県のようです。
ちなみに,横軸の大学等進学者の増減倍率と県民所得の相関係数を出すと,+0.520となります。所得が低い県ほど,最近3年間の大学・短大進学者の減少幅が大きい,という傾向です。就職者の増減と所得は無相関でしたが,教育機会の剥奪説を支持する材料は結構出てきます。東京や神奈川といった大都市では,大学進学者が増えているし・・・。
しかるに,大学への見限り説も捨てがたし。記者さんの話によると,地方某県の進学校において,公務員試験受験希望の生徒が増えいているそうな。進学校でです。これなどは,「大学なんぞ出ても仕方ない。早く就職しよう」という意向の表れととれるでしょう。
上図の赤色ゾーンにある北海道と福井では,どういう事態になっているのかなあ。関係者に取材とかしたらいいかも。何のツテもない私が頼んでも断られるでしょうから,記者氏に提案してみようかしらん。
この記者氏からは,他にも興味深い現象(キーワード)を教えられました。今回取り上げた「高卒者の進路変動」は,そのうちの一つです。随時,統計でウラをとり,この場で報告していけたらと思います。
働く人間のワーキングプア化が社会全体にどういう問題をもたらしているかについて語り合ったのですが,そこで聞いたところによると,最近の高卒者の進路に変化がみられるのだそうです。どういう変化かというと,大学進学者の減少,就職者の増加です。
親世代の所得が低下していますから,進学はさせられない,早く就職してくれ,ということなのかもしれません。なるほど。親世代の収入減(ワープア化)による,子どもの教育機会の剥奪という問題に通じます。
興味を持ったので,文科省の『学校基本調査』の統計にあたってみました。下表は,最近3年間の高卒者の進路統計です。①卒業生数,②大学等進学者数,③専修学校進学者数,および④就職者数の推移が示されています。②には短大進学者,③には職業訓練機関等への進学者も含みます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
確かに,大学進学者は減り,就職者は増えています。就職者は2010年では16.7万人でしたが,2013年の春では18.4万人であり,増加倍率にすると1.1倍です。これは,ベースの卒業生数の伸びを上回っています。
この傾向をどうみるかは,人それぞれでしょう,記者氏と私の関心に引き寄せていえば,「親世代の所得低下・ワープア化→子世代の教育機会の剥奪・不平等」という図式になりますが,「大学なんて行っても仕方ない,早く就職したほうがいい」というような,大学への見限りが強まっているとも読めますよね。表にあるように,大学と同じく学費がかかる専修学校への進学者は増えていますから。
考察を深めるため,どういう地域で「大学進学の減少,就職の増加」が顕著かをみてみましょう。私は,47都道府県の大学等進学者と就職者の数が,2010年から2013年にかけてどう変わったかを調べました。下表はその一覧であり,この3年間で何倍になったかという倍率も出しています。
大学等進学者は,増減倍率が0.95未満の数値に青色のマークをしています。大学進学者の減少が比較的顕著な県です。東北,山陰,北九州というように,多くが地方県ですね。
就職者のほうは,倍率が1.15を越える数値に黄色のマークを付しました。この3年間にかけて,就職者の増加が際立っている県です。マックスは長野で,2,592人から3,242人へと1.25倍になっています。
さて,双方のマークがついている県はというと,北海道と福井です。これらの道県では,全国統計で観察される「大学進学の減少,就職の増加」という傾向が,比較的際立っていることが知られます。
この2地域だけでは心もとないので,もう少し基準を緩めて,類似の県をもっと取り出してみましょう。下図は,横軸に大学等進学者,縦軸に就職者の増減倍率をとった座標上に,47都道府県をプロットしたものです。
赤色のゾーンにあるのは「進学減少,就職増加」の傾向がクリアーな県,黄色ゾーンはそれに準じる県です。前者には,先ほど検出した北海道と福井が位置していますが,後者まで範囲を広げると該当する県は11になります。いずれも地方県ですね。
教育機会の剥奪か,大学への見限りかという問題ですが,これら11道県の一人あたり県民所得(2009年度)の平均値は250万円であり,全県平均の255万円をちょっと下回っています。高卒者の「進学減少,就職増加」が進んでいるのは,所得が低い県のようです。
ちなみに,横軸の大学等進学者の増減倍率と県民所得の相関係数を出すと,+0.520となります。所得が低い県ほど,最近3年間の大学・短大進学者の減少幅が大きい,という傾向です。就職者の増減と所得は無相関でしたが,教育機会の剥奪説を支持する材料は結構出てきます。東京や神奈川といった大都市では,大学進学者が増えているし・・・。
しかるに,大学への見限り説も捨てがたし。記者さんの話によると,地方某県の進学校において,公務員試験受験希望の生徒が増えいているそうな。進学校でです。これなどは,「大学なんぞ出ても仕方ない。早く就職しよう」という意向の表れととれるでしょう。
上図の赤色ゾーンにある北海道と福井では,どういう事態になっているのかなあ。関係者に取材とかしたらいいかも。何のツテもない私が頼んでも断られるでしょうから,記者氏に提案してみようかしらん。
この記者氏からは,他にも興味深い現象(キーワード)を教えられました。今回取り上げた「高卒者の進路変動」は,そのうちの一つです。随時,統計でウラをとり,この場で報告していけたらと思います。
2013年10月10日木曜日
産業別・職業別の大学院卒比率
1990年代以降の政策により,大学院生が増やされたのですが,彼らはどこに吸収されているのか。社会のどの部分で活躍しているのか。ふと,こんな疑問を持ちました。
最近の『就業構造基本調査』では,最終学歴のカテゴリーとして「大学院卒」というのが設けられており,それぞれの業界で働く者のうち,大学院修了者がどれほどいるかを知ることができます。私は,最新の2012年調査の結果をもとに,各業界・職業の大学院卒比率を計算してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
同年10月時点における,15歳以上の有業者は6,271万人です(学校卒業者)。このうち,最終学歴が大学院卒の者は166万人ほどであり,比率にすると2.6%となります。だいたい38人に1人。老若男女全体でみれば,まあこんなものでしょう。
私は,この値を103産業・68職業について明らかにしました。まずは,産業別の数値をみていただきましょう。以下に掲げるのは,1~50位までのランキング表です。比率は‰で示しています。各業界の有業者1,000人につき,大学院卒者が何人いるかです。
ちなみに赤線は,先ほど出した有業者全体の率(26.5‰)の位置です。このラインよりも上は,院卒率が平均水準よりも高いことを意味します。
トップは学術・開発研究機関,その次は学校教育。まあこれは予想通りですが,他では,理系の製造業やIT業界とかで院卒が比較的多いみたいです。
外国公務でも,院卒が活用されているのだな。私の母校の学芸大博士課程から,外国の教育政策調査官として文科省に引き抜かれた先輩が何人かいるけど,この人たちも入っているのかしらん。
次に,職業別の院卒率です。こちらも,1~50位までのランキング表を提示します。
院卒率が高いのは,研究者,医師,技術者,法務従事者,教員,経営専門家などです。宗教家や芸術家も結構高いのだな。
学校教員の院卒率は176.5‰(17.6%)であり,およそ6人に1人というところです。最近議論されている,教員の「修士化」政策が具現されれば,院卒教員の比重はもっと高まることでしょう。
社会のどういう部分で院卒人材が登用されているかを知るための資料として,上記の2表をみていただければと思います。しかるに,これは働いている者の統計です。社会のどこにも活躍の場を見出せないでいる,無職状態の者もいると思われます。このブログでさんざん書いてきたように,オーバードクターの問題も深刻化していますので。
多額の資源を投じて育成した知的資源が社会のどこに位置し,どういうパフォーマンスをしているか。定期的に追跡調査をし,データベース化する作業も必要なんじゃないかなあ(とくに博士課程とかは)。
昨日,某機関の記者さんに聞いたところによると,国民「総背番号制」の韓国では,こういう追跡調査の統計が非常に充実しているのだそうです。そこまでしろとは申しませんが,人間の生涯を「科学化」しようという試みは意義あることだと思います。「人生,人ぞれぞれ・・・」で片付けてしまってばかりではいけません。
話が逸れましたが,『国勢調査』の学歴統計でも,「大学院卒」というカテゴリーを設けていただきたいです。そうしたら,大学院卒人材の状況がより多面的に明らかになることでしょう。
最近の『就業構造基本調査』では,最終学歴のカテゴリーとして「大学院卒」というのが設けられており,それぞれの業界で働く者のうち,大学院修了者がどれほどいるかを知ることができます。私は,最新の2012年調査の結果をもとに,各業界・職業の大学院卒比率を計算してみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
同年10月時点における,15歳以上の有業者は6,271万人です(学校卒業者)。このうち,最終学歴が大学院卒の者は166万人ほどであり,比率にすると2.6%となります。だいたい38人に1人。老若男女全体でみれば,まあこんなものでしょう。
私は,この値を103産業・68職業について明らかにしました。まずは,産業別の数値をみていただきましょう。以下に掲げるのは,1~50位までのランキング表です。比率は‰で示しています。各業界の有業者1,000人につき,大学院卒者が何人いるかです。
ちなみに赤線は,先ほど出した有業者全体の率(26.5‰)の位置です。このラインよりも上は,院卒率が平均水準よりも高いことを意味します。
トップは学術・開発研究機関,その次は学校教育。まあこれは予想通りですが,他では,理系の製造業やIT業界とかで院卒が比較的多いみたいです。
外国公務でも,院卒が活用されているのだな。私の母校の学芸大博士課程から,外国の教育政策調査官として文科省に引き抜かれた先輩が何人かいるけど,この人たちも入っているのかしらん。
次に,職業別の院卒率です。こちらも,1~50位までのランキング表を提示します。
院卒率が高いのは,研究者,医師,技術者,法務従事者,教員,経営専門家などです。宗教家や芸術家も結構高いのだな。
学校教員の院卒率は176.5‰(17.6%)であり,およそ6人に1人というところです。最近議論されている,教員の「修士化」政策が具現されれば,院卒教員の比重はもっと高まることでしょう。
社会のどういう部分で院卒人材が登用されているかを知るための資料として,上記の2表をみていただければと思います。しかるに,これは働いている者の統計です。社会のどこにも活躍の場を見出せないでいる,無職状態の者もいると思われます。このブログでさんざん書いてきたように,オーバードクターの問題も深刻化していますので。
多額の資源を投じて育成した知的資源が社会のどこに位置し,どういうパフォーマンスをしているか。定期的に追跡調査をし,データベース化する作業も必要なんじゃないかなあ(とくに博士課程とかは)。
昨日,某機関の記者さんに聞いたところによると,国民「総背番号制」の韓国では,こういう追跡調査の統計が非常に充実しているのだそうです。そこまでしろとは申しませんが,人間の生涯を「科学化」しようという試みは意義あることだと思います。「人生,人ぞれぞれ・・・」で片付けてしまってばかりではいけません。
話が逸れましたが,『国勢調査』の学歴統計でも,「大学院卒」というカテゴリーを設けていただきたいです。そうしたら,大学院卒人材の状況がより多面的に明らかになることでしょう。
2013年10月6日日曜日
スーパー・ブラック就業率
9月19日の記事では,職業別のブラック就業率を出しました。字のごとく「ブラック」な働き方をしている者の比率ですが,そこで「ブラック」と見立てたのは,年間300日以上・週75時間以上就業している者です。
しかるに,労働時間だけでなく収入も考慮する必要があるでしょう。死ぬほど働かされて,かつ安い給与しかもらえない。願はくは,こういう人間がどれほどいるかを知りたいものです。
2012年の『就業構造基本調査』の統計表一覧を眺めていたら,「職業 × 就業日数・時間 × 所得」のクロス表があることに気づきました。今回は,このデータを使って,より純度の高いブラック就業率を職業別に計算してみようと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
2012年10月時点の15歳以上の有業者は6,442万人。このうち,年間300日・週75時間以上就業し,かつ年収300万未満の者は28万9,200人となっています。私が住んでいる多摩市の人口の倍くらいです。
出現率にすると4.5‰であり,有業者222人に1人が,こういうスーパー・ブラックな働き方をしている計算になります。だいたい月25日,週6日,1日12時間以上働いて,年収が300万円に満たないという人たちです。
これは有業者全体の率ですが,この値は職業によって大きく異なるでしょう。私は68の職業について,この意味でのスーパー・ブラック就業率を計算しました。以下に掲げるのは,そのランキング表です。
9月19日の記事のランク表と比べていただきたいのですが,年収も加味すると,様相はずいぶん変わります。
宗教家が1位なのは同じですが,医師や法務従事者(弁護士等)の順位は大きく下がっています。代わって上位に浮上しているのが,飲食調理従事者や音楽家・美術家等の芸術職です。飲食調理では,59人に1人がスーパー・ブラックなり。
私の個人的な印象ですが,年収を度外視した前のランク表よりも,実感に近いものになったと思います。
全国学力調査の県別結果は黙っていても注目されますが,各県や業界は,こういう面での自分たちの相対的な位置(ランク)にも関心を持っていただきたいと思います。ブラック就業のような病理を減らすための競争は大歓迎です。
私はこういう思いから,この手のランク表をつくっています。国レベルの改革を具現化する役割を担うのは,それぞれの地域(県)や業界団体といった「中間集団」なのですから。
しかるに,労働時間だけでなく収入も考慮する必要があるでしょう。死ぬほど働かされて,かつ安い給与しかもらえない。願はくは,こういう人間がどれほどいるかを知りたいものです。
2012年の『就業構造基本調査』の統計表一覧を眺めていたら,「職業 × 就業日数・時間 × 所得」のクロス表があることに気づきました。今回は,このデータを使って,より純度の高いブラック就業率を職業別に計算してみようと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
2012年10月時点の15歳以上の有業者は6,442万人。このうち,年間300日・週75時間以上就業し,かつ年収300万未満の者は28万9,200人となっています。私が住んでいる多摩市の人口の倍くらいです。
出現率にすると4.5‰であり,有業者222人に1人が,こういうスーパー・ブラックな働き方をしている計算になります。だいたい月25日,週6日,1日12時間以上働いて,年収が300万円に満たないという人たちです。
これは有業者全体の率ですが,この値は職業によって大きく異なるでしょう。私は68の職業について,この意味でのスーパー・ブラック就業率を計算しました。以下に掲げるのは,そのランキング表です。
9月19日の記事のランク表と比べていただきたいのですが,年収も加味すると,様相はずいぶん変わります。
宗教家が1位なのは同じですが,医師や法務従事者(弁護士等)の順位は大きく下がっています。代わって上位に浮上しているのが,飲食調理従事者や音楽家・美術家等の芸術職です。飲食調理では,59人に1人がスーパー・ブラックなり。
私の個人的な印象ですが,年収を度外視した前のランク表よりも,実感に近いものになったと思います。
全国学力調査の県別結果は黙っていても注目されますが,各県や業界は,こういう面での自分たちの相対的な位置(ランク)にも関心を持っていただきたいと思います。ブラック就業のような病理を減らすための競争は大歓迎です。
私はこういう思いから,この手のランク表をつくっています。国レベルの改革を具現化する役割を担うのは,それぞれの地域(県)や業界団体といった「中間集団」なのですから。
2013年10月3日木曜日
学部別の正規就職率・無業率の分布
前回は,読売新聞教育部『大学の実力2014』(中央公論新社)のデータを使って,全国の大学学部別の退学率分布を明らかにしました。「在学期間中の退学率 × 初年次退学率」の布置構造図を掲げましたので,自分が在学(志望)している学部がどこに位置するかを把握するのに使っていただけたらと思います。
さて,退学率と並んで大学関係者の関心をひくのは,卒業後の進路でしょう。読売新聞の全国大学調査では,卒業後の進路も尋ねており,上記資料には,今年(2013年)春の卒業生の進路内訳が学部ごとに掲載されています。
統計表に載っているのは,①卒業生数,②正規就職,③契約,④パート等,⑤研修医,⑥進学,⑦その他,です。私はこのデータを用いて,各学部の卒業生の正規就職率と無業者率を計算しました。算出式は,以下の通り。
正規就職率=(②+⑤)/(①-⑥)
無業率=⑦/①
正規就職率ですが,医学部の場合,キャリアが研修医から始まるケースが多いので,⑤も分子に含めることとしました。⑥の大学院等進学者は就職の意志がない者として,分母から除きました。無業率とは,就職でも進学でもない「その他」というカテゴリーの者が,卒業生全体に占める比率です。
卒業生が100人に満たない学部を除外すると,この意味での正規就職率と無業率の両方を明らかにできるのは,全国の大学の1,481学部です。下図は,横軸に正規就職率,縦軸に無業率をとった座標上に,これらの学部を位置づけたものです(点線は平均値)。明と暗の2次元上の布置構造をご覧ください。
正規就職率と無業率はトレード・オフの関係にあるので右下がりの分布図になっています。傾向から外れているのは,他の進路(非正規就職)の比重が高い学部です。
正規就職率が76.0%,無業率が14.0%というのが平均的なすがたですが,個々の学部の位置は広く分布していますね。左上のほうに,卒業生の無業率が50%を越える学部が2つありますが,片方は人文系,もう片方は芸術系の学部です。
高校生のみなさん,上記の原資料から,入学を考えている学部の正規就職率・無業率を計算し,上図のマトリクスの中に置いてみてはいかがでしょう。オープンキャンパスや入学案内で語られていることとは違った,「真のすがた」が分かるかもしれませんよ。
ついでに前回と同様,国公立と私立で分けた布置構造図も提示しておきます。目盛は省いていますが,上記の全体図と同じです。
どちらかといえば,私立のほうが左上になびいていますが,国公立でもかっとんだ位置にある学部があります。芸術系の某学部です。
現段階ではまだ,設置主体で分けた分析しかできませんが,各学部の教育実践の中身に応じて,上図の図柄がどう変異するかは大変興味ある問題です。読売新聞の大学調査では,ゼミを必修にしているか,討論中心の授業をしているかなど,教育実践の内実についても尋ねています。
これらの項目を合成して,各学部の教育熱心度を測る尺度を構成し,その高低に応じて,布置構造がどう変わるかを観察したらどうでしょう。そうした教育熱心度の効果が,偏差値のようなインプット要因を凌駕する傾向が分かったらもっと面白い。今後の課題としたいと思います。
現在,偏差値との関連を分析するため,学研の『大学受験案内2014』を図書館経由で取り寄せています。到着次第,データ入力・分析にかかりますので,しばしお待ちください。
さて,退学率と並んで大学関係者の関心をひくのは,卒業後の進路でしょう。読売新聞の全国大学調査では,卒業後の進路も尋ねており,上記資料には,今年(2013年)春の卒業生の進路内訳が学部ごとに掲載されています。
統計表に載っているのは,①卒業生数,②正規就職,③契約,④パート等,⑤研修医,⑥進学,⑦その他,です。私はこのデータを用いて,各学部の卒業生の正規就職率と無業者率を計算しました。算出式は,以下の通り。
正規就職率=(②+⑤)/(①-⑥)
無業率=⑦/①
正規就職率ですが,医学部の場合,キャリアが研修医から始まるケースが多いので,⑤も分子に含めることとしました。⑥の大学院等進学者は就職の意志がない者として,分母から除きました。無業率とは,就職でも進学でもない「その他」というカテゴリーの者が,卒業生全体に占める比率です。
卒業生が100人に満たない学部を除外すると,この意味での正規就職率と無業率の両方を明らかにできるのは,全国の大学の1,481学部です。下図は,横軸に正規就職率,縦軸に無業率をとった座標上に,これらの学部を位置づけたものです(点線は平均値)。明と暗の2次元上の布置構造をご覧ください。
正規就職率と無業率はトレード・オフの関係にあるので右下がりの分布図になっています。傾向から外れているのは,他の進路(非正規就職)の比重が高い学部です。
正規就職率が76.0%,無業率が14.0%というのが平均的なすがたですが,個々の学部の位置は広く分布していますね。左上のほうに,卒業生の無業率が50%を越える学部が2つありますが,片方は人文系,もう片方は芸術系の学部です。
高校生のみなさん,上記の原資料から,入学を考えている学部の正規就職率・無業率を計算し,上図のマトリクスの中に置いてみてはいかがでしょう。オープンキャンパスや入学案内で語られていることとは違った,「真のすがた」が分かるかもしれませんよ。
ついでに前回と同様,国公立と私立で分けた布置構造図も提示しておきます。目盛は省いていますが,上記の全体図と同じです。
どちらかといえば,私立のほうが左上になびいていますが,国公立でもかっとんだ位置にある学部があります。芸術系の某学部です。
現段階ではまだ,設置主体で分けた分析しかできませんが,各学部の教育実践の中身に応じて,上図の図柄がどう変異するかは大変興味ある問題です。読売新聞の大学調査では,ゼミを必修にしているか,討論中心の授業をしているかなど,教育実践の内実についても尋ねています。
これらの項目を合成して,各学部の教育熱心度を測る尺度を構成し,その高低に応じて,布置構造がどう変わるかを観察したらどうでしょう。そうした教育熱心度の効果が,偏差値のようなインプット要因を凌駕する傾向が分かったらもっと面白い。今後の課題としたいと思います。
現在,偏差値との関連を分析するため,学研の『大学受験案内2014』を図書館経由で取り寄せています。到着次第,データ入力・分析にかかりますので,しばしお待ちください。
2013年10月1日火曜日
大学の学部別の退学率分布
先月の25日に,読売新聞教育部の『大学の実力2014』が中央公論新社より発刊されました。読売新聞社が毎年実施している,全国大学調査の結果が収録されています。
今年の回答大学数は655大学だそうです。今年度の『学校基本調査』から分かる全国の大学数は782ですから,母集団の83.8%が掬われていることになります。表紙の「日本最大規模の調査データ」というフレーズ,偽りなしです。
調査事項も年々充実してきており,各大学の学生数や教員数といった基礎データはもちろん,入試形態や取り組んでいる教育実践,卒業後の進路内訳も知ることができます。さらに特記すべきは,昨年より学部別の集計がなされていることでしょう。
本ブログを始めて間もない頃,この調査のデータを使って,全国の大学の退学率分布を出したことがあります(2010年12月31日の記事など)。しかるに,**大学といっても,学部によって率はさぞ違うだろうな,という疑問を持っていました。私の非常勤先の武蔵野大学は8つの学部を擁していますが,学部によって学生の姿はかなり違うな,という印象です。
私は上記資料のデータを用いて,学部単位の退学率分布を明らかにしました。ここにて,その全体構造をご覧にいれようと思います。
読売新聞の全国大学調査では,2種類の退学率が調査されています。①在学期間中の退学率と②初年次退学率です。今年の調査結果に掲載されている,数値の計算式は以下の通り(4年制学部)。
①=2013年3月までの退学者数/2009年4月の入学者数
②=2013年3月までの退学者数/2012年4月の入学者数
①は4年間の在学期間中にどれほど辞めたか,②は入学後1年を待たずして辞めた者がどれほどいるか,という指標です。なるほど。このように2つの角度から捉えたほうがベターでしょう。
調査結果一覧には,①と②の退学率が655大学の学部別に掲載されています。①が分かるのは1,713学部,②が分かるのは1,814学部です(4年制学部)。下表は,2%刻みの度数分布表です。
学部単位でみると,退学率は幅広く分布しています。退学率が高い学部も結構あり,4年間の退学率でいうと,全体の34.1%が10%超,8.1%が20%超です。
初年次退学率のほうは,8割の学部が4%未満ですが,20%超,30%超の学部も存在します。1年を待たずして,入学者の2~3割が去る,ということです。
次に,在学期間中と初年次の退学率の両方が分かる学部に限定して,退学率の全体的な布置構造を描いてみましょう。横軸に4年間,縦軸の初年次の退学率をとった座標上に,双方が分かる1,688学部をプロットしてみました。赤色のドットは,私が勤務する武蔵野大学の6学部です。
まあ,ほとんどの学部が左下に集中していますが,かっ飛んだ位置にある学部もありますね。受験生のみなさん,あなたが志望している学部はどの辺りに位置しますか。原資料から数値を採取して,上図のマトリクスに置いてみると面白いかも。
非常勤先の武蔵野大学の**学部だけど,初年次退学率は結構高い部類に属するのだな。知らなかった。
ところで,上図は国公私立をひっくるめた布置構造ですが,設置主体によって図柄は違うと思います。私は,国公立と私立に分けて,同じ図をつくってみました。下図がそれです。目盛は省いていますが,先ほどの図と同じであることを申し添えます。
国公立の学部は双方の退学率とも低いゾーンに集積していますが,私立の学部は分布が幅広くなっています。先ほどの全体の図柄は,私立大学の学部の傾向を反映したものであることが知られます。まあ,日本の大学は私立の比重が高いので当然ですが。
品のないことですが,偏差値のグループごとにわけて同じ布置図を描いたらどうなるかしらん。偏差値が下がるにつれて,集積ゾーンがどんどん右上に動いていったりして・・・。
読売新聞教育部の『大学の実力2014』は,貴重なデータが満載です。受験生の大学選びの参考に大いに与することでしょう。しかるに,志望学部が全体のどこに位置するかも分かればもっとよし。
このブログでは,そのような位置づけを知るのに使っていただける,全体構造図を提示していこうと考えております。今回は退学率についてやりましたが,卒業後進路,TP比,入試形態など,他の項目の全体見取り図も随時お見せいたします。
今年の回答大学数は655大学だそうです。今年度の『学校基本調査』から分かる全国の大学数は782ですから,母集団の83.8%が掬われていることになります。表紙の「日本最大規模の調査データ」というフレーズ,偽りなしです。
調査事項も年々充実してきており,各大学の学生数や教員数といった基礎データはもちろん,入試形態や取り組んでいる教育実践,卒業後の進路内訳も知ることができます。さらに特記すべきは,昨年より学部別の集計がなされていることでしょう。
本ブログを始めて間もない頃,この調査のデータを使って,全国の大学の退学率分布を出したことがあります(2010年12月31日の記事など)。しかるに,**大学といっても,学部によって率はさぞ違うだろうな,という疑問を持っていました。私の非常勤先の武蔵野大学は8つの学部を擁していますが,学部によって学生の姿はかなり違うな,という印象です。
私は上記資料のデータを用いて,学部単位の退学率分布を明らかにしました。ここにて,その全体構造をご覧にいれようと思います。
読売新聞の全国大学調査では,2種類の退学率が調査されています。①在学期間中の退学率と②初年次退学率です。今年の調査結果に掲載されている,数値の計算式は以下の通り(4年制学部)。
①=2013年3月までの退学者数/2009年4月の入学者数
②=2013年3月までの退学者数/2012年4月の入学者数
①は4年間の在学期間中にどれほど辞めたか,②は入学後1年を待たずして辞めた者がどれほどいるか,という指標です。なるほど。このように2つの角度から捉えたほうがベターでしょう。
調査結果一覧には,①と②の退学率が655大学の学部別に掲載されています。①が分かるのは1,713学部,②が分かるのは1,814学部です(4年制学部)。下表は,2%刻みの度数分布表です。
学部単位でみると,退学率は幅広く分布しています。退学率が高い学部も結構あり,4年間の退学率でいうと,全体の34.1%が10%超,8.1%が20%超です。
初年次退学率のほうは,8割の学部が4%未満ですが,20%超,30%超の学部も存在します。1年を待たずして,入学者の2~3割が去る,ということです。
次に,在学期間中と初年次の退学率の両方が分かる学部に限定して,退学率の全体的な布置構造を描いてみましょう。横軸に4年間,縦軸の初年次の退学率をとった座標上に,双方が分かる1,688学部をプロットしてみました。赤色のドットは,私が勤務する武蔵野大学の6学部です。
まあ,ほとんどの学部が左下に集中していますが,かっ飛んだ位置にある学部もありますね。受験生のみなさん,あなたが志望している学部はどの辺りに位置しますか。原資料から数値を採取して,上図のマトリクスに置いてみると面白いかも。
非常勤先の武蔵野大学の**学部だけど,初年次退学率は結構高い部類に属するのだな。知らなかった。
ところで,上図は国公私立をひっくるめた布置構造ですが,設置主体によって図柄は違うと思います。私は,国公立と私立に分けて,同じ図をつくってみました。下図がそれです。目盛は省いていますが,先ほどの図と同じであることを申し添えます。
国公立の学部は双方の退学率とも低いゾーンに集積していますが,私立の学部は分布が幅広くなっています。先ほどの全体の図柄は,私立大学の学部の傾向を反映したものであることが知られます。まあ,日本の大学は私立の比重が高いので当然ですが。
品のないことですが,偏差値のグループごとにわけて同じ布置図を描いたらどうなるかしらん。偏差値が下がるにつれて,集積ゾーンがどんどん右上に動いていったりして・・・。
読売新聞教育部の『大学の実力2014』は,貴重なデータが満載です。受験生の大学選びの参考に大いに与することでしょう。しかるに,志望学部が全体のどこに位置するかも分かればもっとよし。
このブログでは,そのような位置づけを知るのに使っていただける,全体構造図を提示していこうと考えております。今回は退学率についてやりましたが,卒業後進路,TP比,入試形態など,他の項目の全体見取り図も随時お見せいたします。