私が専攻する社会病理学の課題は,社会の病気を診断することです。コント流に,社会を生物有機体になぞらえるわけです。ここでは,日本社会をヒトに見立てて「Jさん」と呼びましょう。
ある日,身体の不調を訴えるJさんが診察にやってきました。はて,外見上は何ともないようですが,どこが悪いのか。当人に尋ねても答えは曖昧。そこで,どの部位が悪いのかが分かる診断カルテを作成しました。
自殺率の水準に依拠して,性別の年齢人口ピラミッドに色をつけた図です。自殺率とは,2012年中の自殺者数を同年10月時点の人口で除した値です。分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『人口推計年報』から得ています。
どうやら,右半身(男性)の胸の辺り(中高年)が悪いようです。この部位には,身体を動かすにあたって重要な役割を果たす中枢器官が集中しています。過重な役割を負わされていることからくる,疲労・息切れと思われます。この部位に密集している中枢器官を,左半身の側に移行させる手術が必要のようです。
測定器具を変えて,もう一枚,別のカルテをつくってみました。今度は,完全失業率による塗り分けです。働く意欲のある労働力人口のうち,職にありつけないでいる完全失業者がどれほどいるかです。2010年の『国勢調査』の統計を使いました。*人口ピラミッドは,上図と同様,2012年の推計人口をもとに作図しています。
こちらでみると,足の部分が悪いようです。身体を支える大事な部位ですが,動脈硬化により,栄養(職)がここに行き渡っていないことが主因とみられます。栄養の巡りをよくする手術も必要のようです。
以上,日本社会Jさんの病理診断カルテの試作品でした。国会の廊下の壁には,こういう図を拡大して貼るべし。